Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

【海外メディア記事より】ロシアは何故ウクライナ侵攻でしくじりまくっているのか

 読者の皆様こんにちは。現役救急医です。COVID-19第8波の影響はまだまだ続いています。死者が増え続けているとのことですが、主に高齢者が亡くなっており(加齢によって、免疫だけでなく循環器・腎臓等の全身機能が衰えているため)、ワクチン接種やマスク装着, 多人数と同じ空間で一緒になる行動を避ける, 体調不良時は人との接触を極力減らす 等の基本的な感染対策が必要なことは変わりません。中にはコロナワクチン副作用を気にして接種を見合わせる・延期する人も居るようですが、COVID-19罹患による症状・合併症・後遺症はワクチン副作用よりも明らかに重く, 長引くので、そこらへんを冷静に考えて頂きたいものです。まあそれ以前に、ワクチン副作用で体調が悪くても出勤せねばならない(或いはCOVID-19治療/隔離期間後に、後遺症がきつくても出勤せねばならない)今の日本の労働環境もどうかと思いますがね。

www.nytimes.com

 前置きが長くなりましたが、今日は、ちょっと前にTwitter上でたまたま見つけたアメリカの新聞社'New York Times'の記事"How Putin's War in Ukraine Became a Catastrophe for Russia"の内容をざっくり紹介してみようと思います。なお、ここから先の内容は、記事の内容を自分なりに要約しており, 語句や文章の翻訳が自己流/雑である可能性もあるので、予めご了承下さい。

 

(1) 初っ端からしくじったロシアの侵攻計画

 ロシア軍は開戦劈頭に150発以上のミサイルを発射し、75機のロシア軍機がウクライナ領空に侵入した。しかしウクライナ軍の空軍基地や航空機はほぼ温存されていた。ロシア空軍の航空機は数(ウクライナ:ロシア=1:15くらい)や性能の上でもウクライナを上回っていたはずであり、ミサイルの数や性能も同様であった。しかしウクライナ軍は開戦前に地対空ミサイルシステムを別の場所に移動させており、ロシア軍のミサイルは、これらの装備が移動した後の何もない場所ばかりに命中していた。ウクライナ空軍が拠点を移動させても、ロシア軍の諜報部が情報をアップデートさせてからその場所を攻撃するまでに48~72時間は掛かっており, その間にウクライナ軍は地対空ミサイルシステムや軍用機をまた別の場所へ移動させていた。その後、ロシア空軍の対地攻撃機は護衛の戦闘機をつけずに出撃し、ウクライナ軍機に撃墜された3月に入ってからロシア軍機はレーダーに写らないよう低空で飛び始めたが、今度は携行式地対空ミサイルの餌食になった。

 侵攻開始時にウクライナ国境に駐留していたロシア陸軍兵士も、戦争に行くとまでは思っていなかったベラルーシに駐留していた『機械化歩兵旅団』は、2022/2/24の夜明け前に出発し, 同日の午後2:55ごろにキーウに着く予定だった。しかし現実は、ベラルーシ国境を越えるだけでも1日以上はかかった。

 また、同日7時ごろに別の部隊('26th Tank Regiment')へ出された司令では、「国境からドニプロ川渡河地点(そこからキーウへ2時間程度)までの約400 kmを24時間で突破する」とされ, 「その地点で防御態勢に入り、南や東から攻めてくるウクライナ軍を防ぐ」・「そこまで装備・人員の補充の予定はなし」という計画になっていた。実際のところ、この部隊は目標地点から数百キロ足らずの所で壊滅し, 3週間で16両の車両を喪失した。他にも、チェルニヒウ近郊では別の30,000人以上のロシア軍部隊が、森に潜んでいた1/5の規模のウクライナ軍混成部隊に対戦車ミサイルで迎撃され壊滅した。

 ロシア軍はアントノフ空港をヘリ輸送で次から次へ兵士を送り込んで制圧しようとしたが、ウクライナ軍は携行式地対空ミサイルで迎撃し、300人の空挺兵が死亡した。空港の設備や航空機は大損害を受けたが、ロシア軍の占領を免れたロシアはアントノフ空港へ兵員等を続々と送り込み、その兵力でキーウを一挙に制圧しようとしていたが、その計画は頓挫したことになる。

