こんばんは。現役救急医です。今日は、オミクロン株に関する文献を新たに2個見つけたので、ちょっと紹介してみます。和訳が雑だったり, 割愛している部分があったりしますが、どうかご了承ください。
(1) オランダの2021年11月〜今年1月中旬のデータ(Eggink D, Andeweg SP. et al., Euro Surveill. 2022; 27(4):pii=2101196.)
① 目的や方法などについて
未接種でSARS-CoV-2感染既往が無い人, コロナワクチン2回接種が完了した人, ないし 感染既往がある人において、デルタ株(B.1.617.2)とオミクロン株(B.1.1.529)の分布を調べることで、オミクロン株の免疫回避の可能性について検証した。具体的には、オミクロン感染者とデルタ感染者の間で免疫状態を比較し, 次にオミクロン株とデルタ株に対するワクチンの相対的有効性を評価した。また同様にして、感染既往がデルタ株新規感染ないしオミクロン株新規感染に対して予防的に働くかどうかを解析した。
オランダ国内で実施された, 全国規模の地域内検査から採取した検体を分析している2施設のデータを使用した。オミクロン株にはデルタ株の多くには見られない変異がある("S gene target failure[SGTF]"と呼ばれる)ので、それが一定以上の基準(SGTFと, 'ORF1ab'・'N target'という遺伝子の'quantification cycle[Cq]'が32以上)を満たす症例を解析対象に含めた。
今回対象となった, ランダムに選択された検体のうち、オミクロン株が確認されたのは329症例中325例(98.8%)だった。
これらの症例(検査結果)は、全国規模のSARS-CoV-2症例データベースに登録されたワクチン接種状況に関するデータと紐付けされた。参加者の状態については以下のように定義されている:
- 2回接種完了: 発症の14日以上前にmRNAワクチン(ファイザー製とモデルナ製の2種)・ウイルスベクターワクチン(アストラゼネカ製)2回目接種済, 或いは, 発症の28日以上前にヤンセン製ワクチン(ウイルスベクターワクチン)1回接種済
- 未接種: コロナワクチン接種歴なし
- 感染既往あり: 今回陽性となる少なくとも8週間前にPCR or 抗原検査で陽性
なおこの研究で12歳未満の小児は対象外となっている。
感染者において、感染既往無しで未接種の症例("naiive"), 感染既往無しで2回接種完了の症例, 感染既往ありの未接種の症例の間で、オミクロン株の割合を比較した。なお、感染既往ありの2回接種完了の症例は数が少なかったので、今回は対象外とされた。免疫状態とオミクロン株の間の関連性を推定する為に、ロジスティック解析という方法を用いた。オミクロン株とデルタ株の免疫回避能力が同等だった場合、odds ratio(OR)が1になる(=ワクチン接種済or感染既往ありの人と, naiiveの人の間でオミクロン株の割合が同等となる)。
② 結果
2021年11/22~2022年1/19の間に174,349個のPCR陽性検体が分析され、今回の解析対象となった。オミクロン株はそのうち80,615症例を占めた(36.2%); オミクロン株の割合は12月初頭から急速に増加した(下のグラフ)。
オミクロン株症例は若く, 旅行歴が多かった。2回接種完了は
- オミクロン株症例では53,291例(66.1%)
- 非オミクロン株症例では57,674例(61.5%)
であり、感染既往は
- オミクロン症例では5,253例(6.5%)
- 非オミクロン症例では1,295例(1.4%)
だった。調整後OR(AOR; adjusted OR)は、
- 2回接種完了とオミクロンの関連性のAOR: 3.6 (95%confidence interval[CI; 信頼区間]: 3.4~3.7)
- 感染既往とオミクロンの関連性のAOR: 4.2 (95%CI: 3.8~4.7)
だった。
年齢集団に分類した2回接種完了とオミクロンの関連性のAORは
- 12~29歳: 4.1 (95%CI: 3.9~4.4)
- 30~59歳: 3.2 (95%CI: 3.0~3.4)
- 60歳以上: 2.8 (95%CI: 2.3~3.2)
であり、感染既往とオミクロンの関連性のAORは
- 12~29歳: 3.7 (95%CI: 3.2~4.3)
- 30~59歳: 4.8 (95%CI: 4.0~5.7)
- 60歳以上: 6.6 (95%CI: 3.5~13.0)
だった。
③ 考察
