Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

Clostridioides difficile感染症の診断と治療

 みなさんこんにちは。現役救急医です。今日は、偽膜性腸炎の治療や診断について、UpToDateを基にまとめてみようと思います。なお、偽膜性腸炎の起炎菌は以前まで、『クロストリジウム・ディフィシル』と呼ばれていましたが、近年になり"Clostridioides difficile"へ変更になったそうです。長ったらしいので、以下"CD"と呼びます。また、『CD感染症』という呼称も長ったらしいので、以下"CDI(Clostridioides difficile infection)"という略称を使用します。

 

(1) 症状について

 典型例では抗菌薬使用下でCDIを発症することが多く, 多くの場合、抗菌薬治療から2週間以内に発症する(稀に、抗菌薬治療から10週間後に発症した症例もあり)。但し市中感染CDIの約30%で抗菌薬使用歴がなかったという研究もあるので、「抗菌薬使用歴なし=CDIではない」という判断はすべきでない。他にも、65歳超, 最近の入院歴あり, プロトンポンプ抑制薬の投与などもリスクファクターである。

 CDIでは、24時間に3回以上の水様便が特徴的な症候である。他にも、下腹部痛・下腹部触診時の圧痛, 発熱, 吐き気, 食欲不振といった症状も呈するまたCDIでは、WBC数が平均で15,000/μLと上昇していることもある。

 

① 重症CDIの診断基準

 重症CDIの場合、下痢, 下腹部or腹部全体の痛み, 腹部膨隆, 発熱, 循環血液量低下, 乳酸アシドーシス, 低アルブミン血症, クレアチニン上昇, WBC>40,000/μLといった症候が見られる。重症CDIの基準には、WBC>15,000/μL, ないし 血中クレアチニン≧1.5 g/dL といった項目が含まれる。

 

② 劇症型CDI

 劇症型CDIでは、以下の症候のうちいずれかを呈する。

  • 低血圧 or ショック:  多臓器不全へ進行することもある。血圧低下の原因が、腸管穿孔・腹膜炎である場合もある。
  • イレウス:  ほとんど下痢をせず、急激にイレウスとして発症することもある。そのような患者では多くの場合、結腸が壁肥厚を起こして拡張している。
  • 巨大結腸症全身状態不良で, 画像上大腸の拡張(結腸の内径が>7 cm and/or 盲腸の内径が>12 cm)を認める場合に疑う。腸管穿孔を起こして重症化することもある。

 

③ 再発性CDI

 「適切な治療中はCDIが改善しているものの、治療が終了/中断した2~8週間後に症状が再燃したもの」を再発性CDIと呼ぶ。CDIへの治療終了後30日以内にCDIが再燃する患者は、実に25%にのぼる。CDIが再発した患者は、その後も再燃するリスクが顕著に高い。また再発のリスクファクターには、65歳超, 基礎疾患が重篤である, CDI治療中も抗菌薬治療が必要である, toxin Bへの抗体を介した免疫反応が欠如, といったものが挙げられる。

 再発性CDIは、軽症・重症・劇症型いずれの形も取りうる。1,500名を超えるCDI患者を対象にした研究では、再発性CDI患者の34%が入院となり, 28%が重症化し, 4%が劇症型結腸炎を発症した。

 

 

(2) 診断

 CDIは、CD toxin B遺伝子が核酸増幅検査(NAAT; nucleic acid amplification test)陽性, 或いは 便のCD toxin検査陽性 のいずれかによって診断する。

 下痢があってCDIが疑われる患者では、水様便のみをCD検査に提出すべきである。またCD診断の為の検査は、臨床的に顕著な下痢のある患者のみで行うべきである。

 イレウスがありCDIが疑われる患者では、直腸拭い液へのtoxin検査, ないし 嫌気性培養を行う場合がある; イレウスを伴うCDIでは、直腸拭い液CD培養の感度は高い。

 CDIを検査によって診断するには

  • NAATのみ実施
  • 1) グルタミン酸脱水素酵素(GDH; glutamate dehydorgenase)抗原, 及び toxin A・toxin Bに対する酵素免疫法(EIA; enzyme immunoassay) で最初にscreeningを行い、2) その後、必要に応じて(i.e. GDHに対するEIA, toxin A/Bに対するEIA のどちらかが陰性なら)NAATを実施

のいずれかが好まれる。

 ※: UpToDateには、NAATやGDH抗原EIA, Toxin A・B EIAの感度・特異度などについて各論が述べられています。他にも、細胞培養による細胞毒性検査法, 選択的嫌気性培養についても言及されていますが、冗長になるので今回は割愛します。ごめんなさい。

 他に、診断の為に補助的に用いられる検査法に以下のようなものがある。

1. 画像診断

 重症CDI・劇症型CDIの症状がある患者では、中毒性巨大結腸症, 腸管穿孔などの有無を診断する為に、腹部・骨盤の画像検査が必要である。経口投与, 及び 静注の造影剤を用いたCTが好まれる。

 中毒性巨大結腸症では画像上、

  • 結腸拡大(内径>7 cm)
  • 小腸の拡大, "air-fluid levels(小腸閉塞or虚血に似る)", "thumb printing(小腸壁がホタテガイ状になる?)"

