こんにちは。実は夏休みに入っているけど、COVID-19のせいでニートしかできていない救急医です。私は少し前の記事で、「重症COVID-19に対する治療用量の抗凝固薬(ヘパリン)投与は、血栓予防目的の用量に対して劣性(予後改善はしない)だよ」といったことを示した論文をざっくり紹介していましたが、今回は同じ臨床試験の枠組みで、重症でないCOVID-19患者への通常用量(血栓予防目的)の抗凝固薬投与と、治療用量の抗凝固薬投与を比較した論文を紹介してみます。
今回参考にしたのは今年8/4にNEJM. orgへ掲載された"Therapeutic Anticoagulation with Heparin in Noncritically Ill Patients with Covid-19."(N Engl J Med. DOI: 10.1056/NEJMoa2105911)です。
(1) Method
① Trial Design
COVID-19入院患者への治療用量の抗凝固薬を評価するplatform 3件(ATTACC, ACTIV-4a, REMAP-CAP)を単一のmultplatformランダム化コントロール臨床試験に統合した。試験の期間中、9カ国の121施設に入院した中等症COVID-19患者が参加登録した。
中枢でのインターネットを利用したシステムを用いて、患者は治療用量の未分画or低分子量ヘパリン投与, もしくは 通常の薬理学的血栓予防療法のいずれかにopen-label形式でランダム化された。
当初、治療は1:1の比でランダムに割り振られた。ATTACCとREMAP-CAPの設計はよりbenefitのある治療群への患者割り付けを支持する為の反応順応型中間解析に基づいており、試験期間中は盲検化形式で割り付け比率が調整される方式である反応順応型ランダム化の可能性を示している。REMAP-CAPの患者のsubsetには、他のplatform domeinへのランダム化が行われた。
② PICO
1. Petients
この臨床試験にはCOVID-19入院患者が参加登録した。患者は参加登録時に、重症化中等症かに従って前向きに階層化される設計だった。
ここで中等症COVID-19とは、「ICUレベルの治療が不要なCOVID-19入院患者」と定義する。なおICUに入室しても、必要条件を満たす(或いは、限定的な; "qualifying")臓器補助が不要な患者は中等症と看做された。
中等症患者は、baselineのD-dimer値に則って更に次のように階層化された:
- D-dimer高値; upper limit of the normal range(ULN; 正常値上限)の2倍以上
- D-dimer低値; ULNの2倍未満
- D-dimer値が不明
なお以下のような患者は除外された:
- COVID-19により入院 or 入院中にSARS-CoV-2感染が入院中に判明してから72時間を超過した(ATTACC, ACTIV-4a)
- 入院してから14日は経過した(REMAP-CAP)
- 72時間以内に退院が予想されている
- 或いは、別の理由で治療用量の抗凝固薬の適応である, 出血リスクが高い, 抗血小板薬2剤併用中, もしくは ヘパリンアレルギー既往あり
2. Intervention: 治療用量の抗凝固薬を、その地域の急性静脈血栓塞栓症に対するprotcolに則って14日まで, ないし 回復まで投与した。(治療用量群)
3. Comparison: 通常の薬理学的血栓予防療法。用量と期間は治療担当医がその地域のprotcolに則って決定した。(通常用量群)
4. Outcome: 次のようなprimary outcome, secondary efficacy outcome, secondary safety outcomeで効果・安全性を評価した。
1) Primary outcome; 臓器補助が不要な日数。生存退院した患者では、21日目までの院内死亡と循環器・呼吸器系の臓器補助が不要な日数を組み合わせたordinal scaleで評価した。21日目より前に退院した患者は、生存していて, 21日目まで臓器補助が不要だったと推定された。最初の入院から90日目までの死亡は最低点(-1)を付けられた。
1) Secondary outcome; 以下の項目で評価した。
3) Secondary safety outcome; 重大な出血と, 検査で確定診断したヘパリン起因性血小板減少症(Heparin-induced Thrombocytopenia; HIT)
(2) Result
① Patienst Characteristics
最初の患者がランダム化されたのは2020年4/21だった。2021年1/22にデータ・安全性監視委員会の助言により参加登録が中止された。その時点で、2,244名の中等症患者がランダム化されていた。Primary analysis populationには2,219名が含まれていた(Fig. 1)。
両群間でbaselineのcharacteristicsは類似していた(Table 1)。D-dimerが高値・不明なコホートの患者は全体的に高齢で, D-dimer低値コホートよりも併存疾患の有病率が高かった。Baselineで併用されている治療法は、抗血小板薬(12%), グルココルチコイド(62%), レムデシビル(36%)だった。
