Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

【救急医の一斉退職問題】失敗の事例を検証せよ

 最近、Twitterなどで大津市民病院の救急医一斉退職のニュースが話題になっていました。


救急科以外で蘇生や重症管理に慣れているのは(私の勝手なイメージですが)循環器内科医, 麻酔科医, 心臓血管外科医, (一部の)腹部外科医, 脳神経外科医という感じでどうしても限られてしますし、自分の専門領域以外の疾患の管理・診断までやれというのも無理があります。外傷・心停止・ショック等の重症患者の蘇生, そして原因の鑑別診断を行うスキルは救急科独自のスキルなのです。

 上記の記事をはじめ、マスコミの報道からは大量離職の背景に何があったのか不明です。救急科医が待遇に不満を抱いたのかもしれませんし、救急科の業務は心理的・肉体的に負担が大きい(e.g. 他科が「うちじゃない」・「うちじゃできない」と言った患者の入院管理, 救急外来での重症患者の蘇生[中にはそのまま死亡する人もいる], 社会的背景に問題のある患者への対応 etc.)ので、燃え尽きて離職ということもあり得ます。

 また、過去のニュースを見てみると、救急科以外にも産科や小児科のような診療科医師の離職も報道されています。要は、今回以前にも同様の事例が過去にあったという事です。

 

これらの事例を検証し、「なぜ彼ら・彼女らは退職したのか」, 「原因となった要素を是正する為に、病院はどうすべきだったのか」等を分析する事で問題点が判明したはずです。そして、検証した結果を地域全体ないし全国的に共有していれば、医師の労働環境や配置状況の改善等に繋がり、全国各地での医師一斉退職を繰り返すことはなかったはずです。

※ ↓偶然にも、同じ考えの方が私のTLにいらしたので、誠に勝手ながらツイートを共有させて下さい。

 アジア太平洋戦争中、日本海軍は米海軍空母部隊をおびき出し撃滅する筈だったミッドウェー海戦で、作戦に参加した空母4つ全てを失い、敵空母部隊へも打撃を与え損ねるという大敗北を喫しました。しかし、海軍は「皆十分に反省しているので、今更突っついて屍に鞭打つ必要はない」との理由で作戦戦訓研究会を行いませんでした。この作戦失敗の要因には1.連合艦隊司令長官 山本五十六は「米海軍部隊をミッドウェーに誘い出し、それを潰す」のが作戦の目的としていたのに、作戦に参加した第一機動部隊司令官は「ミッドウェー攻略が先で、米海軍部隊はその後にやって来る」と勝手に思い込んでいた, 2.その結果、索敵や敵機襲来への準備が不足していた, 3.そもそも日本海軍はレーダーの実用化や偵察機の開発, 暗号解読技術が遅れていた(逆に米軍は日本海軍の暗号解読に成功し、情報が筒抜けだった) 等のものが挙げられていますが、こうした要因にいち早く気付く/学習する努力すら怠ったまま日本は米国との戦争を継続。結果は言うまでも無いとは思いますが、レイテ沖海戦, マリアナ海戦etc.と日本軍は米軍に連敗を重ねたのです。

 各地で散発する医師一斉退職事例を『ミッドウェー海戦』と定義するならば、現状の我々はその『敗因』の分析が不十分という事になります。このまま、我々医療業界と日本社会は『敗戦』 ーつまり、医療崩壊ー へ向かうつもりなのでしょうか。いずれにせよ、現状維持のままでは決して良くない事は明白です。