Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

紹介状・地域連携室不要論?

 こんばんは。現役救急医です。全国的に寒波が到来し、降雪の影響で道路交通網に影響が出たり, 積雪量が凄まじいので注意報が出た地域もあったようですね。

 そんなご時世ですが、COVID-19の方も依然流行中です。高齢者施設等でクラスターが発生したり, 急性期医療機関や回復期リハビリ病棟でも患者・スタッフのクラスターが発生したり, クラスターに至らずとも、医療スタッフが家族から感染する等して欠員が生じたりして、依然医療現場は混乱しています。詳しい話は今回は割愛しますが(私より詳しい医療従事者は何人も居ると思いますし)、パンデミックから日本の医療態勢は様々な課題を抱えており, 誰もそれらの抜本的解決を試みず, ましてや「緊急事態に備える」という意識が国策レベルから各医療機関レベルに至るまで乏しかったために、依然我々は危機的状況から抜け出せずに居るのです。

 去る2022年10月に第50回 日本救急医学会・学術総会が東京都内で開催され、その中でも当然、上記の問題が話題になりました。その学会にて、私は神奈川県のCOVID-19対策へ医療危機対策統括官として関わられた阿南英明先生の講演を拝聴する機会を得たのですが、所謂『神奈川県モデル』の取り組みが非常に興味深かったので、ここに概要(とはいえ私の思い出しバイアス等が入っているので100%正確とは言えません)を書いてみます。

  1. COVID-19患者の重症化等により他の医療機関へ転院が必要になった場合、従来であれば医師が地域連携室を介して転院先候補の医療機関へ連絡(電話で先方の医師と直接話す)し, その後紹介状を作成し(大抵はパソコンで記載可能だが、特に開業医では手書きの場合も珍しくない), その紹介状を連携室が先方の連携室へFAXで送り…という何重もの『律速段階』がある。その上、最初に連絡した医療機関が満床等の理由で受け入れ不可であれば、他の医療機関を当たる為にまた上記のステップを繰り返さねばならない神奈川県ではオンラインアプリケーションを作成し、入院や転院が必要な患者と医療機関の『マッチング』が可能となった上に, 神奈川県が県内の医療機関のキャパシティを一元的に把握できるようになった。
  2. 特に感染者が増えた場合において、保健所が自宅療養中のCOVID-19患者全員の状態のフォローアップを行うのが困難である為、自宅療養中の患者の健康観察・診療を開業医や訪問看護ステーションに依頼した(なお医師会から同意を得るまでが大変だった)。

 私の現在の勤務地・居住地は明かせませんが、「神奈川県のような取り組みはほぼ行われていない」としか言いようがありません。私の居る地域・医療機関や, 日本国全体が抱える問題点は幾つもありますけれども、特に私が「羨ましい」と思ったのが上記1.です。いや、正確には1.を更に発展させたシステムが欲しいと思います。濃い赤字で強調しちゃったのでもうお分かりかと思いますけど、特に他の医療機関に転院させたい場合、あまりにも医師の仕事が多すぎるのです(注:連携室・医事課職員や看護師が替わりに紹介状を作成することはできません)。しかも患者の全身状態が不安定な場合、医師は治療を継続しながら紹介状を作成し, 先方に送る必要がある血液検査データを印刷し, 放射線部に必要な画像所見のCD-ROMへのコピーを依頼する, という『マルチタスク』を求められます(同僚医師らと手分けして進められれば良いのですが、常にそうできるとは限りません)どう見ても非効率的です。

 COVID-19パンデミックが始まって以降、企業や業界によるとは思いますが、所謂『リモートワーク』が推進され、Zoom等の手段によりインターネットを介して会議を行ったり, 画面共有等により情報共有を行う試みが定着しています。「いちいち紹介状を手入力して紙で印刷してFAXで送って」等の何重もの律速段階を『慣例』として続けるよりも、こうしたデジタル技術・通信技術を応用すべきではないでしょうか。ぶっちゃけ私には、「やらない・できない理由」が分かりません。どなたか、論理的かつ検証可能な根拠を示して、「やらない・できない理由」をご教授頂けませんでしょうか?