Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

脳梗塞急患への画像検査の選択

 こんばんは。現役救急医です。今日は専門ジャーナル"JAMA Neurology"に今年11/8に発表された論文(doi: 10.1001/jamaneurol.2021.4082)を紹介してみます。所々意訳とか、割愛したりした部分があるのであらかじめご了承下さい。

 

(1) Introduction

 "DAWN", 及び "DEFUSE3"という臨床試験2件は、症状出現(最終健常目撃時間["time last seen well"; TLSW]と呼ぶ)から6~24時間以内に来院した大血管閉塞による脳梗塞患者への治療を転換させ、こうした遅い時間枠("extended time window")における血管内治療の適応を示したMRI もしくは CT perfusion(CTP)といった臨床的or組織のmismatchを示す先進的な画像診断は、この2件の臨床試験ではトリアージの主流であり, また米国と欧州のガイドラインでは治療適応の判断に用いることを推奨している。

 急性期においてMRIやCTPは必ずしも使用可能ではなく、また全ての施設で実施可能とも限らない。単純CT(noncontrast CT; NCCT)で評価したAlberta Stroke Program Early CT Score(ASPECTS)とCTPの間の関連性は複数の研究で実証されているしかしながらASPECTの解釈には、評価者により質のばらつきがあることが知られている。

 治療により利益を受ける患者を同定するためのトリアージと, 他の患者よりも良好な転帰になりうる患者を同定するためのトリアージを区別することが重要である。

 この研究の目的は、遅い時間枠で受診した脳血管前方循環系の中枢側の閉塞による脳梗塞患者において、NCCTとCT angographyで治療適否を判断した患者群と, CTPないしMRIで治療適否を判断した患者群の臨床的転帰を比較することである。この研究では、「この3つの患者群の間で有意差がない」という仮説を立てた。

 

 

(2) Method

① 参加者について

 "CT for Late Endovascular Reperfusion(CLEAR)" studyは、遅い時間枠(=TLSWから動脈穿刺[血管内治療開始]までが6~24時間)に機械的血栓回収術(MT; mechanical thrombectomy)を行う, 連続した前方循環系中枢側閉塞による脳梗塞患者に対する、多施設型コホート研究である。2014年1/1〜2020年12/31の間に、欧州と北米の5ヵ国・15施設で被験者を採用した。

 今回解析を行った研究コホートには、以下の基準を満たす連続した患者が含まれた:

  • BaselineのNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)≧6点
  • 内頸動脈 もしくは 中大脳動脈中枢側(M1, M2 segment)の閉塞
  • TLSWから治療まで6~24時間

 CLEAR studyのコホートは、血管内治療の適否判断に使用した画像検査に従って、NCCT・CT angiography群, CTP群, または MRIへ分類された。なお以下のいずれかに該当する患者は除外された(Figure 1)

  • TLSWから動脈穿刺まで0~<6時間
  • 発症前のbaselineのmodified Rankin Scale(mRS)が3~5点
  • 脳血管後方循環系の閉塞

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Figure 1

転帰の指標

 患者の転帰は以下の項目で評価した。

1) Primary end point・・・90日後のmRSスコアの分布

2) Secondary clinical outcome

  • 90日後における機能的自立(=mRSスコア0~2点)の比率
  • TLSW〜動脈穿刺までの時間, 来院〜動脈穿刺までの時間, 術後の再開通成功

3) Safery end point

  • 術後の症候性頭蓋内出血
  • 90日後の死亡率

統計学的解析

 90日後機能的自立という転帰に関しては、mRSスコアが0~2となる可能性(or 尤度 or 確率: "likelihood")を推計する為に、ロジスティック回帰モデルという方法が使用された。各パラメーターについて、粗odds ratio(OR)及び調整ORと, 95%CI(confidence interval; 信頼区間)を計算した。以下の項目が、事前に共変量として選択された:

  • 年齢
  • BaselineのNIHSSスコア
  • 性別
  • BaselineのmRSスコア
  • 高血圧
  • 心房細動
  • 糖尿病
  • 転院搬送
  • 血栓溶解薬静注
  • BaselineのASPECTS
  • 閉塞部位
  • TLSWから動脈穿刺までの時間

 90日後mRSスコアの分布に関しては、より順序の低い数値への1点のシフト(=より良好な転帰)を推計する為に、多項順序ロジスティック回帰という方法が使用された。

 

 

(3) Result

 CLEAR studyに採用され, 内頸動脈ないし中大脳動脈中枢側の閉塞がある患者は2,304名であった。このうち1,604名はbaselineのNIHSSが6点以上で, 主要な数値に関してデータが存在したので、primary analysisのコホートになった(Figure 1)。患者は以下の画像検査によりMTの適応となった(治療法としてMTを選択された):

