Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

急性腎傷害への腎代替療法に関するreview Part 2

 こんばんは。現役救急医です。今日は前回に引き続き、NEJMへ掲載された急性腎傷害(AKI)への腎代替療法に関するreviewの紹介第2部をやります。

 

(4) 腎代替療法の開始時期・適応や治療内容について

① 開始時期・適応

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Table 2: 腎代替療法の適応

 重症患者への腎代替療法の適応をTable 2に示す。体液過剰("volume overload")の回避, ないし 治療は、腎代替療法の早期開始の適応としてよくリストアップされている。観察研究では、AKI患者における体液貯留("fluid accumulation")の程度と死亡率の間の強い相関関係が示されている; しかし、循環動態の負荷が大きく, 死亡リスクも高い患者は多くの場合、蘇生の為に多くの輸液を必要とするので、この相関関係は因果関係を成すものではないどの程度の体液過剰が死亡率上昇に繋がるのか, 限外濾過早期開始がリスクを軽減するのかどうかを評価する研究が必要である。

 代替療法開始を決定するに当たり、肺血管のうっ血の重症度と, 利尿薬への反応は考慮されるべきである。

 AKI患者において、顕著な伝導障害を来している高カリウム血症は一般的な緊急腎代替療法開始の適応である一方で、より軽症な高カリウム血症では多くの場合、内科的治療で十分である(Table 2)

 重篤代謝性アシドーシスも緊急腎代替療法開始の適応であるとされるものの、ランダム化臨床試験では、重炭酸投与による内科的治療が生存率改善や腎代替療法の必要性の低減と関連していたメトホルミン中毒を例外として、多くの乳酸アシドーシスについては腎代替療法の役割について議論が分かれている。

 進行した尿毒症の合併症(脳症, 出血傾向, 心外膜炎など)も、腎代替療法の開始適応にリストアップされている。しかしながら、これらの合併症はAKI患者よりも, 進行した慢性腎臓病の患者で多く発症する。

 上記のような具体的な適応がない状況について、'expert recommendation'では長きにわたって、血中尿素窒素濃度>100 mg/dLに達するまでは腎代替療法を見送るように推奨されてきた。しかし最近になり、こうした推奨は実証されておらず, 腎代替療法早期開始を支持する人たちにより疑義を挟まれている

 一般的に、具体的な適応のない状況では、重症AKI患者への腎代替療法開始に関して以下の2つの方法が可能である:

  • 重篤な合併症を発症する前の早期開始("early initiation")
  • 具体的な適応となる病態が生じるまで腎代替療法を見送る晩期開始("delayed initiation")

観察研究では早期開始に生存率の上での長所があると示唆されている。しかし、これらの研究の多くでは、最終的に腎代替療法を開始された患者のみが含まれ, 腎代替療法を行わずに治療された重症AKI患者は除外されている。実際の臨床上の疑問は、「腎代替療法の開始は早期か晩期か」ではなく, 「どの時点で開始, 或いは 延期すべきか」である(Fig. 3)

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Figure 3: 腎代替療法に関する観察研究とランダム化コントロール研究の間の被験者の違い

 重症AKIだが腎代替療法の具体的な適応のない患者合計4,034名で晩期開始(一定の基準を満たすまで腎代替療法を延期)早期開始(ランダム化後数時間以内に開始)を比較した多施設ランダム化コントロール臨床試験3件では、死亡率は44~54%であり, 治療群間で有意差は見られなかった特記すべきことに、晩期治療開始に割り振られた患者のうち、腎代替療法を一度も受けなかった患者の割合はかなりのものとなり, 臨床試験3件で合計で40%であった2010~2020年の間に発表された9件の研究のmeta-analysisも、同様の結果を示した。

 これらのデータは、厳格な監視と積極的な内科的治療が行われる場合、重症合併症の可能性が無い重症AKI患者において腎代替療法を開始する必要がないことを、説得力を持って示している。これらの臨床試験は、腎代替療法の晩期開始が 1) 死亡率増加と関連していないこと, 及び 2)代替療法実施の減少と関連していることを示してるのも関わらず、どれほど腎代替療法の開始を安全に遅延させられるのかを決定するように設計されていない。プロトコルの差があるので、早期開始と晩期開始の間の治療開始までの時間の中央値の差は、25~52時間と開きがある。

 晩期開始は医原性合併症のリスクを下げるものの、尿毒症毒素の蓄積が死亡率・疾病率を増加させるかもしれない。こうした課題は、腎代替療法開始を適度に遅延させた場合と, 更に遅延させた場合を比較した多施設ランダム化コントロール臨床試験で評価されている。この試験では、『適度に遅延させる』治療群では「血中尿素窒素濃度>112 mg/dL or 72時間以上の乏尿(=既述の臨床試験1件の『晩期開始[開始遅延]』と同じ)」で腎代替療法を開始している反面、『更に遅延させる』治療群では開始基準を「血中尿素窒素濃度 140 mg/dL」としている。多変量解析により、治療開始を『更に遅延』させた場合は死亡率が増加したことが示された

