Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

痙攣性てんかん重積状態(convulsive status epilepticus)の治療

 みなさんこんばんは。現役救急医です。研修医・医学生向けのものも含め、様々な医学書/参考書には、痙攣の診断/評価や治療に関する記載があります。今日は私の知識整理も兼ねて、UpToDateを参考に、痙攣性てんかん重積状態(convulsive status epilepticus)の治療についてまとめてみます。原因となる疾患/病態や, それらの診断方法の詳細については、色々な参考書に書いてあるので今回は割愛します。

 

(1) まず、定義について

 UpToDateによると、全般性痙攣性てんかん重積状態(GCSE; generalized convulsive status epilepticus)の定義には次の2つがあるそうです。

 1) 一般的な定義("operational definition"):   5分以上持続する痙攣, もしくは 意識の十分な回復がないまま発生する別個の痙攣が2回以上発生すること

 2) 対てんかん国際連盟(ILAE; International League Against Epilepsy):  痙攣に関与する機構, もしくは 異常に長い痙攣の原因となる機構 のいずれかの欠陥によるもの。痙攣の型や持続時間によっては神経死・神経傷害・神経ネットワーク変性を含む長期的合併症を起こしうるもの」と定義され、"t1", "t2"と呼ばれる時間的概念を取り入れている。

  • t1・・・現在発生している痙攣が異常に長く, 自然停止する可能性が無い時間のことであり、この時点でてんかん重積への治療を開始すべきである。具体的には、5分経過した時点で"t1"である。
  • t2・・・現在発生している痙攣が長期的合併症を起こす重大なリスクを来す時点より後の時間のこと。具体的には、30分経過した時点で"t2"である

 

 

(2) 治療

 抗痙攣薬投与と同時並行的に、補助的治療を直ちに行う必要があります。治療の目標は主に1) 気道・呼吸・循環の安定化, 2) 痙攣の頓挫, 3) てんかん重積の致死的原因の診断と治療, の3つです。1)の『気道・呼吸・循環の安定化』を大雑把にまとめると、様々な参考書で「さるもちょうしんき(酸素投与, ルート[末梢静脈路], モニター[心電図・血圧・SpO2], 超音波, 十二誘導心電図, 胸部X線)」と略称されるような一連の処置です(超音波の要否は循環動態次第かと思われますが…)。嘔吐・誤嚥・舌根沈下などによって気道確保(や自発呼吸)が怪しくなったら、気管挿管が必要となるでしょう(SpO2だけを参考にしないように注意しましょう)

 あと、3)の『原因の診断』の一環として最初に検査すべき項目として、

  • 血糖:  採血のみならず、簡易血糖測定器の使用も推奨
  • 血中電解質濃度:  Na, K, Clに加えて、Ca, Mg, リン酸も
  • 肝機能
  • 血算
  • 抗痙攣薬血中濃度:  もし内服している患者ならば
  • 尿or血中毒物検査
  • 妊娠可能年齢女性なら、尿or血液妊娠検査
  • 必要に応じて、血中乳酸濃度, 血中ビタミンB6濃度, 血中トロポニン検査も追加

が挙げられています。

 では、今回の本題である2)『痙攣の頓挫』- 即ち、抗痙攣薬投与について紹介して行きます。もし低血糖が判明した場合はチアミン 100 mgと50%ブドウ糖 50 mLを静注します。最初に投与すべき抗痙攣薬はベンゾジアゼピンであり、具体的には以下のような薬剤が選択されます。

 

① 病院治療

 いずれも、医療機関外で発症した時(即ち、末梢静脈路確保がすぐにできない環境で)に使用可能な手段です。もしかしたらドクターヘリ・ドクターカーで現場まで出動した時に応用できるのかもしれません。

 

② 病院内での治療

1. 初期治療(first therapy)ベンゾジアゼピン

 最初にロラゼパム 0.1 mg/kgを2 mg/min.の速度でIVし, 効果を見極める為に投与後は最長5分待機します。その後も痙攣が持続している場合は、同じ用量を同じ速度で投与します。ロラゼパムが無い場合、ジアゼパム(セルシン®︎) 0.15 mg/kg IV(1回の最大投与量は10 mgまで)も使用可能です。

 これらの薬剤の投与によって痙攣が収束した後でも、痙攣の制御をつける為に非ベンゾジアゼピン系の抗痙攣薬のloading doseが必要となります。

2. その後の治療(second therapy) − 抗痙攣薬

 ベンゾジアゼピン系の作用時間が短いということもあり、ベンゾジアゼピン系投与後であっても、てんかん重積の再発はかなり多いですよって、非ベンゾジアゼピン抗痙攣薬の投与も必要となります。具体的には、以下のような薬剤が選択されます。

  • レベチラセタム(イーケプラ®︎):  loading doseとして、60 mg/kg(最大4,500 mgまで)を15分かけ投与。
  • ホスフェニトイン(ホストイン®︎):  loading doseとして、フェニトインに換算して(PE; phenytoin equivalents)20 mg/kgを100~150 mg/min.の速度で投与。これでも痙攣が持続している場合、laoading dose投与から10分後に5~10 mg PE/kgを追加投与。最大で合計30 mg/kgまで投与可能。
  • フェニトイン(アレビアチン®︎):  loading doseとして、20 mg/kgを25~50 mg/min.の速度で投与。これでも痙攣が持続している場合、loading dose投与から10分後に5~10 mg/kgを追加投与。最大で合計 30mg/kgまで投与可能。