ランダム化後のprotcolに則った抗凝固薬用量への最初のadherenceは、治療用量群で88.3%, 通常用量群で98.3%だった。治療用量群の患者1,093名のうち1,035名(94.7%)が低分子量ヘパリンを投与された。通常用量群の患者855名のうち613名(71.7%)が低用量, 227名(26.5%)が中等量の血栓予防薬を投与されていた。
② Primary Outcome
中等症患者2,219名において、通常の血栓予防療法と比較して治療用量の抗凝固薬が臓器補助不要日数を増やすという事後確率は98.6%だった(調整後odds比中央値 1.27; 95% credible inteval 1.03~1.58) (Table 2)。最初の21日間を臓器補助無しで生存退院したのは、
- 通常用量群: 1,048名中801名(76.4%)
- 治療用量群: 1,171名中939名(80.2%)
- 調整後の絶対的差異の中央値: 4.0 percetntage points(95% credible interval 0.5~7.2)
であり、抗凝固療法群を支持する結果となった。両群の患者の大半がICUレベルの臓器補助を受けることなく生存退院したため、両群における臓器補助不要日数の中央値は22であった(Fig. 2)。
Primary adaptive analysis groupにおいて、通常の血栓予防療法と比較した治療用量の抗凝固薬が優位である最終的な事後確率は、
であった(Table 2)。
中等症患者全員において、年齢, 参加登録時の呼吸補助の程度, もしくは 血栓予防薬の投与量によって治療効果は変動しなかった。
② Secondary Outcome
Table 3にsecondary outomeを示す。中等症患者全体のコホートにおいて、
- 血栓予防療法に比べて、退院までに治療用量の抗凝固薬が生存を上昇させる事後確率は87.1%(調整後odds比中央値 1.21; 95% credible interval 0.87~1.68)であり, 両群間の調整後の差異の中央値は1.3 percentage pointsだった(95% credible interval -1.1~3.2)。
- 28日目において、治療用量群の患者の方が臓器補助無しで生存する可能性が高い事後確率: 99.1%
- 28日目において、治療用量群の患者の方が侵襲的機械換気無しで生存する可能性が高い事後確率: 92.2%
重大な血栓イベント, もしくは 入院中の死亡は、
- 治療用量群: 94名/1,180名(8.0%)
- 通常用量群: 104名/1,046名(9.9%)
だった(Table 3)。
重大な出血と致死的な出血は、
- 治療用量群: 重大な出血; 22名/1,180名(1.9%), 致死的出血; 3名
- 通常用量群: 重大な出血; 9名/1,047名(0.9%), 致死的出血; 1名
だった。
(3) Disucussion
重症でないCOVID-19入院患者において、治療用量のヘパリンによる抗凝固療法は通常の血栓予防療法と比較して、退院までの生存の可能性を上げ, 21日目までのICUレベルの臓器補助の必要性を低下させた。治療用量の抗凝固薬は、baselineのD-dimer値に関係なく効果がある。重大な出血は治療用量群で多かった。この知見に基づき、通常の血栓予防療法と比較して、治療用量の抗凝固薬を投与するというinitial strategyは、中等症COVID-19入院患者1,000名ごとに追加の重大な出血イベント7名を犠牲にして, 臓器補助無しで退院するまでに40名の患者を生存させると予想される。絶対的な治療のbenefitは、D-dimer低値コホートよりも高値コホートで明白であった。
重症でない患者において見出されたbenefitとは対照的に、並行して行われた同じplatformの臨床試験では、重症な患者における治療用量の抗凝固療法は効果がないと示されている。治療用量のヘパリンは、病勢が進行した患者において炎症・血栓症・臓器障害のcascadeへ影響することができない可能性がある。また、患者集団の違いがこうした知見の違いに寄与した可能性もある。
バイアスを最小化し, 重症度のspectrumを跨いで機能する為にprimary outcomeを選択したにも関わらず、この臨床試験がopen-label designであることは潜在的なlimitationである。重大な出血もしくは血栓症というsecondary outcomeについては、確証バイアスの可能性が除外できない。またscreeningのデータの詳細を持っていないので、出血リスクが高いこと, ないし 他の理由での高凝固療法の適応であったこと以外の臨床試験から除外された最も多い理由を特定できなかった。そのため、この知見を一般性は十分に評価できない。
重症と中等症で、治療用量のヘパリン投与が効くか効かないかが別れるのって、何だか興味深いですね。
※追記: 昨日もサクッと動画を撮影&編集して、YouTubeへアップロードしています。是非ご覧下さい。チャンネル登録や(アンチ以外の)コメントを頂ければなお喜びます。