Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

脳梗塞急患への画像検査の選択

 こんばんは。現役救急医です。今日は専門ジャーナル"JAMA Neurology"に今年11/8に発表された論文(doi: 10.1001/jamaneurol.2021.4082)を紹介してみます。所々意訳とか、割愛したりした部分があるのであらかじめご了承下さい。

 

(1) Introduction

 "DAWN", 及び "DEFUSE3"という臨床試験2件は、症状出現(最終健常目撃時間["time last seen well"; TLSW]と呼ぶ)から6~24時間以内に来院した大血管閉塞による脳梗塞患者への治療を転換させ、こうした遅い時間枠("extended time window")における血管内治療の適応を示したMRI もしくは CT perfusion(CTP)といった臨床的or組織のmismatchを示す先進的な画像診断は、この2件の臨床試験ではトリアージの主流であり, また米国と欧州のガイドラインでは治療適応の判断に用いることを推奨している。

 急性期においてMRIやCTPは必ずしも使用可能ではなく、また全ての施設で実施可能とも限らない。単純CT(noncontrast CT; NCCT)で評価したAlberta Stroke Program Early CT Score(ASPECTS)とCTPの間の関連性は複数の研究で実証されているしかしながらASPECTの解釈には、評価者により質のばらつきがあることが知られている。

 治療により利益を受ける患者を同定するためのトリアージと, 他の患者よりも良好な転帰になりうる患者を同定するためのトリアージを区別することが重要である。

 この研究の目的は、遅い時間枠で受診した脳血管前方循環系の中枢側の閉塞による脳梗塞患者において、NCCTとCT angographyで治療適否を判断した患者群と, CTPないしMRIで治療適否を判断した患者群の臨床的転帰を比較することである。この研究では、「この3つの患者群の間で有意差がない」という仮説を立てた。

 

 

(2) Method

① 参加者について

 "CT for Late Endovascular Reperfusion(CLEAR)" studyは、遅い時間枠(=TLSWから動脈穿刺[血管内治療開始]までが6~24時間)に機械的血栓回収術(MT; mechanical thrombectomy)を行う, 連続した前方循環系中枢側閉塞による脳梗塞患者に対する、多施設型コホート研究である。2014年1/1〜2020年12/31の間に、欧州と北米の5ヵ国・15施設で被験者を採用した。

 今回解析を行った研究コホートには、以下の基準を満たす連続した患者が含まれた:

  • BaselineのNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)≧6点
  • 内頸動脈 もしくは 中大脳動脈中枢側(M1, M2 segment)の閉塞
  • TLSWから治療まで6~24時間

 CLEAR studyのコホートは、血管内治療の適否判断に使用した画像検査に従って、NCCT・CT angiography群, CTP群, または MRIへ分類された。なお以下のいずれかに該当する患者は除外された(Figure 1)

  • TLSWから動脈穿刺まで0~<6時間
  • 発症前のbaselineのmodified Rankin Scale(mRS)が3~5点
  • 脳血管後方循環系の閉塞

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Figure 1

転帰の指標

 患者の転帰は以下の項目で評価した。

1) Primary end point・・・90日後のmRSスコアの分布

2) Secondary clinical outcome

  • 90日後における機能的自立(=mRSスコア0~2点)の比率
  • TLSW〜動脈穿刺までの時間, 来院〜動脈穿刺までの時間, 術後の再開通成功

3) Safery end point

  • 術後の症候性頭蓋内出血
  • 90日後の死亡率

統計学的解析

 90日後機能的自立という転帰に関しては、mRSスコアが0~2となる可能性(or 尤度 or 確率: "likelihood")を推計する為に、ロジスティック回帰モデルという方法が使用された。各パラメーターについて、粗odds ratio(OR)及び調整ORと, 95%CI(confidence interval; 信頼区間)を計算した。以下の項目が、事前に共変量として選択された:

  • 年齢
  • BaselineのNIHSSスコア
  • 性別
  • BaselineのmRSスコア
  • 高血圧
  • 心房細動
  • 糖尿病
  • 転院搬送
  • 血栓溶解薬静注
  • BaselineのASPECTS
  • 閉塞部位
  • TLSWから動脈穿刺までの時間

 90日後mRSスコアの分布に関しては、より順序の低い数値への1点のシフト(=より良好な転帰)を推計する為に、多項順序ロジスティック回帰という方法が使用された。

 

 

(3) Result

 CLEAR studyに採用され, 内頸動脈ないし中大脳動脈中枢側の閉塞がある患者は2,304名であった。このうち1,604名はbaselineのNIHSSが6点以上で, 主要な数値に関してデータが存在したので、primary analysisのコホートになった(Figure 1)。患者は以下の画像検査によりMTの適応となった(治療法としてMTを選択された):

