Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

田舎の2次病院のダメなとこ

 みなさんこんにちは。現役救急医です。私は今、田舎の2次救急病院に勤務中ですが、今回はそんな環境で感じた「何これ!?ダメじゃね!?!?」と思ったことを列挙して自分の感情を整理しようと思います。どうか最後までお付き合い下さいませ。

 

(1) 早く知りたい検査項目が外注

 私が担当する患者には様々な背景を持つ人がおり、罹患した疾病(もしくは外傷)も, 年齢・性別も, 入院前の生活背景も, 既往歴も多様です。診断と治療を進める上で重要になるのが、現病歴・主訴・身体所見やバイタル(血圧, 脈拍, 呼吸数, 意識状態など)だけでなく, 検査結果です。例えば、カリウム等の電解質は極端に低くても高くても致死的になり得ますし、血液・尿・痰などの培養検査は感染症の病原体を特定し, それに合った抗菌薬を選択する上で極めて重要です。

 ところが私の勤務先では、特に重症患者を診療するに当たって早めに結果が判明した方が良い検査項目が複数外注になっているのです。具体例を全てここで挙げてしまうと身バレする可能性があるので、1個だけ挙げます。バンコマイシン, ゲンタマイシン等の一部の抗菌薬は、投与開始後の血中濃度を測定し, その数値次第で投与量を調整せねばなりません。濃度が過少だった場合、病原体への効果が不十分ということになりますし, 過剰だった場合も薬剤による副作用(腎障害など)のリスクが伴います。従って、早めに血中濃度が判明するに越したことはないのですが、当院では外注検査となっているので, 結果判明までなんと1週間もかかるのです!

 検査部の人たちだけでなく、検査機器新規導入に関する決定権を握る事務方トップにもこうした問題点を示しつつ私の要望を伝えているのですが、「予算の関係上、うちへ新しい検査機器を導入するのは難しい」などと言われましたですが、CTをもう1台新規に導入したり, 病院の建物の一部を増設しています)。

 

(2) 重症管理に必要なデバイス等も採用してもらえない

 重症患者にはどうしても、中心静脈カテーテル/末梢静脈カテーテル留置や気管挿管, 動脈圧ライン留置, 開胸・開腹・開頭手術, 経カテーテル的治療といった侵襲的な処置が必要となります。いずれも出血・臓器損傷・薬剤アレルギー等の合併症のリスクも伴うため、救命・安定化を実現するには慎重に実施する必要がありますし, こうした緊急手術等が終わった後も、厳格な監視が必要となります。

 現勤務先で重症患者を何人も診療する中で、私は「あのデバイスがあればもっと厳密に, 安全に重症管理ができるのに」と感じるようになりました。そして、それらのデバイスの新規採用を病院事務トップに申請はしているものの、これまた予算云々を理由に保留・却下される始末。

 事務側(特に上層部)と臨床現場の感覚の乖離には、もはや怒りを通り越して幻滅・うんざりです。

 

(3) とにかく人がいない

 診察中の患者の状態が不安定であればあるほど、その患者の診療に付くスタッフ数は増やす必要があります。薬剤やデバイスを準備したり, 暴れる患者を抑制したり, 経過を記録したりする等の行為について役割を分担してやっていくことが本来であれば必要です。しかし今の勤務先では、病棟にせよ外来にせよ、介助等に付いてくれるスタッフが本当に少ないと毎度毎度感じます。そして、せっかく診療に付いてくれても、そのスタッフが『不勉強』であるが故に指示したものと違う薬剤やデバイスを持ってきたり, 記録が間違っていたということもありました。こうした問題は結局のところ、「スタッフの数を確保できず, 従って診療の質の維持・向上を図る機会すら設けられない」というところに行き着くと思います。

 また地方の市中病院では特に、日中の通常外来のみならず, 土日祝日や夜間の救急外来の担当医を大学病院等からの『外勤(バイト)』医に依存している所が珍しくありませんこうした外勤医は、私のように救急科から派遣される場合もありますが、多くの場合、内科医(消化器, 糖尿病内分泌, 膠原病など)や外科医(消化管, 肝胆膵など)ですそうした医師は、普段はほぼ自分の専門領域の疾患の患者しか見ていないので、全ての急患の診断や治療を正確に行えるとは限らず(まあ私も同じことですが), 自分の専門外領域の疾患と思われる救急車の収容要請に応需しないことも多いのです。

 

(4) 事務職員よ…

 (1), (2)で述べた「病院上層部が私(≒臨床現場)の要望を拾ってくれない!」というものや、(3)の「人が足りない」にこれは被るかもしれません。これを言ったら怒られるかもしれませんが、医事課・受付等の事務職員も『ピンキリ』です。重症患者治療がひと段落した直後 或いは その真っ最中に書類云々で何やら要領を得ない相談をしに来たり,  救急隊からの重症患者収容要請を受けた後、患者の電子カルテの準備が恐ろしいほど遅く、患者を蘇生中に「IDができました」と言いつつ受付職員がノコノコやって来たり, 救急外来が混み合っていて、中等症患者の患者の体位変換(診察の為必要だった)を介助しているのが私だけなので「手伝っていただけませんか」と呼びかける私の横を素通りした受付職員etc...と、事務職員と臨床側の意識の乖離も私の頭痛の種です。

 事務職員に「自分らも病院職員であり, 患者とその家族のケアに協力せねばならない」という意識を持たせ, 臨床側の足を引っ張らない範囲で業務を遂行できるような訓練が十分行えれば、我々がイラつくことも無いはずです。

 

 

 結局のところ、突き詰めれば、「現状の日本では急性期医療機関が地域内に分散しており、それぞれの医療機関では少ないスタッフで通常外来・病棟・救急・手術室等の診療を(ギリギリの状態で)維持している」という環境の是正しかないと思います。急性期医療機関を集約化すればスタッフにも余裕が出るし, 予算に困るようなことも減るのではないでしょうか。