Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

本の紹介(14); 医学部・看護学部1~2年生に勧めたい本

 今回の記事は、またまた書評です。実はこのブログ、Amazonアソシエイトプログラム』なるものに登録しており、アマゾンで販売している商品を宣伝し、実際に読者が購入すれば売り上げの一部がもらえるようになっています。これまで何度も、医療関係, ないしそうでもない書籍を気まぐれに紹介してきた理由はこれなのです(笑)

 今日は、医学, ないし看護学を習い始めて比較的年月が短い医学部・看護学部1~2年生(それ以前の高校生でも行けそうですが)が面白く読めそうな一般向けの本を紹介しようかなと思います。なお、過去に本ブログで紹介した書籍もあるので、ご了承ください。

 

(1) 医学の歴史について

 まずは、血液学, 悪性腫瘍が専門の医師であり、文筆家でもある(なんとピュリッツァー賞受賞歴あり!)シッダールタ・ムカジー氏の著作から。『がん 4000年の歴史』(早川書房では、人類が癌とどう向き合ってきたかに焦点を絞った本です。解剖学の発展や抗癌剤の発見など、医学の歴史そのものなので非常に勉強になります。

 また、『遺伝子 親密なる人類史』(早川書房も、人類が自分たちの遺伝をどう考え、研究してきた(そして利用してきた)のかを追った力作と言えます。遺伝という現象そのものの追及や、遺伝と疾患・障害の関連を人類がどう捉え行動に及んだのかetc.が詳しく書かれています。

 また、著者は変わりますが『世にも危険な医療の世界史』(リディア・ケイン, ネイト・ピーダーセン著, 文藝春秋も非常に刺激的な医療の歴史を教えてくれます。子供向けの市販薬にさえアヘンといった麻薬が入っていた, 19世紀の外科手術では、外科医が誤って助手の手や患者の健常な体の一部(e.g. 下肢の切断術で誤って睾丸を切断)する事故が多かった, 「人体の周波数を測って治療に反映する」というインチキ療法etc.と、古今東西の恐ろしげな治療法が紹介されています。

 

(2) 『人体、なんでそうなった?』(ネイサン・レンツ著, 化学同人

 この本では、生物学者が人体と他の生物を比較し、文字通り「なんでそうなったの?」という人体の特徴を紹介してくれます。以下に例を挙げます。

  • 前十字靭帯:  他の動物(4足歩行の動物)にもある。しかし人類(ホモ・サピエンス)の場合、本来4本の脚に分散していた体重負荷が2本の下肢に集中するようになった。前十字靭帯はこのような負担に耐えきれず、走っている途中で急停止した時などに、急激な負荷がかかって断裂することがある。
  • 霊長類, ホモ・サピエンスとオオコウモリは、'GULO'なる遺伝子の突然変異によってビタミンCを自分の体内で合成する能力を失った。霊長類とオオコウモリは熱帯地域に生息しており、ビタミンCの供給源たる柑橘類をいつでも摂取できるが、ホモ・サピエンスは熱帯以外にも定住している。冷蔵庫等の食糧の保存手段が限られていた時代では、容易にビタミンC欠乏に陥り壊血病で死亡していた。

 他にも、様々な興味深い人体の『不利な』構造が明らかにされています。

 

(3) 『紛争地の看護師』(白川優子 著, 小学館

 実はこの本、私はまだ読み始めたばっかしです。『国境なき医師団』に実際に参加した看護師が、イラク(ISILとの戦争), イエメン, 南スーダンといった人道危機が起きている現場で外傷や病気に苦しむ市民の診療に従事した有様が生々しく描かれています。テレビのニュース番組, ワイドショーでは分からない, ましてや日本の医療現場では経験し得ないような実情が書いてあるので、これからどんどん読み進めてみたいと思っています。

 

 以上、長文になってしまいましたが本の紹介でした。少しでも興味を持たれた方は、是非上の「今すぐ購入」をクリックし、私めに施しを下さいませ(笑)

