Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

【救急医の愚痴】麒麟がくるのを待ってどうすんだよ?

 こんばんは。今日は、色々と鬱積した思いがあるのでそれを綴ってみたいと思います。

 今日も、私は救命センターでICUと外来の間でてんてこ舞いでした。重症入院患者の評価は慎重に進めないと状態を上向かせるきっかけを失いかねないし、外来も外来で色々と大変です。例えば、交通事故による多発外傷は蘇生のためやることが沢山あります。出血や気胸等を探すための診察・輸血・気管挿管と人工呼吸器・胸腔ドレナージetc...と多くの人を集めて必要な初期診療を行い、必要ならば他の診療科の医師へ(たとえ嫌な顔をされようと)診察・治療を依頼せねばなりません。他にも、重症患者が来ているのに別の救急車収容要請が来たり, そこまで重症でもないのに2次病院が様々な理由で応需できず止む無く大学病院救命センターで受けたりetc…当然、助けが欲しいときは先輩や研修医に協力・仕事の分担を適宜依頼しています。それでもほぼ毎日、「俺のキャパフル回転でも間に合わない!」と感じて切羽詰まった強迫観念を抱えて働いています(他の救急スタッフはそうでもないと思いますが)。

 

 思えば、昔から医療関係者の間でも「将来的に医師が余る(だから医学部定員は減らせ)」だの, 「いや、全然足りないぞ。政府/厚労省の政策は現場の感覚と乖離しすぎだ」だとの意見が分かれています。もはや私も、どっちが真実か分かりません。医師会・官僚・政治家・研究者ら様々な人間のバイアスが入り込み、もはや悪魔の証明と言うべき領域に達しているのではありませんか?これはあくまで極端な仮定ですが、もし政府が「医療費等を減らすために医療スタッフ数も病院も減らす。その為には一部の国民が犠牲となることに耐えてもらおう」という政策に踏み切るのであれば、どこぞの北欧国家のように「一定のラインを超えたら、もうその人たちをICUには入れず, 人工呼吸器・腎代替療法・昇圧薬等の積極的治療も行わない(但し苦痛緩和の為の治療はする)」というコンセンサスを国民の間に形成する為、何らかのイニシアチブを取るべきだとは思います。

 しかし現実はどうでしょうか?私の記憶している限り(必ずしも正確とは限らない。伝聞も多少含まれます)、私が高校生〜医学部1年だった2000年代までは「医学部定員は減らす」方針でした。しかし所謂『救急車のたらい回し』, そして『その結果患者が死亡した』というメディアの報道加熱により、政府は「医学部定員増加」に舵を切りました。ところがここ数年の趨勢は、「やっぱ医学部定員は減らそう(でも地域枠は残すよ)」となっています。要は、(私の印象論が多少混じっているとはいえ)政府はその時その時で『言を左右にし』, 長期的な戦略もなく短期的な朝令暮改を付け加えているようにしか見えないのです。そして私はこれまでこのブログ・YouTubeチャンネルの動画で指摘してきましたが、官僚組織や病院組織というものは様々な省庁/部署を抱えており、たとえ優秀な専門家を抱えていようとも、各部署/省庁が各々の都合を全面に出して足を引っ張り合い、物事が前に進まないか, 結論が出ても曖昧な内容となりがちです。そしてそのようなカオスの間に割って入り、皆を合目的に動かせるリーダーも居ません。

 今、NHK大河ドラマで『麒麟がくる』を放映していますね。応仁・文明の乱以降の日本は、征夷大将軍天皇を国家権力の頂点に頂きながらも、幕府側近らは幕府・朝廷の権威を笠に着て内紛を繰り返し(時に将軍へ反逆して放逐, ないし 殺害さえした), 地方でも領地等の利権を巡って守護大名守護代・国衆といった連中が衝突を繰り返していました。そんな中で、織田信長足利義昭を推戴し室町幕府復興(?)・天下布武(畿内情勢の安定化)の為に上京する訳です。古来から極東では「泰平の世には麒麟が現れる」という伝承があったそうですが、16世紀の日本においては「低迷している将軍の権威を上昇させること(往々にして国家権力というものは、その版図内の個人・集団間の紛争を和解に持ち込むという機能も有しています)」=「麒麟がくる」ということだったのでしょう。

 平成の日本には、医療保険政策の混乱した意思決定に割って入る『麒麟』は現れず、医療というインフラにはヒビが蓄積されていきました。そして令和の今日、Covid-19パンデミックという大打撃が襲いかかり、日本の医療は危機に瀕しています。私が思うに、日本人は長い間『麒麟』が来るのを待ちすぎたのではないでしょうか?医療に限った話ではありませんが、日本人は何らかのセンセーショナルな話題が持ち上がると皆で沸騰しますが、『喉元過ぎれば熱さも忘れる』。結局関心を持ち続けず、国民の間で議論を継続し何らかのコンセンサスを形成しようという気風がありません。「あとは官僚と国会議員・首相官邸にお任せします」とでも言うのでしょうか?そもそも我々は何の為に国や自治体へ税金を納めているのですか?1945年に日本は連合国に負け、紆余曲折を経て『大日本帝国憲法』の代わりに『日本国憲法』を採択して国民主権の国家になっていますよ(主権者は天皇陛下でも総理大臣でもないですよ)?我々には国民の代表である議員を選出する為の選挙権があるのに、どうしてそれをフル活用しないのですか?私がぶっちゃけたいことは以上です。まとまりがなくて申し訳ありません。