Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

Johnson & Johnson製コロナワクチン有効性の解析

 こんばんは。現役救急医です。今回は、日本で採用されていないコロナワクチンに関する論文を発見したので、それを紹介します。今回の参考文献は、2021年11/2に発表された"Analysis of the Effectiveness of the Ad26.COV2.S Adenociral Vector Vaccine for Preventing COVID-19. "(Corchado-Garcia J., Zemmour D. et al. JAMA Network Open. 2021;4(11):e2132540)です。

 

(1) Introduction

 Ad26.COV2.Sコロナワクチン(Johnson & Johnson・Janssen製)はSARS-CoV-2スパイクタンパク質を持つ複製不能アデノウイルス26ベクターであり、単回接種される。最近の第3相臨床試験では有効性が66.9%(95%CI 59~73.4)であり, 安全性も十分であることが証明されている。このワクチンは2021年2/27に米国食品医薬品局の緊急使用承認を受け、これまでに米国内で2100万回以上が接種されている。

 過去の研究では、電子医療記録(electronic health record; EHR)システムのdeep neural netowerkを、機械による多くの情報量の精選を行う為に使用した。こうした技術の発展によって、mRNAワクチン2種の現実世界における有効性と安全性の迅速な評価や, Ad26.COV2Sワクチン接種後の患者における脳静脈洞血栓症の発症率の調査が可能となった。今回、Mayo ClinicとMayo Clinic Health Systemの2021年2/27~7/22の間のEHRデータを使用して、Ad26.COV2.Sワクチン(以下、J&J製ワクチン)の有効性評価を行った。

 

(2) Method

① Study Design

 この研究は、2021年2/27~7/22の間にMayo Clinicとその附属病院でSARS-CoV-2感染を疑われてPCR検査を受けた人に対する、有効性比較研究である。この研究は、J&J製ワクチンが使用されている州のみ(アリゾナ州, アイオワ州, ミネソタ州, フロリダ州, ウィスコンシン州)で実施した

② 参加者について

 この研究には、以下の基準に合致する患者が含まれた

  • 2021年2/27~7/22の間に少なくとも1回はSARS-CoV-2 PCR検査を受けた
  • 18歳以上
  • J&J製ワクチンを接種された患者が少なくとも10名居る地域に住んでいる

感染率に影響するバイアスを制御する為に、居住地とPCRを受けた人数に基づいたmatchingが用いられた。

 以下の条件に該当する人は除外された。

  • ワクチン接種前, もしくは 2021年2/27より前にPCRSARS-CoV-2陽性となった人
  • データ収集最終日にワクチン接種を受けた人
  • mRNA-1273 或いは BNT162b2ワクチンを接種された人
  • ファイル内に臨床研究への参加を承諾する書類が無い人

これらの参加可能基準及び除外基準を適用した後、8,889名の被接種者230,790名の未接種者が研究に含まれることになった(Figure 1A)

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Figure 1: (A)Ad26.COV2.Sワクチン有効性評価の概要, (B)被接種者と未接種者間のCOVID-19重症度比較の概要

③ 有効性の解析

 SARS-CoV-2感染の主な危険因子(居住地, 人口統計学上の特徴, 2021月2/27以前の陰性となったPCR検査の回数)を考慮に入れて, 被接種者コホートと類似した未接種者コホートを構築するために、1:10の比率でmatchingを行った。つまり、被接種者コホート8,889名内の各1名を、未接種コホート内の10名とmatchさせた。

 ワクチン有効性は、被接種者コホートと未接種者コホートPCR検査結果の陽性率を比較することで評価した。この研究に参加した期日(第0日はそれぞれ、

  • 被接種者:  ワクチンを接種された期日
  • 未接種者:  matchされた被接種者がワクチンを接種された期日

と定義された。

 被接種者と未接種者の間で、SARS-CoV-2感染の累積発生率を比較した。累積発生率とは、その時点以前にて、特定のoutcome(ここではSARS-CoV-2感染)を経験している患者の割合の推定値である。ここでは、第1日〜14日の間の累積発生率を対象にしている。

 被接種者コホートと未接種者コホートの間で、SARS-CoV-2陽性のincidence rate ratio(IRR)を計算した。IRRは被接種者コホートの発症率未接種者コホートの発症率で割ることで求めた。他の指標の定義や求め方は以下の通り。

  • 有効性(1-IRR)x100[%]で求めた。
  • At-risk person-days:  各個人がまだSARS-CoV-2陽性となっていないor死亡していない期間の日数。
  • 発症率:  研究対象期間中にSARS-CoV-2陽性となった患者数を, 同じ期間へ寄与したat-risk person-daysの合計で割ったもの

この研究では、ワクチン接種後1日目, 8日目, 15日目の発症率を対象にした。

④ COVID-19重症度分析

 SARS-CoV-2陽性未接種者コホートを構築する為、1:10の比率で割り付けた。患者は人口統計学上の特徴と併存疾患に基づいてmatchさせた。つまり、ワクチン接種後にSARS-CoV-2陽性となった60名内の各1名と, 未接種でSARS-CoV-2陽性となった2,236名中の600名とmatchさせた。

 被接種者コホートと未接種者コホート双方の各SARS-CoV-2陽性患者において、第0日目は最初にPCR陽性となった期日と定義された。最初にPCR陽性となった日から少なくとも14日間フォローアップが行われた患者へ解析を行った。以下の指標を評価した:

  • 14日間における入院率PCR陽性判明後2週間に入院となった患者数
  • 14日間におけるICU入室率PCR陽性判明後2週間にICUへ入室した患者数
  • 14日間における死亡率PCR陽性判明後2週間に死亡した患者数

各outcomeに対して、relative rate(被接種者コホートの比率を未接種者コホートの比率で割ったもの)と, その95%信頼区域(CI)等を求めた。

 

