Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

最近だいぶ更新が止まりがち。

 こんばんは。現役救急医です。ここ最近、色々と忙しくなったり, ブログやYouTube以外に色々とやりたい(orやるべき)ことがあるので、更新が止まっていました。田舎の、人手が少ない病院 − 特に田舎 − ともなると、業務が多忙になりがちです。中には医師や看護師に回すまでもない(本来事務方がやるべき)余計なものがあったりするのですが…とりあえず、どの部署も「それはうちらに関係ない」・「それはうちの仕事じゃない」という無関心をなんとかすべきでしょう。

 

 そんな中でも私は、臨床現場で働く中でふと浮かんだ疑問を解消するために色々と調べ物をして、その中で学んだことを動画などに上げてみてはいます。4/17に上げた動画は、何年も前に発表された急性中毒(主に心毒性のある植物や, コリン作動性農薬による)に対する活性炭投与療法の臨床試験の論文を紹介しています。

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 そして今日は、敗血症に対するβラクタム系抗菌薬の持続点滴と間欠点滴の効果を比較するメタアナリシスの論文を紹介する動画を公開しています。

youtu.be

『日本版敗血症診療ガイドライン2020』にもβラクタム系抗菌薬の投与時間延長・持続投与に関する推奨が記載されています。あと、最近発刊された岩田健太郎教授の著書『抗菌薬の使い方、考え方 コロナ時代の差異 Ver. 5』では、βラクタム持続投与についてもうちょっと詳しい記載があります。気になった方は是非チェックしてみて下さい。

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 今世間はGW中ですが、当然ながらまだまだCOVID-19/SARS-CoV-2の猛威は終わっていません。皆様どうかご安全に。

ジゴキシン中毒の治療 − 特に血液浄化療法について −

 こんばんは。現役救急医です。救急科にいると急性中毒患者を診療する機会も多いのですが、元々医師から処方された薬剤(睡眠薬, 抗うつ薬など。なお近年は三・四環抗うつ薬中毒は稀)や, 市販薬による中毒が多いです。以前、研修医向け勉強会か何かでジゴキシン中毒について学んだ記憶があるのですが、私自身、過去に1名程度しか経験したことがありません。そこで、後学の為にも、色々調べて出てきた文献をまとめてみようと思います。今回の文献は、中毒への体外的治療法(ECTRs; extracorporeal treatments; 『血液浄化療法』とも)の使用に関する推奨を提示している国際的な専門家集団'EXTRIP(Extracorporeal Treatments in Poisning)' workgroupが作成したものであり、ジゴキシン中毒へのECTRs使用に関してsystematic reviewを行い, 臨床的な推奨を提示するものです。

 ※1: 参考文献はMowry JB. et al., Extracorporeal treatment for digoxin poisoning: systematic review and recommendations from the EXTRIP Workgroup. 2016. 54(2)103-114.

 

(1) 薬理学的側面

 ジゴキシンの分子量は781 Daであり、約20~30%がタンパクに結合する。治療用量の場合、経口投与されたジゴキシンの60~80%が吸収される。吸収とその後の分布は6時間以内で完了するが、大量服用した場合は34時間後まで遷延することもある。ジゴキシン分布容積(Vd; volume of distribution)は6.2±2.6 L/kgと大きい; 体内に分布するジゴキシンのうち血中に局在するのは0.5%未満である一方、心臓と腎臓で組織濃度が最高となり, 骨格筋は体内で最大の貯留器官である("skeletal muscle represents the largest single store in the body.")。長期間ジゴキシンで治療されている患者では、Vdは腎機能低下とともに減少する。腎機能が正常な患者では、ジゴキシン主に腎臓から未変化対で排泄され(60~70%), 肝臓からは水酸化物としてより少量が排泄される。分布半減期("distribution half-life")は約2時間で, 最終排泄半減期("a terminal elimination half-life")は平均44.1±6.0時間である。過量内服時のジゴキシン排泄速度は議論が分かれているものの、大半の症例では分布半減期の延長が報告されており、吸収の持続と, 最終排泄半減期への多様な影響を反映している可能性がある。ジゴキシンの治療濃度は0.5~2.0 ng/mLであるが、多くの場合0.5~0.8 ng/mLが好まれている中毒の証拠がある患者の87%で、血中ジゴキシン濃度は2.0 ng/mL<であった。但し、低K・高Ca・低Mg血症のある患者では、より低い血中濃度でも中毒症状が発現することもある。