日本の医療の人材育成が抱える課題

 数日ぶりの更新です。今日は、日頃の診療業務を通して感じた日本の人材育成の課題を綴ってみたいと思います。

 以前も本ブログやtwitterアカウントでも述べていますが、救急科にて多発外傷, 壊死性筋膜炎等の重症患者を収容し、適宜 各専門診療科(救急科は蘇生, 重症管理, 鑑別診断に特化はしていますが、特定の臓器/疾患に特化してはいない)に紹介し、精査・加療してもらう必要があります。ところが、「外勤・学会で同じグループの上級医が不在であり、治療方針が立てられない(分からない)」と専門医が言い出す事も少なくありません。

 また最近では、救急科で収容した壊死性筋膜炎の患者を一旦皮膚科に紹介し、デブリードマンを実施したものの、壊死した範囲が筋肉・関節といった深度まで達していた為に急遽整形外科医に応援をお願いした事例がありました。皮膚科医が「これより先は、筋肉はまだしも神経・血管・腱があるので、皮膚科では困難だ」と判断したら、後は整形外科に治療の主導権を移譲するのが自然な流れかと思われます。ところが、この事例では、それ以降のデブリードマンを巡って整形外科内でも方針が一定せず、更には整形外科医が皮膚科・救急科に対して、自分らの介入を拒否するかのような姿勢を見せたのです。

 ここで、参考までに当院整形外科の体制を見てみましょう。

1. 教授は専門書執筆に関わったり, メディアに出演したり, と所謂『学会の権威』的存在。大学病院での診療(回診, 外来)に加えて、病院経営に関する仕事(大学病院の幹部になっているので), 製薬会社の講演会, 学会運営の仕事, 外勤 etc.と多忙である(一応医局のトップであるが、各医局員の診療行為や, キャリア構築の監督/助言が十分出来ているとは言い難い)。

2. 医局内に複数のグループがあり、各グループは整形外科内部の異なる領域を担当する(e.g. 外傷, 骨軟部腫瘍ほか)。グループ長は、自らの領域について経験数, 知識共に豊富である。

3. 但し、上記のように各グループを構成する医局員は、グループ長無しでは治療方針すらまともに決められない事がある。

 つまり、突出して優秀な医局員がごく少数居る一方で、その医局員から十分に知識・技能を中途半端にしか伝授されていない『凡庸な』医局員が多数居るというアンバランスな人員構成なのです。

 

 なお、『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(著者;戸部良一, 寺本義也ほか 中公文庫 下記リンク参照)を読むと、上記のような日本の医療分野における人材育成が、日本軍の技術体系に酷似している事が分かります。

 日本の技術体系について、事例を挙げてみましょう。

1. 日本海軍の潜水艦を例に挙げると、

 伊号潜水艦: 艦型は27コ, 合計113隻を生産(1艦型につき平均4.2隻建造)

 呂号潜水艦:  艦型は7コ, 合計57隻を生産(1艦型につき平均8.1隻建造)

 波号潜水艦: 艦型は3コ, 合計21隻を生産(1艦型につき平均7隻建造)

と一品生産的な生産方法である。ほんの少しの改良でも艦型の変更に繋がり、標準化が出来ず大量生産が困難となった。他方、米軍は製品(e.g.潜水艦, 空母 etc.)の標準化を徹底し、同型艦の型式をできる限り長期間変更しない事で大量生産を可能とした。

2. 戦艦『大和』の場合、46センチ砲(世界最大級)を9門備え、主砲の最大射程は40km(東京〜大船間の距離に相当), 20kmの距離から命中した46センチ徹甲弾に耐えられる甲板など、突出して優れた部分もあった。しかし、対空火器が不十分であり複数回に渡り機銃やレーダーを増設。それでもレーダーの性能が悪く、レーダーと連携した射撃指揮体系も不十分だった。加えて、砲兵の練度も不足していた。

3. 日本陸軍の場合、1905年に制定した38式歩兵銃をアジア太平洋戦争中も使い続け、対空火器(レーダー)・対戦車砲の開発も遅れていた。他方、97式戦闘機, 1式戦闘機『隼』という優秀な戦闘機を開発している。

 日本軍『一品生産』方式で融通が利かない上、突出して優秀な領域とその他凡庸な領域の格差が著しいが分かります。また、日本軍は戦艦, 戦闘機等の操縦に名人芸(と寝食を惜しむ程度の修練)を求めましたが、米軍は、たとえ高度な技術であっても、平均的な人間でも操作が容易な武器体系を開発していました。