今回の結果は、デルタ株と比較すると, オミクロン株感染に対する2回接種の予防効果は大幅に減少していることを示唆している。これは「回復者or2回接種完了者の血清を用いた試験管内の実験で、従来型SARS-CoV-2と比較すると, オミクロン株に対しては中和活性が30~40倍低下した」という知見と一致する。「デルタ株と比較すると、オミクロン株に対する2回接種完了後ワクチン有効性は顕著に低下していた」と報告する研究は複数存在する。なおブースター接種後にオミクロン株感染に対するワクチンの有効性は上昇したものの、デルタ株への有効性と比較したら低かった。オミクロン株による重症COVID-19に対してブースター接種が有効性を持つことを示す研究はあるものの、この研究ではデルタ株による重症COVID-19に対する有効性と比べると低いことも示されている。
今回の研究では、naiive症例と比較して、感染既往のある人では, デルタ株感染リスクよりもオミクロン株感染リスクの方が高いことが示されている。これは、他の変異株による感染既往は、デルタ株に対する予防効果と比較してオミクロン株に対する予防効果が低いことを示唆している。
高齢な年齢集団では2回接種完了のORが低いと判明しており、これはオミクロン株とデルタ株で比べたワクチン有効性の差が加齢とともに低下したことを示唆している。
オミクロン株感染では重症度が低いことを示唆する研究は複数存在する。2回目接種完了から25週間以上の時点でのオミクロン株による入院に対するワクチン有効性は約50%であり, 接種後2~9週間以内でのオミクロン株による入院に対するブースター接種の有効性は90%にまで増加した。デルタ株と比べてオミクロン株の重症度が低いとはいえ、更なる手段が講じられない場合は、高い感染力が入院率増加につながるであろう。
(2) ノルウェーの2021年11月〜今年1月のデータ(Venti L, Boas H. et al., Euro Surveill. 2022;27(4):pii=2200077)
① 研究の背景や方法など
ノルウェー国内では、オミクロン株の亜系BA.1に感染した症例が初めて報告された(2021年11/26の集会に伴うアウトブレイク後の調査で)。それ以来、検査が盛んに実施され, 2022年1月初頭時点で、毎週の変異株screeningのオミクロン株の割合は49~67%となった。2021年12月末には流行している変異株の大半がオミクロン株となった(Figure 1)。
オミクロン株の入院リスクを推計し, デルタ株のそれと比較する為に、'Beredt C19'と呼ばれるデータベースから抽出した個人レベルのデータを使用した。他に、入院したオミクロン症例とデルタ症例の入院期間(LoS; lengh of hospital stay)と, 集中治療室(ICU; intensive care unit)入室リスクの推計値を比較した。
② 被験者や結果について
2021年12/6~2022年1/9の間に陽性となったCOVID-19症例を解析した。'Beredt C19'からは2022年12/20にデータを抽出した。同期間に報告された158,561例のうち、"national identity number"(日本で言うマイナンバー, 米国で言う社会保障番号か?)が付いていたのは155,388例だった。この155,388例のうち、変異株screeningが行われたのは91,722例であった。
今回はこの91,722例へ評価を行った。変異株screeningを受けた人の割合は、非入院症例(59%)よりも入院症例(73%)で多かった。入院となった前例の割合が少ないこと, 入院症例へのscreeningは変異株への曝露に依存しいていないことから、非入院症例vs入院症例間のscreeningを受けた人の割合の差は推計にほとんど影響しないと考えられる。
今回、オミクロン株とデルタ株に感染した症例のみを対象にした(第1週に報告されたBA.2症例全員242例は対象外)。主なoutcomeは、COVID-19が陽性となる前2日以内, 及び 陽性となった後28日以内の入院であった。バイアスを防ぐ為に、COVID-19以外の理由で or 入院理由が不明な症例301例は対象外とした。
全体で、オミクロン症例39,524例(43%)とデルタ症例51,481例(57%)が対象となった。最後にワクチンを接種されてから陽性が判明するまでの期間の中央値は、
- 陽性判明の180日以上前に2回目接種を完了した人: 201日
- ブースター接種後の人: 22日
だった。
