Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

思春期における重症COVID-19に対するファイザー製コロナワクチンの効果

 こんばんは。現役救急医です。ファイザー製mRNAワクチンの効果について、興味深い論文を最近発見しました。今年1/12にNew England Jornal of Medicineに掲載された"Effectiveness of BNT162b2 Vaccine against Critical Covid-19 in Adolescent."(Olson S.M., Newhams M.M. et al., DOI: 10.1056/NEJMoa2117995)です。12~18歳における同ワクチンの効果を検証したものです。

 

(1) 背景と研究の目的

 米国では2021年5月に、食品医薬品局(Food and Drug Administration; FDA)が12~15歳へBNT162b2 mRNAワクチン(ファイザー製)の緊急使用承認を拡大した。2021年9月初期には、SARS-CoV-2デルタ株により小児の入院が最高レベルに達した。

 'Overcoming Covid-19'の研究は、最近12~18歳の思春期青少年ではCOVID-19による入院に対するファイザー製ワクチンの効果は93%と高度である(16州の19ヶ所に入院した179名に基づくデータ)とする中間報告を行なった。この報告以来、研究グループはサーベイランスを31ヶ所(23州)に拡大し, 更に266名の患者を追加した。

 

 

(2) 方法

① Study Design

 COVID-19による入院, ICU入室 ないし 生命維持装置使用に対するワクチンの有効性を評価する為に、症例-対照・検査陰性デザインを用いた。有効性の評価は、SARS-CoV-2陽性となった症例とCOVID-19でない入院患者対照例の間で, 入院前のワクチン接種のoddsを比較することで行なった。

 人口統計学上のデータ, 病状に関する臨床的なデータ, SARS-CoV-2検査歴に関する情報を収集する為に、保護者への聞き取り, 或いは 患者の電子医療記録の閲覧を行なった。保護者にはコロナワクチン接種歴について質問が行われた。接種歴の裏付けの為に、州のワクチンregistryや電子医療記録, ないし その他の記録を調査した。

 

② 被験者や症例・対照例の定義について

 CDC(Center for Disease Control and Prevention)が出資する'Overcoming Covid-19 Network'に参加している31病院(23州)に入院した12~18歳の患者へのサーベイランスが行われた。

 サーベイランス期間中、各施設にて研究者は参加登録基準に合致する症例全例を収集した。2021年5/30~10/25の期間に研究者らは参加登録可能と思われる患者のscreeningを開始していた。最初に参加登録された症例患者が入院した期日は7/1であり, その時期は米国で2回接種が済んだ思春期青少年が20%を超えていた。従ってこの時期はワクチン有効性評価に適していた。参加登録開始時期は、各地域の感染状況や, 各施設の倫理委員会の承認により違いがある。

 症例患者は、入院した主な原因がCOVID-19である, もしくは 急性期COVID-19と一致する臨床症状を有する 思春期青少年の中から選抜された症例患者は全員、発症から10日内or入院後72時間以内に, RT-PCR(reverse transcriptase-polymerase-chain-reaction) or 抗原検査でSARS-CoV-2陽性となっていた現在進行形の入院でMIC-Cの診断を受けた23名は除外された。

 対照例には、2つのグループが設けられた:  1) COVID-19様症状はあるがSARS-CoV-2陰性だった患者, 及び 2) SARS-CoV-2検査を行なったor行っていない可能性があるCOVID-19様症状がない患者である。各施設で、研究者は各対照群について症例:対照の比が1:1となるように調節した。対照例は、症例患者の入院した病棟の近くへ, その症例患者の入院後3週間以内に入院した患者から選抜された。

 他に、

  • mRNA-1273ワクチン(モデルナ製), Ad26.COV2.Sワクチン(J&JとJanssen製)を接種された人(これらは、研究が開始された時期にまだ思春期青少年に対して承認されていなかったので)
  • 発症前14日以内に1回目接種を受けたばかりの患者

除外された。

 

③ ワクチン接種状況について

 患者のワクチン接種状況を現す用語とその定義は以下の通り。

  • 未接種(unvaccinated):  発症前にファイザー製ワクチンを一切接種されていない
  • 接種済(vaccinated):  発症前の14日以上前に直近の接種(1回目 or 2回目)を受けた
  • 部分接種済(partially vaccinated):  発症前14日以内に2回目接種を受けた
  • 完全接種済(fully vaccinated):  発症前14日以上前に2回目接種を受けた

 

④ Outcome

 この研究では、COVID-19による入院, ICU入室, 生命維持装置使用("the receipt of life-supporting interventions"), または 死亡を主要転帰として事前に設定した。『生命維持装置使用』とはここではNPPV or 人工呼吸器, 血管作動薬点滴, ないし ECMO使用のことを示す。

 

統計学的解析

 両群間の参加者の特徴の違いを評価する為に、まず2変量解析という方法を使用した。続いて、対照例と比較した症例患者におけるワクチン接種のodds比を計算するために、主要転帰に関してロジスティック回帰モデルというものを設計した。

 症例患者と対照例患者において, COVID-19に対する完全接種済のoddを比較することにより、主要転帰に対するワクチン有効性を推計した。公式には(1-調整後odds比)x100を用いた年齢集団ごとの入院に対する有効性, 及び 部分接種済みによる入院に対する有効性というsubgroup解析も行われた。 2つの対照群別々, 及び 2つの対照群の組み合わせでも有効性の評価を行なった。

 

 

(3) 結果

 2021年5/30~10/25の間に、合計1,376名がscreeningを受けた; そのうち154名が除外された。

 主要解析には合計1,222名が含まれた(症例: 455名, 対照例: 777名)。

対照群の特徴は

  • SARS-CoV-2陰性:  383名(49%)
  • 症状が陰性:  394名(51%)
  • 年齢中央値:  15歳
  • 基礎疾患1個以上あり:  70%
  • 対面式の学校に出席:  70%