 

 こうして見ると、① 突出して優秀な領域/人員とその他の間で能力の格差が顕著, ② 知識・技能の習得の際には、超過勤務してまで経験数を稼ぐetc.の自己超越が必要, ③ 最新の疾患・治療方針に関する知識が全医局員に浸透していない(医局員の能力が『一品生産』的), といった共通点が、現代日本の医師の人材育成と, アジア太平洋戦争における日本軍の間に見受けられます。

 冒頭の部分で述べたような医療現場で発生している矛盾を解消する為には、米軍に倣い、①知識や技能の標準化, ②平均的な医療スタッフも容易に習得し実践可能な技能・技術の開発 が急務と言えるでしょう。

【初期研修医向け】ヤバい指導医の見分け方と対処法【暫定版】

 こんばんは。今日は久々の更新になります。今回は、初期研修医(特に1年目)の皆様の為に、ちょっとしたライフハック(?)をお届けします。題名にも書きましたが、「ヤバい指導医」ー ついて行ったら、体もメンタルもボロボロにされるか、学べる事も学習できず、仕事もクソも成り立たなくなる ー の特徴を私の経験則から挙げ、対処方法も稚拙ながら紹介しようと思います。

(1) いわゆる「ヤバい指導医」の特徴

① 後輩を教育する気が無い/能力が無い

 初期研修医1年目で、しかも研修が始まって2ヶ月程度の頃、私が経験した指導医(50歳台, 男性, 循環器内科)は、私に「いずれ診断カテーテルをやらせてあげるから見とけよ」と言って、3~4回程度の見学・助手を経て私がやってみる番になりました。

 私もそれなりに、手技を解説した本を読んだり、指導医のやっていた手順を反芻したりして学習したつもりですが、何せ人生初の診断カテーテルです。緊張もあってそんな上手く行く訳がありません。ところが、その指導医は「あれだけやり方見て覚えとけと言っただろう!」etc.と烈火の如く怒り出し、カテーテル室の雰囲気は一気に険悪になり、パニックになった私は手元が尚更狂い冷静さを失ってしまいました。

 後輩が上手くいかない時、穏当に誤りを指摘しつつ適宜介助する事で、手順を覚えさせる(もしくは思い出させる)のが本来の好ましいアプローチの筈です。怒鳴りつけてしまっては、周囲の医療スタッフの感情的動揺を悪化させてしまい、冷静な思考/対応を妨げてしまいます。悪手としか言いようがありません。

 他にも、これは私の同級生が居た臨床研修病院の事例ですが、救急外来の当直は初期研修医と指導医がペアでやる規則になっているのに、やってきた患者の診療は初期研修医だけで行っていて、指導医は当直室からなかなか下りてこない(診断・治療の際に必要な助言を仰げない)という事が多々あったようです。他に、CPC(臨床病理カンファレンス; 病理解剖となった症例について、担当した臨床各科医師と病理診断医双方が出席するカンファレンス)に、臨床側で担当した初期研修医と病理医は来たが、臨床側の上級医(指導医)が来ない/遅刻するという事例も多々見聞きしました。

 言うまでもないと思いますが、後輩を教育する気が無い, もしくはノウハウが欠落している指導医には(理想を言えば)付くべきではありません。

② 周囲に当たり散らす

 イライラして看護師やソーシャルワーカー, 医療事務, あなた方研修医など、周囲に怒鳴り散らすような人間は約90%ロクな奴じゃありません。実際表には出さなくても、看護師ら同僚からは腫れ物以上の扱いを受けています。「マジ、あいつ面倒くせー」みたいな感じで。

 そもそも、些細な事でキレて怒鳴り散らすような奴に、あなた方は助言を仰たいですか?9割方の皆さんは、"Of course, NOT!!"と言うでしょう(笑)

③ 学習能力が低い

 これも私の経験談になってしまいますが、医学部に入学し卒業するような集団は大抵学習能力が高く、一度指摘された誤謬や, 重要な知識といったものは比較的容易に学習してしまいます。しかしながら、時折例外的な人がいるのも事実です。