 

② 治療内容

 複数の単施設研究では、より集中的な腎代替療法の運用が臨床転帰改善と関連していることが示唆された。しかしながら、結果は全ての研究で一致している訳ではなく, また大規模な多施設ランダム化コントロール臨床試験では確認されていない。間欠的治療では透析量は1回の治療ごとの除去量と治療の回数の両方によって決定される一方で、持続的治療では、透析量は合計廃液流量速度("total effluent flow rate")によって決定される。大規模多施設ランダム化臨床試験2件では、AKIを伴う重症患者における腎代替療法の程度を評価した; 1件は持続的治療のみにフォーカスし, もう1件は循環動態により間欠的治療と持続的治療の間で変更することを可能としていた。いずれの研究でも、持続的治療で廃液流量速度を体重1kgごとに>20~25 mL/hr.にした場合, もしくは 間欠的血液透析では治療回数を週3回超・1回の治療における目標正常化尿素リアランス("target normalized urea clearance")を≧1.2にした場合には、生存率改善が示されなかった

 

目標正常化尿素リアランスは"Kt/Vurea"という数式で現し、K = dyalizerによる尿素除去速度, t = 透析の継続時間, V = 患者体内の尿素分布容積である。

 

 こうした結果は7件の臨床試験のmeta-analysisでも確認されており、このanalysisでは、より集中的な治療では腎機能回復が遅れることも示されている。高い廃液流量速度(120 mL/kg/hr.まで)は転帰改善と関連していなかった。集中的な腎代替療法電解質異常リスク上昇や人工呼吸器依存の延長とも関連しており, 集中的な間欠的血液透析は低血圧リスク上昇と関連している。こうしたデータに基づいて考えると、異化亢進

状態が深刻ではない場合に推奨される腎代替療法の強度は、

  • 持続的腎代替療法:  廃液流量 20~25 mL/kg/hr.
  • 間欠的血液透析:  1週間に3回, 1回の治療でKt/Vurea≧1.2

である。こうした溶質除去の閾値に到達出来なかった場合には、より頻回の血液透析が必要となるかもしれない。

 必要な腎代替療法の強度を決定する際に用いられる独立した基準に、体液量管理がある。限外濾過率("untrafiltration rates")は患者の全身状態と蘇生のphaseに依存する。患者の状態が安定化した後には、正味の体液バランスを維持する為の軽い限外濾過が最適かと思われる。患者が安定し, 輸液ないし血管作動薬投与が不要となった時には、より積極的な限外濾過が必要であると思われる。持続的腎代替療法施行中、正味の限外濾過は溶質除去と関係なしに管理可能である; 間欠的血液透析を受けている患者の場合、目標とする体液除去を達成する為に、治療時間を延長or週3回超実施する, ないし 追加の限外濾過が必要かもしれない

 

 

(5) 腎機能回復と治療終了について

  代替療法は、腎機能が『回復』した時に中止されることが多いものの、回復』の定義は明確ではない実臨床では、1) 利尿の回復, もしくは 2) 血中尿素窒素濃度, クレアチニン濃度, or その両方の自然な低下, が腎機能回復の基準といて用いられている。なお、こうした終了基準を評価した研究は無い。

 代替療法の早期開始と集中的な治療は、腎機能回復遅延と関連している開始を遅らせた患者にて、早期に利尿の回復と血清クレアチニンの自然な低下が見られることを示した研究, 及び 早期に開始された患者では90日後に透析への依存が多いことを示す研究がある。これらの知見は、「90日後も続いている腎機能障害」がend-stage kidney diseaseの定義に用いられているため特に重要である。代替療法の強度に関する研究7件のデータも、より集中的な腎代替療法が28日後の透析依存の増加と関連していることを示している。概念上、腎代替療法は、治療アプローチに関係のないメカニズムを通じて腎機能回復に干渉する可能性がある。透析中の血圧低下が明らかなメカニズムであるが、他の要素も関係しているであろう。特に、透析膜の生体適合性("biocompatibility")の改良にもかかわらず、完全な生体適合性を有する膜はない。腎代替療法と腎機能改善の間の, 炎症促進性のプロセスによる干渉を示唆するデータが存在する。これらの知見は、既に障害されている腎臓では、腎代替療法"second hit"になってしまう可能性を示しているもしこの仮説が証明された場合、腎代替療法を通じて生じた腎傷害は重大な懸念であり, 人工呼吸器関連肺傷害と似たようなものかもしれない

 回復が不十分となる, もしくは 慢性腎臓病(CKD; chronic kidney disease)へ進行することもあるものの、AKIは数日ないし数週間で消退する。従って、AKIとCKDは、CKDがAKI発症の素因に関与し, 傷害された腎臓の修復不良がCKDの発症or進行に繋がる、互いに連続した症候群である。