 

 

(2) ジゴキシン中毒について

 2013年、米国中毒コントロールセンターは3,761名のジゴキシン中毒を報告しており、1/3は転帰が中等度以上であった(26名の死者を含む)。

 ジゴキシンの中毒作用は、治療の際の作用機序の延長線上にある; 心筋細胞膜に結合しているNa+-K+ ATPaseの抑制によって細胞内のカリウムが低下し, 細胞内のナトリウムとカルシウムが増加することによって"delayed after depolarization"が発生して不整脈を来すジゴキシンの中毒量はほぼ全種の不整脈を来しうる(e.g. 心房・心室の早期脱分極, 心室細動, 心室頻拍)。心疾患既往のない患者の場合、AV blockを伴う徐脈や上室性不整脈("supraventricular dysrhythmias")を発症する。死亡は大抵、高度ブロックと関連した心静止や, 電気的ペーシングへの不応が原因となる心疾患既往のある患者の場合、既存の不整脈悪化, AV block, 心室不整脈で発症する。こうした患者集団の場合、死亡は心室細動が原因の多くを占める。

 ジゴキシン中毒患者のmanagementには、1) 更なる曝露の防止と, 2) 電解質異常補正・不整脈治療・適切かつ安全である場合に行う経皮的ペースメーカー からなる全身管理, が含まれる急性中毒の場合、吸収が遅れて起きる可能性があるので, 消化管除染が重要となる可能性がある。加えて、組織内へのジゴキシン分布は遅延するので、急性中毒の場合はジゴキシン血中濃度の解釈に注意が必要である。通常の治療用量投与中であっても、分布期に採取した血中濃度は治療域を上回る。そのため、内服から6~8時間後の血中濃度が全身への貯留の推定により適している。しかし、明白な中毒症状がある患者の場合、ジゴキシン血中濃度を直ちに測定し, 最後の内服時間を把握した上で解釈すべきである。

 活性炭複数回投与(MDAC; multi-dose activated charcoal)は動物と健康なボランティアでジゴキシン排泄を促進していることが確認され、また'oleandrin'と呼ばれる別種の心臓作用性グリコシドに関するランダム化臨床試験1件でも同様の効果が認められた。なお、欧州と米国の臨床毒物学会の共同声明では現在、心臓作用性グリコシド中毒へのMDACは推奨されていない。MDACの効果を最大化するには、毒物が血管外組織へ完全に分布する前の早期に開始するべきである血液透析 and/or 血液吸着は、ジゴキシンのVdが大きいので、一般的にはジゴキシン中毒に有効とは考えられていない。にも関わらず、ジゴキシン除去の為のECTRを実施した症例は今日も発表され, また一部では、ジゴキシン中毒へのECTR使用は支持され続けている。

 ※2: 海外ではジゴキシン特異的抗体('Fab'と呼ばれる)が実用化されており、この論文でも、ECTRにFabを併用した場合の効果について言及されていますが、日本では未承認なので割愛します。

 

 

(3) 方法

 最初の文献検索はMedline, EMBASE, Cochrane libraryを用いて、2012年7/12に行われた。文献検索のアップデートは2014年11/15に行われた。

 検索に関するconferenceは欧州中毒センター・臨床中毒学専門家学会と, 北米臨床中毒学会の定期学術総会(2002~2014), 及び Google Scholarに引き続いて行われ、各articleの著者目録は文献検索時に収集された。ETCRが尿毒症, 電解質/酸-塩基平衡補正, 体液過剰, もしくは これらの複合へ用いられた症例は除外された。

 EXTRIPのsubgroupが文献検索を完了させ, 各articleをreviewし, データを抽出し, 知見をまとめた。疫学専門家とこのsubgroupのメンバーが、それぞれの臨床上の推奨に対するevidenceのレベルを決定した。透析可能性("dialyzability")は、Table 2に示す基準に基づいて決定された。治療が有効である可能性は、その治療法のコスト, 入手の難易度("availability"), 代替治療法, 合併症と比較して検討された。

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Table 2: 『透析可能性(dialyzability)』の定義

 

 