が見られる

 他にCD腸炎で画像上見られる所見には、強い結腸壁肥厚と低吸収性の壁肥厚が含まれる。

 画像上、偽膜性腸炎(腸管内膜の重篤な炎症)と一致する所見は、CDIの可能性を強く示唆する。大腸の炎症と粘膜の浮腫によって形成される"accordion sign"(経口投与造影剤が肥厚した結腸膨起の間に溜まることで見えるもの)は、偽膜性腸炎である可能性を強く示唆している

2. 内視鏡

 下部消化管内視鏡は、1) CDIの典型的な症状を呈する患者, 2) 検査が陽性の患者, and/or 3) "empiric treatment"に反応している患者 では不要とされる。一般的に、内視鏡が必要となるのは、病変の直接観察 and/or 腸管粘膜の生検 が必要となる別の診断が疑われる場合である。他にも、イレウスないし劇症型CDIで下痢のない患者にて、内視鏡は偽膜を直視できるので有用かもしれない。但し、内視鏡実施の判断は慎重にすべきである; 実施する際には、拡張した結腸の穿孔を防ぐために、S状結腸に限定して軟性内視鏡を行い, 送気は無しor最小限にすべきである

 CDIの場合、下部消化管内視鏡では次のような所見が見られることがある。

  • 腸管壁の浮腫, 脆弱性, 発赤, 炎症
  • 炎症を起こした粘膜状の偽膜(軽症, ないし 治療中のCDIでは見られないこともある)

 

 

(3)  治療

 1) CDIの症状があり、検査でCD陽性である患者, 及び 2) 検査結果が出る前であっても、臨床経過からCDIを強く疑う患者 が、以下に示す抗菌薬による治療適応とされている。

 他にも、

  • 感染制御・・・CDIと診断されたor疑われる患者に対しては、接触感染対策を講じるべきである。当該患者に接触前, 及び 接触後の医療従事者は、水と石鹸で手を洗う必要がある。なおCDの芽胞はアルコールに耐性を示す。
  • 抗菌薬の中止・・・可及的早期に、原因となった抗菌薬を中止すべきである。
  • 輸液・栄養・下痢のmanagement・・・体液喪失・電解質異常の補正などを行う。

の3つも重要である。

 

重症例の治療

 初発のCDIで, 重症でない場合に選択される薬剤は以下の通り。

  • メトロニダゾール経口投与500mgを1日3回。
  • バンコマイシン経口投与:  125 mgを1日3回。点滴では、結腸内腔にまで十分薬剤が分泌されないのでCDI無効
  • フィダキソマイシン経口投与:  200 mgを1日2回。

このうちいずれかを10日間継続する。

 

重症例の治療

 抗菌薬治療に加え、補助的治療, 緊密なモニタリングが必要である; 加えて、外科的治療適応に関して評価を受ける必要がある抗菌薬は概ね上記のものを10日間使用する(米国で推奨される薬剤は、推奨度が強い順にフィダキソマイシン経口投与>バンコマイシン経口投与であり, メトロニダゾールは非推奨)

 また重症劇症型CDIでは、結腸切除術のかわりに便移植が用いられており, 後方視的研究・観察研究では死亡率低下との関連が示されている; 但し、便移植と結腸切除術を比較する前方視的ランダム化研究による検証が必要である。

 以下のうち1個以上にCDI患者が該当する場合、早期の外科的コンサルテーションが必要である。

  • 低血圧
  • 38.5 ℃≦の発熱
  • イレウス, もしくは 顕著な腹部膨隆
  • 腹膜炎, もしくは 顕著な腹部の圧痛
  • 意識状態の変容
  • WBC>20,000/μL
  • 血中乳酸濃度>2.2 mmol/L
  • ICUへ入室
  • 臓器障害
  • 3~5日間の最大限の内科的治療で改善しない

いずれも予後不良と関係している。他方、外科的治療の絶対的適応基準は以下の通りである。

  • 結腸の穿孔, もしくは 全壁虚血
  • 腹部コンパートメント症候群, もしくは 腹腔内圧上昇(雑に言うと、腹腔内圧が上がり過ぎて循環・呼吸・腎機能等に障害を来していることです)
  • 適切な輸液にも関わらず、血管作動薬を必要とするほどの循環・呼吸状態の悪化が生じている場合、早期に
  • 気管挿管・人工呼吸器を使用するほどの呼吸不全
  • 臓器障害悪化
  • 適切な内科的治療に関わらず、腹膜炎の臨床所見がある or 腹部所見悪化が見られる

 

再発症例の治療

 1回目の再発の場合、抗菌薬は

  • バンコマイシン経口投与:  1. 125 mg 1日4回10~14日間 → 2. 125 mg 1日2回7日間 → 3. 125 mg 1日1回7日間 → 4. 125 mgを2~3日間隔で2~8週間
  • フィダキソマイシン経口投与:  200 mg 1日1回10日間, または 1. 200 mg 1日2回5日間→2. 1日1回20日

のいずれかが使用される。それに加えて、直近の6ヶ月以内にCDIの既往があった症例について, 米国ではbezlotoxumab(CD toxin Bに結合するヒト化モノクローナル抗体)単回投与が承認されている。

 2回目以上の再発の場合も抗菌薬を使用し, また、直近の6ヶ月以内にCDIの既往があった症例には、bezlotoxumabが適応(米国の場合)となる。CDIへ適切な抗菌薬治療を3回以上行い, 4回目以上再発を起こした症例では、便移植を考慮する。

 

劇症結腸炎の治療

 劇症型でも抗菌薬治療, 補助的治療, 緊密なモニタリング, 及び 外科的治療適応に関する評価が必要である。抗菌薬治療は

  • イレウス無い場合・・・バンコマイシン経口投与 500 mg 1日4回と, メトロニダゾール点滴 500 mg 8時間ごと の併用。
  • イレウスある場合・・・イレウスが無い場合と同様。これに 1) 便移植, 或いは 2) バンコマイシン直腸内投与(500 mgを生食 100 mLに溶解し浣腸。可能な限り直腸内に留め, 6時間ごとに再投与), のいずれか の併用を考慮。なお1), 2)は直腸穿孔のリスクもあるので、注意が必要である。

と状態により異なる。劇症型CDIの患者で、便移植を考慮する条件は次の通りである。

  • 再発性CDIが劇症型である
  • イレウスを伴う劇症型
  • 3~5日間の内科的治療で改善しない劇症型

 

 なんか雑で冗長なまとめになって申し訳ありません。

胸水を検査に出す時、何をオーダーすべきか?