  • NCCT(とangiography)群:  534名
  • CTP群:  753名
  • MRI群:  318名

 3種類の画像検査の間で年齢, 性別, baselineのmRSスコア, 糖尿病について有意差は見られなかった。

  • BaselineのNIHSSスコア中央値:  CTP(16点)MRI(16点)よりもNCCT(17点)でわずかに高かった。
  • 高血圧: NCCT(72.1%; 385名)で高率だった。(対するCTPは72.3%[544名], MRIは64.5%[205名]
  • 心房細動:  NCCT(35.8%; 191名)で高率だった。(CTPでは29.1%[219名], MRIでは36.8%[117名]
  • 転院搬送:  NCCT(67.8%; 362名)で高頻度だった。CTPでは56.1%[362名], MRIでは69.8%[222名]
  • 血栓溶解薬静注:  MRI(42.8%; 136名)で多かった。(NCCTでは23.6%[126名], CTPでは12.1%[91名]

3群においてASPECTSの中央値は9点(4分位範囲: 7~9)だった。血管閉塞部位は、

  • 内頸動脈閉塞:  CTP(21.5%[162名])よりもMRI(32.4%[161名])NCCT(30.2%[161名])多い
  • M2閉塞:  NCCT(13.7%[73名])MRI(12.3%[39名])よりCTP(21.3%[160名])で多い

という結果であった。

 

 TLSWから血管穿刺までの時間は、CTP(中央値で11.3時間)MRI(中央値で12.4時間)よりもNCCT(10.4時間)で短かった

 再開通成功はMRI(78.9%)よりもNCCT(88.9%)CTP(89.5%)多かった

 

 退院時NIHSSスコア中央値は、MRI(11点)よりもNCCT(7点)CTP(6点)低かったコホート全体で合計すると、症候性頭蓋内出血は6.3%(100名)で認め、3群間で等しかった。

  • NCCT:  8.1%(42名)
  • CTP:  5.8%(43名)
  • MRI:  4.7%(15名)

90日後死亡率も3群間で類似していた

  • NCCT:  23.4%(125名)
  • CTP:  21.1%(159名)
  • MRI:  19.5%(62名)

 

 90日後の機能的自立(mRSスコア0~2点)は、

  • NCCT:  41.2%(220名)
  • CTP:  44.3%(333名)
  • MRI:  38.7%(123名)

であった。画像検査種類別の機能的自立・baselineの特徴・baselineの数値のodds(粗と調整)をTable 2に示す。これらの因子を調整した多変量解析では、90日後の機能的自立のoddsは、CTPNCCTの間で類似していた(調整後OR[adjusted OR: aOR] 0.90; 95%CI 0.70~1.16; P=0.42)。一方、NCCTよりもMRIで機能的自立のoddsが低かったaOR 0.79[95%CI 0.63~0.98]; P=0.03)。その他の年齢, baselineのNIHSSスコア, baselineのmRSスコア, 糖尿病, 転院搬送の有無, baseline ASPECTSといった因子は90日後の機能的自立と関連していた(Table 2)

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Table 2

 

 上記因子を調整した多変量解析にて、90日後のordinal mRSのシフト(or 順序的なmRSのシフト?)は

  • NCCT vs CTP:  有意差なしaOR 0.95[95%CI 0.77~1.17]; P=0.64)
  • NCCT vs MRI:  有意差なしaOR 0.95[95%CI 0.80~1.13; P=0.55)

であった(Table 3, Figure 2)。多変量解析では、順序の低い数値へ1点シフトするoddsの減少と関連していたのは以下の項目であり, 予後悪化を示唆していた。

  • 高齢:  OR 0.97(95%CI 0.96~0.99); P<0.001
  • Baseline NIHSSスコア高値:  OR 0.91(95%CI 0.89~0.92); P<0.001
  • Baseline mRSスコア高値:  1点: OR 0.68(95%CI 0.54~0.86); P=0.001, 2点: OR 0.48(95%CI 0.34~0.65); P<0.001
  • 糖尿病:  OR 0.77(95%CI 0.62~0.96); P=0.02
  • 内頸動脈閉塞:  OR 0.83(95%CI 0.69~1.0); P=0.049
  • 転院搬送された:  OR 0.79(95%CI 0.67~0.92); P=0.002

逆に、ASPECTSスコア増加は1点シフトのodds増加と関連しており(OR 1.18[95%CI 1.13~1.24; P<0.001)、予後改善を示唆した

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Table 3

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Figure 2

 

 転院搬送を行なわれなかった患者598名に限定したsensitivity analysisにて、90日後の機能的自立のoddsは

  • NCCT vs CTP:  aOR 0.71(95%CI 0.42~1.21); P=0.21
  • NCCT vs MRIaOR 0.69(95%CI 0.36~1.33); P=0.27

であり, 両群間で類似していた。同様に、順序的なmRSのシフトは

  • NCCT vs CTP:  aOR 0.74(95%CI 0.46~1.18); P=0.21
  • NCCT vs MRIaOR 0.78(95%CI 0.54~1.12); P=0.18

であり, 有意差は認めなかった

 

 2014年〜2020年までの連続的な数値としての時間との関連性に関するsensitivity analysis(データが存在する患者1,425名が対象)では、90日後の良好な転帰のoddsは、

  • NCCT vs CTP:  aOR 0.88(95%CI 0.67~1.15); P=0.35
  • NCCT vs MRIaOR 0.85(95%CI 0.64~1.14); P=0.29