(4) 臨床上の推奨

Fabを投与された場合、重症ジゴキシン中毒へのECTRは推奨しない。また、Fabを投与されていない場合でもECTRは推奨しない

 ECTRを支持する人の主張は以下の通りである。

  • 腎機能低下患者におけるジゴキシンのVdは小さく, こうした患者は内在的な排泄が低下しているので、ECTRの効果を最も受けると考えられる。
  • 中枢compartmentからの少量のジゴキシン除去は、心筋中のジゴキシン濃度の顕著な低下に繋がり, また 臨床上も有意義であるかもしれない。
  • 大量内服の6時間以内であればジゴキシンはまだ分布し切れておらず, ECTRによる除去にも堪えることができると思われる。
  • ジゴキシン特異的Fabは常に入手可能とは限らず, 多くの場合ECTRより効果である。

 ジゴキシンは他の医薬品よりも比較的大きな分子量であるものの、この分子量と低いタンパク結合性は、今日のECTRによる除去を阻害するものではない。ジゴキシンの透析可能性を制限する主要な原因は、分布後におけるVdの大きさであるジゴキシンの多くは、血液以外の部分に局在してしまう)。

 Vdの大きな毒物の透析可能性の薬物動態学的・毒物動体学的評価には注意が必要である:  ECTR後に組織中のジゴキシンの大量のreboundが予想されるので、ECTR中の血漿中濃度の低下と, 見かけ上の血漿半減期の計測は信頼性に欠ける。同様にして、血漿 ないし 全血からのECTRによる除去の信頼性は、血液compartmentからの除去としか関連していないので、不正確である。短時間における血漿からの多量除去は、全身の貯留からの有意な除去には繋がらないであろう。高用量の持続的腎代替療法(CRRT; continuous renal replacement therapy)の常時間使用によって相当量の除去が可能となるかもしれないが、現在これを確認できるデータは無い

 透析可能性を分類する上で好ましい方法は、1) 成形カラム中のジゴキシン定量する or 透析液/廃液/限外濾過液中のジゴキシン量を計測し、服用/注射された量と比較する, もしくは 2) 6時間における全身の貯留を計測すること, である。Table 6に、今回対象となった個別の患者における透析可能性の分類を示す。これらのarticleでは、全例において、ジゴキシンの除去が極めて少量に留まったことが確認された上記の因子や, Table 6に示された結果に従い、workgroupはジゴキシンはわずかに透析可能である」と結論付けた。

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Table 6: 個別の患者に対する薬物動態学/毒物動態学的な分類

 発表された症例には多くの交絡因子が存在しており、それには基礎疾患(急性腎傷害, 慢性腎臓病, うっ血性心不全, 心房細動など)も含まれている。加えて気管挿管, 人工呼吸器, 抗不整脈薬, 血管作動薬, ペースメーカーといったその他多くの治療手段が使用されている全般的な転帰に対するRCTRの実質的な寄与を決定することは不可能である。また、出版バイアスが顕著である可能性も高い(米国中毒コントロールセンター連盟の定期報告では心臓作用性グリコシド過剰内服の重症症例の死亡率が10~17%とされているのに対し、合計81症例の報告中、死亡は6例[7%]だった)。

 逆に、ECTRがある程度現実的な効果を供する可能性も否定は出来ない。動物実験のデータは、ECTRが転帰を改善させる可能性を示唆している。

 中毒症状発症前・内服後最初の6~8時間以内にECTRを実施した場合、組織内へのジゴキシン分布に対して, より多量のジゴキシン除去が行われる機会が与えられる可能性がある。こうした早期シナリオの可能性を検証できるデータは乏しい。内服後8時間以内にECTRを受けた6例では「数時間〜数日の間に次第に改善した」と報告され, こうした改善へのECTRの影響は評価が困難である。従って、内服直後にECTRを行った場合の排泄促進の効果を断定することは困難であり、また、多くの症例では受診が遅れてしまうこと, 及び ECTR開始までの技術的問題から、内服直後のECTRは実用的ではない

 臨床的改善のevidenceは、受容体存在部位からのジゴキシンの大量除去がECTR中に達成された可能性を示しているかもしれないが、実質的に除去された量は常に内服された量or全身分布量の25%未満だった。しかしながら、受容体存在部位の薬物力学・薬物動態学はこうした仮説に反する。

