Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

腹水検査について

 今日は当直明けで早帰りなので、腹水検査の項目やその結果の解釈について、"UpToDate"を参考としてまとめてみました。

 

(1) 外見について

 合併症のない肝硬変の腹水は黄色透明です。もしこれが混濁していた場合、特発性細菌感染を疑います。他にも、以下のような例があります。

  • 乳白色:  肝硬変の腹水にトリグリセリド(TG)が混ざっている。
  • ミルク様:  TGが大量に混ざっており、悪性腫瘍を疑う。
  • ピンク〜血性:  以下の2通りの可能性あり。

  1. "Traumatic tap"; 穿刺中は不均一な赤, ないし 透明な赤色を呈する。

   抗凝固剤を含まない採血管に入れたら凝固する。

  2. 腹腔内出血; 均一な赤色を呈する。肝硬変でこれが見られた場合、

   悪性腫瘍, もしくは 前回刺した場所からの出血 を疑う。

(2) 血性・腹水アルブミン濃度勾配(Serum-Ascite Albumin Gradient; SAAG)

 SAAGの求め方は次の通りです:  血清アルブミン濃度-腹水アルブミン濃度

  • SAAG≧1.1[g/dL]:  門脈圧亢進あり
  • SAAG<1.1[g/dL]:  門脈圧亢進ではない

(3) 細胞数

 腹水検体をEDTA(抗凝固剤)採血管に入れて検査部へ提出する。補正好中球数≧250/mm3なら抗菌薬治療を考慮する。なお、血性腹水の場合、以下のような補正が必要となる。

  • 補正白血球数:  赤血球数750ごとに白血球を1引く。
  • 補正好中球数:  赤血球数250ごとに好中球を1引く。

(4) Total Protein(TP)

  • TP≧2.5 or 3 g/dL:  滲出液
  • Cutoff値未満:  漏出液

 また<1 g/dLの場合は特発性細菌性腹膜炎のriskが高いとされています。

(5) Glucose

 腹水の糖が血糖を下回る場合、悪性腫瘍(腹膜播種), 細菌感染の可能性を考慮します。また、腹水の糖が計測不能の場合、消化管穿孔も疑うべきとされています。

(6) LDH

 腹水/血性LDHの値に基づき、以下のように考えます。

  • 0.4程度:  合併症のない肝硬変
  • 1.0程度:  特発性細菌性腹膜炎
  • >1.0:  感染 or 消化管穿孔 or 腫瘍

 

※補足1: 特発性細菌性腹膜炎と消化管穿孔の鑑別方法

 以下の基準を満たせば、腹膜炎でなく消化管穿孔の可能性あり。

1. 補正好中球数≧250/mm2

2. 以下のうち2項目

  • TP>1 g/dL
  • Glucose<50 mg/dL
  • LDH>血清の正常上限

(7) 培養検査

 腹水を培養に出す場合、嫌気ボトル・好気ボトルにそれぞれ10mLを分注します。

 なおGram染色に関しては、50mLの腹水を遠心しても感度が10%, 遠心しなければ7%と言われています。一方で、消化管穿孔の除外にGram染色が有用とされています。Gram染色をオーダーする場合は、シリンジ1本分と培養ボトルを提出します。

(8) アミラーゼ

 合併症のない肝硬変による腹水の場合、40 U/L程度になるとされています。一方、これより上昇(e.g. 2,000 U/L, 腹水/血清アミラーゼ比=6.0)している場合は、膵炎・膵癌等を考慮します。

(9)その他の項目について

 他に、次のような項目が参考となる場合もあります。

CEA: 腫瘍マーカー

② TG:  >200 mg/dLで乳び性と判断する

 

③ 細胞診

 腹膜播種のある患者のほぼ100%は腹水細胞診が陽性となる。一方で、悪性腫瘍関連腹水のある患者のうち約2/3にしか腹膜播種はない。その結果、悪性腹水検出目的での全体的な細胞診の感度は58~75%に留まる。

 

※補足2:  結核性腹膜炎の診断について

 腹水スメアの感度は0~2%。腹水培養は、1Lで行った場合に感度が62~83%となるが、通常培養検査に出す腹水検体量は50mLが上限である。

 他方、腹腔鏡検査で培養検体採取・生検を行った場合の感度は100%である。他に細胞数検査では単核球優位であることが一般的である。

 

【追伸】

 先日、ブログで「麒麟がどうこう」と私はぼやいていましたが、私の意見をより多くの人に知って頂きたいので、改めて動画にしました。もし良ければ、シェアや高評価などよろしくお願いします。