Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

COVID-19に対するレムデシビル投与臨床試験の事後解析

 こんにちは。現役救急医です。最近は臨床の仕事の忙しさも半端じゃないですが, 救急専門医試験が遂に来月になってしまいました。そんな中で悠長にブログとかYouTube更新をしている余裕なんて無いのですが、ちょっと気になった論文を見つけたので紹介します。今回紹介する論文は今年8/19に発表された"Deconstructing the Treatment Effect of Remdesivir in the Adaptive COVID-19 Treatment Trial-1: Implications for Critical Care Resourse Utilization."(Fintzi J, Bonnet T. et al. Clin Infec Dis. ciab712)です。

 

(1) Introduction

 Adaptive COVID-19 Treatment Trial(ACTT-1)ではレムデシビルによる治療が回復を早め, 呼吸補助治療の新規開始が少なかったことが示された。

 今回の論文では、ACTT-1のデータを更に解析し, COVID-19入院患者に対するレムデシビルの効果を評価する。Baselineから改善もしくは悪化した患者の累積発生数に対する治療効果を推計する為にcompeting risk modelを作成し, また、各患者の臨床経過を反映する記述的解析とmultistate models(MSMs)をここに示す。

 

(2) Method

 ①用語の定義

 患者の状態は8-category ordinal score(OS)で評価した。

  • 1点=入院しておらず、活動の制限がない
  • 2点=入院していないが、活動制限なし and/or 在宅酸素療法使用中
  • 3点=入院しており、酸素投与は必要なく, もう治療は必要なし
  • 4点=入院しており、酸素は必要ないが治療が必要
  • 5点=入院しており、何らかの形式の酸素投与が必要
  • 6点=入院しており、NPPV or 高流量酸素機器が必要
  • 7点=入院しており、人工呼吸器 or ECMOを使用中
  • 8点=死亡

OS1~3点の患者は回復, 4~5点の患者は多くの場合ICU外で治療されており, 6~7点の患者は多くの場合ICUで治療されていた。

 ② Study Design

 ACTT-1に参加した患者のうち1,051名のデータを解析した。なおデータは各患者の入院当初の経過に限定した退院後の経過, もしくは 再入院のデータは除外)。

 回復・baselineからの臨床的改善・baselineからの臨床的悪化・死亡の累積発生率に対するレムデシビルの効果を評価した。

 また、時間的に非均質なMSMを用いて各患者の臨床経過を解析した。MSMは患者が直接移行する可能性がある状態を決定し, ACTT-1期間中の病勢と治療の影響を反映する。

 またレムデシビルの治療効果を、OSの変動に関連したグループ分けにより定義した4つのclinical pathway(1. 回復 or 入院治療終了, 2. 呼吸器治療の必要性を低減させるような改善, 3. 呼吸器治療の必要性を上昇させるような悪化, 4. 死亡, の4つ)に従って推計した。

 

(3) Results

 回復と死亡の再解析により、ACTT-1で当初報告された回復に対する利益と, 死亡率に対する不確定的な結果を確認することになった。加えて、プラセボ患者群と比べると、レムデジビル治療を受けた患者群ではbaselineよりも重症度が低いOSへ達した患者が多かった(レムデジビル群 83.3% vs プラセボ群 78.0%; 95%CI 1.08~1.39)が、レムデジビル群ではbaselineよりも重症なOSに達した患者は少なかった(レムデシビル群 36.8% vs プラセボ群 49.9%; Hazard Ration[HR] 0.73; 95%CI 0.59~0.91)。

 レムデシビル治療を受けた患者は、プラセボ投与を受けた患者と比べるとより直接的に改善に向かった。レムデシビル群における初期の状態変化は臨床的改善に繋がることが多く(レムデシビル群 70% vs プラセボ群 62%), 悪化することは少なかった(レムデシビル群 25% vs プラセボ群 32%)。レムデシビル群における初期の悪化の減少は特に、baselineで人工呼吸器を使用していない患者において明らかだった。

レムデシビル群における初期の状態変化2回は

  • 改善の持続 or 回復とより多く一致し(レムデジビル群 61% vs プラセボ群 51%),
  • 悪化の持続 or 死亡との一致は少なかった(レムデシビル群 10% vs プラセボ群 16%)