 これらを考慮した結果、workgroup内では、Fab投与がされていない場合のECTRに対する支持が僅かに多かった(他方、Fabが使用可能な場合におけるECTRへの反対は強かった)それにも関わらず、workgroupは「報告された臨床上の効果は裏付けに乏しい可能性があり、電解質異常の補正と関係している可能性がある」と結論付けた。

 

通常ECTRが適応となる状況(e.g. 急性腎傷害, 高K血症, 体液過剰)を例外として重症ジゴキシン中毒に対するECTRのいかなる適応も支持できない。

 

ECTRは重症ジゴキシン中毒では有用でないと考えられるので、間欠的血液透析・血液吸着のいずれも支持せず, また、その他のECTR法の使用も推奨しないジゴキシン-Fab複合体は血漿交換療法によってしか除去されず(除去速度は遅いが)、そのため腎機能低下を伴う患者であっても推奨されない。透析依存患者で中毒が再発した場合、Fab再投与が可能であり, また、血漿交換療法(高価で, 血液透析よりも過敏症・高Ca血症等の合併症リスクが高く, 広く利用可能という訳ではない)が好ましい。

 

 

 本当は(3)と(4)の間に、文献検索の結果(ヒットした文献の内訳, 文献から収集した全症例の転帰, ECTRの方法に関する検証など)を示すべきだったのですが、ブログ記事が冗長になってしまうので割愛してしまいました。本当に申し訳ありません!とはいえ、その内容も内容でメチャクソマニアックになってしまうし, 私にも難解ではあるので、いちいち紹介していては時間が無くなってしまいます…🥺とりあえず、ジゴキシン中毒への血液浄化療法は、極力厳密な検証を以てしても『効果あり』と言えない」ということは覚えておいて良いのではないでしょうか。

Clostridioides difficile感染症の診断と治療

 みなさんこんにちは。現役救急医です。今日は、偽膜性腸炎の治療や診断について、UpToDateを基にまとめてみようと思います。なお、偽膜性腸炎の起炎菌は以前まで、『クロストリジウム・ディフィシル』と呼ばれていましたが、近年になり"Clostridioides difficile"へ変更になったそうです。長ったらしいので、以下"CD"と呼びます。また、『CD感染症』という呼称も長ったらしいので、以下"CDI(Clostridioides difficile infection)"という略称を使用します。

 

(1) 症状について

 典型例では抗菌薬使用下でCDIを発症することが多く, 多くの場合、抗菌薬治療から2週間以内に発症する(稀に、抗菌薬治療から10週間後に発症した症例もあり)。但し市中感染CDIの約30%で抗菌薬使用歴がなかったという研究もあるので、「抗菌薬使用歴なし=CDIではない」という判断はすべきでない。他にも、65歳超, 最近の入院歴あり, プロトンポンプ抑制薬の投与などもリスクファクターである。

 CDIでは、24時間に3回以上の水様便が特徴的な症候である。他にも、下腹部痛・下腹部触診時の圧痛, 発熱, 吐き気, 食欲不振といった症状も呈するまたCDIでは、WBC数が平均で15,000/μLと上昇していることもある。

 

① 重症CDIの診断基準

 重症CDIの場合、下痢, 下腹部or腹部全体の痛み, 腹部膨隆, 発熱, 循環血液量低下, 乳酸アシドーシス, 低アルブミン血症, クレアチニン上昇, WBC>40,000/μLといった症候が見られる。重症CDIの基準には、WBC>15,000/μL, ないし 血中クレアチニン≧1.5 g/dL といった項目が含まれる。

 

② 劇症型CDI

 劇症型CDIでは、以下の症候のうちいずれかを呈する。

  • 低血圧 or ショック:  多臓器不全へ進行することもある。血圧低下の原因が、腸管穿孔・腹膜炎である場合もある。
  • イレウス:  ほとんど下痢をせず、急激にイレウスとして発症することもある。そのような患者では多くの場合、結腸が壁肥厚を起こして拡張している。
  • 巨大結腸症全身状態不良で, 画像上大腸の拡張(結腸の内径が>7 cm and/or 盲腸の内径が>12 cm)を認める場合に疑う。腸管穿孔を起こして重症化することもある。

 

