Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

【医療関係者向け】ビタミンC vs 敗血症とARDS

 今回も「英語論文を和訳してみた」シリーズです。参考にした文献は、'Effect of Vitamine C Infusion on Organ Failure and Biomarkers of Inflammation and Vascular Injury in Patients With Sepsis and Severe Acute Respiratory Failure. The CITRIS-ALI Randomized Clinical Trial' (JAMA. 2019;322(13):1261-1270)です。

 

(1) Background

 Acute respiratiory distress syndrome (ARDS)は敗血症に多く合併する臓器障害であり、死亡率も有意である。ARDSの機序の理解は進んでいるのだが、開発された治療法はいずれも予後を改善するに至っていない。

 過去の研究では、ビタミンCが全身炎症と血管傷害を緩和し、敗血症による凝固障害を補正することが判明している。

 

(2) Research Question

 CITRIS-ALIは、高用量ビタミンC療法が敗血症及びARDSの患者において、臓器不全, 炎症と血管傷害のバイオマーカーを減少させるかどうかを検証するランダム化研究である。

 

(3) Study Design

 この研究は米国食品医薬品局(Food and Drug Administration; FAD)が監督。参加した7つの施設の倫理委員会でプロトコルが承認された。患者の登録は2014年9月から2017年11月まで行われ、最後の患者のフォローアップは2018年1月に行われた。

1. Patient Selection:

 ICUへ入った敗血症患者をARDS発症までフォローアップ。

 24時間以内に下記の基準に合致した患者が登録された

  • 気管挿管され人工呼吸器管理中
  • PaO2/FiO2 ratio<300mmHg
  • 既知の臨床的イベントから1週間以内の胸部画像所見で、両側性透過性低下
  • 呼吸器症状の新規発症or悪化で、左心房圧上昇(left atrial hypertension)のevidenceがない
  • 感染症orその疑い
  • 全身炎症性反応の基準4つのうち2つに合致

しかし、以下に該当する患者は除外された。

  • ビタミンCアレルギー
  • 同意が得られない
  • 18歳未満, 英語を話さない, もしくは 被後見人
  • ARDS基準に合致してから48時間を超過
  • 患者の代理人が居ないor医師が最大限のサポートを託されている(physician committed to full support)
  • 妊娠中or授乳中
  • 瀕死で24時間生存できる見込みなし
  • 自宅での人工呼吸が必要(気管切開後or非侵襲的[NPPV])
  • 2L/min<の在宅酸素療法
  • 間質性肺疾患, びまん性肺胞出血, 糖尿病性ケトアシドーシスor活動性の腎結石がある

2. Intervention:  5%glucose 50 mLにビタミンCを50 mg/kg溶解。これを6時間間隔で96時間投与。

3. Comparison:  5%glucose単独(プラセボ)を同じ要領で投与。

 薬剤は覆いを掛けられており、投与される30分間は遮光性のチューブを介して点滴された。薬剤初回投与は、① ランダム化後6時間以内 もしくは ② ICUから患者を出す為に必要な処置(e.g. 画像検査)を行なった後の可及的早期 に実施した。

 薬剤の投与は ① 薬剤の最終投与が終わった or ICUから退出時, ② 病院から退院時, ③ 研究から撤退(study withdrawal), ④ 死亡時 に中止した。

4. Outcome:  

 Primary outcome;

① 96時間後のmodified Sequential Organ Faiure Assessment (mSOFA)

② 168時間後の血清中のC-reactive proteinとthrombomodulinレベル

 Secomdary outcome;

① 28日目の全死亡数

② 28日目までventilator-free day

③ 28日目までのICU-free day

④ 60日目までのhospital-free day

 Additional seondary outcome; 0時間, 48時間, 96時間, 168時間時の

① Oxygeneration index (FiO2 x 平均気道内圧/PaO2)

② VE-40[L/min.] (人工呼吸器呼吸回数 x 一回換気量/体重) x (paCO2/40)