 1. あなたが国家試験対策・研修医向け参考書・研修医向け勉強会を通して学んだ知識が完全に欠落している, 2. 先輩医師(そして時々看護師)から注意/叱責を受ける回数が、その指導医と同年代・もしくは後輩の医師と比較して明らかに多い, といった特徴のある指導医は、あなたを指導できるだけの知識や能力が欠落している可能性があります。

④ 価値観の押し付け(精神主義をゴリ押しする)

 既に本ブログで言及しているように、燃え尽きは心血管系疾患リスク, うつ, 自殺に加えて、医療事故の増加も増やすというデータが出ています。しかし、それにも御構い無しで長時間勤務を許容(或いは奨励)するような態勢が日本全国の医療機関で蔓延しているのも事実です。

【医療関係者向け】医師の燃え尽きと、医療安全・患者満足度・プロフェッショナリズムの関連性 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

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 そんな中で、ようやく医療機関版『働き方改革』に乗り出したところもあるのですが、それに頑として抵抗する人が一部に居ます。私が経験した例(50代男性, 外科系)では、自分の仕事を終えて帰る他の医師のことを悪く言い、「自分はこんなに丁寧に/一生懸命やっているんだ!」とアピールしていました。更に私が体調を崩し早退しようものなら「自分はこれぐらいの症状は我慢してやっている!」「お前は怒るとすぐインフルになって休む」などと、医師として有るまじき暴言に及んだのです。

 体調が悪いのに診療行為継続なんて、パフォーマンスが落ちて患者側に害を及ぼしかねないのくらい、分かりませんかね?長時間労働パワハラで燃え尽きて、実際に自殺した医師が何名か居ましたけど、ご存知ありませんか?そんなことも分からない指導医は、率直に言って害悪でしかありません。

(2) ヤバい指導医への対処法

 それでは、私なりに考えた対処法を紹介しましょう。

① その科の上層部に相談する

 問題となっている指導医よりも上の医師(e.g. 部長, その医師の先輩)が居たら、その先生に相談をしてみましょう。何らかの助言や対応策を考えてくれるかもしれません。

② 初期研修担当の部署に相談する

 臨床研修指定病院には必ず、初期研修医のお世話を担当する役職・部署があります。①がやりにくい, もしくはちゃんと取り合ってもらえない場合は、まずそこの職員に相談してみましょう。「途中だけど、この科での研修を切り上げて他の科へ行きたい」, 「指導医や所属グループを変えてもらえないか」etc.と言ってみるのです。

 また、大学病院, 有名研修病院のような規模の大きい臨床研修指定病院になるほど、初期研修医担当部署に教授・准教授クラスの医師がトップとして着くことが多いのですが、その先生に相談する方が、事務職員に言うよりも効果的かもしれません。

③ 最終手段 ー その病院を辞める

 ①, ②の手段を以ってしても満足のいく結果に至らなかった場合、思い切ってその病院を辞めて、他の評判の良い(研修環境が充実している)研修病院へ移るのも全然アリだと私は思います。実際、私の研修医同期や先輩でも、他の病院で燃え尽き・パワハラを経験し、うつで休職した後、その病院を辞めて私の居た臨床研修病院に移ってきた人が居ました。

 初期研修を中断したり、臨床研修指定病院を途中で変えてしまっても、あなたのその後の人生に大した影響は及びません。クソみたいな労働環境に身を曝し続けて心身ともに潰されるよりは、そんな職場を辞めて新しい環境を求めましょう。

④ 情報を共有しよう

 上記(1)のような環境へ、何も知らずに就職し『被害』を受ける研修医をこれ以上生まないように、何らかの手段で情報を共有する(e.g. 自分の出身大学の後輩に教える, SNSで匿名で発信する)のも悪くないと思います。そうして労働/研修環境に関する悪い評判が広がると、新入職員(初期・後期研修医)が入ってこなくなるので病院側も対応せざるを得なくなるでしょう。

大学病院救命センターに勤務していて感じたことなど。

 久しぶりの更新となります。時々ネタはふと思いつくのですが、なかなか文章化する機会がなく(正確には、気が起きず)過ごしていました。今日は、大学病院の救命センターで診療に携わって思った事などを綴りたいと思います。

 