上記1.~2.の治療は、全て10~20分以内に完了するのが理想的とされています。

3. 難治性GCSE

 3. – I:  持続的IV療法について

 ベンゾジアゼピン系投与を2回行い, 非ベンゾジアゼピン系抗痙攣薬の投与を1~2回投与したにも関わらず痙攣が30分持続している場合は、ミダゾラム, プロポフォール等の持続的 IVが必要となります。また、気管挿管・人工呼吸器管理や専門医へのコンサルテーション, ICUへの移動と持続的脳波モニタリングが必要となります持続的IV薬の具体的な投与量は以下の通りです。

  • ミダゾラム:  0.2 mg/kgを2 mg/min.の速度でボーラス投与。痙攣が止まるまで、5分ごとにボーラス量を追加投与する。その後、持続投与を0.1 mg/kg/hr.で開始(最大 3 mg/kg/hr.まで)。 45~60分以内に効果が出なければ、プロポフォール or ペントバルビタールへ変更。
  • プロポフォール(ディプリバン®︎)loading doseは1~2 mg/kgを5分かけ投与。痙攣が止まるまで、0.5~2 mg/kgを繰り返し投与(最大10 mg/kgまで)。その後、持続投与は1.2 mg/kg/hr.で開始し, 20~60分間で痙攣消失を目指す。
  • ペントバルビタール 日本国内ではもう静注製剤を製造していないそうです。最初は5 mg/kgを10分かけて投与。痙攣が持続している場合、5 mg/kgを再度ボーラス投与。 その後、持続投与は1 mg/kg/hr.で開始し, 痙攣が制御される or 脳波上burst supression波形が見られるまで、12時間ごとに0.5~1 mg/kg/hr.ずつ速度を調整する(最大5 mg/kg/hr.まで)。
  • ケタミン(ケタラール®︎):  loading doseは2 mg/kg。その後、脳波上の痙攣が制御されるまで1.5~10 mg/kg/hr.の範囲で持続投与速度を調整する。

ペントバルビタールと比べると、ミダゾラムプロポフォールは短時間の鎮静で痙攣重積の急速な改善が可能になるため、好まれる傾向があるそうです。なおペントバルビタールプロポフォールは循環抑制作用があるので、循環が不安定な患者には使えません。またプロポフォールは、高用量(速度が5 mg/kg/hr.<)の投与・長時間(48時間<)の投与・小児への投与がプロポフォール症候群と呼ばれる副作用(腎不全, 横紋筋融解症, 心不全などを呈する)を来すので注意が必要です。

※1: 難治性てんかん重積状態への薬物療法に関するsystematic reviewによると、

 持続的IV薬投与は一般的に、臨床・脳波上の痙攣抑制が得られた状態で24時間継続し, その後は12~24時間かけて減量されることが多いそうです。なおペントバルビタール半減期が長いので、減量する必要はありません(≒痙攣抑制が十分得られたら中止?)。

※2: 難治性てんかん重積状態への薬物療法に関するsystematic reviewによると、

  • 持続的IV薬投与の治療目標について『脳波上のbackgorund supression(大半でペントバルビタール使用)』は『臨床・脳波上の痙攣抑制(大半でミダゾラムorプロポフォール使用)』よりも、'breakthrough seizure'の可能性が低かった('background supression': 4% vs 『痙攣抑制』: 53%)。
  • 上記治療目標の合併症について:    'background supression'は、『痙攣抑制』よりも低血圧の可能性が有意に高かった('background supression': 76% vs 『痙攣抑制』: 29%)。
  • 死亡率について:  両群で48%と高かったが、治療目標による差は見られなかった。

 3. − Ⅱ:  長時間作用型抗痙攣薬について

 痙攣の制御と持続的IV薬の減量を達成する為に、上記の持続的IV薬と並行して, 長時間作用型の抗痙攣薬を1剤以上併用する必要があります。そして持続的IV薬を投与中 ないし 減量前に長時間作用型抗痙攣薬の血中濃度が高い治療域を維持しているのを確認することが極めて重要です頻用される長時間作用型抗痙攣薬には、以下のようなものが含まれます。

  • レベチラセタム
  • ホスフェニトイン, フェニトイン
  • バルプロ酸:  海外にはIV用製剤があるみたいです40 mg/kgのloading doseを10 mg/kg/min.の速度で投与(最大量は3,000 mgまで)。
  • フェノバルビタール(フェノバール®︎):  20 mg/kgを30~50 mg/min.の速度で投与。
  • ラコサミド(ビムパット®︎):  200~400 mg ボーラスIV。
  • トピラマート(トピナ®︎):  経鼻胃管から投与(最大1,600 mg/dayまで)
  • ペランパネル(フィコンパ®︎):  内服用製剤しかない。2~12 mg/dayで投与。

4. GCSE回復後の治療・精査について

 大半のGCSE患者では、全般性痙攣後10~20分以内に反応性の回復が見られるようになりますこの段階においても、緊密なmontoringが必要です。もし全般性痙攣収束後も意識回復が遅い場合、脳波のmonitoringを開始すべきとされます。また、初発の痙攣/てんかんてんかん重積状態として発症した患者に対しても、痙攣収束後直ちに脳波を測定すべきです(backgoroundの電気活動を調べる為)。なお、ベンゾジアゼピン拮抗薬であるフルマゼニル(アネキセート®︎)は投与すべきではありません(痙攣を再燃させるリスクがあるため)。

 頭部CT・MRIは、1) 初発の痙攣/てんかんてんかん重積状態として発症した患者, 2) てんかん重積を焦点発作で発症したと疑われる患者, または 3) 予想通りに回復しない患者において、痙攣が制御された後に撮影すべきとされています。

 腰椎穿刺の適応は、1) 中枢神経系感染症が疑われる場合, ないし 2) 悪性腫瘍の既往があり、中枢神経への転移/播種が疑われる場合 の2つです。但し、腰椎穿刺は頭蓋内占拠性病変が無いことを確認後に実施する必要があります