 みなさんおはようございます。現役救急医です。今日は、胸水を検査に提出する際に調べる項目などについて, UpToDateを参考にしてまとめてみようと思います。本当は胸腔穿刺やドレナージの手技についてもまとめてよかったのですが、冗長になりそうなので今回は割愛し, 別の機会にやります。

 

(1) 胸水は漏出性("transudates")か, 滲出性("exudates")か?

 胸水を採取したら、まず「漏出性なのか, 或いは 滲出性なのか」を鑑別する必要があります。それぞれの定義等を以下に示します。

  • 漏出性・・・胸部の静水圧と膠質浸透圧の不均衡により生じる。漏出性胸水は、患者の臨床経過から絞り込むことが容易いとされる。主な原因病態:  慢性心不全, ネフローゼ症候群, 胸腔外の疾患(e.g. 腹腔・脳脊髄腔・後腹膜腔からの体液の移動, 医原性など)
  • 滲出性・・・主に胸膜や肺の炎症, ないし 胸腔内のリンパ管の障害により生じる感染症・悪性腫瘍・横隔膜下からの体液移動など、原因となる病態は多い

 「漏出性か、滲出性か」を鑑別する基準も当然存在します。まず古典的なものとして"Light's Criteria Rule"があり、

  • 胸水/血清タンパク比>0.5
  • 胸水/血清LDH比>0.6
  • 胸水LDH値が、血清LDH正常上限値の2/3を超える

1個以上を満たした場合に滲出性と診断します。なお「2項目以上」を基準にした場合、特異度は低下する一方で感度は上昇するそうです。但しこのLight's Criteriaは、胸水/血清LDH比・胸水LDHの双方を含んでおり, これらは高い相関性を有しているので、批判されています。よって、次のような代替基準が提案されています。

1) "Two-test rule"

いずれかを満たせば滲出性

2) "Three-test rule"

  • 胸水タンパク濃度>2.9 g/dL
  • 胸水コレステロール濃度>45 mg/dL
  • 胸水LDH値が、血清LDH正常上限値の0.45倍を超える

いずれかを満たせば滲出性

 

 

(2) 検査に提出する項目

1. タンパク

 漏出性胸水の大半でタンパク濃度<3.0 g/dLであるものの、心不全時の急激な利尿でも胸水タンパク濃度の濃度上昇(=滲出性胸水の特徴)をきたすこともあるそうです。また結核による胸水は、常に胸水タンパク濃度>4.0 g/dLであると言われています。

 

2. LDH

 膿胸, リウマチ性胸膜炎, 肺吸虫症では、胸水LDH濃度>1,000 U/Lが特徴的とされています。結核による胸水と, 複雑化した肺炎による胸水(=膿胸)の双方で胸水LDH濃度上昇は見られるものの、結核の方が数値が低いので、両者の鑑別の際に有用とされています。

 

3. コレステロール

 胸水コレステロール濃度>250 mg/dLはコレステロール滲出液("cholesterol effusion")』と呼ばれます。

 

4. トリグリセリド

 胸水トリグリセリド濃度>110 mg/dLで『乳糜胸』と診断されます(他方、<50 mg/dLでは乳糜胸を除外でき, 50~110 mg/dLでは胸水のリポプロテイン分析を行う必要があります)。

 

5. グルコース

 1) 胸水グルコース濃度<60 mg/dL, または 2) 胸水/血清グルコース比<0.5を認めた場合、滲出性胸水の鑑別診断の候補は以下に絞られます。

  • リウマチ性胸膜炎
  • 複雑化した肺炎による胸水 もしくは 膿胸
  • 悪性腫瘍の滲出液
  • 結核性胸膜炎
  • ループス性胸膜炎
  • 食道破裂

それ以外の要因による滲出性胸水では、胸水と血清のグルコース値が同等となります。

 

6. クレアチニン

 漏出性胸水の胸水/血清クレアチニン比が1.0を超えていた場合、"urinothorax"と診断されます。

 

7. pH

 胸水のpHは血液ガス測定器で計測すべきとされています。血液ガスpHが正常で、胸水pH<7.3だった場合、胸水グルコース濃度も低いことが多いそうです。胸水と血液では重炭酸に勾配があるので、正常な胸水のpHは約7.60です。従って、胸水のpH<7.30は異常です。

 胸水pH<7.30となる原因には、

  • 胸水中の細胞や細菌によって、酸の産生が増加する
  • 胸膜炎, 腫瘍, もしくは 胸膜線維化によって、胸腔からの水素イオン流出が減少する

の2つがあります。

 

8. アミラーゼ

 膵臓ないし食道が胸水の原因である可能性がある場合、アミラーゼ計測が有用となり得ます1) 胸水アミラーゼ濃度が血清アミラーゼ濃度正常上限を超えている場合, ないし 2) 胸水/血清アミラーゼ比>1 のいずれかを認めた場合、滲出性胸水の原因の鑑別診断は以下の候補に絞られます。

