去る12/1、愛知県名古屋市内某所で、日本救急医学会と同集中治療学会が共催する「敗血症セミナーin名古屋2018」へ出席しました。敗血症・感染症の専門家が、最新のエビデンスを含めつつ日本版の敗血症ガイドラインを解説する講義でした。そうした情報の中から、興味深いものをピックアップして紹介していきますが、情報量が膨大なので、何編かにに分けて掲載していきます。
①敗血症性ショックに輸液投与量を制限しても、大量輸液した場合と予後は変わらない
これは2018年10月に発表された論文'Restricted fluid resuscitation in suspected sepsis associated hypotension(REFRESH): a pilot ramdomised controlled trial' (Macdonald SPJ, Keijzers G et al. Intensive Care Med)の引用です。救急外来を受診した敗血症性ショック疑いの患者99名をそれぞれ輸液量制限群(50名), と大量輸液群(49名）へランダムに割り振りました。受診後6時間に受けた輸液量の中央値は、制限群2387 mL(30 mL/kg), 大量輸液群3000 mL(43 mL/kg)で、昇圧薬使用時間の中央値は制限群で21時間, 大量輸液群33時間でした。90日後、死亡数は輸液制限群では48名中4名(8 %), 大量輸液群では47名中3名(6 %)と差がありませんでした。
このような結果を踏まえると、敗血症性ショックは、投与する輸液量の制限＋ノルアドレナリンといった昇圧薬の投与 でも乗り切れると言う事なのでしょう。
②敗血症性ショックの昇圧薬は、β刺激薬でない方が良い
ドーパミン, ドブタミン, アドレナリンといったカテコラミン（β刺激薬）は、心筋細胞のβ受容体に作用します。その時、受容体から細胞内にカルシウムイオンが取り込まれ、ミトコンドリアにおけるATP産生に関与します。敗血症の場合は、カテコラミンが副腎から大量に産生されて血中に出回っている状態であり、既に心筋内にはカルシウムイオンが相当量取り込まれています。そこに体外からβ刺激薬を投与すると心筋内にカルシウムイオンが溢れる事になり、ミトコンドリアをむしろ障害してしまいます。ミトコンドリアが障害されると、当然ATP産生に支障を来すので心筋の収縮・拡張という一連の運動がまともにできなくなり、心臓は血液を送り出せなくなってしまいます。
こうした病態生理を踏まえて、敗血症性ショックに対してはβ刺激薬よりもノルアドレナリンやバソプレシンといった血管収縮薬の投与が好ましいと考えられるのです。
③急性腎障害(acute kidney injury; AKI)を被ると、敗血症の予後は悪くなりやすい
データベース上に登録された10,069人のICU患者のクレアチニンと尿量のデータを収集し、それぞれ 1.入院後72時間以内, 2.退院/死亡前, 3.退院後7日のデータ から各患者のAKIステージを診断しました（なお、ICU入院後2日以上経過して敗血症になった患者は除外）。最終的に7970名の患者が研究に含まれましたが、うち24%は入院時に敗血症の診断であり、更にその内68%がAKIでした。それに比較し敗血症がない患者は57%がAKIでした。AKI stage 3（敗血症 40% vs 非敗血症 24%）と腎代替療法の使用（敗血症 20% vs 非敗血症 5%）は敗血症患者で多く、敗血症とAKI stage 3の患者は、敗血症でないAKI stage 3の患者と比較すると、退院後7日のフォローアップ期間では改善が乏しい（敗血症 21% vs 非敗血症 32%）傾向がありました。加えて、入院中の死亡はAKIの重症度と関連しており、重症であるほど死亡率も増えます（'A worldwide multicentre evaluation of the influence of deteriotation or improvement of acute kidney injury on clinical outcome in ciritically ill patients with and without sepsis at ICU admission: results from The Intensive Care Over Nations audits.' Peters E, Antonelli M et al. Crit Care(2018)3;22(1):188)。
今日はここまでにします。続編は後日アップしますのでお待ち下さい。