③ 再発性CDI

 「適切な治療中はCDIが改善しているものの、治療が終了/中断した2~8週間後に症状が再燃したもの」を再発性CDIと呼ぶ。CDIへの治療終了後30日以内にCDIが再燃する患者は、実に25%にのぼる。CDIが再発した患者は、その後も再燃するリスクが顕著に高い。また再発のリスクファクターには、65歳超, 基礎疾患が重篤である, CDI治療中も抗菌薬治療が必要である, toxin Bへの抗体を介した免疫反応が欠如, といったものが挙げられる。

 再発性CDIは、軽症・重症・劇症型いずれの形も取りうる。1,500名を超えるCDI患者を対象にした研究では、再発性CDI患者の34%が入院となり, 28%が重症化し, 4%が劇症型結腸炎を発症した。

 

 

(2) 診断

 CDIは、CD toxin B遺伝子が核酸増幅検査(NAAT; nucleic acid amplification test)陽性, 或いは 便のCD toxin検査陽性 のいずれかによって診断する。

 下痢があってCDIが疑われる患者では、水様便のみをCD検査に提出すべきである。またCD診断の為の検査は、臨床的に顕著な下痢のある患者のみで行うべきである。

 イレウスがありCDIが疑われる患者では、直腸拭い液へのtoxin検査, ないし 嫌気性培養を行う場合がある; イレウスを伴うCDIでは、直腸拭い液CD培養の感度は高い。

 CDIを検査によって診断するには

  • NAATのみ実施
  • 1) グルタミン酸脱水素酵素(GDH; glutamate dehydorgenase)抗原, 及び toxin A・toxin Bに対する酵素免疫法(EIA; enzyme immunoassay) で最初にscreeningを行い、2) その後、必要に応じて(i.e. GDHに対するEIA, toxin A/Bに対するEIA のどちらかが陰性なら)NAATを実施

のいずれかが好まれる。

 ※: UpToDateには、NAATやGDH抗原EIA, Toxin A・B EIAの感度・特異度などについて各論が述べられています。他にも、細胞培養による細胞毒性検査法, 選択的嫌気性培養についても言及されていますが、冗長になるので今回は割愛します。ごめんなさい。

 他に、診断の為に補助的に用いられる検査法に以下のようなものがある。

1. 画像診断

 重症CDI・劇症型CDIの症状がある患者では、中毒性巨大結腸症, 腸管穿孔などの有無を診断する為に、腹部・骨盤の画像検査が必要である。経口投与, 及び 静注の造影剤を用いたCTが好まれる。

 中毒性巨大結腸症では画像上、

  • 結腸拡大(内径>7 cm)
  • 小腸の拡大, "air-fluid levels(小腸閉塞or虚血に似る)", "thumb printing(小腸壁がホタテガイ状になる?)"

が見られる

 他にCD腸炎で画像上見られる所見には、強い結腸壁肥厚と低吸収性の壁肥厚が含まれる。

 画像上、偽膜性腸炎(腸管内膜の重篤な炎症)と一致する所見は、CDIの可能性を強く示唆する。大腸の炎症と粘膜の浮腫によって形成される"accordion sign"(経口投与造影剤が肥厚した結腸膨起の間に溜まることで見えるもの)は、偽膜性腸炎である可能性を強く示唆している

2. 内視鏡

 下部消化管内視鏡は、1) CDIの典型的な症状を呈する患者, 2) 検査が陽性の患者, and/or 3) "empiric treatment"に反応している患者 では不要とされる。一般的に、内視鏡が必要となるのは、病変の直接観察 and/or 腸管粘膜の生検 が必要となる別の診断が疑われる場合である。他にも、イレウスないし劇症型CDIで下痢のない患者にて、内視鏡は偽膜を直視できるので有用かもしれない。但し、内視鏡実施の判断は慎重にすべきである; 実施する際には、拡張した結腸の穿孔を防ぐために、S状結腸に限定して軟性内視鏡を行い, 送気は無しor最小限にすべきである

 CDIの場合、下部消化管内視鏡では次のような所見が見られることがある。

  • 腸管壁の浮腫, 脆弱性, 発赤, 炎症
  • 炎症を起こした粘膜状の偽膜(軽症, ないし 治療中のCDIでは見られないこともある)

 

 

(3)  治療

 1) CDIの症状があり、検査でCD陽性である患者, 及び 2) 検査結果が出る前であっても、臨床経過からCDIを強く疑う患者 が、以下に示す抗菌薬による治療適応とされている。