  • 急性膵炎
  • 膵臓が原因である慢性の胸水
  • 食道破裂
  • 悪性腫瘍

 

9. アデノシンデアミナーゼ(ADA; adenosine deaminase)

 胸水ADA計測は、滲出性胸水がリンパ球優位だが初回の細胞診・塗沫染色・培養で結核が陰性だった場合において、悪性腫瘍による胸膜炎と結核性胸膜炎を鑑別するのに有用である可能性があります。通常、胸水中のADAは結核性胸膜炎で35~50 U/L, 悪性腫瘍による胸膜炎で<40 U/Lです。また結核性胸膜炎の診断に用いられる胸水中ADA濃度の診断的閾値は40 U/L<です。しかしながら、尿毒症性胸膜炎などの他に滲出性胸水を起こすような併存疾患によってADAの診断上の有用性は減少します。

 

10. 細胞診

 胸水細胞診によって悪性腫瘍による胸水が診断可能であるものの、全体的な感度は約60%です(2回目の胸水検査を実施したら15%上昇する可能性がある)。なお胸水細胞診の感度は原因となった悪性腫瘍の組織型によって異なり、肺癌患者では

  • 腺癌・・・感度は78%
  • 小細胞癌・・・感度は53%
  • 扁平上皮癌・・・感度は25%

なのだそうです。

 

11. 有核細胞数

  •  胸水中有核細胞数>50,000/μLは大抵、複雑化した肺炎による胸水でしか見られません
  • 細菌性肺炎・急性膵炎・ループス性胸膜炎による滲出性胸水では多くの場合、有核細胞数は>10,000/μLとなります。
  • 慢性的な滲出性胸水では、有核細胞数は<5,000/μLであることが典型的です。

胸膜侵襲への細胞による早期の反応は好中球優位です。急性侵襲から時間が経つにつれて、胸膜侵襲が持続していない場合, 胸水は単核球優位となります。

 胸水でのリンパ球上昇は、反応性or良性疾患, もしくは 腫瘍(リンパ腫など)の可能性を示唆しているそうです。有核細胞の85~95%がリンパ球である場合、結核性胸膜炎, リンパ腫, サルコイドーシス, 慢性リウマチ性胸膜炎, 'yellow nail syndrome', ないし 乳糜胸である可能性があります悪性腫瘍による胸水は半分以上がリンパ球優位ですが、有核細胞に占めるリンパ球の割合は大抵50~70%です

 有核細胞の10%<が好酸球である状態を"pleural fuild eosinophilia"と呼びます。"Pleural fluid eosinophilia"は悪性腫瘍と良性疾患のいずれでも起こります。"Pleural fluid eosinophilia"の鑑別診断には以下のような疾患が含まれます。

 

 あと、細菌培養・抗酸菌培養検査や, グラム染色・抗酸菌染色も忘れないで下さい

 

 

(3) まとめ

 胸水を採取して検査に提出する際にオーダーする項目は、背景にあると思われる疾患/病態を基に考える必要があることは上記から察しがつくと思われますが、最低でも

をオーダーしておけば良いのではないでしょうか。

チェルノブイリのロシア兵は本当に『被曝』だったのか

 こんばんは。現役救急医です。ロシアのウクライナ侵攻は、ロシアが首都キーウ攻略から手を引き, 2014年以降占領を続けているクリミア・東部(ルガンスク, ドネツク)からの攻撃に重点を置き始めているようです。そんな中、4月1日ごろから気になる情報が出回っています。曰く、ロシア軍は今年2月下旬にチェルノブイリ原発とその周辺地域を占領していましたが、3月31日、同原発から撤退して, ウクライナ側に管理を委ねることにしたそうです。

www.cnn.co.jp

また、ロシア軍のチェルノブイリからの撤退に関して、「ロシア軍が原発周辺の最も汚染された地域『赤い森』で塹壕等を掘っていた」, 「そのせいでロシア軍兵士が大量被曝した」という情報や、「兵士らに急性放射線症の症状が出た」という情報も出回っています。

 率直に言うと、私はこうした情報に関して懐疑的です。ですがその前に、放射線が人体に与える影響などについてざっとまとめてみてから, 「何故私が懐疑的なのか」を述べようと思います。

 

 

(1) 放射線が人体に与える影響

 放射線が人体に与える影響についてまとめる前に、放射線の定義や, その単位についてまとめておく必要があります。放射線医学総合研究所(注:今は別名称の組織へ改編されています)が作成した『医学教育における被ばく医療関係の教育・学習のための参考資料』によると、放射線とは、

物質(分子・原子)を電離(+電荷のイオンと−電荷の粒子に分離)する能力を持つ粒子線, あるいは 電磁波

のことを指します。放射線にはα線β線中性子など様々なものが含まれますが、以下の2群(?)に分類されます。

実はα・β・γ・X線中性子の性質もそれぞれ異なるのですが、話が長くなるので今回は割愛します。

 原子炉では、ウラン235(U-235)・プルトニウム239(Pu-239)といった放射性元素中性子を吸収することで2個の原子核に分裂する核分裂が起きています。この核分裂によって中性子が放出され、それが周囲のU-235・Pu-239に当たって更に核分裂を起こすことで連鎖反応を起こします。核分裂の際にできた『2個の原子核』には、ストロンチウム90(Sr-90), セシウム137(Cs-137), ヨウ素131(I-131)といったものが含まれますが、いずれも不安定な放射性元素であり, β線γ線を放出します。