③ SOFAの構成要素

 なお、"ventilator-free day"の定義は「ICU入室から28日目までの間に、患者が抜管していた日数」, "ICU-free day"の定義は「28日目までに患者がICU外に出た時」から開始され、再入室した場合はその日数だけICU-free dayから差し引いた。"Hospital-free day"はICU-free dayと同様に計算した。

 また、mSOFAは0時間, 48時間, 96時間の時点で測定し、ビタミンC濃度測定の為、登録時, 48時間, 96時間, 168時間の時点で血清を採取。またバイオマーカー分析のため、0時間, 48時間, 96時間, 168時間の時点で血液を採取した。

 

(4) Result

 1262人のうち1062名が除外され、残った170名がランダム化された。ビタミンC群に振り分けられたのは86名で、うち2名は肺胞出血のためビタミンC投与を受けなかった。他方、プラセボ群は84名で、うち1名が急性好酸球性肺炎のためプラセボ投与を受けなかった。

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CITRID-ALIの患者の除外及びランダム化の流れ

1. Primary Outcome

 登録から96時間の間のプラセボ群vsビタミンC群間のmSOFAスコアは統計的な有意差がなかったビタミンC群では、baseline→96時間の平均mSOFAスコアは9.8→6.8に減少し, プラセボ群ではbaseline→96時間の平均mSOFAスコアは10.3→6.8と減少していた (difference -0.10; 95%信頼区間 -1.23~1.03; P=.86) 。また168時間時のC reactive protein (ビタミンC群 54.1 μg/mL vs プラセボ群 46.1 μg/mL; difference 7.94, 95%信頼区間 -8.23~24.1, P=.33) , トロンボモジュリン (ビタミンC群 14.5 ng/mL vs プラセボ群 13.8 ng/mL; difference 0.69, 95%信頼区間 -2.8~4.2, P=.70)も両群間で有意差がなかった。

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血清アスコルビン酸濃度(A), mSOFA(B), C-reactive protein(C), トロンボモジュリン(D)

2. Secondary Outcome

 46項目の事前に指定されたsecondary outcomeのうち、43項目はビタミンC群vsプラセボ群間で有意差はなかった

 他方、複数の対照(multiple comparisons)に関して調整をしなかった試験的な分析(exploratory analysis)では、3つのsecondary outocomeで有意差が見られた。28日目の死亡率はプラセボ 46.3% vs ビタミンC 29.8% (P=.03; between-group difference 16.58%[95%信頼区間 2%~31.1%])であった。また2群間のKaplan-Meier生存曲線は有意差が見られた。

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0日〜28日の全死亡率

 その他、

  • "Ventilator-free days"の数; ビタミンC群 13.1 vs プラセボ群 10.6 (mean difference 2.47; 95%信頼区間 -0.90~5.85, P=.15)
  • 28日目までの"ICU-free days"の数; ビタミンC群 10.7 vs プラセボ群 7.7 (mean difference 3.2; 95%信頼区間 0.3~5.9, P=.03)
  • 168時間以内のICU退出; ビタミンC群 25% vs プラセボ群 12.5% (P=.03; difference 12.95%[95%信頼区間 1.16%~24.73%, P=.31])
  • "Hospital-free day"の数; ビタミンC群 22.6 vs プラセボ群 15.5 (mean difference 6.69; 95%信頼区間 0.3~13.8, P=.04)

という結果が出た。

3. ビタミンCの薬物動態

 参加登録時、全患者のビタミンCの血清濃度は<28 μmol/Lで正常範囲未満であった。またビタミンC群 vs プラセボ群間でも有意差がなかった(ビタミンC群中央値 22 μmol/L vs プラセボ群中央値 22 μmol/L [四分位範囲(interquartile range; 以下IQR) 8~39 vs 11~37], P=.49)。