入院したのは全体で、オミクロン症例: 91名(0.2%), デルタ症例: 552名(1.1%)だった。
階層化Cox比例ハザード回帰という方法を用いて、デルタ株感染とオミクロン株感染で比較した入院リスク(aHR; adjusted hazard ratio)を推計した。デルタ株と比較すると、オミクロン株は合計73%の入院リスク減少と関連していた(aHR: 0.27; 95%CI: 0.20~0.36)。
居住地や検体採取日, 及び 年齢集団・性別・出生地・基礎疾患・ワクチン接種状況により分類した、入院リスクに関するsubgroup解析をTable 2に示す。症例数や入院が少ない一部の集団や, 一部のワクチン接種状況に関するsubgroupという例外を除くと、aHRは同様の関連性(=オミクロンの入院リスク減少)を示していた。また、ワクチン接種状況と, 変異株・年齢集団・基礎疾患の間の相互作用も認められた。これらの相互作用を主要な解析に含まないことにして、これらをワクチン接種状況で分類したsubgroup解析で別個に解析することにした。このsubgroup解析にて、デルタ株と比較したオミクロン株の入院リスク減少は、未接種症例よりも2回接種完了症例で小さかった(オミクロン株: 66% vs デルタ株: 93%)。ブースター接種済みの人では、未接種症例と比較した入院リスク減少はデルタ株(88%)とオミクロン株(86%)で同等だった。しかしながらオミクロン症例では、未接種と比較して、2回接種が途中の人と, 2回接種完了の人では有意なリスク減少を認めなかった。
Figure 2は、10日間平均症例入院率の時間的推移を示すものである。このグラフに示されているように、早期における入院率低下は現在進行中のブースター接種に相当する。12月末〜今年1月初頭(オミクロン株がデルタ株を超えた時期)で更なる低下が見られ、これは、人口レベルでの効果が研究コホートで見られた減少と同等であることを示している。
フォローアップ期間終了時、
- オミクロン感染例91例中10例(11%)
- デルタ株感染例552例中80例(14%)
が入院中だった。LoS中央値は、
- オミクロン患者: 2.8日
- デルタ患者: 6.5日
だった。ICUに入室したのは
- オミクロン患者: 7名(7.7%)
- デルタ患者: 135名(24%)
だった。
年齢・性別・ワクチン接種状況・リスクファクターの数により分類したCox比例ハザード回帰を用いて、デルタ患者と比較したオミクロン患者の退院のaHRと, IUC入室のリスクを計算した。デルタ患者と比較したオミクロン患者の退院のaHRは1.44(95%CI: 0.99~2.07)だった。生存データが指数関数分布であると仮定すると、aHR=1.44とはLoSが31%短いことを現す(95%CI: 1%長い〜52%短縮)。デルタ患者と比較したオミクロン患者のICU入室リスクのaHRは0.51だった(95%CI: 0.20~1.29)。
死亡が報告されたのは、
- オミクロン症例: 39,524例中、10例(COVID-19関連死はこの中の9名)
- デルタ症例: 51,481例中、92例(COVID-19関連死はこの中の80名)
だった。
③ 考察
オミクロン株(の亜系BA.1)に感染したCOVID-19症例は、デルタ株感染例と比較すると, 73%の入院リスク低下と関連していることが判明した。この知見は、オミクロン株感染者が、デルタ株感染者と比較すると重症化リスクが低いとする、最近増加中のevidenceに一致するものである。デンマーク, 英国, 米国, カナダからの報告によると、入院リスクは36~66%低下していると推定されている。今回のLoSとICU入室リスクに関する予備的なデータは、デルタ患者よりもオミクロン患者の経過が軽症である可能性も示している。
Subgroup解析では、2回接種を完了した症例のワクチンの予防効果の推計値が、デルタ株と比較すると, オミクロン株で低いことが示された。1回目ないし2回目接種が完了した他の集団では、オミクロン症例の推計値が結論を出すには不確定的であった。ブースター接種の有効性は、未接種症例と比較した場合, オミクロン症例とデルタ症例で同程度の入院リスク低下と関連していた。これらの知見は英国からの報告と一致する。
これらの報告をまとめると、1) オミクロン株はデルタ株ほど重症化しないけれども, 2) オミクロン株に対するワクチン2回接種の有効性はデルタ株ほど高くない, 3) 他方、ブースター接種により、オミクロン株に対する免疫はデルタ株に対するそれと同じくらいになるかもしれない, ということでしょうか。