差が見られなかった同様に、順序的なmRSのシフトは

  • NCCT vs CTP:  aR 0.92(95%CI 0.75~1.12); P=0.39
  • NCCT vs MRIaOR 1.01(95%CI 0.85~1.21); P=0.92

有意差がなかった

 

 また別個の解析にて、再開通を得られた患者は、そうでない患者と比較して良好な臨床転帰となるoddsが良かった(aOR 6.31[95%CI 4.45~8.95]; P<0.001)。3つの画像検査のうち、MRIaOR 8.9[95%CI 6.7~11.9]; P<0.001)で再開通による良好な転帰のoddsが最も高く, その次にNCCT(aOR 6.1[95%CI 2.2~16.5]; P<0.001), CTP(aOR 5.1[95%CI 2.9~9.2]; P<0.001)という順で高かった。

 

 

(4) Discussion

 TLSWより6~24時間以内に来院し, MTを行った内頸動脈閉塞, 中大脳動脈M1・2閉塞による脳梗塞患者では、CTPないしMRIで治療適否を判断した患者と, NCCTで治療適否を判断した患者の間で良好な機能的転帰は同等であった。NCCT群の患者の90日後機能的自立の比率は、DAWN trial, DEFUSE-3 trialの患者と同等であった。画像検査の種類によって症候性頭蓋内出血, または 死亡のリスクが増加することを示す証拠は無かったとりわけNCCT群では、CTP群・MRI群と比べて来院から血管穿刺までの時間が短かった。

 遅い時間枠で来院した脳梗塞患者に対してMTの適否を判断する上で、今回の知見はより実用的な基準(=NCCTの所見と, 前方循環系大血管中枢側の閉塞)の採用を支持している可能性がある。一方で、CLEAR studyのNCCT群における患者診療は、米国や欧州のガイドラインに一致しないことを認識することも重要である。

 CLEAR studyでは"clinical-core mismatch"(臨床症状と画像所見のミスマッチ?)に基づく臨床研究参加基準を予め設定していなかったものの、NCCTによる治療適否判断を行った患者群は、CTP・MRIを使用した患者群と同等な転帰を示したこの原因を説明可能なのは次の2因子である。1) 過去の研究では、NCCT上のASPECTSとCTP上のcore volumeの間に中程度の関連性が報告されている。2) ASPECTSが等しい患者の中で、clinical-core mismatchは時間経過とともに減少しない。

 CTP群と比較して、NCCT群における90日後機能的自立の比率は数字上低かったが、有意に低くはなかったこの明らかな差は多変量解析では認めず、CTP群よりもNCCT群でNIHSSスコアが高い・転院搬送が多い・内頸動脈閉塞が多いことで説明可能かもしれないMRIにより治療適否を判断した患者と比較して、NCCTを用いた患者では90日後の機能的自立の比率は高くMRIよりもNCCT群で再開通率が高いことで説明可能かもしれない。

 CLEAR studyでは患者の臨床試験参加基準に明確なASPECTSの閾値を示していなかったものの、大半の施設では、遅い時間枠で来院した脳梗塞患者の治療適否の選択にASPECT≧6点を用いていた。この研究でNCCT群のASPECTS中央値は8点であり、MTが選択された患者の大半でNCCT上のASPECTSが高値であることを反映している。この研究コホートのASPECTSの4分位範囲は7~9なので、遅い時間枠にて来院した脳梗塞患者でNCCTにより治療適否を判断する場合、ASPECTS≧7点で機械的血栓回収術を考慮することを示唆している。

モデルナ製(とファイザー製)ワクチンのデルタ株に対する有効性

 こんばんは。現役救急医です。今日は2021/11/2にNature Medicineというジャーナルに発表された、モデルナ製及びファイザー製コロナワクチンの有効性に関する論文(https://doi.org/10.1038/s41591-021-01583-4 )を紹介してみます。

 

(1) Intruduction

 2021年初頭の段階でカタール国内ではアルファ株(B.1.1.7)による感染拡大とベータ株(B.1.351)による感染拡大が立て続けに起こっていた。同年3月末にはデルタ株(B.1.617.2)が初めてカタールで検出された。SARS-CoV-2感染者数増加に伴ってデルタ株の検出も増加し, 同年夏には200件/day近くで推移していたものの、2021年9月の段階では、他の変異株の発生数と比較しても低値であり, 感染拡大の兆候もない。2021年3/23~9/7の間に診断されたSARS-CoV-2感染例のうち、43%がデルタ株だった。なお2021年9/19時点で、カタールの全人口の80%超がBNT162b2ワクチン(ファイザー製), ないし mRNA-1273ワクチン(モデルナ製)の2回接種を受けたと推定されているこの研究では、2021年3/23~9/7の期間でカタール国内におけるファイザー製・モデルナ製ワクチンのデルタ株に対する有効性を推計した。

 

(2) Methods

 この研究はカタール市民を対象に行われた。Hamad Medical Corporationにて、全国規模のデータベースよりCOVID-19検査結果, ワクチン接種記録, SARS-CoV-2感染に関するデータ等を抽出した。