 他にも、

  • 感染制御・・・CDIと診断されたor疑われる患者に対しては、接触感染対策を講じるべきである。当該患者に接触前, 及び 接触後の医療従事者は、水と石鹸で手を洗う必要がある。なおCDの芽胞はアルコールに耐性を示す。
  • 抗菌薬の中止・・・可及的早期に、原因となった抗菌薬を中止すべきである。
  • 輸液・栄養・下痢のmanagement・・・体液喪失・電解質異常の補正などを行う。

の3つも重要である。

 

重症例の治療

 初発のCDIで, 重症でない場合に選択される薬剤は以下の通り。

  • メトロニダゾール経口投与500mgを1日3回。
  • バンコマイシン経口投与:  125 mgを1日3回。点滴では、結腸内腔にまで十分薬剤が分泌されないのでCDI無効
  • フィダキソマイシン経口投与:  200 mgを1日2回。

このうちいずれかを10日間継続する。

 

重症例の治療

 抗菌薬治療に加え、補助的治療, 緊密なモニタリングが必要である; 加えて、外科的治療適応に関して評価を受ける必要がある抗菌薬は概ね上記のものを10日間使用する(米国で推奨される薬剤は、推奨度が強い順にフィダキソマイシン経口投与>バンコマイシン経口投与であり, メトロニダゾールは非推奨)

 また重症劇症型CDIでは、結腸切除術のかわりに便移植が用いられており, 後方視的研究・観察研究では死亡率低下との関連が示されている; 但し、便移植と結腸切除術を比較する前方視的ランダム化研究による検証が必要である。

 以下のうち1個以上にCDI患者が該当する場合、早期の外科的コンサルテーションが必要である。

  • 低血圧
  • 38.5 ℃≦の発熱
  • イレウス, もしくは 顕著な腹部膨隆
  • 腹膜炎, もしくは 顕著な腹部の圧痛
  • 意識状態の変容
  • WBC>20,000/μL
  • 血中乳酸濃度>2.2 mmol/L
  • ICUへ入室
  • 臓器障害
  • 3~5日間の最大限の内科的治療で改善しない

いずれも予後不良と関係している。他方、外科的治療の絶対的適応基準は以下の通りである。

  • 結腸の穿孔, もしくは 全壁虚血
  • 腹部コンパートメント症候群, もしくは 腹腔内圧上昇(雑に言うと、腹腔内圧が上がり過ぎて循環・呼吸・腎機能等に障害を来していることです)
  • 適切な輸液にも関わらず、血管作動薬を必要とするほどの循環・呼吸状態の悪化が生じている場合、早期に
  • 気管挿管・人工呼吸器を使用するほどの呼吸不全
  • 臓器障害悪化
  • 適切な内科的治療に関わらず、腹膜炎の臨床所見がある or 腹部所見悪化が見られる

 

再発症例の治療

 1回目の再発の場合、抗菌薬は

  • バンコマイシン経口投与:  1. 125 mg 1日4回10~14日間 → 2. 125 mg 1日2回7日間 → 3. 125 mg 1日1回7日間 → 4. 125 mgを2~3日間隔で2~8週間
  • フィダキソマイシン経口投与:  200 mg 1日1回10日間, または 1. 200 mg 1日2回5日間→2. 1日1回20日

のいずれかが使用される。それに加えて、直近の6ヶ月以内にCDIの既往があった症例について, 米国ではbezlotoxumab(CD toxin Bに結合するヒト化モノクローナル抗体)単回投与が承認されている。

 2回目以上の再発の場合も抗菌薬を使用し, また、直近の6ヶ月以内にCDIの既往があった症例には、bezlotoxumabが適応(米国の場合)となる。CDIへ適切な抗菌薬治療を3回以上行い, 4回目以上再発を起こした症例では、便移植を考慮する。

 

劇症結腸炎の治療

 劇症型でも抗菌薬治療, 補助的治療, 緊密なモニタリング, 及び 外科的治療適応に関する評価が必要である。抗菌薬治療は

  • イレウス無い場合・・・バンコマイシン経口投与 500 mg 1日4回と, メトロニダゾール点滴 500 mg 8時間ごと の併用。
  • イレウスある場合・・・イレウスが無い場合と同様。これに 1) 便移植, 或いは 2) バンコマイシン直腸内投与(500 mgを生食 100 mLに溶解し浣腸。可能な限り直腸内に留め, 6時間ごとに再投与), のいずれか の併用を考慮。なお1), 2)は直腸穿孔のリスクもあるので、注意が必要である。

と状態により異なる。劇症型CDIの患者で、便移植を考慮する条件は次の通りである。

  • 再発性CDIが劇症型である
  • イレウスを伴う劇症型
  • 3~5日間の内科的治療で改善しない劇症型

 

 なんか雑で冗長なまとめになって申し訳ありません。

胸水を検査に出す時、何をオーダーすべきか?