 放射線の単位にはベクレル(Bq), シーベルト(Sv), グレイ(Gy)と様々なものがありますが、それぞれ定義が異なりますので注意が必要です。

  • 放射性物質放射能の単位がBqで、放射線発生装置(CTやレントゲンなど)の出力の単位がkV, mAであり、これら装置の性能試験等に用いられ, 放射線と空気の相互作用(で生じる電荷)に注目した『照射線量』の単位がC/kg, Rである。
  • 放射性物質放射線発生装置が放射線を出している環境に人が居る(または空気などがある)場合、人体と放射線のエネルギーのやりとりを表す量を『放射線定量と呼ぶ。
  • 放射線定量のうち、人体・空気といった物質が吸収した単位質量当たりのエネルギー『吸収線量』と呼び、単位はJ/kg, Gyであ。これは全ての放射線量に適用でき, 放射線防護量を導く重要な量である。
  • 等価線量』・・・単位はSv放射線(e.g. α線, β線など)による吸収線量放射線加重係数』(放射線の種類等を加味したもの)を掛けて, 次に各放射線の数値を足し合わせたもの。単独の臓器・組織に関する数値である。

 例) γ線放射線加重係数=1)が10 mGy, 中性子(ここでは放射線加重係数=21とする)が5 mGyなら、10[mGy]x1 + 5[mGy]x21 = 115[mSv]

  • 実効線量』・・・単位はSv組織加重係数』(組織ごとの影響を加味したもの)各臓器の等価線量に掛けて, 次に各臓器の数値を足し合わせたもの。全身への影響を表す数値である。

 例) 肝臓(組織加重係数=0.04)が100 mSv, 胃(組織加重係数=0.12)が50 mSvの等価線量を受けたとすると、100[mSv]x0.04 + 50[mSv]x0.12 = 10[mSv]

 なお実際の現場(e.g. 医療機関など)では各臓器・組織ごとの等価線量を測定することは困難(よって、実効線量測定も困難)なので、サーベイメーター・個人被ばく線量計等で測定した『線量当量』(単位はSv)が使用されます。また、1時間当たりの線量当量を『線量当量率』と呼びます。測定装置には、次のようなものがあります。

  • 電離箱検出器, 電離箱式サーベイメーター:  照射線量(単位: C/kg, R)から吸収線量(Gy), 次に空間線量率(単位: μSv/h)を求める。特に後者はγ線による空間線量率を測定するものである。
  • ヨウ化ナトリウムシンチレーション式サーベイメーター:  γ線による空間線量率を求める。
  • 個人式被ばく線量計:  個人の被ばく線量(Sv)を求める。なおガラスバッジは、1ヶ月の積算線量を求めるものである。
  • ガイガーミュラー管式サーベイメーター, プラスチックシンチレーション式サーベイメーター:  表面汚染検知に使用し、β線を測定。単位はcmp(1分間あたりの放射線をカウントしたもの)。
  • 硫化亜鉛シンチレーション式サーベイメーター:  表面汚染検知に使用し、α線を検知。単位はcpm。

 

 では、本題である(?)人体への放射線への影響についてのまとめに移ります。まず、放射線の人体への影響は、以下の2つに大別されます。

  • 『確定的影響』 放射線によって、多くの細胞が細胞死を来すことが原因。不妊急性放射線等を来す。一定の線量(閾値)を超えることで発生率が急増する。
  • 『確率的影響』放射線によって、単一の細胞にて突然変異が惹起されることが原因。一定期間の潜伏期間をおいて癌を来す。閾値なく、線量増加と発生率が比例する。

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確定的影響と確率的影響の違い(旧『放射線医学総合研究所』の資料より転載)

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組織・症候別の急性吸収線量の閾値など(旧『放射線医学総合研究所』の資料より)

また放射線の人体への影響は、「急性か晩発か」によっても分類されます。

  • 急性:  一般的に細胞分裂の頻度が多い組織ほど, 形態や機能が未分化な組織ほど放射線の影響を受けやすい。特に、1 Gy以上の急性外部被ばくを全身に受けた後に数週間以内に発症する病態を『急性放射線症(ARS; acute radiation syndrome)』と呼ぶ。
  • 晩発:  被ばく後数週間以降に現れる影響のこと。線量や臓器により、現れる症状は様々である。特に重要なのが発癌性であり、癌の発生頻度は確率的影響と考えられている。低線量被ばくの場合、およそ100 mSv当たり生涯癌死亡確率は約0.5%上昇するとされている。

 ARSの臨床経過・症状には以下のような特徴があります。

  • 線量増加とともに、細胞分裂が盛んな組織・臓器から症状が発現する。すなわち、造血器→消化管→神経・血管系の順に障害が現れる
  • 時間経過上、前駆期, 潜伏期, 発症期に分けられ、その後回復ないし死亡する。
  • 吐き気・嘔吐・下痢・発熱・意識障害『前駆症状』と呼ばれる。被ばく〜前駆症状発症までの時間と被ばく線量は関連性があり、特に被曝後3時間以内に前駆症状が認められた場合は、1 Gy≦の高線量被ばくが疑われる
  • 具体的には、数日で急激なリンパ球減少が起こり, その後汎血球減少が出現する。4~6 Gy≦では腸管上皮が再生不能となって下痢・吸収障害・下血等が起こり, 8 Gy≦になると中枢神経症状によって意識障害などが出現する。

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線量と症状の関連

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ARSの病期

 

(2) で、実際チェルノブイリ周辺の線量はどうなの?