 ロシア軍の諜報機関'GRU'所属のハッキング専門部隊はウクライナのネットワークに侵入して遮断しようとした直ちに検知され、ダメージは最小限で済んだ。その後もネットワークの遮断/破壊を試みたがプログラミングのエラーで動かず、今度はウクライナの衛星通信を攻撃し、2/24の午前6:15にダウンさせたしかしウクライナ軍はバックアップの衛星通信システムを用意していた。

 ロシア軍の侵攻が失速して食料や水が欠乏すると、ロシア兵は略奪を開始した。ついには車両のガソリンタンクに穴を開けたり, 戦車のガソリンタンクに砂を入れる者まで現れた。ロシア兵は自分の携帯電話で故郷に電話をかけ, その際にウクライナの通信ネットワークを利用していたので、ウクライナの情報機関に位置情報がバレて盗聴され, これらの情報はウクライナ軍の反撃や待ち伏せに利用された。中には、TikTokに上げた動画のせいで位置がバレて攻撃された事例もある。

 

(2) プーチンが侵攻を決意するまで

 プーチンウクライナは、西側諸国がロシアを弱くするために人工的に作った国家だ」と信じていた。2014年のクリミア侵攻の際にウクライナ軍が抵抗できず、西側の経済制裁が小規模だったことでプーチンは調子に乗ったフシがある。以前からプーチンは西側諸国を敵視していたが、2020年以降、彼は自分と世間を隔離する(e.g., 面会者を3日間隔離し, その後の面会ではプーチンと面会者の間に約4.6メートルの距離が置かれた)ことで益々過激化に陥った。16ヶ月間も西側諸国の首脳と合わず, 会議は全て自室からビデオカンファレンス(i.e., Zoomのようなものを使用)形式で行った。

 プーチンは当初、ユダヤ系でロシア語を話すウクライナ東部出身のゼレンスキーに期待していたが、ゼレンスキーはプーチンの期待通りには動かず, ウクライナ国内の親露派有力者を弾圧・冷遇した。2021年10月にイスラエルの首相と会談した際に、プーチンはゼレンスキーへの怒りを爆発させる様子を見せており、西側諸国の諜報機関は「この頃には既にプーチンウクライナ侵攻を決断していた」と考えているしかしロシア政府内部の人間はプーチンウクライナ侵攻を予想すらしておらず, 直前になって知らされた者ばかりだった。

 

(3) ロシア軍は何故こんなに『弱体化』したのか

 プーチンは何年もかけて軍に数十億ドルの予算を投じて近代化し、汚職を一掃しようとした。しかしプーチン政権下では才能や正直さよりも忠誠心が優先され、ごた混ぜのエリート兵士や, 書類の上でのみ先進的な戦車と軍団が生まれることとなった。

 2008年のジョージア侵攻でロシア軍は散々な目にあったので、当時の国防相は軍の改革に着手し、その過程で予算の透明化を試み, 40,000人の将校を強制的に退役させたが、彼は2012年に逮捕され辞任した(後任にはショイグが就いた)。その後も軍の汚職は続いた。例えば、モスクワ防衛を担う戦車師団の基地は宿舎が荒れ果て, 予算は着服されていたが、2016年に政府要人の訪問予定が判明するや否や国防相の副官は慌てて業者に依頼し, 建物の表面だけを簡単に修復するように依頼した。依然ロシア軍内部では汚職による被検挙者が多発している。そしてウクライナ侵攻後、ロシア軍の装備は不良品が多く, 供給不足に陥った。

 ロシア軍は、長年にわたりカリーニングラードバルト海), クリミア(黒海), タルトゥース(地中海, シリア)などに配備した長距離ミサイル等の遠くから打撃を加える手段を揃えて米軍やNATO加盟国軍を阻止すること」を主眼に組織されていたため、ウクライナのような広い国の侵攻・占領に適していない。またロシア軍は「歩兵・空軍・砲兵を協調させて迅速に動かし, 別の箇所で同じことをやらせる」という訓練が不十分だった。

 

