こんばんは。現役救急医です。日本では採用されていませんが、世界中の多くの国では、中国企業'Sinopharm'製のコロナワクチン'CoronaVac'を採用しています。CoronaVacも、mRNAワクチン(ファイザー社製, モデルナ社製)・アデノウイルスベクターワクチン(アストラゼネカ社製など)と同じく2回接種が基本ですが、最近このワクチン2回接種を完了した人へのブースター接種に関する論文を見つけたので紹介してみます(Cerqueira-Silva T et al. Vaccine effectiveness of heterologous CoronaVac plus BNT162b2 in Brazil. Nat Med. https://doi.org/10.1038/s41591-022-01701-w 2022年2/9発表)。
(1) 背景・導入
不活化コロナワクチンは、保存・運搬時の温度管理が容易で, mRNAワクチンより安価であるため、特に低〜中所得国で有用となっており、世界中の多くの国で採用されている。CoronaVacは2021年12/14時点で世界中で45億回<接種されており、最も多く使用されている。
当初、不活化ワクチンは重症化に対して高い予防効果を有していることが証明されていた(特に非高齢者で)。一方で、他種のワクチンと比較して, 不活化ワクチンは有効性に劣っている(若年者でも)。CoronaVac接種後に中和抗体反応は低下するが、有効性がどれくらい持つのかについては未知数であり, ブースター接種に関する意思決定をするに当たって重要となる。
ブラジルのコロナワクチン接種は2021年1/18から開始され、CoronaVac, ChAdOx1(アストラゼネカ社製), Ad26.COV2.S(Janssen社製), BNT162b2(ファイザー社製)を採用していた。CoronaVacはブラジルで最初に接種が開始されたコロナワクチンであり、60歳以上へ最も多く接種された。2021年6月末までに、大半の高齢者が2回接種を終えていた。2回接種完了から6ヶ月が経過した人は、主にファイザー製ワクチンによるブースター接種が可能となった。
今回、SARS-CoV-2感染症と重症COVID-19に対するCoronaVac2回接種の有効性を評価するとともに, ファイザー製ワクチンによるブースター接種の有効性も評価した。
(2) 方法
① Study design
CoronaVac有効性評価には、'test-negative design(TND)' 症例-対照研究という方法を用いた。TNDは集団の検査結果を用い、症例群は検査陽性結果(の人?)から, 対照群は検査陰性結果(の人?)から構成された。2021年の後半("the second semester of 2021")に、CoronaVac2回接種完了6ヶ月後の人へのブースター接種(ファイザー製, アストラゼネカ製, Janssen製 or CoronaVac)が推奨されるようになった。
この研究では3個のデータベースから抽出・連携させたデータを解析した。
なお併存疾患とはここでは、心疾患, 糖尿病, 肥満, 免疫抑制状態, 慢性腎臓病と定義されている。
② 参加者について
2021年1/18~2021年11/11の間に, COVID-19様症状があり検査を受けた18歳以上の人が対象となった。他方、以下に該当する人は対象外となった。
- 18歳未満
- 1回目と2回目で別種のコロナワクチンを接種された
- 1回目と2回目接種の間隔が14日未満
- 年齢, 性別, 居住地 or 検体採取日が不明な検査結果
- 陰性と出た前回の検査から14日以内の検査で陰性
- 陰性と出る前7日以内の前回検査が陽性だった
- 検査の前90日以内の前回検査で陽性だった
- 通知された期日よりも発症期日が大きい検査結果("tests with a symptom onset date greater than notification date")
感染の症例はRT-PCR検査でSARS-CoV-2陽性となった成人、感染の対照例はRT-PCRで陰性となった成人となった成人と定義した。COVID-19による入院or死亡の症例はSARS-CoV-2陽性で入院or死亡した人、入院or死亡の対照例はSARS-CoV-2陰性で入院or死亡した人と定義した。
③ 統計学的解析
ワクチン接種のoddsを症例群と対照群で比較するodds ratio(OR)と, その95%信頼区間(CI; confidence interval)を求めた。時間経過に伴う変化の単位は日とし、この研究が開始され, 発症するまでの間に経過した期間を用いて推計した。ワクチン有効性は「1-OR」という公式で推計した(単位は%)。RT-PCR検査結果収集時のワクチン接種状況は次のように分類した:
- 未接種
- 各接種後の経過期間で分類: 1回目接種後(0~6日, 7~13日, 14日≦), 2回目接種後(0~13日, 14~30日, 31~60日, 61~90日, 91~120日, 121~150日, 151~180日, 180日<), ブースター接種後(0~6日, 7~13日, 14~30日, 30日<)
解析は、年齢集団へ階層化(18~59歳, 60~79歳, 80歳<)することでも行われた。
(3) 結果
2020年2/24~2021年11/11の間に、23,476,273名がSARS-CoV-2感染症疑いで検査を受けた(重症化症例のピークが2021年2月〜4月に見られた)。2020年1/18~2021年11/11の期間(=研究対象期間)に合計14,362,482名が研究対象になり得ると見なされて迅速抗原検査ないしRT-PCR検査を受け, このうち7,314,318名がRT-PCR検査を受けていた(Fig. 1)。