 ワクチンの有効性は、検査陰性症例対照研究デザインを用いて推計した。2021年3/23~9/7の間にカタールで発生した全感染例(PCR検査でデルタ株感染が診断された人)と対照例(PCR検査でSARS-CoV-2が陰性だった人)が対象となった。

 感染へ曝露される危険性の差を調整する為、性別・年齢集団(5年単位で区切られた集団)・国籍・PCR検査を行った理由・PCR検査を行った期日が合うように、感染例と対照例を1:5の比でmatchさせた。

 感染例2021年3/23~9/7の間にPCR検査で初めてデルタ株陽性となった人と定義した。対照例は、その他のPCR陽性者を除外, 同期間において初めてPCR陰性となった人と定義した。

 旅行前, もしくは 入国時に実施したPCR検査は今回除外した。

 今回、デルタ株感染に対する有効性, 及び デルタ株と関連した重症, 危機的 or 致死的COVID-19に対する有効性を推計した。

 コロナワクチン被接種者及び未接種者のPCR検査記録を全て検証し, 1回目と2回目で別種のコロナワクチンを接種された人, もしくは ファイザー製・モデルナ製以外のコロナワクチンを接種された人除外した。

 なおここではCOVID-19重症度の表記にWHOの定義を用いている。

  • 重症SARS-CoV-2に感染し, 室内気にてSpO2<90% and/or 呼吸数>20/min.(成人・5歳<の小児) and/or 重症呼吸不全の症候あり
  • 危機的SARS-CoV-2に感染し, Acute Respiratory Distress Syndrome(ARDS), 敗血症, 敗血症性ショック or その他人工呼吸器・昇圧薬等を必要とする状態
  • 死亡(致死的):  COVID-19による死亡

 研究サンプルは頻度分布と, 中心傾向("central tendency")により記述された。感染例と対照例のワクチン接種のoddsを比較したodds比と, その95%信頼区間(CI; confidence interval)を推計した。次に、異なる時期におけるワクチン有効性とその95%CIを以下の公式により算出した。

[ワクチン有効性] = 1 - [症例と対照例のワクチン接種のodds比]

 SARS-CoV-2感染既往と医療従事者による影響をcontrolしたsensitivity analysisを行った。他にも、年齢別に階層化(<50歳, 50歳≦)してワクチン有効性推計を行った。加えて、症候性SARS-CoV-2感染(呼吸器症状がある人でPCR陽性となった症例), 及び 無症候性感染(症状のない人でPCR陽性となった症例)に対する有効性も推計した。また比較の為、ベータ株に対する有効性も推計した

 

(3) Result

 2020年12/21~2021年9/7の間に、各コロナワクチンを接種された人数は以下の通り。

  • ファイザー製:  少なくとも1回は接種済: 950,232名, 2回目接種済: 916,290名
  • モデルナ製:  少なくとも1回は接種済: 564,468名, 2回目接種済: 509,322名

 ファイザー製ワクチンの接種率は2020年12月以来堅調に増加している。その反面、モデルナ製ワクチンの接種率は大量出荷に依存しており, 2021年3月以前には十分な水準に達していなかった。

 ここで『デルタ株感染例』は、PCR検査実施理由 ないし 症状の有無に関係なく, PCR検査でデルタ株陽性となった症例と定義する。追加の解析でベータ株感染を検討したことを例外として、他の変異株への感染例は除外した。

 2021年3月〜9月の間のデルタ株によるブレークスルー感染は、

  • ファイザー製:  1回目接種の後: 88名, 2回目接種の後: 1,126名
  • モデルナ製:  1回目接種後: 60名, 2回目接種後: 187名

であった。

 これに加えて、2021年9/7までに、デルタ株による重症COVID-19症例は、

  • ファイザー製:  1回目接種後: 4名, 2回目接種後: 15名
  • モデルナ製:  1回目接種後: 3名, 2回目接種後: 2名

となっていた。

 また危機的COVID-19症例・死亡に関しては、

  • ファイザー製:  1回目接種後: 1名(その後死亡), 2回目接種後: 2名
  • モデルナ製:  致死的症例ないし死亡例は0

という結果だった。

 

 1回目接種後14日以上(2回目接種はまだ)のデルタ株感染に対する有効性は、

  • ファイザー製:  45.3% (95%CI 22.0~61.6)
  • モデルナ製:  73.7% (95%CI 58.1~83.5)
  • 両者を含めたもの:  58.0% (95%CI 44.4~68.2)

 1回目接種後14日以上(2回目接種はまだ)のデルタ株による重症COVID-19, 危機的COVID-19, ないし 死亡に対する有効性は、ファイザー製・モデルナ製・両者を含めたものに関して80~87%だったものの、デルタ株症例数が比較的少なかったことから95%CIが広かった。

 2回目接種14日以上におけるデルタ株感染に対する有効性は、

  • ファイザー製:  51.9% (95%CI 47.0~56.4)
  • モデルナ製:  73.1% (95%CI 67.5~77.8)
  • 両者を含めたもの:  55.5% (95%CI 51.2~59.4)

