Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

COVID-19「2類相当から5類へ移行」の方針に思うこと。

 皆様こんばんは。現役救急医です。最近ニュースでは、かのCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)に関して、「現在『新型インフルエンザ等感染症』と同じ扱い, 即ち2類感染症とほぼ同等から、5類感染症へと『段階的に』変えていく」といった政府発表が話題になっています。

 2類相当から5類相当に変更することで、具体的に法制度上の扱いはどうなるのか等について、自分で調べてまとめようと思いましたが、忙しいのでそんな余裕がありません。しかしNHKの公式サイトで割と分かりやすい記事があったので、以下に掲示しておきます。

www3.nhk.or.jp

他に、宮城県の公式Twitterアカウントも分かりやすくまとめて下さっているので、こっちも参考にして頂きたいです。

まとめると、『2類→5類』により、

①COVID-19患者の入院調整に保健所といった行政が調整に入らなくなる:仮に開業医で「COVID-19であり, 尚且つ入院が必要な状態である」と診断された患者さんが居た場合、開業医は、「COVID-19患者の診療専用の病床に空きがあり, 尚且つスタッフの余裕がある」という病院が見つかるまで色々な病院に電話して紹介状を送付し続けなければなりません。下手したら、そうして医療機関を探している間に重症化していく可能性もあります。

②検査や治療の患者負担が3割になる:これまで国が全額負担していた医療費が、一部患者負担になります。大雑把な言い方ですが、医療費の患者側負担については、季節性インフルエンザや心筋梗塞, 脳卒中と同じになるのです。

③感染者や濃厚接触者に対する療養・隔離期間が指定されなくなる:入院が不要な感染者向けの療養施設(ホテルなど)は無くなります。感染者・濃厚接触者に対する隔離期間の勧告等が適用されなくなるので、こうした人たちが出勤・外出してくる可能性は上がります。

 こうした動きについては、Twitter上で医療従事者から様々な声が上がっていました(勝手に引用してしまいすみませんでした)。

 ぶっちゃけ私も、政治家や, 非医療従事者である一般市民の皆様に問いたいのです。

「本当にこのまま5類にしちゃって良いのですか?」

「2類から5類に変わることで受ける影響などを正確に把握していますか?」

「そもそも感染症対策の法体系・社会制度や, 医療提供態勢が今のままで良いと思いますか?」

と。

 COVID-19が日本国内で初確認され, パンデミックにもなって3年は経過しています。変異株が次々現れたとはいえ、この病原体の感染経路(呼吸器から出る飛沫等に乗って他の人にうつる)や病原性(急性期には人工呼吸器やECMOが必要になったり, 血栓症を併発したりする他、後遺症で脳卒中, 心血管系疾患リスク上昇や嗅覚障害, 認知機能低下等が報告されている)といった『素性』はだいぶ分かってきました。ワクチン接種により重症化リスクが低下することはデータで示されていますが、問題は感染力と, やはり病原性です。

 院内クラスターを含め様々なCOVID-19患者を診療してきましたが、あの感染力を侮ってはならないと思います。本当に、予想だにしない所から感染者が出たりしました。また、mRNAワクチン接種をきっちりやれば重症化リスクは確かに下がりますが、健常成人ですら回復後にも息切れ・嗅覚障害・咳嗽といった後遺症に悩まされ, 高齢者に関しては若年者よりも重症化しやすく, 後遺症も強くなりがち(認知機能・嚥下機能等の低下など)です。高齢者ならまだ分かりますが、比較的健常な若年者でもこうした後遺症を来し, 多くないにせよ健康な若年者・小児でも死亡例を出すような感染症の『素性』は、日本国民に十二分に理解されているのでしょうか?

 また、現在コロナワクチンは公費負担なので無料接種が可能ですが、今後5類感染症なったら、自己負担になるかもしれませんmRNAワクチンは上記にもあるように、結構高額です。発熱・筋肉痛といった副作用を理由に接種を躊躇う・延期する人は時折見掛けますが、金がかかることで更に接種を躊躇う要素が増えてしまいます。上記のような病原性にも関わらず、重症化予防策から遠ざかる国民が今後増えていくかもしれません。

 加えて、私が最も懸念し強調したいことが、「今の医療提供態勢のままで良いはずがない」ということです既に何度も報道されており, 私自身も経験していますが、様々な医療機関で患者・医療スタッフ間でCOVID-19感染が発生して診療機能が低下したり, そうでなくても病床が足りなくなったりして、COVID-19患者はまだしも, その他の急性疾患や外傷等の急患を収容する医療機関が見つからないという危機的状況が、この3年間に何度も繰り返されました。そもそもパンデミック前から日本の医療提供態勢には欠陥があり, 脆弱であったのですが、現場の医療従事者の努力でなんとか維持していました(その分、燃え尽きて辞めていったりする人も居た訳ですが)。そこへ、COVID-19という『とどめの一撃』(?)が来ただけのことです。こうした元来日本の医療が抱えてきた欠陥については、これまで何度もこのブログや私のYouTubeチャンネルで指摘してきました。

voiceofer.hatenablog.com

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youtu.be

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私は日本国民や政治家の皆様に今一度問いたいです。

「脆弱であることが露呈した日本の医療提供態勢を強化し, 持続可能にするような(間に合わせではなく)抜本的な政策は既に実行されていますか?」

と。

 私はこの3年間において、そのような対策・政策が実行されたとは思っていません(他の医療従事者も同意するでしょう)。政治家や国家・地方公務員が課題解決を先送りにして国民の議論・関心の励起や情報公開等を怠り, 国民も十分な関心を持たず, メディアも議論や関心の励起を怠った結果です今度こそ、今回の『2類相当を5類に』の話題が持ち上がった今こそ、真剣に議論して頂きたい。そうでないと、何も変わりません。