 ネット上で検索していたら、チェルノブイリ周辺の放射線量をマップ上に示しているウェブサイトを発見しました。今回の戦争の影響で、今年の2月末を最後に数値の更新が停止しています。

chernobyl.satoru.net

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チェルノブイリ原発近隣『赤い森』周辺の線量

マップ上に表示された単位(nSv/h)から察するに、当該時刻における空間線量率を示しているのでしょう。冒頭で言及した『赤い森』の空間線量率は示されていませんが、周辺のものが閲覧可能でした。以下に具体的数値を列挙します。

  • プリピャチ(2022/2/25の現地時間0:10):  10,200 nSv/h(=10.2 μSv/h
  • Yanov(2022/2/25の15:00):  612 nSv/h(=0.612 μSv/h
  • Christogalivka(2022/2/25の9:00):  11,100 nSv/h(=11.1 μSv/h
  • 原発敷地内:  場所により3,150 nSv/h(2022/2/25の9:20)〜93,000 nSv/h(2022/2/25の10:40)と開きがある。(=3.15〜93.0 μSv/h

 ※1: "n"とはナノのことで、ナノの1,000倍が"μ"(マイクロ)です。マイクロの1,000倍が"m"(ミリ)であり、みなさんご存知のように、ミリは1の千分の一です。

 ※2:  ちなみに、自然の空間線量率は海面レベルにて0.03 μSv/h, 高度1万メートルにて5 μSv/hであり、自然放射線による被ばくは、世界平均で年間2.4 mSv(=2,400 μSv)だそうです。

 「吸収線量=1 Gy(ARSを来しうる線量)と仮定した場合、線種別の等価線量はそれぞれ

  1. γ・X・β線(放射線加重係数=1):  1[Gy] x 1 = 1[Sv]
  2. α線(放射線加重係数=20):  1[Gy] x 20 = 20[Sv]
  3. 中性子(放射線加重係数=2.5~20):  1[Gy] x 20 = 20[Sv]

となります。こうしてみると、上記のチェルノブイリ原発周囲の空間線量率がγ線を計測したものだと仮定した場合、この外部被ばくのみにより, 短時間で1 Svという高線量に達するのは無理があるかと思われます。

 今回の『急性放射線症疑惑』に『赤い森』が関係しているとする言説は冒頭で紹介した通りですが、ネットで検索していたところ、環境省の資料が見つかり、

ロシアの一部の地域では、汚染が1,480 kBq/m2を超える森林へは、森林の保護消火活動及び疾病や災害対策を除いて立ち入り禁止とされ、森林内での活動や一般人の進入(植物の採取を含む)は禁止された

http://josen.env.go.jp/material/session/pdf/001/mat01-5.pdf

という記述を認めました。同じ資料内では、「チェルノブイリ原発事故による長期的な土壌汚染に関与しているのは半減期が30年であるCs-137」という趣旨の記述もありました。これらを踏まえると、「『赤い森』は主にCs-137によって、土壌汚染が1,480 kBq/m2を超えているのでは?」という推測も可能です。これまた環境省の資料によると、Cs-137の『実効線量係数』(BqをSvへ換算する際に用いる)は1.3x10-5[mSv/Bq]だそうです。

https://www.env.go.jp/chemi/rhm/kisoshiryo/attach/201510mat3-01-06.pdf

そうなると、1平方メートル当たり1,480 kBqの汚染がある土壌(或いは、同じくらい汚染された動植物)を経口摂取してしまった」と仮定すると、実効線量は

 1,480,000[Bq] x 1.3x10-5[mSv/Bq] = 19.24[mSv]

を超える推測されます。「場所や深さ, ないし 経口摂取したモノによっては、100~1,000 mSvくらい被ばくしてもおかしくないのでは…」とも思いたくなります(セシウムは雲母鉱石に固着してしまうので、森の生態系内を循環してしまい, 水により森から出ていくことも少ないのだそうです)。

 

 

(3) でもちょっと待って

 ただ、「下痢・吐き気・嘔吐・発熱・意識障害」を起こす疾患は、ARS以外にも沢山あります。依然SARS-CoV-2が世界中で流行している現状を鑑みると、多人数が集団で行動する軍隊内でCOVID-19が蔓延してしまっても不思議ではありません。また、飲料水や食料が汚染されていたり, 手洗い等の基本的な衛生管理が出来ていなかった場合、ノロウイルスサルモネラ菌等による胃腸炎が部隊内で流行してしまってもおかしくないとは思います。というか、「胃腸炎・COVID-19以外でも発熱・嘔吐・下痢等を来しうる疾患(というか、感染症)の鑑別診断を示してみろ」と言われたら、色々な疾患(というか感染症)が候補に挙がります言い換えると、「チェルノブイリから撤収したロシア兵の中にARSを疑う症状を呈する者が複数いた」という『噂』は、「部隊内で感染症アウトブレイクしてしまった」という事象を誤解した結果である可能性も十分あるのです。

 

 

(4) 参考資料

 最後に、上記リンク以外に今回参照したものを紹介して今日の記事を締めます。

痙攣性てんかん重積状態(convulsive status epilepticus)の治療

 みなさんこんばんは。現役救急医です。研修医・医学生向けのものも含め、様々な医学書/参考書には、痙攣の診断/評価や治療に関する記載があります。今日は私の知識整理も兼ねて、UpToDateを参考に、痙攣性てんかん重積状態(convulsive status epilepticus)の治療についてまとめてみます。原因となる疾患/病態や, それらの診断方法の詳細については、色々な参考書に書いてあるので今回は割愛します。