であった。

 2回目接種14日以上におけるデルタ株による重症, 危機的COVID-19ないし死亡に対する有効性は

  • ファイザー製:  93.4% (95%CI 85.4~97.0)
  • モデルナ製:  96.1% (95%CI 71.6~99.5)
  • 両者を含めたもの:  93.6% (95%CI 85.9~97.1)

だった。

 Sensitivity analysisSARS-CoV-2感染既往や医療従事者に関して調整したもの)は上記の結果と同一だった。

 50歳以上におけるデルタ株感染に対するワクチン有効性は、50歳未満のそれよりも低かった。しかしながら、この結果は50歳以上の人は50歳未満よりも早期に2回目接種を受けたという文脈で解釈せねばならない

 2回目接種14日以上における症候性デルタ株感染に対する有効性は、

  • ファイザー製:  44.4% (95%CI 37.0~50.9)
  • モデルナ製:  73.9% (95%CI 65.9~79.9)
  • 両者を含めたもの:  49.2% (95%CI 42.8~54.9)

だった。

 2回目接種14日以上における症候性デルタ株感染に対する有効性は、

  • ファイザー製:  46.0% (95%CI 32.3~56.9)
  • モデルナ製:  53.6% (95%CI 33.4~67.6)
  • 両者を含めたもの:  45.9% (95%CI 33.3~56.1)

 比較の為に、2021年3/23~9/7の期間におけるベータ株感染に対する有効性も推計した。

  • ファイザー製:  1回目のみ接種後14日以上: 18.9% (95%CI -1.8~35.4), 2回目接種後14日以上: 74.3% (95%CI 70.3~77.7)
  • モデルナ製:  1回目のみ接種後14日以上: 66.3% (95%CI 55.8~74.2), 2回目接種後14日以上: 80.8% (95%CI 69.0~88.2)

ベータ株による重症, 危機的COVID-19 ないし 死亡への有効性は、両ワクチンで>90%だった。

 ベータ株に対する有効性とデルタ株に対するそれを比較する際には、ベータ株のPCRによる診断期日の中央値は2021年4/15だが、デルタ株のPCRによる診断期日の中央値は2021年8/2であることに注意が必要である2021年8/1~9/7の期間に、RT-qPCRによりgenotypeが診断された症例の83.6%がデルタ株であった

 

(4) Discussion

 ファイザー製とモデルナ製のコロナワクチンは、英国・米国・イスラエルの研究と同様、デルタ株と関連した入院・死亡に対して強固な有効性(>90%)を示した。特にファイザー製コロナワクチンでは、多くのブレークスルー感染症例にも関わらず、ワクチン被接種者内で重症or危機的COVID-19症例数は少なかった。

 注目すべきことに、1回目接種後14日以上ないし2回目接種後14日以上におけるファイザー製orモデルナ製ワクチンのデルタ株感染に対する有効性は同等だった。最近のevidenceは、特にファイザー製ワクチンに関して、時間経過とともにワクチンの有効性が顕著に減少することを示しているアルファ株ベータ株に対する高い有効性は、カタールの住民の大半がファイザー製・モデルナ製コロナワクチンを接種されたばかりの時期に推計されたものである。逆に、今回推計したデルタ株に対する有効性は、2回目接種後から何ヶ月も経過した時期に推計したものである。従って、コロナワクチン2回目接種後の人におけるデルタ株に対する低い有効性は、ワクチンの予防効果の漸減を反映している可能性がある

 こうした知見は、他所で行われたデルタ株に対する有効性の報告において見られるパターンと一致する。この研究におけるファイザー製コロナワクチン有効性(2回目接種完了後)51.9%という数字は、英国・カナダよりも低いものの, イスラエル・米国と類似している。英国・カナダでは2回目接種が延期された結果、大半の人がイスラエル・米国・カタールよりも直近の時期に2回目接種が完了していた。よって、イスラエル・米国・カタールにおける低い有効性は、2020年末・2021年初頭に2回目接種が完了した人におけるワクチン予防効果減少を示しているのかもしれない

 他に今回の知見を説明可能なものに、カタール国内でデルタ株の症例数が緩徐に増加している時期に行われた公衆衛生上の規制の段階的緩和が挙げられるワクチン接種状況に応じて規制が緩和されるとともに(スマホアプリ["Ehteraz app"と呼ばれるもの]インストール義務が課された), 被接種者は未接種者よりも社交的な接触率("social contact rate")が高くなっていた可能性があり、また、マスク装着といった安全対策へ従わなかった可能性もある。

 ファイザー製ワクチンと比べてモデルナ製ワクチンでは2回目接種後にデルタ株感染への高い有効性が推計され、モデルナ製ワクチンがより強力な免疫と予防効果を誘導したとする研究にも一致する。

 

 ちなみに今日、YouTubeへ動画をアップロードしています。脳梗塞に関する最新の論文をちょっと解説してみました。もし良ければご視聴下さい。

youtu.be

最近読んだ日本史関連書籍を紹介する

 みなさんこんばんは。今日はメチャクチャ久しぶりに、本を紹介していきます。私はもともと歴史好きで、小学校〜中学校の歴史のテストでは90点台も珍しくなく, 高校では世界史を選択していました。但し医学部6年間+卒後は殆ど医学の世界であり、それ以外の分野に対する知識等を深める機会は少ないです。

