Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

医学部教育の問題点

 久しぶりの更新です。お待たせし申し訳ありません。今日は題名の通り、医学部の教育態勢について、私が学生時代を通して感じた問題点を挙げてみたいと思います。

 

① 講義の質が担保されない

 大学に限った話ではありませんが、大学の講義の中には、講師の解説に学生がついていけなかったりするものもあります。私が経験した具体例を挙げますと、

1. 臨床医学

 学会のスライドをちょっと改変した程度のものを用いて講義。講師が専門にしている特定の疾患について結構掘り下げている講義・試験の出題内容もあるが、初心者同然の学生には難解で、頭に入らない。ましてや、講義室を暗くしプロジェクターを使っての講義であり、90分の講義で話しているのは多くの場合講師のみ。眠くならないのが不思議。

 大学5-6年に上がってからの後知恵とはいえ、国家試験対策予備校(TECOM, MECなど)の講義の方が断然面白く、頭に入りやすい。TECOMは板書(イラスト)を交え病態生理を明快にしてくれるし、MECは講師が臨床現場で経験した症例を元に、明快かつ印象的に解説してくれる。

2. 基礎科学と基礎医学

 高校数学や高校化学, 高校生物と比較し、明らかにレベルが違う講義内容なのに、講師の解説はあくまで『我が道』をゆき(試験の出題内容も然り)、不合格者が増えようと御構い無し。学生から批判が上がろうが馬耳東風(それは臨床系も同じことだが)。特に分子生物学は、顕微鏡で癌組織を実際に見ながらでないと、発癌シグナルや癌の疾患概念など分かるわけがない(私の場合、分子生物学を大学1-2年で履修。病理学の講義は3年後期から開始)。

3. 基礎医学の実習

 組織学のスケッチで、明らかに手抜きが過ぎる学生は仕方ないが、真面目にやったスケッチすらも細かい点にツッコミを入れてやり直しをさせる講師が多数いた。結局『作業』ばかりに集中してしまい、知識の習得がおざなりになってしまう。解剖実習だって、ご献体の解剖作業は班分けされた学生各自が進める形になっており、講義の進捗度に合わせて解剖を進める『作業』に学生が忙殺されて知識の習得が後回しになる。

  このように、残念ながら医学部の講義は質が担保されていません。講義を担当する各講座/各教員に完全に依存しており、学生からのフィードバックが活かされる機会はほぼありません。大学に限った話ではありませんが、「教えてもらう側である学生は目下であり、教える側の講師が目上。目下は文句を言わず、目上の者の言うことに黙って従え」という雰囲気が未だに存在している事は否めません。

 

② 臨床実習もイマイチ

  医学部5-6年から始まる、大学病院を中心とした実習も問題山積です。

1. 5年生の実習は、1つの診療科でたった2週間:  こんな短期間で何を学べというのか。せめて約1ヶ月あればいいのに(一応、6年生の臨床実習は好きな診療科3-4コを4週間単位で回れるカリキュラムになっている)。

2. 見学だけ:  ひたすら外来診療やカンファレンス, 手術を見ているだけで、手を出せる場面は圧倒的に少ない。指導医の監督を受けつつも、外来での治療方針の立案, 救急外来での鑑別診断/救命処置, 手術室での手技等を、より主体的にやれた方が勉強になるはず。

3. 大学病院は特殊な症例ばかり:  市中病院での治療精査が難しい、稀な(特殊な)疾患が大学病院には集中しやすい。そんな症例ばかりでは勉強にならない。

4. 指導医は、医局員の獲得に熱心なのだが…:  学生勧誘目的の飲み会の雰囲気をきっかけに入局を決めた先輩が結構いる。せいぜい2~4週間だけの見学と飲み会の盛り上がり様のみが判断基準というのはいかがなものか。

 

③学生向けの福利厚生が不十分

 医学部も、サークル・部活動が盛んなところはありますが、「大学側が学生各個人の抱える問題解決に関与する」という態勢がまだ乏しいと感じます。

 うつ状態に陥って講義に来なくなり、試験の成績も振るわず留年する学生や、精神疾患を発症した状態で登校し、講義・試験中も明らかに症状を呈していた学生(最終的に療養のため休学)を実際私は目にしています。一応、大学には健康管理センターなるものがあり、そこの保健師臨床心理士(それぞれ1名)が学生・職員の相談にのる形式を取ってはいますが、それだけで1学年100名超の医学部学生+教職員を十分カバーできているとは思えません。

 ましてや、中学~高校は1学年が複数のクラスに分けられており、各クラスには担任が1名付きました(場合により副担任1名がプラス)。各クラスの人数も30名そこそこと担任が顔と名前, その他プロフィールを十分把握できる人数でした。したがって、(十分機能しているかはさておき)中学~高校の場合は、教える側が各生徒の抱える課題等を把握し、適宜助言を与えやすい環境にあった訳です。

 他方の大学は、1学年100名超くらいですが担任はいません。講義や実習が無ければ友人同士の小グループに散開するか、部活・サークルに参加して先輩・後輩と繋がるかのいずれか(両方)です。従って各個人の抱える問題に向き合ってくれるのは、1.実家の両親, か 2. 友人, 3. 先輩, 4. 彼女・彼氏, の4者いずれかですが、ここに大学側(教える側)の存在はありません。上記のように、精神的に問題を抱え、専門家による介入が必要と思われる学生が居ても、友人・先輩の『コネ』だけで十分な解決には繋がりにくいでしょう。

 また、私の大学は通勤・通学に不便な郊外に大学キャンパス・大学病院があったのですが、大学1年, 2年生(基礎医学の実習で帰りが遅くなることも多い)は自家用車での通学を禁止されているのです。確かにバスは通っていましたが、時間通りに来ない, 本数が少ないetc. と問題の多いバス会社でした。そして、医学部学生の定員を増やしているにも関わらず、学生駐車場の整備が遅れていたため、朝の大学キャンパス周辺の渋滞(特に雪が降ると、学生・職員駐車場の除雪は後回しなので悲惨なことになる)や大学キャンパス内の迷惑駐車が多発するような環境だったのです。せめて1. 全学年で自家用車での通学を許可し、駐車場を確保する, 2. 大学が学生専用スクールバスを運行する, 3. キャンパスの隣に、低家賃・門限なし・食事付きetc.といった好条件がそろった学生寮を建設する, といった対策を講じて欲しかったのですが、2018年末現在に至るまで、いずれも実現していません。