Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

【医療関係者向け】敗血症セミナーに行ってきました(2)

 前回に引き続き、「敗血症セミナーin名古屋2018」で学んだ内容を紹介していこうと思います。

 

④敗血症への高用量血液濾過(high-volume haemfiltration; HVHF)の効果は現段階で不明

 昨年出されたsystematic review(Borthwick EM, Hill CJ et al. 'High-volume haemofiltration for sepsis in adult.' Cochrane Database Syst Rev. 2017 Jan 31;1)では、ICUに入院した敗血症性ショック・敗血症の患者の予後へのHVHFの効果を検証する為に、Cochrane Central Register of Controlled Trials等のデータベースから、1. HVHFと、通常の透析治療を比較したランダム化コントロール試験(ramdomised controlled trials; RCT)及び準ランダム化試験, 2. HVHFと、類似性のない透析治療を比較したRCT及び準ランダム化試験 を探し出しました。それらの研究からデータを抽出し独自に解析した結果、HVHFによる副作用は報告されていなかった(但し質の低いエビデンス)ものの、敗血症・敗血症性ショックの重症患者へのHVHFの使用を調査する研究は殆ど行われていない事が判明しました。より大規模かつ多施設を巻き込んだ追加のRCTが必要だと言及されています。

 

⑤Disseminated intravascular coagulation(DIC)への抗凝固療法の効果も結論が出ていない

 DICへの治療薬として、アンチトロンビン, トロンボモジュリン等の抗凝固薬が使用される場合があります。これらの治療薬は過去の海外における敗血症・敗血症性ショックに対する臨床試験(治療薬vsプラセボの比較)で効果を実証できなかったばかりか、出血合併症のリスクが有意に増加するという結果になりました(なので、専門家によってはDIC±敗血症へのこれらの薬剤の投与を否定する人もいます)。

 しかし、最近の日本の研究では異なるトーンのエビデンスが提唱され始めています。例えば、最近出された4件のsystematic review, 及びPubMed, MEDLINE, Cochrane databeseで検索した臨床研究のデータを解析した研究によると、死亡や出血合併症のリスクは有意差がありませんでした。加えて、プラセボはアンチトロンビンと比較するとDICの寛解率が有意に低いという結果が出ました(Yatabe T, Inoue S et al. 'The anticoagulant treatment for sepsis induced disseminated intravascular coagulation; network meta-analysis.' Thromb Res 2018 Nov;171:136-142)。

 なお、DICは原因となった疾患の治療が何よりも重要なので、敗血症の場合は原因微生物に見合った抗菌薬の投与が肝心と考えるべきでしょう。

 

 他にも、興味深い知見を敗血症セミナーで拝聴したのですが、今夜は遅いのでここらで終わりにします。ではまた。

 

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