 まあそんな中でも、卒後(特に専攻医課程)は自分の収入が生じるので、財布内の金の一部を好きなものに使う余裕が少々生じる訳です。そこで私は、歴史関連や自然科学関連の書籍を暇さえあれば買い漁り, 読んでいるのです。今日はそうした本の中から、ここ1年以内に読んだ日本史関連の書籍を紹介します。

 

① 『喧嘩両成敗の誕生』(清水克行 著, 講談社選書メチエ

 この本は以前もこのブログで紹介しています。「室町時代の日本で、不倫・喧嘩といった比較的些細なトラブルはともかく, 殺傷事件や土地・財産を巡る紛争を解決する為にどのような手段が講じられていたのか」というテーマで、記録に残っている様々な事件や法令を紹介するものです。当然、室町・戦国時代の日本に大日本帝国憲法日本国憲法も, 国会や裁判所といったものも存在しないので、現代の価値観からすれば荒唐無稽な解決手段が講じられています。

 

② 『戦国の忍び』(平山優 著, 角川新書)

 題名から想像がつく方もいらっしゃるかもしれませんが、歴史学者が所謂『忍者』に関して、歴史的な文献を引用しながら彼らの実態を解説する書籍です。敵情を探る間諜の記述は古代から存在するそうですが、『忍(しのび)』というフレーズが登場するのは南北朝時代からで、忍びを敵の拠点に侵入させて放火したり, 忍びが持ってきた情報により敵の夜襲を事前に察知したりしていたそうです。

 ちなみに所謂『伊賀忍者』の由来は、鎌倉時代末期〜室町初期に守護や東大寺に対して反抗していた伊賀の地域勢力(国人, 土豪)だったそうです。彼らは室町幕府へ服属後も一定の自治を保持していましたが、南北朝の対立・応仁の乱といった騒乱の際には、各種勢力に取り入って互いに抗争する機会が増えたそうです。

 他方、『甲賀忍者』が初めて記録に登場するのは、1487年に近江守護の六角高頼を当時の室町幕府将軍 足利義尚が討伐した時のことだそうです。甲賀に在陣していた幕府軍を襲撃して苦戦させた牢人が数千人は居たそうですが、彼らが甲賀の人間だったようです。伊賀同様、甲賀にも地域勢力が存在し, 互いに同盟のようなものを形成していたそうです。

 

③ 『室町の覇者 足利義満』(桃崎有一郎 著, ちくま新書

 足利義満については、一般的に「金閣寺を建てた」だの, 「明へ使節を派遣して貿易を行い、『日本国王』の名称を貰った」だのといったイメージを持たれていますが、「いや、それだけじゃないんだよ足利義満は!」ということがよく分かる本です。とはいえ彼が権勢を誇った背景には、先代から引き継いだもの(室町幕府の統治体制など)も欠かせないので、鎌倉幕府崩壊や室町幕府の成立と南北朝の対立などから話が始まります。

 

④『武士の起源を解き明かす − 混血する古代、創発される中世』(桃崎有一郎 著, ちくま新書

 この本は「武士(侍)がどのようにして誕生したのか」というテーマで、歴史学者が歴史上の記録や法令・出来事を検証し、独自に考察していくものです。ぶっちゃけネタバレさせたくないので、詳細はこの本をご購入して読んで確認して頂きたいのですが、大雑把に言うと「平安時代以降の、現代の価値観からすれば『無法』としか言いようのない社会や法体系が武士を生み出した」と言えるでしょう。

 

 今日は久々に本の紹介をしてみました。この中で興味を惹かれた本がありましたら、是非上記リンクをクリックし確認and/or購入してみることをお薦めします。

Johnson & Johnson製コロナワクチン有効性の解析

 こんばんは。現役救急医です。今回は、日本で採用されていないコロナワクチンに関する論文を発見したので、それを紹介します。今回の参考文献は、2021年11/2に発表された"Analysis of the Effectiveness of the Ad26.COV2.S Adenociral Vector Vaccine for Preventing COVID-19. "(Corchado-Garcia J., Zemmour D. et al. JAMA Network Open. 2021;4(11):e2132540)です。

 

(1) Introduction

 Ad26.COV2.Sコロナワクチン(Johnson & Johnson・Janssen製)はSARS-CoV-2スパイクタンパク質を持つ複製不能アデノウイルス26ベクターであり、単回接種される。最近の第3相臨床試験では有効性が66.9%(95%CI 59~73.4)であり, 安全性も十分であることが証明されている。このワクチンは2021年2/27に米国食品医薬品局の緊急使用承認を受け、これまでに米国内で2100万回以上が接種されている。

 過去の研究では、電子医療記録(electronic health record; EHR)システムのdeep neural netowerkを、機械による多くの情報量の精選を行う為に使用した。こうした技術の発展によって、mRNAワクチン2種の現実世界における有効性と安全性の迅速な評価や, Ad26.COV2Sワクチン接種後の患者における脳静脈洞血栓症の発症率の調査が可能となった。今回、Mayo ClinicとMayo Clinic Health Systemの2021年2/27~7/22の間のEHRデータを使用して、Ad26.COV2.Sワクチン(以下、J&J製ワクチン)の有効性評価を行った。