だった。他方、症例群の特徴は

  • 年齢中央値:  16歳
  • 基礎疾患1個以上あり:  74%
  • 対面式の学校に出席:  70%

だった。対照群と比べると、症例患者では社会的脆弱性指数のスコアが高い地域に住んでいる頻度が多かった。接種済患者と未接種患者の両方で併存疾患は多かった(接種済: 73% vs 未接種: 71%)。呼吸器疾患・内分泌疾患は対照群よりも症例群でより多かった; 神経・神経筋肉疾患と免疫抑制・自己免疫疾患は症例患者よりも対照群で多かった

 完全接種済である299名のうち、288名(96%)で完全接種済の記録が確認できた。ワクチン接種記録がある症例患者455名の内訳は

  • 完全接種済:  17名(4%)
  • 部分接種済:  1名(<1%)
  • 未接種:  427名(96%)

だった。これと対照的に、ワクチン接種記録がある対照例患者777名の内訳は

  • 完全接種済:  282名(36%)
  • 部分接種済:  54名(7%)
  • 未接種:  441名(57%)

だった。

 455名の症例患者のうちICUに入室したのは180名(40%)であり, そのうち127名(29%)は入院中に生命維持装置を使用した(うち13名[3%]はECMOを使用し, 7名[2%]は死亡した)ICUに入室した180名のうち、

  • 完全接種済は2名
  • 未接種は178名(そのうち126名は生命維持装置を使用し, 7名は死亡)

だった。

 

 COVID-19入院に対するファイザー製ワクチンの有効性は

  • 対照群の2グループを組み合わせた解析:  94%(95%CI: 90~96)
  • 検査が陰性だった対照を用いた解析:  95%(95%CI: 91~97)
  • 症状が陰性だった対照を用いた解析:  94%(95%CI: 89~96)

だった。ICU治療を要するCOVID-19に対する有効性は98%(95%CI 93~99), 生命維持装置を要するCOVID-19に対する有効性は98%(95%CI 92~100)だった。Subgroup解析では、COVID-19入院に対する2回接種の有効性は各年齢集団で同等であった。

  • 12~15歳(症例患者251名):  95%(95%CI: 88~97)
  • 16~18歳(症例患者193名):  94%(95%CI: 88~97)

 部分接種済の有効性は97%(95%CI: 86~100)だった。しかし、症例患者における最後のワクチン接種からCOVID-19様症状の発症までの時間中央値は、部分接種済だった患者1名では30日間で, 完全接種済だった患者では90日間だったことに注意する必要がある。

 

 

(4) 考察

 コロナワクチン接種が可能となったにも関わらず、入院した思春期患者の96%・生命維持装置を使用した患者の99%が完全接種済でなかったファイザー製ワクチンの2回接種は、米国の12~18歳の思春期青少年において、COVID-19による入院リスクを94%減少させた。この入院した思春期青少年コホートにおいて、ワクチンは、生命維持装置を要し, 死亡に繋がるCOVID-19をほぼ全例回避したECMOを使用した13名と死亡した7名は全員ワクチン未接種だった。今回の知見は、12~15歳の思春期青少年を対象とし, 入院を要しないCOVID-19に対する有効性が100%と示したファイザー製ワクチンの臨床試験のデータと一致する。

 12~15歳の小児におけるファイザー製ワクチンの高い有効性は、ワクチンが感染後の病勢進行も防止する筈であることを示している。しかしながら、実際のワクチンのパフォーマンスを理解する為にワクチンは導入されるので、承認後の有効性のmonitoringも重要である。ワクチンの効果は併存疾患のある思春期青少年では異なるであろう。またワクチンの有効性は、新規変異株や, 1回目と2回目接種の間隔によっても異なる可能性がある。この研究で、米国で白人よりもCOVID-19のリスクが高い集団である黒人は24%, ヒスパニックは25%だった。併存疾患のある患者や, マイノリティ集団に属する人は、12~15歳におけるファイザー製ワクチンの臨床試験で過小評価されていた。今回の研究コホートでは患者の特徴についてこうした差が見られ, また基礎疾患の有病率が高いにも関わらず、ワクチン接種はCOVID-19による入院の合計リスクの94%の減少, ICU入室ないし致死的COVID-19の合計リスクの98%の減少と関連していることがわかった。加えて、今回の解析のフォローアップ期間中央値は、早期のファイザー製ワクチン臨床試験のそれよりも長かった思春期青少年ではワクチンの有効性が高く, また COVID-19重症化も見られているにも関わらず、この研究の対照群で完全接種済だったのは39%のみだった。こうしたデータは、思春期青少年におけるワクチン接種率改善の取り組みが、同集団における重症COVID-19リスクを顕著に低下させられる可能性を示している。

 

 

 どの年齢層であってもmRNAワクチンが有効であることは確実であり、特に重症化を防ぐ効果が高い点では、非常に心強いと言えます。ですがSARS-CoV-2感染を完全に防ぎ切れる訳ではありませんし、これまで当ブログで紹介したデータや, 報道でも触れられている通り、コロナワクチンの感染に対する予防効果は時間と共に低下します(重症化予防効果は維持されますが)。感染者が増えてしまえばそれなりに重症化する人は増えますので、医療体制の機能低下は避けられません。やはり個々人が感染対策に気を遣い, また政府が3回目接種を進めることが重要であることに変わりありません。

 最後になりますが、手前味噌ながら昨年末に3回目接種を受けた感想や, 3回目接種に関する最新データの紹介をYouTubeでやってみました。是非ご覧ください。

youtu.be