 

(1) まず、定義について

 UpToDateによると、全般性痙攣性てんかん重積状態(GCSE; generalized convulsive status epilepticus)の定義には次の2つがあるそうです。

 1) 一般的な定義("operational definition"):   5分以上持続する痙攣, もしくは 意識の十分な回復がないまま発生する別個の痙攣が2回以上発生すること

 2) 対てんかん国際連盟(ILAE; International League Against Epilepsy):  痙攣に関与する機構, もしくは 異常に長い痙攣の原因となる機構 のいずれかの欠陥によるもの。痙攣の型や持続時間によっては神経死・神経傷害・神経ネットワーク変性を含む長期的合併症を起こしうるもの」と定義され、"t1", "t2"と呼ばれる時間的概念を取り入れている。

  • t1・・・現在発生している痙攣が異常に長く, 自然停止する可能性が無い時間のことであり、この時点でてんかん重積への治療を開始すべきである。具体的には、5分経過した時点で"t1"である。
  • t2・・・現在発生している痙攣が長期的合併症を起こす重大なリスクを来す時点より後の時間のこと。具体的には、30分経過した時点で"t2"である

 

 

(2) 治療

 抗痙攣薬投与と同時並行的に、補助的治療を直ちに行う必要があります。治療の目標は主に1) 気道・呼吸・循環の安定化, 2) 痙攣の頓挫, 3) てんかん重積の致死的原因の診断と治療, の3つです。1)の『気道・呼吸・循環の安定化』を大雑把にまとめると、様々な参考書で「さるもちょうしんき(酸素投与, ルート[末梢静脈路], モニター[心電図・血圧・SpO2], 超音波, 十二誘導心電図, 胸部X線)」と略称されるような一連の処置です(超音波の要否は循環動態次第かと思われますが…)。嘔吐・誤嚥・舌根沈下などによって気道確保(や自発呼吸)が怪しくなったら、気管挿管が必要となるでしょう(SpO2だけを参考にしないように注意しましょう)

 あと、3)の『原因の診断』の一環として最初に検査すべき項目として、

  • 血糖:  採血のみならず、簡易血糖測定器の使用も推奨
  • 血中電解質濃度:  Na, K, Clに加えて、Ca, Mg, リン酸も
  • 肝機能
  • 血算
  • 抗痙攣薬血中濃度:  もし内服している患者ならば
  • 尿or血中毒物検査
  • 妊娠可能年齢女性なら、尿or血液妊娠検査
  • 必要に応じて、血中乳酸濃度, 血中ビタミンB6濃度, 血中トロポニン検査も追加

が挙げられています。

 では、今回の本題である2)『痙攣の頓挫』- 即ち、抗痙攣薬投与について紹介して行きます。もし低血糖が判明した場合はチアミン 100 mgと50%ブドウ糖 50 mLを静注します。最初に投与すべき抗痙攣薬はベンゾジアゼピンであり、具体的には以下のような薬剤が選択されます。

 

① 病院治療

 いずれも、医療機関外で発症した時(即ち、末梢静脈路確保がすぐにできない環境で)に使用可能な手段です。もしかしたらドクターヘリ・ドクターカーで現場まで出動した時に応用できるのかもしれません。

 

② 病院内での治療

1. 初期治療(first therapy)ベンゾジアゼピン

 最初にロラゼパム 0.1 mg/kgを2 mg/min.の速度でIVし, 効果を見極める為に投与後は最長5分待機します。その後も痙攣が持続している場合は、同じ用量を同じ速度で投与します。ロラゼパムが無い場合、ジアゼパム(セルシン®︎) 0.15 mg/kg IV(1回の最大投与量は10 mgまで)も使用可能です。

 これらの薬剤の投与によって痙攣が収束した後でも、痙攣の制御をつける為に非ベンゾジアゼピン系の抗痙攣薬のloading doseが必要となります。

2. その後の治療(second therapy) − 抗痙攣薬

 ベンゾジアゼピン系の作用時間が短いということもあり、ベンゾジアゼピン系投与後であっても、てんかん重積の再発はかなり多いですよって、非ベンゾジアゼピン抗痙攣薬の投与も必要となります。具体的には、以下のような薬剤が選択されます。

  • レベチラセタム(イーケプラ®︎):  loading doseとして、60 mg/kg(最大4,500 mgまで)を15分かけ投与。
  • ホスフェニトイン(ホストイン®︎):  loading doseとして、フェニトインに換算して(PE; phenytoin equivalents)20 mg/kgを100~150 mg/min.の速度で投与。これでも痙攣が持続している場合、laoading dose投与から10分後に5~10 mg PE/kgを追加投与。最大で合計30 mg/kgまで投与可能。
  • フェニトイン(アレビアチン®︎):  loading doseとして、20 mg/kgを25~50 mg/min.の速度で投与。これでも痙攣が持続している場合、loading dose投与から10分後に5~10 mg/kgを追加投与。最大で合計 30mg/kgまで投与可能。

上記1.~2.の治療は、全て10~20分以内に完了するのが理想的とされています。

3. 難治性GCSE

 3. – I:  持続的IV療法について

 ベンゾジアゼピン系投与を2回行い, 非ベンゾジアゼピン系抗痙攣薬の投与を1~2回投与したにも関わらず痙攣が30分持続している場合は、ミダゾラム, プロポフォール等の持続的 IVが必要となります。また、気管挿管・人工呼吸器管理や専門医へのコンサルテーション, ICUへの移動と持続的脳波モニタリングが必要となります持続的IV薬の具体的な投与量は以下の通りです。