 

(2) Method

① Study Design

 この研究は、2021年2/27~7/22の間にMayo Clinicとその附属病院でSARS-CoV-2感染を疑われてPCR検査を受けた人に対する、有効性比較研究である。この研究は、J&J製ワクチンが使用されている州のみ(アリゾナ州, アイオワ州, ミネソタ州, フロリダ州, ウィスコンシン州)で実施した

② 参加者について

 この研究には、以下の基準に合致する患者が含まれた

  • 2021年2/27~7/22の間に少なくとも1回はSARS-CoV-2 PCR検査を受けた
  • 18歳以上
  • J&J製ワクチンを接種された患者が少なくとも10名居る地域に住んでいる

感染率に影響するバイアスを制御する為に、居住地とPCRを受けた人数に基づいたmatchingが用いられた。

 以下の条件に該当する人は除外された。

  • ワクチン接種前, もしくは 2021年2/27より前にPCRSARS-CoV-2陽性となった人
  • データ収集最終日にワクチン接種を受けた人
  • mRNA-1273 或いは BNT162b2ワクチンを接種された人
  • ファイル内に臨床研究への参加を承諾する書類が無い人

これらの参加可能基準及び除外基準を適用した後、8,889名の被接種者230,790名の未接種者が研究に含まれることになった(Figure 1A)

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Figure 1: (A)Ad26.COV2.Sワクチン有効性評価の概要, (B)被接種者と未接種者間のCOVID-19重症度比較の概要

③ 有効性の解析

 SARS-CoV-2感染の主な危険因子(居住地, 人口統計学上の特徴, 2021月2/27以前の陰性となったPCR検査の回数)を考慮に入れて, 被接種者コホートと類似した未接種者コホートを構築するために、1:10の比率でmatchingを行った。つまり、被接種者コホート8,889名内の各1名を、未接種コホート内の10名とmatchさせた。

 ワクチン有効性は、被接種者コホートと未接種者コホートPCR検査結果の陽性率を比較することで評価した。この研究に参加した期日(第0日はそれぞれ、

  • 被接種者:  ワクチンを接種された期日
  • 未接種者:  matchされた被接種者がワクチンを接種された期日

と定義された。

 被接種者と未接種者の間で、SARS-CoV-2感染の累積発生率を比較した。累積発生率とは、その時点以前にて、特定のoutcome(ここではSARS-CoV-2感染)を経験している患者の割合の推定値である。ここでは、第1日〜14日の間の累積発生率を対象にしている。

 被接種者コホートと未接種者コホートの間で、SARS-CoV-2陽性のincidence rate ratio(IRR)を計算した。IRRは被接種者コホートの発症率未接種者コホートの発症率で割ることで求めた。他の指標の定義や求め方は以下の通り。

  • 有効性(1-IRR)x100[%]で求めた。
  • At-risk person-days:  各個人がまだSARS-CoV-2陽性となっていないor死亡していない期間の日数。
  • 発症率:  研究対象期間中にSARS-CoV-2陽性となった患者数を, 同じ期間へ寄与したat-risk person-daysの合計で割ったもの

この研究では、ワクチン接種後1日目, 8日目, 15日目の発症率を対象にした。

④ COVID-19重症度分析

 SARS-CoV-2陽性未接種者コホートを構築する為、1:10の比率で割り付けた。患者は人口統計学上の特徴と併存疾患に基づいてmatchさせた。つまり、ワクチン接種後にSARS-CoV-2陽性となった60名内の各1名と, 未接種でSARS-CoV-2陽性となった2,236名中の600名とmatchさせた。

 被接種者コホートと未接種者コホート双方の各SARS-CoV-2陽性患者において、第0日目は最初にPCR陽性となった期日と定義された。最初にPCR陽性となった日から少なくとも14日間フォローアップが行われた患者へ解析を行った。以下の指標を評価した:

  • 14日間における入院率PCR陽性判明後2週間に入院となった患者数
  • 14日間におけるICU入室率PCR陽性判明後2週間にICUへ入室した患者数
  • 14日間における死亡率PCR陽性判明後2週間に死亡した患者数

各outcomeに対して、relative rate(被接種者コホートの比率を未接種者コホートの比率で割ったもの)と, その95%信頼区域(CI)等を求めた。

 

(3) Result

SARS-CoV-2感染予防効果について

 2021年2/27~7/22の間、米国ではワクチン接種キャンペーンによる感染者数減少と, 新規変異株の拡大が発生していた。2021年5月までアルファ株が多く認められたが、6~7月にはデルタ株に置換していた合計8,889名がMayo Clinicネットワーク内でJ&J製ワクチンを接種された(Figure 1A)。このワクチンのSARS-CoV-2感染に対する有効性評価の為、88,898名の未接種者コホートを特定した。被接種者コホートと未接種者コホート間で性別・人種・年齢は均等だった。

