Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

COVID-19『潜伏期間』の推定

 こんばんは。現役救急医です。先日、空き時間に国立感染症研究所のHPを見ていたら、COVID-19に関する最新の論文を発表しており、その中から興味深い論文を見つけたので紹介します。今回は今年8/28にClinical Infectious Diseaseへ発表された論文(Xin H, L Yu. et al., Estimating the latent period of coronavirus disease 2019. ciab 746)を参考にしています。

(1) Introduction

 "Latent priod"とは感染症「感染してから感染性を持つまでの期間」を意味する。他方、"incubation period"とは「感染してから臨床症状が出現するまでの期間」を意味している。

 Latent periodは、「感染してから呼吸器検体で検出可能なウイルスを認めるまでの間隔」で代用される場合が多い。

 今回の研究は、COVID-19のlatent periodの分布を推計し, incubation periodの分布と比較することを目標としている。

(2) Methods

 中国国内8省で2020年7/20〜2020年4/2の間に発生したout breakの症候性 及び 無症候性症例に関する情報を収集した。Latent period分布推計のために、暴露した最も早い期日と最も遅い期日のデータを抽出した。初回陽性となる前の時期において最後のPCR陰性となった検体の採取日, 及び 最初にPCRで陽性となった検体の採取日を含む検査結果に関するデータを取得することで、検出可能なウイルス排出が始まった期間を推定したまたincubation period分布推計のために、症候性感染例の発症日に関する情報を取得した。

(3) Result

 177症例のデータを解析した。80.8%(143名)は症候性, 19.2%(34名)は無症候性だった。48.0%(85名)が男性だった。年齢中央値は45歳だった。

 症例のlatent period推計の平均値は5.5日(95%CI: 5.1~5.9)であり、95%の症例は感染10.6日後(95%CI: 9.6~11.6)以前にウイルス排出を開始していた

 症候性感染例におけるlatent periodは5.5日(95%CI: 5.1~6.0)と推定され、全症例のlatent period推計の平均値と一致していた。症候性感染例のlatent period平均値は、incubation period平均値(6.9日, 95%CI: 6.3~7.5)よりも1.4日短かった症候性感染例におけるlatent periodの95percentile推定値は、感染後10.6日(95%CI: 8.6~11.7)だった。症候性感染例では、latent period平均値は5.2日(95%CI: 4.3~6.1)だった

(4) Disucussion

 COVID-19のlatente periodは5.5日と推計された。Latent period平均値はincubation period平均値より1.4日短くCOVID-19症状出現前の感染に関する知見と一致した隔離期間は地域によって、14日間だったり, 中には21~28日間だったりとバラバラである。隔離期間中ないし終了時に検査を実施する場合、隔離期間を決定する際にはlatent periodを用いることがより適切である可能性がある。また今回の結果は、12日目の検査が、隔離開始前に感染した人の95%超を検知可能であることを示している。

 症状監視を伴う7日間の隔離と5~6日目のPCR検査は、14日間の症状監視を伴う隔離と同様の影響があるとする研究があり, また米国では、ウイルスに暴露した人が無症状である場合、検査をせずに隔離を10日間で終了可能, もしくは 検査陰性であれば隔離を7日間で終了可能だが、14日目までは連日の症状監視と非薬理学的介入を継続すべきとされている。しかしながら、隔離期間短縮は、現行の14日間隔離と比較すると、隔離解除後感染のriskを増加させる可能性がある。従って、パンデミックの規模や公衆衛生への負担, 濃厚接触者追跡・隔離の順守, 小さいものの0ではない隔離終了後の感染のバランスを取った隔離期間の短縮は、選択肢の1つとなる可能性がある。