Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

【医療訴訟】静岡県で研修医にも賠償を命じる判決が出た件について

 こんばんは。現役救急医です。本当は悠長にブログだのをやっている暇はないのですが、どうしても懸念を表明しないと気が済まない案件があって更新します。

 去る8/31、静岡地裁は、2015年に消化管穿孔による腹膜炎で82歳女性が死亡した事に関して遺族が賠償を求めた訴訟について、病院側と担当医に2,000万円を超える賠償金の支払いを命じる判決を下しました。

事の経緯は上記の静岡新聞社のweb記事を参照いただきたいのですが、死亡した女性患者は2015年某日に救急外来を受診し, その時診察を担当した初期研修医(1年目)はCT検査等を行った結果、「帰宅して経過観察」との指示を出しました。しかしその後も女性の症状は改善せず, 悪化も見られたので翌日に同病院を受診した結果、消化管穿孔に伴う腹膜炎と診断されました。緊急手術が行われたのですが、不幸にも翌日に死亡したとのことです。

 (いくら高齢とはいえ)つい先日まで元気にしていた家族が急に亡くなるなんて、ご家族にとってはこの上ない悲劇であることはいうまでもないでしょう。そして、死因等に納得がいかない場合、因果関係や責任を納得がいくまで追求したくなる心理も理解はできます。

 報道だけでは事の経緯が分からないとはいえ、私もこの件の詳細について引っ掛かる点が幾つかあります。加えて、今回のような判決が必ずしも社会へ何らかのpositiveな影響を及ぼすとは言えません。寧ろ私は、negativeな影響を及ぼさないか懸念しているのです。詳細は、以下動画にて論述しております。いつもより長い動画ですが、ご視聴頂けると幸いです。

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 いずれにせよ、患者・家族側と医療従事者・病院側の間の医療『過誤』に関する紛争が裁判という形の『自力救済』による解決のみに依存し、『不毛な』結果により医療側, 或いは 患者・家族側が経済的・心理的・社会的打撃を被った or 被り得る場合の救済策を国家が全く用意していない現状は、容認できるものでないと私は思います。