 みなさんおはようございます。現役救急医です。今日は、胸水を検査に提出する際に調べる項目などについて, UpToDateを参考にしてまとめてみようと思います。本当は胸腔穿刺やドレナージの手技についてもまとめてよかったのですが、冗長になりそうなので今回は割愛し, 別の機会にやります。

 

(1) 胸水は漏出性("transudates")か, 滲出性("exudates")か?

 胸水を採取したら、まず「漏出性なのか, 或いは 滲出性なのか」を鑑別する必要があります。それぞれの定義等を以下に示します。

  • 漏出性・・・胸部の静水圧と膠質浸透圧の不均衡により生じる。漏出性胸水は、患者の臨床経過から絞り込むことが容易いとされる。主な原因病態:  慢性心不全, ネフローゼ症候群, 胸腔外の疾患(e.g. 腹腔・脳脊髄腔・後腹膜腔からの体液の移動, 医原性など)
  • 滲出性・・・主に胸膜や肺の炎症, ないし 胸腔内のリンパ管の障害により生じる感染症・悪性腫瘍・横隔膜下からの体液移動など、原因となる病態は多い

 「漏出性か、滲出性か」を鑑別する基準も当然存在します。まず古典的なものとして"Light's Criteria Rule"があり、

  • 胸水/血清タンパク比>0.5
  • 胸水/血清LDH比>0.6
  • 胸水LDH値が、血清LDH正常上限値の2/3を超える

1個以上を満たした場合に滲出性と診断します。なお「2項目以上」を基準にした場合、特異度は低下する一方で感度は上昇するそうです。但しこのLight's Criteriaは、胸水/血清LDH比・胸水LDHの双方を含んでおり, これらは高い相関性を有しているので、批判されています。よって、次のような代替基準が提案されています。

1) "Two-test rule"

いずれかを満たせば滲出性

2) "Three-test rule"

  • 胸水タンパク濃度>2.9 g/dL
  • 胸水コレステロール濃度>45 mg/dL
  • 胸水LDH値が、血清LDH正常上限値の0.45倍を超える

いずれかを満たせば滲出性

 

 

(2) 検査に提出する項目

1. タンパク

 漏出性胸水の大半でタンパク濃度<3.0 g/dLであるものの、心不全時の急激な利尿でも胸水タンパク濃度の濃度上昇(=滲出性胸水の特徴)をきたすこともあるそうです。また結核による胸水は、常に胸水タンパク濃度>4.0 g/dLであると言われています。

 

2. LDH

 膿胸, リウマチ性胸膜炎, 肺吸虫症では、胸水LDH濃度>1,000 U/Lが特徴的とされています。結核による胸水と, 複雑化した肺炎による胸水(=膿胸)の双方で胸水LDH濃度上昇は見られるものの、結核の方が数値が低いので、両者の鑑別の際に有用とされています。

 

3. コレステロール

 胸水コレステロール濃度>250 mg/dLはコレステロール滲出液("cholesterol effusion")』と呼ばれます。

 

4. トリグリセリド

 胸水トリグリセリド濃度>110 mg/dLで『乳糜胸』と診断されます(他方、<50 mg/dLでは乳糜胸を除外でき, 50~110 mg/dLでは胸水のリポプロテイン分析を行う必要があります)。

 

5. グルコース

 1) 胸水グルコース濃度<60 mg/dL, または 2) 胸水/血清グルコース比<0.5を認めた場合、滲出性胸水の鑑別診断の候補は以下に絞られます。

  • リウマチ性胸膜炎
  • 複雑化した肺炎による胸水 もしくは 膿胸
  • 悪性腫瘍の滲出液
  • 結核性胸膜炎
  • ループス性胸膜炎
  • 食道破裂

