Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

4月から医学部に入る人へ。

 こんばんは。今日は4月に医学部入学が決まっている人の為に、学生生活に関する助言をしたいと思います。

(1) 講義は出席してなんぼ

 最近は各大学でカリキュラムの見直しが進み、私が大学生だった頃と多少違うとは思いますが、医学部1年~2年前期はどうしても「基礎教養科目」と言って、医学とは関連性が強いとは思えない科目 ― 数学, (植物を含めた)生物学, 物理学 他 ― の講義・実習と試験が多々含まれます。特に、大学で履修する数学や化学の難易度は高校で履修したそれと正直比べ物になりません(生物は暗記すれば何とかなる)。また講師は大抵、「多くの学生に理解してもらう」という工夫は一切せず我が道を通します。途中で勉強する気や講義・実習に出席する気すら萎えるとは思いますが、講義は出ておきましょう。出席点も進級時に勘案されるからです。筆記試験の成績が芳しくなくとも、(大学によっては)出席点で赦免されるパターンはあり得ます。

 もちろん、2年生以降の生化学・解剖学・薬理学などの基礎医学, 循環器・脳神経・消化器などの臨床医学の講義・実習もちゃんと出席しましょう(理由は上に同じく)。

(2) 大学側の『アンケート』は正直に記載しよう

 各学期末ないし各年度末に、大学が「各教科について、自己評価と講義・試験・実習等に対する評価/意見を記載せよ」というアンケート的なものへの記入を求めてくることがあります(大学によると思いますが)。面倒臭がったり遠慮はせず、思ったことはしっかり書きましょう(例; 講義内容が分かりにくい, パワーポイントが見にくいetc.)。

 講師側が「こっちは〇〇という意図があってやっているんだから、その通りにやれ云々」と主張し、耳を貸そうとすらしない事も多いと思いますが、中には「はいはい、分かりました。指摘された通りここは直しますよ」と応じるケースもあるので、大学側へ意見して無駄ということは決してありません。

(3) 英語と統計学を軽視すべからず

 グローバル化による国内外の人の出入りの活発化(ex. 外国人観光客or労働者を診療する機会が増える), ②将来、国際学会or海外留学に行く機会もあり得ること, ③将来英語論文をジャーナルに投稿する機会が十分あり得ること, ④(あくまで万が一の話ですが)日本国内の医療or経済状況が悪化し、国外へ移住せざるを得なくなる可能性があること, を考えると、英語を読む練習のみならず、話す練習もしておいた方がいいとは思います。私の場合、大学に米国人医師が講師として在籍しており、この先生の講義で英会話やプレゼンの練習が出来ました。また、私は'IFMSA(国際医学生連盟: International Federation of Medical Students)'の関連サークルにも参加していたので、1ヶ月間だけ海外の大学の研究室に留学する機会も得られました。大学に進んでも、英語によるコミュニケーションの鍛錬は継続しましょう。

 また、私の場合数学が苦手だったので、統計学を十分理解できず医学部を卒業しました。卒後、英語論文を読むにしても疫学的・統計学的な専門用語や概念が理解できず苦しんでいます。数学が嫌でも、統計学はしっかりと押さえておきましょう。

(4) 試験勉強は先輩・友人の助言・協力を仰げ

 大学も定期試験があります。但し、医学部の講義というものは総じて「学生に十分理解してもらえるように・興味を持ってもらえるように工夫する」事よりも、「各講師の専門領域について、自己流で掘り下げて」講義する事に努力が傾注されています。言うまでもないかもしれませんが、定期試験の内容も同様です。

 悲しいことに、大学指定の教科書や講義資料を1つ1つ辿っていっても、定期試験に受かる保証はありません。むしろ先輩・友人のネットワークを生かして試験の過去問・ヤマ集や分かりやすい参考書を入手し、それらを学習した方が合格・進級する確率が上がるのです。

医学部教育の問題点 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

(5) 部活・サークルに入るか否かは貴方次第

 私は大学時代、体育会系の部活に入っていました。一概に部活と言っても、加入する事で受けるメリットとデメリットの双方があります。

メリット:  体育会系なら運動する機会を得られる。先輩・友人・後輩のネットワークが形成でき、孤立するリスクが低減する。

デメリット:  活動費がかかる。大会・練習・飲み会などのイベントに自分の時間を取られてしまう。先輩・後輩の人間関係によるストレス。飲酒に関係したトラブル。

 特に後輩・先輩の関係は絶対視される傾向にあり、多少の無茶振りでも先輩の言う通りにせねばなりません。このような背景もあって、飲み会では一気飲みや大量飲酒を強要する空気が強くなりがちなのです(急性アルコール中毒のリスクを伴う)。また、最悪の場合、酔った勢いで性暴力や飲酒運転に及ぶ不届き者も出兼ねません。

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 「部活に入るな」とは言いませんが、メリットとデメリット両者をよくよく検討してから加入しましょう。

(6) 運転免許は早めに取ろう

 就職後、公共交通機関が不便な地域の医療機関に勤務する可能性もありますし、大学の立地自体が不便な場合もあります。運転免許は取っておくべきですが、2年生に入ると解剖実習が始まってしまい、こちらに時間を取られます。また、それ以降の学年も薬理学/生理学の実習が入ったり、病院実習や国家試験対策に追われたりと、自動車学校に通う時間的余裕がありません。とにかく早めに運転免許を取っておきましょう。

(7) 最後に ー 理不尽に耐える(或いは抗戦する)覚悟はあるか?

 このブログの過去の記事も参照して頂ければ分かると思いますが、卒業後の医師の世界も理不尽だらけです。少子高齢化による労働力の減少と医療需要の増加や、人手不足が著しい地域・診療科, 制限の無い残業時間, 労働量に見合わぬ給与や診療報酬体系etc.と、今日の日本の医療は課題が山積しています。

 しかしながら、厚生労働省日本医師会等の有力団体, 各大学医学部トップといった人たちは、医療現場のニーズを把握する努力を怠り、また短期的な損得勘定や従来通りのやり方・考え方に固執している為、長期的視野の無い朝令暮改を繰り返しているだけです。また、彼ら・彼女らの中には、公共の福祉よりも私腹を肥やす事を優先している者すら居ます。

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 このように無慈悲な境遇を受け入れて耐え忍ぶのか?『苦役』から逃れる道を見出し、そちらに『逃れて』安寧と平和を手に入れるのか?もしくは、矛盾した現体制に対して批判の声を上げて団結し、現状打破と是正を目指すのか?これらのうちいずれを選択するのも、貴方次第です。