こんにちは。今回もまた医療ネタと全く関係ない話題で記事を書きます。
私は小学校の頃から、日本と世界の歴史に興味を持っており、中学生の時は、休み時間・昼休み中にひたすら井上靖の『敦煌』や陳舜臣の『十八史略』等を読んでいました。そうゆう訳で、今回は最近読んだ歴史関連の書籍の中で、特に面白かったものを紹介します。
(1) 『陰謀の日本中世史』 呉座勇一 著, 角川新書
題名に『陰謀』と付いていると、「なんだこれは?」と期待を唆られると思います。この本は、各種メディアを通じて流布されている「陰謀論」 ー 特に、日本の中世の出来事について ーを論破する為に、日本中世史の専門家の方が一般向けに書いた本なのです。
一番(?)有名な陰謀論が、織田信長が明智光秀に討たれた『本能寺の変』に「黒幕が居た」とする風説ですが、呉座氏はそれら陰謀論について ①歴史的イベントの因果関係が単純化され過ぎている(複数の人物の利害関係や、そこに到るまでの複数の出来事が無視されている), ②論理の飛躍 (状況証拠しかないのに、自分の憶測に基づき『理論』を組み立てる), ③歴史的イベントの結果から逆行して原因を導き出す(「歴史的イベントの結果、最大の利益を受けるに至った者こそ首謀者だ」と唱える), ④批判者に対して、自分の『理論』(陰謀論)の立証を要求する(果ては、「証拠となる資料が隠蔽・破棄・改ざんされた」と物証すら無いのに主張する)の4つの特徴を備えていると指摘しています。
(2) 『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』呉座勇一 著, 中公新書
上記『陰謀の中世日本史』の著者が、応仁の乱についてまとめた著書です。学校で習う日本史や、TV等で扱われる応仁の乱は、単純化されていて、事実関係等について必ずしも正確でないようです。なのでこの本が出版されたのです(と私は解釈しました 笑)。
この本の内容ですが、『応仁の乱』そのものに関する記述を10とすると、前日譚(乱が起きた背景の説明等)は15~20, 応仁の乱以降の情勢は11~12くらいだと思います。それくらい、事実関係が複雑なのです。従って、登場人物や地名も複数あり、何世代にも渡るので、読んでいる最中に前のページへ戻って「この人ってどんな人だったっけ?」・「どの派閥の人だったっけ?」と再度確認しに行くことが何回もありました。
それでも、室町幕府の権威失墜→戦国時代への突入の過程を正確に把握できるので、それなりの教養になるし、面白いですよ。
(3) 『核DNAでたどる日本人の源流』齋藤成也 著, 河出書房新社
ホモ・サピエンスがアフリカから出て世界中に拡散したという事実は、今や言うまでも無いとは思いますが、この本はそれを出土した遺物(石器, 化石等)だけでなく、①出土した人骨から得られたDNAや、②今まさに地球上で生きている人々のDNAを比較・分析することで、私達の祖先の移動ルート等について仮説を立てる最新の考古学・人類学の知見を紹介しています。
本の題名から想像がつくと思いますが、この本は主に「現在日本列島に住んでいる人々のご先祖様はどうやって日本列島にたどり着いたのか」という事について扱っています。石器時代〜古代〜現代に到るまで、海外から絶えず人が行き来して、私達の先祖となっていた事がよく分かります。
(4) 『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』 戸部良一, 寺本義也ほか 著, 中公文庫
既に何回もこのブログで取り上げている本です。アジア・太平洋戦争で日本が敗戦し、それまでの間に日本, アジア諸国と米英蘭でかなりの数の犠牲者が出てしまった事は誰もが知っている事です。但し、メディアは先の大戦の悲惨さを強調することはあっても、「なぜ日本は負けたのか」・「ミッドウェー海戦・ガダルカナル島・インパール作戦のような、悲惨な大失敗はどうして起きたのか」といった検証を冷静に行なっているような気配は感じられません。
この本は、そのような検証を行なってくれています。勝てる見通しすら無いのに始めた対米戦争, 組織内部の融和を優先する余り、今で言う『パワハラ上司』のメチャクチャな作戦計画にゴーサインを出してしまった周囲の将校らと上層部, 科学技術や合理性よりも優先される精神論 etc...現代日本にも通じる、様々な問題点がこの本で明らかになります。
昨今、「日本兵はこんなにも勇敢に戦った!」, 「自虐史観なんてごめんだ!」という論調が強くなっていますが、この本を読んだら、益々そのような言説が馬鹿馬鹿しく見えてくるでしょう。
なお、本ブログでは『失敗の本質』以外にも、アジア太平洋戦争に関する書籍を紹介している(下記リンク参照)ので、そちらも是非参考にして下さい。