(3) Result

SARS-CoV-2感染予防効果について

 2021年2/27~7/22の間、米国ではワクチン接種キャンペーンによる感染者数減少と, 新規変異株の拡大が発生していた。2021年5月までアルファ株が多く認められたが、6~7月にはデルタ株に置換していた合計8,889名がMayo Clinicネットワーク内でJ&J製ワクチンを接種された(Figure 1A)。このワクチンのSARS-CoV-2感染に対する有効性評価の為、88,898名の未接種者コホートを特定した。被接種者コホートと未接種者コホート間で性別・人種・年齢は均等だった。

 研究期間中、被接種者8,889名中60名(0.7%)がSARS-CoV-2陽性で, 未接種者88,898名中2,236名(2.5%)がSARS-CoV-2陽性となった(Figure 2A)SARS-CoV-2検査陽性発生率は、

であり、SARS-CoV-2感染のIRRは0.26(95%CI 0.20~0.34)となり, 合計のワクチン有効性は73.6%(95%CI 65.9~79.9)であり, SARS-CoV-2感染は3.73倍減少した(Figure 2A)

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Figure 2: (A)ワクチン接種直後からのSARS-CoV-2感染累積発生率, (B)接種14日以降のSARS-CoV-2感染累積発生率

 次に、研究への登録から15日後〜2021年7/22(研究期間終了)の間の新規SARS-CoV-2感染者数を解析した(Figure 2B)少なくとも2週間フォローアップされた被

接種者8,698名の中でワクチン接種後15日以降にSARS-CoV-2陽性となったのは41名(0.5%)であったのに対し、未接種者86,495名の中でSARS-CoV-2陽性となったのは1,561名8(1.8%)だった(3.91倍の減少)。ワクチン接種後2週間以降に発症したSARS-CoV-2感染症に対する有効性は74.2%(95%CI 64.9~81.6)だった(Figure 2B)この結果は第1日目からの有効性に類似しており、予想よりも早く免疫反応が生じる可能性を示している。

 ワクチン接種後の感染は、接種直後にSARS-CoV-2に曝露された場合, もしくは ワクチンが免疫を形成できなかった場合に起こるこの2シナリオを区別する為に、被接種者コホートと未接種者コホートでワクチン接種〜最初のPCR検査陽性までの時間分布を解析した(Figure 3A)。ワクチン接種後からPCR陽性までの時間の中央値は、

と類似しており、感染者数は

だった。これらの結果は、被接種者コホートの感染例の大半は、被接種者が免疫を形成できるようになる前にウイルスへ曝露されたせいではない可能性を示唆している。加えて、Figure 3Bでは、被接種者での感染例発生数が、デルタ株の頻度増加と並行しているように見える

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Figure 3: (A)ワクチン接種から初回PCR陽性までの期間, (B)PCR陽性判明期日, の時間的分布

② ワクチン接種後の重症COVID-19の比率

 SARS-CoV-2検査陽性となった被接種者60名と, SARS-CoV-2検査陽性となった未接種者2,236名にて、入院患者数・ICU入室者数・死者数を解析した被接種者にて、重症化oddsの減少が示された(odds ratio[OR] 0.33 [95%CI 0.19~0.65]; P<0.001)Subgroup analysisでは、被接種者において

  • 入院oddsの減少:  OR 0.32 (95%CI 0.18~0.66); P=2.0x10-4
  • ICU入室oddsの減少:  OR 0.00 (95%CI 0.00~1.43); P=0.01

が見られたが、死亡oddsは減少しなかった(OR 0.83 [95%CI 0.26~5.20]; P>0.99。致死的イベントの数は両群で低かった。

  • 被接種者:  8,888名中1名
  • 未接種者:  88,886名中12名

 現在ワクチン接種は高齢者と危険因子を有する人へ優先して行われており、未接種者コホート(特に若年で健康な人)との比較にバイアスを生じるこうしたバイアスを制御する為に、未接種者コホートの1名と, ワクチン接種後にSARS-CoV-2に感染した被接種者60名をmatchさせた(Figure 1B)コホートは人口統計学上の特徴や, 重症COVID-19危険因子に基づいてmatchさせた。全臨床的変量に関して、両コホート間で有意差は無かった。次に、コホートで14日目の入院・ICU入室・死亡数を比較した。これらoutcomeの複合, ないし個別の解析で有意差は認めなかったしかし、COVID-19に罹患した被接種者で十分なフォローアップ期間を伴っていたのは41名のみであった。結論として、今回の結果はJ&J製ワクチンによるCOVID-19重症度低減を示唆しているものの、予防効果をより正確に推定する為に、より多数の患者数とイベント数や, 更なる解析が必要となるだろう。

 

(4) Discussion

 今回、8,000名超の被接種者の医療記録の解析によって、J&J製ワクチンの有効性を評価した。合計した有効性は73.6%, 14日後の有効性は74.2%であり、COVID-19新規症例の減少を認めた。今回の結果は、アルファ株及びデルタ株が多数を占めるコホートにおけるワクチンの有効性を強調している。

 ワクチン被接種者での感染は発生したが、0.7%と稀だった。COVID-19症例の急増は2021年6~7月のデルタ株出現と関連しているように見える。しかしながらCOVID-19症例数が少なく, またデルタ株の出現はごく最近なので、断定が出来ない。

 今回の解析は、特に入院といった重症症例の減少を証明した。しかしながら、J&J製ワクチン接種後にSARS-CoV-2陽性となったのは60名のみである為、この研究は死亡率を評価するには弱い。J&J製ワクチン接種後にSARS-CoV-2へ感染した人における入院率・ICU入室率・死亡率の評価は今後も継続予定である。