(4) 崩壊していく前線のロシア軍

 ロシア軍歩兵への訓練は全くもって不十分であり、狙撃兵の訓練は、徴兵された兵士が自分でYouTubeを視聴してやっている有様だった。『ルハンシク人民共和国(ロシアが支援するウクライナ東部の分離主義勢力)』の歩兵部隊でも衣服や防弾ベストが足らず, 1940年代に製造されたヘルメットを使い回し, 徴用された兵士の中には50歳代と比較的高齢な者が多く含まれるような状況だった(その上、心不全既往がある者すら徴兵されていたという)。

 このような有様なので、前線のロシア軍では兵士の死傷が多く, 士気も低かったこれに対処すべく将官が前線に出て直接指揮を執り始めたが、アンテナ・通信機器の近くにいたので場所を特定されやすく, ウクライナ軍に狙い撃ちにされた。それでも将官らは前線に出続けた。2022年4月末には前線をロシア軍参謀本部のメンバーであるゲラシモフが訪問したが、この機密情報がウクライナ側に事前に漏れて訪問予定場所へ攻撃が行われた。ゲラシモフは死傷を免れたものの多数の将兵が死亡し、その後前線へのロシア軍の将官の訪問は無くなった。

 

(5) グダグダな指揮系統

 ロシア軍以外にウクライナ侵攻には以下の組織が参加している

  • ワグネル:料理の仕出し業者として頭角を現したプリゴージンが所有する民間軍事会社ウクライナ侵攻後、刑務所の囚人(殺人犯を含む)から前線に出る戦闘員を募集している
  • 'Russian national guard'(ロシア国家親衛隊):プーチンの元護衛が監督。
  • チェチェン共和国の元首カディロフが所有する部隊。

これらの部隊はロシア軍との連携・協調を欠いており、2022年夏にロシア軍がウクライナ北東部で潰走した際にプリゴージンやカディロフは、それらの軍団・部隊の指揮官を酷く侮辱した。他にも、2022年夏にザポリージャ方面で、口論で激昂したロシア軍戦車部隊の指揮官が、ロシア国家親衛隊の歩兵や検問所を砲撃するという事件が発生している。

 ワグネルは長年にわたりロシア政府との関係が秘匿されてきた存在であったが、2022年夏 - ウクライナ北東部でロシア軍が潰走した時期 - 以降は国営メディア等への露出が増えており、最新式の戦車や戦闘機, ロケットランチャー等を保有していることが映像でも確認されている。ウクライナで戦っているワグネル戦闘員の数は、一説によると約8,000人(2022年10月時点)とされ, 戦死者の大半は刑務所で徴募された戦闘員であった。こうした戦闘員の中にはバフムート(激戦地の一つ)で塹壕の中で何日も食糧・水もなく過ごすなど過酷な環境に置かれる者もおり、実際に脱走した者も居た。プリゴージンは脱走者を「反逆者」と呼び, 『厳罰』に処することを示唆していたが、実際にそうなった戦闘員も確認されている。

 モスクワ南部の刑務所に殺人罪で20年以上服役していた囚人のNuzhinは、戦闘員募集のため刑務所を訪れ, 「ウクライナから生還した者は放免だ」(・「但し脱走者は射殺する」)との演説を聴いて応募し、ウクライナの前線に赴いた。しかし前線に出て2日後に、Nuzhinは脱走しウクライナ軍に投降した。投降後、Nuhinはウクライナのメディアのインタビューに応じ, その一部が放映された。その後Nuzhinは捕虜交換でロシアに戻ったが、暫くしてからSNS上に、彼が残酷な方法で殺害されるビデオが公開され, これについてプリゴージンは「彼は反逆者だ」と述べて殺害を正当化し, ロシア政府のスポークスマンは「我関せず」との声明を出した

 

 だいぶ長くなりましたが、これでも私が「これは重要そうだ」と思った部分を自己流で抜粋・翻訳・要約したものです。この記事を書いた記者らは、おそらく相当量の時間や労力を使って、米国の情報機関やウクライナ当局, 果てはロシア側の内部告発者(や政府関係者)などから情報を集めたのでしょう。実際、記事の中にはウクライナ軍がロシア軍が敗走した跡から回収した文書を参考にしている部分もあります。