Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

急性腎傷害への腎代替療法に関するreview Part 1

 こんばんは。現役救急医です。今日は、2022年3/10に発表された血液透析等に関するreviewを紹介してみます(Gaudry S. et al. 'Extracorporeal Kidney-Replacement Therapy for Acute Kideny Injury. N Engl J Me. 2022;386:964-75)。和訳してまとめてetc.とやっていたら、すげー長文になりそうなので、2部に分けて書きます。

 

(1) 導入

 急性腎傷害(AKI; acute kidney injury)とは急激な腎機能の低下を指し, 糸球体濾過率によって評価する。系球体濾過率を直接評価する方法が無いため、AKIはクレアチニンの蓄積, 或いは 尿量の減少or無尿を認めた場合に診断される; AKIの重症度は、クレアチニン蓄積・尿量減少の程度, ないし 持続期間に基づいて分類する。AKIは血液循環; 尿排泄の障害; または 腎臓内の構造1個以上を障害するプロセスによって発生し, 機能的な病態である。

 尿素クレアチニンの濃度上昇がAKIの進行度・重症度を定義するものの、尿素クレアチニンの蓄積は、尿毒症の有害作用を起こす, あまり特徴的でない代謝産物の蓄積と平行するものである。代替療法の主な目的は、体液量過剰("volume overload")・高

カリウム血症・代謝性アシドーシスといった致命的な合併症を軽減することである。

 腎代替療法開始の適応は、実用化された1050年代から議論されている。腎代替療法の技術と安全性は向上したものの、依然重篤な合併症と関連している。AKIに対する腎代替療法は多くの場合、血液透析("hemodialysis") もしくは 血液濾過("hemofiltration")という形で提供されている。

 ここでは、重症AKI患者に対する腎代替療法関連のupdateを示す。

 

 

(2) 技術的側面

 腎代替療法の全形態の中心となるものは、血管アクセスと, ポンプにより作動する体外式回路(血液が通過する半透膜が入っており、この半透膜を介して溶質, 塩分, 水分を交換する)である(Fig. 1)血液透析器("hemodialyzers")ないし血液フィルター("hemofilters")は半透性のセルロース, もしくは 合成ポリマー膜(中を血液が通る中空の繊維から構成されており、小さなカートリッジ内で広大な表面積[1~2.5 m2]を確保可能としている)から成る(Fig. 2)血管アクセスは、内頸静脈, または 大腿静脈へ大内径・double-lumenのカテーテルを挿入することで確保するカテーテル挿入部位は出血リスクが同等であり, 有効性と安全性の観点から差はないと考えられているBody-mass index(BMI)>28の患者では、大腿部へカテーテルを挿入した場合の感染率が内頸静脈へ挿入した場合のそれよりも高い挿入手技中の合併症のリスクの増加, 及び 挿入後の静脈狭窄or閉塞がアクセスを制限するリスクが伴うことから、鎖骨下静脈への挿入は避けられている

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Fig. 1: 左上が持続的血液濾過, 右上が持続的血液透析, 左下が持続的血液透析濾過, 右下が間欠的血液透析の回路の模式図

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Fig. 2: 腎代替療法における体液と溶質の移動。(A)拡散の仕組み, (B)対流の仕組みと、(C)血液透析, (D)血液濾過, (E)血液透析濾過における血液・透析液等の流れ



 

(3) 治療のアプローチ

 腎代替療法は、従来型or長時間の間欠的血液透析として, もしくは 持続的腎代替療法として提供される(Fig. 2 and Table 1)

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Table 1: 間欠的血液透析, 延長型間欠的腎代替療法と持続的腎代替療法の比較

 

