Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

中国製ワクチン接種後の中和抗体活性に関するデータ

 こんにちは。現役救急医です。昨日・今日とoffなのですが、専門医試験勉強の合間のネットサーフィンでまた興味深い論文を発見しました。以前、中国製の不活化コロナワクチンの有効性に関する論文を紹介しましたが、同じワクチンに関するタイの論文(Vacharathit V, Aiewsakun P. et al., CoronaVac indeces lower neutralising activity against variants of concern than natural infection. Lancet Infect Dis 2021; https://doi.org/10.1016/S1473-3099(21)00568-5 )を和訳してまとめてみます。

 

 タイでは不活化ウイルスコロナワクチンであるCoronaVac(中国のSinovac Biotech製)がワクチン接種プログラム向けの緊急使用に承認された。タイで流行している『懸念すべき変異株』(variants of concern; VOCs)にはα株, β株, δ株の3つがある。ワクチンと自然感染で誘導された抗体へのVOCsの影響を評価する為に、CorovaVac2回接種済みの医療従事者から採取した血清でSARS-CoV-2のS1受容体結合部位(receptor-binding domain; RBD)結合性IgGの力価と, ② ワクチンの材料(?)になったSARS-CoV-2(wild-type; WT)及びVOCsに対する中和抗体(neutralising antibody; NAb)の力価, を評価した。そしてこのデータを、ワクチン未接種で, 尚且つ 2020年4~5月 or 2021年4~5月に入院したSARS-CoV-2自然感染患者の血清のそれと比較した。

 コホートの参加者の100%でウイルス特異的IgGが陽性だった。次に、全てのコホートでWT及びVOCsに対するNAbによる免疫を評価した。全体として、NAb力価≧20単位である参加者の割合はWTに対して最も高く, 続いてα・β・δ株に対してはかなり低い力価だったこのパターンは全てのコホートで一致して見られ, NAbが検出可能であった参加者の割合は、自然感染コホートよりもCoronaVac被接種者で低かった調整後解析では、全コホートにおいて幾何平均NAb力価は、WTに対してよりも全VOCsで有意に低かった。α株とβ株に対するNAb力価の間に有意差はなかった。δ株に対するNAb力価は最低であり, 他の株より有意差があった。

 WTは2020年に感染した患者由来の血清で最もよく中和され, α株は2021年に感染した患者由来の血清で最もよく中和された。これらの知見は、2020年中期, 及び 2021年中期にタイで流行していた変異株と一致する。β株は2020年及び2021年に感染した患者由来の血清で同等に中和され, 幾何平均NAb力価はCoronaVacで誘導されたものよりも高かった。同様にしてδ株は、2020年及び2021年に感染した患者由来の血清で同等に中和されたが、NAb力価はβ株のそれよりも顕著に低かったCoronaVac被接種者におけるδ株に対する力価も低値であり、ほぼ検出限界値だったこれらの知見は、CoronaVacにより誘導されたNAb力価が、自然感染と比べると比較的低値であることを強調する。

 NAb力価は免疫との相関関係を有してはいないものの、症候性SARS-CoV-2感染からの免疫を高度に予測可能である。今回のデータに基づくと、S1-RBD結合性IgG産生が維持され, 100%陽性であったにも関わらず、NAbによる免疫は、WTと比較するとVOCs3種に対しては顕著に低減していた。更に、α株・β株に対するNAb活性は、CoronaVac被接種者の血清では同等だった; この知見は、「CoronaVac被接種者の血清では、α株よりもβ株の方が中和抗体に対して耐性を有した」という過去の知見と矛盾する。懸念すべきことに、δ株は中和抗体に対して最も抵抗性のように見える。最後に、この研究は、自然感染と比較すると、CoronaVacによって誘導された中和抗体による免疫が低い点が注目される。CoronaVac被接種者で免疫を維持する為に、従来の2回接種regimenを超える追加接種が必要となる可能性がある。