(1) 内科系診療科でも重症管理(ICU, ER)に慣れたスタッフが必要

 前から本ブログで言及していますが、内科系診療科の医師で経験年数に関係なく「重症はうちじゃちょっと…」・「これはうちじゃない」などと言って、救急科から紹介された患者を受け取らず、結局救急科が主体となって入院治療を行う場合がしばしばあります。中には状態が安定した後も救急科管理になり、転院交渉までやっていた事例すらありました。例外的なのは、普段から心筋梗塞, 重症心筋症といった緊急性の高い疾患の診療に慣れている循環器内科くらいです。

 確かに救急医は蘇生治療/全身管理のスペシャリストですが、肺, 腎臓, 肝臓etc.と特定の臓器に特化している訳ではありません。ましてや、こちらとしては「重症例や社会的背景がややこしい患者などは全て救急科に押し付ける」という形でずっとやられても埒が明かないし、正直モチベーションも下がってしまいます。

 各内科系診療科/医局内に、ERやICUに特化した医師を複数養成, ないし在籍させて、彼ら・彼女らが入院後のICUにおける診療を行うシステムを作った方が効率的だと思うのは私だけでしょうか?或いは、「ICU内科」という領域を新設し、その枠組み内に腎臓, 循環器, 消化器, 感染症etc.と各領域の医師を所属させるというシステムも選択肢の内だと考えます。

(2) 外科系診療科も、外傷診療に慣れて欲しい

 救急科は、3m以上からの墜落, 人と車の事故といった高エネルギー外傷の初期診療を行う機会が多いです。但し、特定の臓器(e.g. 心臓, 肺, 肝臓)の止血・修復に特化している訳ではなく、最終的には各領域の外科医にお願いする場合が多いのです。

 但し、時折コンサルトを受けた外科医が及び腰であったり、そもそも外傷の診療の経験が乏しく右往左往しがちな事があります。こちらもやはり、高エネルギー外傷/多発外傷の診療/蘇生治療を救急科に任せきりにせず、学習してもらう必要性を感じます。

(3) やはり『外勤』というシステムは非効率的

 以前も本ブログで言及していますが、大学病院には、医局員の薄給を補うため1週間に1~2回の頻度で市中病院の外来や当直に生かせる『外勤(医局バイト)』という制度があります。

 上級医が外勤で不在で、大学病院に居るのは経験年数の浅い若手だけとなると、折角コンサルトをかけても治療方針が決められないという事態が起こります。極めて非効率的であり、むしろ患者に害が及びかねません。

    外勤しなくて済むよう、大学・市中病院間の適正な人員配置や、給与体系をよくよく考えてもらわないといけません。

(4) 社会的サポートの欠如

    救急科では、処方された薬剤を過量内服する急性薬物中毒の患者を診療する機会が多いです。中には同じ事を何回もやってしまう人もいます。このような患者の多くは解離性パーソナリティ障害等の精神疾患が背景にあり、更には家庭や職場の環境/人間関係も不良という場合が多いのです。更に、子供の頃に遡ると、親の『しつけが厳しかった』, 性的な虐待を受けていたという経緯があったりします。

    こういった患者が過量内服を繰り返さぬよう、保健所等による介入がもっと必要だと思います。加えて、DVや子供の虐待を早期に発見/検挙する態勢の整備が望まれます。なお、児童相談所は一旦保護した児童を、最終的には元の家庭(虐待した親の元)に帰す方針だという事を以前聞いた覚えがありますが、私は良心的な里親を確保し、その家庭に被虐待児の将来を託す方が絶対に良いと思います。

(5) 教育, 診療,研究の分割

    大学病院の職員は、地位にもよりますが1. 大学病院での診療(初期・後期研修医の指導や医局バイトを含む), 2. 医学生への教育(講義,病院実習, 定期試験), 3. 研究 の3つを並行してやっている場合が多いのです。そして、この3つを全部こなすのも限度があり、うち1つ ー特に教育ー の質が低下しがちです。

    医学部/附属病院の職員を診療, 教育, 研究の3つに分割し、業務を分担すべきです。その上で、定期的にこの3部門間で人員を入れ替える事で、例えば実臨床で得た経験を医学部の講義に活用したり、臨床で直面した疑問・課題を研究テーマにしたり、といった好循環?が生まれるかもしれません。