検査時に大半の参加者が未接種だった(71.4%)だったが、2021年6月以降、1週間の検査数の急激な減少が見られ, ワクチン接種済の人が受けた検査の件数が次第に増加する様になった。CoronaVacを接種されたのは合計913,052名であり、そのうち7,863名がファイザー製ワクチンによるブースターを受けていた。
未接種者と比較すると、感染と重症COVID-19に対するワクチン有効性は、CoronaVac2回接種から時間が経つにつれて減少し, ファイザー製ワクチンでブースター後に増加した(Table 3, 4)。有効性の減少は、重症COVID-19に対する有効性よりも感染に対する有効性で顕著だった。
- 感染に対するCoronaVac2回接種の有効性: 2回接種14~30日後: 55.0%(95%CI: 54.3~55.7)→180日<: 43.7%(95%CI: 33.1~36.2) 時間とともに減少が見られた。
- ファイザー製ワクチンブースターの感染に対する有効性: 接種後7~13日: 80.2%(95%CI: 77.0~82.9)→14~30日後: 92.7%(95%CI: 91.0~94.0)→30日後: 82.6%(95%CI: 76.9~86.9) 7~13日以降増加し、14~30日後にピークに達した後、30日後に低下あり。
なおブースター接種後30日の集団は、この研究においてブースター接種を受けた人のたった6.6%を占めるに過ぎない(Table 3)。
重症COVID-19に対する有効性は(Table 3, 4)、
- 重症化に対するCoronaVac2回接種の有効性: 2回接種後14~30日: 82.1%(95%CI: 81.4~82.8)→180日<: 72.5%(95%CI: 70.9~74.0) 減少が見られた。
- ファイザー製ワクチンブースターの重症化に対する有効性: 接種後0~6日: 80.6%(95%CI: 76.4~84.0)→14~30日: 97.3%(95%CI: 96.1~98.1)→30日<: 96.8%(95%CI: 94.1~98.3) 次第に増加した。
CoronaVac2回接種とファイザー製ワクチンブースター接種の有効性の解析を、年齢集団別に行った。ワクチン有効性推計に用いた比較対照は、未接種者だった。80歳以上の人では、有効性減少パターンがより強くなっていた。
- CoronaVac2回接種の感染に対する有効性: 接種後14~30日: 50.3%(95%CI: 46.8~53.6)→180日<: 10.1%(95%CI: 1.1~18.3)
- ファイザー製ワクチンブースター接種の感染に対する有効性: 接種後14~30日: 82.0%(95%CI: 75.0~87.0)→30日<: 66.4%(95%CI: 49.6~77.5) ブースター接種後に増加あり。
重症化に対する有効性は(Table 4)、
- CoronaVac2回接種: 接種後14~30日: 68.7%(95%CI: 65.9~71.2)→180日<: 41.0%(95%CI: 34.1~47.3) 減少が見られた。
- ファイザー製ワクチンブースター接種: 接種後14~30日: 89.5%(95%CI: 83.9~93.1)→30日<: 89.3%(95%CI: 78.6~94.7) ブースター接種に伴い顕著な増加あり。
CoronaVac2回接種後の効果減少は18~59歳, 及び 60~79歳でも見られ(80歳以上よりは小さいが)、ブースター接種後に有効性の増加が見られた(Table 3, 4)。
入院に対するワクチンの有効性は、
- CoronaVac2回接種: 接種後14~30日: 82.1%(95%CI: 81.4~82.8)→180日<: 72.4%(95%CI: 70.7~73.9)
- ファイザー製ワクチンブースター: 接種後14~30日には92.7%(95%CI: 96.0~98.0)へ増加。
であり、死亡に対する有効性も同等の結果を示した。
- CoronaVac2回接種: 接種後14~30日: 82.7%(95%CI: 81.7~83.6)→180日<: 74.8%(95%CI: 72.2~77.2)
- ファイザー製ワクチンブースター: 接種後14~30日には98.3%(95%CI: 96.3~99.2)へ増加。
(4) 考察
SARS-CoV-2感染・COVID-19による入院or死亡に対するCoronaVacの合計した有効性は、時間が経つにつれて低下した。ファイザー製ワクチンによるブースター接種後、予防効果は回復した。知られている限り、これは不活化コロナワクチン2回接種と, その後のmRNAワクチンによるブースターの有効性を証明した初の研究である。
CoronaVacの予防効果減少と別種コロナワクチンによるブースター接種の効果に関する今回の知見は、不活化ウイルスワクチン接種後の長期的な免疫反応を評価した過去の研究と矛盾しない。ヒトや実験動物ではCoronaVac2回接種後、時間経過とともに抗体が減少し, ファイザー製ワクチンによるブースト後に増加が見られた。こうした知見は、mRNAワクチンのブースターへの使用を支持するものである。
2回接種後のワクチン有効性減少は全年齢集団で見られたが、高齢者で最も顕著だった。似たような知見はファイザー製ワクチンやアストラゼネカ製ワクチンでも認められており, 過去にはCoronaVacの有効性が高齢者で低下していることも報告されている。CoronaVacはブラジルで最初に接種されたコロナワクチンで, 高齢者で多く接種されているので、高齢者のフォローアップ期間が長く, 高齢者が過大評価されている。今回の報告では、80歳以上における重症COVID-19に対するCoronaVac2回接種5ヶ月後の有効性は50%未満だった一方で, 80歳未満における重症COVID--19に対するCoronaVac2回接種6ヶ月後の有効性は70%を超えていた。