 研究期間中、被接種者8,889名中60名(0.7%)がSARS-CoV-2陽性で, 未接種者88,898名中2,236名(2.5%)がSARS-CoV-2陽性となった(Figure 2A)SARS-CoV-2検査陽性発生率は、

であり、SARS-CoV-2感染のIRRは0.26(95%CI 0.20~0.34)となり, 合計のワクチン有効性は73.6%(95%CI 65.9~79.9)であり, SARS-CoV-2感染は3.73倍減少した(Figure 2A)

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Figure 2: (A)ワクチン接種直後からのSARS-CoV-2感染累積発生率, (B)接種14日以降のSARS-CoV-2感染累積発生率

 次に、研究への登録から15日後〜2021年7/22(研究期間終了)の間の新規SARS-CoV-2感染者数を解析した(Figure 2B)少なくとも2週間フォローアップされた被

接種者8,698名の中でワクチン接種後15日以降にSARS-CoV-2陽性となったのは41名(0.5%)であったのに対し、未接種者86,495名の中でSARS-CoV-2陽性となったのは1,561名8(1.8%)だった(3.91倍の減少)。ワクチン接種後2週間以降に発症したSARS-CoV-2感染症に対する有効性は74.2%(95%CI 64.9~81.6)だった(Figure 2B)この結果は第1日目からの有効性に類似しており、予想よりも早く免疫反応が生じる可能性を示している。

 ワクチン接種後の感染は、接種直後にSARS-CoV-2に曝露された場合, もしくは ワクチンが免疫を形成できなかった場合に起こるこの2シナリオを区別する為に、被接種者コホートと未接種者コホートでワクチン接種〜最初のPCR検査陽性までの時間分布を解析した(Figure 3A)。ワクチン接種後からPCR陽性までの時間の中央値は、

と類似しており、感染者数は

だった。これらの結果は、被接種者コホートの感染例の大半は、被接種者が免疫を形成できるようになる前にウイルスへ曝露されたせいではない可能性を示唆している。加えて、Figure 3Bでは、被接種者での感染例発生数が、デルタ株の頻度増加と並行しているように見える

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Figure 3: (A)ワクチン接種から初回PCR陽性までの期間, (B)PCR陽性判明期日, の時間的分布

② ワクチン接種後の重症COVID-19の比率

 SARS-CoV-2検査陽性となった被接種者60名と, SARS-CoV-2検査陽性となった未接種者2,236名にて、入院患者数・ICU入室者数・死者数を解析した被接種者にて、重症化oddsの減少が示された(odds ratio[OR] 0.33 [95%CI 0.19~0.65]; P<0.001)Subgroup analysisでは、被接種者において

  • 入院oddsの減少:  OR 0.32 (95%CI 0.18~0.66); P=2.0x10-4
  • ICU入室oddsの減少:  OR 0.00 (95%CI 0.00~1.43); P=0.01

が見られたが、死亡oddsは減少しなかった(OR 0.83 [95%CI 0.26~5.20]; P>0.99。致死的イベントの数は両群で低かった。

  • 被接種者:  8,888名中1名
  • 未接種者:  88,886名中12名

 現在ワクチン接種は高齢者と危険因子を有する人へ優先して行われており、未接種者コホート(特に若年で健康な人)との比較にバイアスを生じるこうしたバイアスを制御する為に、未接種者コホートの1名と, ワクチン接種後にSARS-CoV-2に感染した被接種者60名をmatchさせた(Figure 1B)コホートは人口統計学上の特徴や, 重症COVID-19危険因子に基づいてmatchさせた。全臨床的変量に関して、両コホート間で有意差は無かった。次に、コホートで14日目の入院・ICU入室・死亡数を比較した。これらoutcomeの複合, ないし個別の解析で有意差は認めなかったしかし、COVID-19に罹患した被接種者で十分なフォローアップ期間を伴っていたのは41名のみであった。結論として、今回の結果はJ&J製ワクチンによるCOVID-19重症度低減を示唆しているものの、予防効果をより正確に推定する為に、より多数の患者数とイベント数や, 更なる解析が必要となるだろう。

 

(4) Discussion

 今回、8,000名超の被接種者の医療記録の解析によって、J&J製ワクチンの有効性を評価した。合計した有効性は73.6%, 14日後の有効性は74.2%であり、COVID-19新規症例の減少を認めた。今回の結果は、アルファ株及びデルタ株が多数を占めるコホートにおけるワクチンの有効性を強調している。

 ワクチン被接種者での感染は発生したが、0.7%と稀だった。COVID-19症例の急増は2021年6~7月のデルタ株出現と関連しているように見える。しかしながらCOVID-19症例数が少なく, またデルタ株の出現はごく最近なので、断定が出来ない。

 今回の解析は、特に入院といった重症症例の減少を証明した。しかしながら、J&J製ワクチン接種後にSARS-CoV-2陽性となったのは60名のみである為、この研究は死亡率を評価するには弱い。J&J製ワクチン接種後にSARS-CoV-2へ感染した人における入院率・ICU入室率・死亡率の評価は今後も継続予定である。