  • ミダゾラム:  0.2 mg/kgを2 mg/min.の速度でボーラス投与。痙攣が止まるまで、5分ごとにボーラス量を追加投与する。その後、持続投与を0.1 mg/kg/hr.で開始(最大 3 mg/kg/hr.まで)。 45~60分以内に効果が出なければ、プロポフォール or ペントバルビタールへ変更。
  • プロポフォール(ディプリバン®︎)loading doseは1~2 mg/kgを5分かけ投与。痙攣が止まるまで、0.5~2 mg/kgを繰り返し投与(最大10 mg/kgまで)。その後、持続投与は1.2 mg/kg/hr.で開始し, 20~60分間で痙攣消失を目指す。
  • ペントバルビタール 日本国内ではもう静注製剤を製造していないそうです。最初は5 mg/kgを10分かけて投与。痙攣が持続している場合、5 mg/kgを再度ボーラス投与。 その後、持続投与は1 mg/kg/hr.で開始し, 痙攣が制御される or 脳波上burst supression波形が見られるまで、12時間ごとに0.5~1 mg/kg/hr.ずつ速度を調整する(最大5 mg/kg/hr.まで)。
  • ケタミン(ケタラール®︎):  loading doseは2 mg/kg。その後、脳波上の痙攣が制御されるまで1.5~10 mg/kg/hr.の範囲で持続投与速度を調整する。

ペントバルビタールと比べると、ミダゾラムプロポフォールは短時間の鎮静で痙攣重積の急速な改善が可能になるため、好まれる傾向があるそうです。なおペントバルビタールプロポフォールは循環抑制作用があるので、循環が不安定な患者には使えません。またプロポフォールは、高用量(速度が5 mg/kg/hr.<)の投与・長時間(48時間<)の投与・小児への投与がプロポフォール症候群と呼ばれる副作用(腎不全, 横紋筋融解症, 心不全などを呈する)を来すので注意が必要です。

※1: 難治性てんかん重積状態への薬物療法に関するsystematic reviewによると、

 持続的IV薬投与は一般的に、臨床・脳波上の痙攣抑制が得られた状態で24時間継続し, その後は12~24時間かけて減量されることが多いそうです。なおペントバルビタール半減期が長いので、減量する必要はありません(≒痙攣抑制が十分得られたら中止?)。

※2: 難治性てんかん重積状態への薬物療法に関するsystematic reviewによると、

  • 持続的IV薬投与の治療目標について『脳波上のbackgorund supression(大半でペントバルビタール使用)』は『臨床・脳波上の痙攣抑制(大半でミダゾラムorプロポフォール使用)』よりも、'breakthrough seizure'の可能性が低かった('background supression': 4% vs 『痙攣抑制』: 53%)。
  • 上記治療目標の合併症について:    'background supression'は、『痙攣抑制』よりも低血圧の可能性が有意に高かった('background supression': 76% vs 『痙攣抑制』: 29%)。
  • 死亡率について:  両群で48%と高かったが、治療目標による差は見られなかった。

 3. − Ⅱ:  長時間作用型抗痙攣薬について

 痙攣の制御と持続的IV薬の減量を達成する為に、上記の持続的IV薬と並行して, 長時間作用型の抗痙攣薬を1剤以上併用する必要があります。そして持続的IV薬を投与中 ないし 減量前に長時間作用型抗痙攣薬の血中濃度が高い治療域を維持しているのを確認することが極めて重要です頻用される長時間作用型抗痙攣薬には、以下のようなものが含まれます。

  • レベチラセタム
  • ホスフェニトイン, フェニトイン
  • バルプロ酸:  海外にはIV用製剤があるみたいです40 mg/kgのloading doseを10 mg/kg/min.の速度で投与(最大量は3,000 mgまで)。
  • フェノバルビタール(フェノバール®︎):  20 mg/kgを30~50 mg/min.の速度で投与。
  • ラコサミド(ビムパット®︎):  200~400 mg ボーラスIV。
  • トピラマート(トピナ®︎):  経鼻胃管から投与(最大1,600 mg/dayまで)
  • ペランパネル(フィコンパ®︎):  内服用製剤しかない。2~12 mg/dayで投与。

4. GCSE回復後の治療・精査について

 大半のGCSE患者では、全般性痙攣後10~20分以内に反応性の回復が見られるようになりますこの段階においても、緊密なmontoringが必要です。もし全般性痙攣収束後も意識回復が遅い場合、脳波のmonitoringを開始すべきとされます。また、初発の痙攣/てんかんてんかん重積状態として発症した患者に対しても、痙攣収束後直ちに脳波を測定すべきです(backgoroundの電気活動を調べる為)。なお、ベンゾジアゼピン拮抗薬であるフルマゼニル(アネキセート®︎)は投与すべきではありません(痙攣を再燃させるリスクがあるため)。

 頭部CT・MRIは、1) 初発の痙攣/てんかんてんかん重積状態として発症した患者, 2) てんかん重積を焦点発作で発症したと疑われる患者, または 3) 予想通りに回復しない患者において、痙攣が制御された後に撮影すべきとされています。

 腰椎穿刺の適応は、1) 中枢神経系感染症が疑われる場合, ないし 2) 悪性腫瘍の既往があり、中枢神経への転移/播種が疑われる場合 の2つです。但し、腰椎穿刺は頭蓋内占拠性病変が無いことを確認後に実施する必要があります