それ以外の要因による滲出性胸水では、胸水と血清のグルコース値が同等となります。

 

6. クレアチニン

 漏出性胸水の胸水/血清クレアチニン比が1.0を超えていた場合、"urinothorax"と診断されます。

 

7. pH

 胸水のpHは血液ガス測定器で計測すべきとされています。血液ガスpHが正常で、胸水pH<7.3だった場合、胸水グルコース濃度も低いことが多いそうです。胸水と血液では重炭酸に勾配があるので、正常な胸水のpHは約7.60です。従って、胸水のpH<7.30は異常です。

 胸水pH<7.30となる原因には、

  • 胸水中の細胞や細菌によって、酸の産生が増加する
  • 胸膜炎, 腫瘍, もしくは 胸膜線維化によって、胸腔からの水素イオン流出が減少する

の2つがあります。

 

8. アミラーゼ

 膵臓ないし食道が胸水の原因である可能性がある場合、アミラーゼ計測が有用となり得ます1) 胸水アミラーゼ濃度が血清アミラーゼ濃度正常上限を超えている場合, ないし 2) 胸水/血清アミラーゼ比>1 のいずれかを認めた場合、滲出性胸水の原因の鑑別診断は以下の候補に絞られます。

  • 急性膵炎
  • 膵臓が原因である慢性の胸水
  • 食道破裂
  • 悪性腫瘍

 

9. アデノシンデアミナーゼ(ADA; adenosine deaminase)

 胸水ADA計測は、滲出性胸水がリンパ球優位だが初回の細胞診・塗沫染色・培養で結核が陰性だった場合において、悪性腫瘍による胸膜炎と結核性胸膜炎を鑑別するのに有用である可能性があります。通常、胸水中のADAは結核性胸膜炎で35~50 U/L, 悪性腫瘍による胸膜炎で<40 U/Lです。また結核性胸膜炎の診断に用いられる胸水中ADA濃度の診断的閾値は40 U/L<です。しかしながら、尿毒症性胸膜炎などの他に滲出性胸水を起こすような併存疾患によってADAの診断上の有用性は減少します。

 

10. 細胞診

 胸水細胞診によって悪性腫瘍による胸水が診断可能であるものの、全体的な感度は約60%です(2回目の胸水検査を実施したら15%上昇する可能性がある)。なお胸水細胞診の感度は原因となった悪性腫瘍の組織型によって異なり、肺癌患者では

  • 腺癌・・・感度は78%
  • 小細胞癌・・・感度は53%
  • 扁平上皮癌・・・感度は25%

なのだそうです。

 

11. 有核細胞数

  •  胸水中有核細胞数>50,000/μLは大抵、複雑化した肺炎による胸水でしか見られません
  • 細菌性肺炎・急性膵炎・ループス性胸膜炎による滲出性胸水では多くの場合、有核細胞数は>10,000/μLとなります。
  • 慢性的な滲出性胸水では、有核細胞数は<5,000/μLであることが典型的です。

胸膜侵襲への細胞による早期の反応は好中球優位です。急性侵襲から時間が経つにつれて、胸膜侵襲が持続していない場合, 胸水は単核球優位となります。

 胸水でのリンパ球上昇は、反応性or良性疾患, もしくは 腫瘍(リンパ腫など)の可能性を示唆しているそうです。有核細胞の85~95%がリンパ球である場合、結核性胸膜炎, リンパ腫, サルコイドーシス, 慢性リウマチ性胸膜炎, 'yellow nail syndrome', ないし 乳糜胸である可能性があります悪性腫瘍による胸水は半分以上がリンパ球優位ですが、有核細胞に占めるリンパ球の割合は大抵50~70%です

 有核細胞の10%<が好酸球である状態を"pleural fuild eosinophilia"と呼びます。"Pleural fluid eosinophilia"は悪性腫瘍と良性疾患のいずれでも起こります。"Pleural fluid eosinophilia"の鑑別診断には以下のような疾患が含まれます。

 

 あと、細菌培養・抗酸菌培養検査や, グラム染色・抗酸菌染色も忘れないで下さい

 

 

(3) まとめ

 胸水を採取して検査に提出する際にオーダーする項目は、背景にあると思われる疾患/病態を基に考える必要があることは上記から察しがつくと思われますが、最低でも

をオーダーしておけば良いのではないでしょうか。