① 間欠的血液透析

 間欠的血液透析では、主に拡散("diffusion")によって溶質を除去する。多くの場合、1回3~6時間の透析治療を1週間に3~7回実施する。こうした比較的短時間の治療により十分に溶質と体液を除去するには、高い透析液流・血流速度が必要である急速な溶質の除去は、致死的な酸-塩基平衡・電解質異常と, 血液透析で除去可能な毒物・薬物による中毒の治療を可能とする(Table 2)。また、短い治療時間は患者の離床を容易にする。しかしながら、体液過剰を補正する為の急速な限外濾過("ultrafiltration")が必要なことと, 及び 血液中の尿素やその他物質の急速な低下は、患者において透析中の低血圧を来しやすくするものの、こうしたリスクは治療時間の延長, 透析液の組成や温度を変える等の方法で軽減可能である尿素濃度の急速な低下は、特に尿素濃度が長期にわたって上昇していた場合において、頭痛から感覚の低下に至るまでの様々な神経症状を起こすこともあり、これは溶質の平衡の遅れ("delayed equilibration")によって体液の移動による脳の神経細胞の浮腫が起きているからである平衡の異常("disequilibrium")のリスクは、治療時間が短い血液透析を開始すること, 浸透圧上のストレスを最小化するために少ない血流量を用いること により軽減可能である。8~16時間の治療時間において, 血流・透析液流速度を下げることによって血液透析治療時間を延長するアプローチ(延長型間欠的腎代替療法と呼ばれる)は、循環動態が不安定な患者で用いられている。

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Table 2: 腎代替療法の適応。

 

② 持続的腎代替療法

 持続的腎代替療法は、間欠的血液透析中の循環不安定のリスクを軽減する為に開発された。本法は、対流性の溶質除去("convective solute clearance")を用いる持続的血液濾過; 主に拡散で溶質を除去する持続的血液透析; もしくは 拡散対流性の溶質除去を組み合わせる持続的血液透析濾過によって提供される。対流を用いる治療は高分子量物質(1,500~50,000 dalton)の除去量増加と関連している。しかしながら、標準的な血液濾過膜のcutoff pointではサイトカインの効果的な除去ができず, また持続的血液濾過は死亡率を減少させずに、一部では予後を悪化すらさせている持続的腎代替療法では24時間以上かけて治療を行い, 間欠的血液透析よりも溶質・体液除去速度は遅いが、間欠的血液透析と同等 ないし それ以上の除去を、時間をかけて行うことが出来る

 

③ 抗凝固療法

 透析回路の血栓による閉塞は多い。回路の開通を図る為の抗凝固療法は一般的であるものの、出血リスクを上昇させる可能性があり、特に治療期間が短い, もしくは 血流速度が速い場合は省略されることもある。抗凝固療法の適応は、出血リスクの評価(失血のリスクと, 回路閉塞による治療中断のバランスを取る形で)により判断されるべきである。抗凝固療法は多くの場合、1) 未分画 or 低分子量ヘパリンの投与, もしくは 2) 持続的腎代替療法の場合、回路へクエン酸を注入することで凝固系の一部を抑制すること(カルシウムをキレートすることで効果を発揮する。なお、患者身体側のイオン化カルシウム濃度を維持する為に、別途カルシウム投与が必要となる), のいずれかで実施可能である(Fig. 1)

 

④ 持続的vs間欠的の比較

 観察研究において、循環動態上の耐性, 患者の生存率, 及び 腎機能改善の観点では持続的腎代替療法が間欠的血液透析に優ることが示唆されているものの、こうした知見はランダム化コントロール研究では確認されていない。最大規模の臨床研究では、60日間の生存率は間欠的血液透析と持続的腎代替療法で同等であり, 治療による低血圧or腎機能改善の発生率に有意差は認めなかった。他の臨床試験でも同様の結果が報告されており、meta-analysesでも生存率, もしくは 腎機能回復について差があることを確認されていない頭蓋内圧上昇・頭蓋内浮腫がある患者は、浸透圧上の平衡異常と間欠的血液透析中の低血圧による脳循環の低下に対して感受性を示す; 従って、このような患者に対しては持続的腎代替療法が好ましい。

 

 

 AKIへの腎代替療法に関するreviewの紹介第1部はここまでです。第2部は、治療適応と時期や, 治療内容, 治療終了時期などについて紹介する予定です。