 投与前のトラフ期(trough periods before infusion)に採取した血清ビタミンC濃度は、ビタミンC群にて48時間後(中央値 166 μmol/L; IQR 88~376) , 96時間後 (中央値 169 μmol/L; IQR 87~412) までに有意に増加した。なおプラセボ群では48時間後の同濃度は中央値 23 μmol/L (IQR 9~37) , 96時間後は中央値 26 μmol/L (IQR 9~41) , 168時間の時点で血清ビタミンC濃度は低値(中央値 29 μmol/L; IQR 12~39)であった。

 96時間におけるビタミンC点滴の中止後、ビタミンC群ではビタミンC濃度は低下したが、プラセボ群と比較して168時間の時点でも有意に上昇していた (中央値 46 μmol/L; IQR 19~66)。

 

(5) Disucussion

 96時間のビタミンC群では、プラセボ群と比較すると臓器障害(mSOFA), もしくは炎症(C-reactive protein)or 血管傷害(トロンボモジュリン)を示すバイオマーカーを改善させなかった。本研究では、ARDS発症前に進行した敗血症の病期の影響により、ビタミンCがC-reactive proteinとトロンボモジュリンの血中濃度に作用できなかった可能性がある。CITRIS-ALIにおけるバイオマーカー定量化は、重症敗血症における早急なビタミンC投与を行なった研究と比較しても遅く、過去の重症敗血症に対するビタミンCの効果の研究の結果と矛盾(discordant)している。

 他方、46のsecondary outcomeのうち43項目で有意差がなかったにも関わらず、ビタミンC群がプラセボ群に比べて28日目の全死亡率減少に関連しており, 尚且つ28日目までの"ICU-free day"と60日目までの"hospital-free day"が有意に増加した。しかし、この結果は複数の対照(multiple comparisons)を含んでおらず、そのため試験的(exploratory)と考えるべきである。そしてこれらの結果は、バイオマーカーの分析に反映されない敗血症による生物学的異常に対するビタミンCの作用を示している可能性がある。この仮説の根拠は次の3つの結果である; ① プラセボ群における早期の死亡, ② 168時間より前にICUを退出した患者に占めるビタミンC投与患者の割合, ③ ビタミンC投与終了後、ビタミンC群とプラセボ群の生存曲線が平行であること。なお、これらの結果と仮説には更なる検証が必要である。

 敗血症患者の死亡率は高く、損失も高額(e.g. 米国では2013年に230億7千万ドル)である。最近の報告では、ARDSの死亡率が減少している(支持的療法や, 厳格に管理された人工呼吸器アプローチによる)が、50カ国で3,000人超のARDS患者が参加した研究では、全死亡率がARDS重症度によっては34~46%と変動を示しており、死亡率がいまだに高いままである。これらの事実を踏まえると、疾患を緩和する(disease-modifying)治療法という形での新たなアプローチが必要である。CITRIS-ALIの試験的な知見は、敗血症とARDSの患者の治療におけるビタミンCの役割を決定する為には更なる研究が必要であることを示唆している。

 

(4) Limitations

  • CITRIS-ALIは、早期の敗血症(ARDSではない)へビタミンCを投与した過去のphase 1臨床試験を基に設計したものである。CITRIS-ALIでは、ARDSを発症してからビタミンCを投与していた(遅いビタミンC投与のせいで、mSOFAやバイオマーカーへの影響が探知できなかったのかもしれない)。
  • CITRIS-ALIはmSOFA, バイオマーカーの変化を探知するには弱かった(underpowered)かもしれない。
  • Baseline characteristicsの、必ずしも均質ではないpolulationが死亡率に影響したかもしれない。
  • ビタミンCの用量が、敗血症関連ARDSへ効果を及ぼすには不足だったかもしれない。
  • 本研究は、ビタミンCの死亡率への影響よりも、臓器不全と炎症の検査値を計測するようデザインされている。
  • 2群間の死亡とICU退出の率は異なっており、結果が内的なselection biasに対して感受性となっている。