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Figure 2

 MSMを用いて状態の変化を検証した結果、プラセボを投与された患者と比べて、レムデシビルで治療された患者においては入院中の臨床的悪化発生率が低いことが判明した(Figure 2)。入院中の臨床的悪化率の似たような減少は、

  • Baselineで非ICU呼吸療法を受けている患者:  HR 0.74; 95%CI 0.57~0.94; p=0.016
  • BaselineでICU呼吸療法を受けている患者:  HR 0.73; 95%CI 0.53~1.00; p=0,05

においても推計された。入院中の臨床的改善に対する治療効果のevidenceは認められなかった。統計学的に有意でないものの、baselineでICU呼吸療法を受けている患者については、

  • 直接回復に向かう力はプラセボ群よりレムデシビル群で強かった(HR 1.19; 95%CI 0.99~1.42; p=0.064)
  • 直接死亡に向かう力はプラセボ群よりレムデシビル群で弱かった(HR 0.56; 95%CI 0.23~1.15; p=0.099)

 BaselineでICU呼吸療法を受けている患者において、多面的な利益を示唆するような類似パターンは認めなかった。

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Figure 3

 入院中の臨床的悪化発生率の結果は、入院期間短縮と, ICU呼吸療法を必要とする確率の低下である(Figure 3A)OSが6~8点(ICU。オレンジ・赤の部分)の患者の推定割合は研究期間中プラセボ群で高かったもののレムデシビルで治療された患者では回復(濃い青の部分)が早かったランダム化1週間の時点で、レムデシビル群のOS=4~5点の患者は改善するoddsが高かった(Figure 3B)この合計した回復・死亡oddsの改善は研究期間中持続していた。

 このモデルによると、レムデシビル治療は、ICUレベルの治療へと増悪する患者を減少させることでICU資源の使用も減少させるとも予想された(Figure 3C)。このモデルによると、

  • レムデシビルによる治療は、baselineがOS=4点で入院した患者100人ごとにICU治療を21日短縮(95%CI 5~38日)させる
  • レムデシビルによる治療は、baselineがOS=5点の患者100人ごとにICU治療を49日短縮(95%CI 6~95日)させる

と推定された。

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Figure 4

 Figure 4Aは、baselineでICU呼吸療法を受けている患者における, 治療群別の予測OSS分布の点推計を示している。人工呼吸器状態の面積(暗いオレンジ)プラセボ群よりもレムデシビル群で小さいBaselineのOS=6点の患者が第7, 14, 28日目に人工呼吸器を使用するoddsはレムデシビル群で少なかった(Figure 4B)。BaselineのOS=6点で入院し, レムデシビルで治療を受けた患者100人ごとに、人工呼吸器使用期間は108日(95%CI 12~202日)短縮させると推計された(Figure 4C)。しかしながら、BaselineのOS=6点の患者における、NPPVないし高流量酸素の使用, もしくは baselineで人工呼吸器を使用していた患者におけるICU資源使用への統計学上有意な影響はレムデシビル治療になかった。

 

(4) Discussion

 ランダム化臨床試験由来のデータを使うことで、レムデシビルが速い回復に繋がる明らかな道を検出することができた: 主に入院中に悪化しなかったことにより、レムデシビルで治療された患者は早期に退院した。

 この解析によって、レムデシビルが臨床的な悪化の力を変える主な方法は、呼吸状態悪化を防ぐことであることが示唆された。これによって、病期が進んだ患者でレムデシビル治療の利益が少ない理由を説明可能と思われる。すなわち、有効な治療モデルとは臨床的悪化を防ぐ治療と, 他の回復を助ける治療を組み合わせることかもしれない。

 COVID-19入院治療は現代の医療態勢に未曾有の課題を突き付け、多くの医療施設がcapacityを超えて活動することになった。パンデミック中にICU病床を拡大ないし維持する多くの試みはあまり成功しなかった。この論文のモデルは、レムデシビルの治療がただでさえ乏しいICU資源の需要を減らすことで、人口レベルで追加の利益をもたらすことを示唆する。