  • NCCT(とangiography)群:  534名
  • CTP群:  753名
  • MRI群:  318名

 3種類の画像検査の間で年齢, 性別, baselineのmRSスコア, 糖尿病について有意差は見られなかった。

  • BaselineのNIHSSスコア中央値:  CTP(16点)MRI(16点)よりもNCCT(17点)でわずかに高かった。
  • 高血圧: NCCT(72.1%; 385名)で高率だった。(対するCTPは72.3%[544名], MRIは64.5%[205名]
  • 心房細動:  NCCT(35.8%; 191名)で高率だった。(CTPでは29.1%[219名], MRIでは36.8%[117名]
  • 転院搬送:  NCCT(67.8%; 362名)で高頻度だった。CTPでは56.1%[362名], MRIでは69.8%[222名]
  • 血栓溶解薬静注:  MRI(42.8%; 136名)で多かった。(NCCTでは23.6%[126名], CTPでは12.1%[91名]

3群においてASPECTSの中央値は9点(4分位範囲: 7~9)だった。血管閉塞部位は、

  • 内頸動脈閉塞:  CTP(21.5%[162名])よりもMRI(32.4%[161名])NCCT(30.2%[161名])多い
  • M2閉塞:  NCCT(13.7%[73名])MRI(12.3%[39名])よりCTP(21.3%[160名])で多い

という結果であった。

 

 TLSWから血管穿刺までの時間は、CTP(中央値で11.3時間)MRI(中央値で12.4時間)よりもNCCT(10.4時間)で短かった

 再開通成功はMRI(78.9%)よりもNCCT(88.9%)CTP(89.5%)多かった

 

 退院時NIHSSスコア中央値は、MRI(11点)よりもNCCT(7点)CTP(6点)低かったコホート全体で合計すると、症候性頭蓋内出血は6.3%(100名)で認め、3群間で等しかった。

  • NCCT:  8.1%(42名)
  • CTP:  5.8%(43名)
  • MRI:  4.7%(15名)

90日後死亡率も3群間で類似していた

  • NCCT:  23.4%(125名)
  • CTP:  21.1%(159名)
  • MRI:  19.5%(62名)

 

 90日後の機能的自立(mRSスコア0~2点)は、

  • NCCT:  41.2%(220名)
  • CTP:  44.3%(333名)
  • MRI:  38.7%(123名)

であった。画像検査種類別の機能的自立・baselineの特徴・baselineの数値のodds(粗と調整)をTable 2に示す。これらの因子を調整した多変量解析では、90日後の機能的自立のoddsは、CTPNCCTの間で類似していた(調整後OR[adjusted OR: aOR] 0.90; 95%CI 0.70~1.16; P=0.42)。一方、NCCTよりもMRIで機能的自立のoddsが低かったaOR 0.79[95%CI 0.63~0.98]; P=0.03)。その他の年齢, baselineのNIHSSスコア, baselineのmRSスコア, 糖尿病, 転院搬送の有無, baseline ASPECTSといった因子は90日後の機能的自立と関連していた(Table 2)

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Table 2

 

 上記因子を調整した多変量解析にて、90日後のordinal mRSのシフト(or 順序的なmRSのシフト?)は

  • NCCT vs CTP:  有意差なしaOR 0.95[95%CI 0.77~1.17]; P=0.64)
  • NCCT vs MRI:  有意差なしaOR 0.95[95%CI 0.80~1.13; P=0.55)

であった(Table 3, Figure 2)。多変量解析では、順序の低い数値へ1点シフトするoddsの減少と関連していたのは以下の項目であり, 予後悪化を示唆していた。

  • 高齢:  OR 0.97(95%CI 0.96~0.99); P<0.001
  • Baseline NIHSSスコア高値:  OR 0.91(95%CI 0.89~0.92); P<0.001
  • Baseline mRSスコア高値:  1点: OR 0.68(95%CI 0.54~0.86); P=0.001, 2点: OR 0.48(95%CI 0.34~0.65); P<0.001
  • 糖尿病:  OR 0.77(95%CI 0.62~0.96); P=0.02
  • 内頸動脈閉塞:  OR 0.83(95%CI 0.69~1.0); P=0.049
  • 転院搬送された:  OR 0.79(95%CI 0.67~0.92); P=0.002

逆に、ASPECTSスコア増加は1点シフトのodds増加と関連しており(OR 1.18[95%CI 1.13~1.24; P<0.001)、予後改善を示唆した

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Table 3

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Figure 2

 

 転院搬送を行なわれなかった患者598名に限定したsensitivity analysisにて、90日後の機能的自立のoddsは

  • NCCT vs CTP:  aOR 0.71(95%CI 0.42~1.21); P=0.21
  • NCCT vs MRIaOR 0.69(95%CI 0.36~1.33); P=0.27

であり, 両群間で類似していた。同様に、順序的なmRSのシフトは

  • NCCT vs CTP:  aOR 0.74(95%CI 0.46~1.18); P=0.21
  • NCCT vs MRIaOR 0.78(95%CI 0.54~1.12); P=0.18

であり, 有意差は認めなかった

 

 2014年〜2020年までの連続的な数値としての時間との関連性に関するsensitivity analysis(データが存在する患者1,425名が対象)では、90日後の良好な転帰のoddsは、

  • NCCT vs CTP:  aOR 0.88(95%CI 0.67~1.15); P=0.35
  • NCCT vs MRIaOR 0.85(95%CI 0.64~1.14); P=0.29

差が見られなかった同様に、順序的なmRSのシフトは

  • NCCT vs CTP:  aR 0.92(95%CI 0.75~1.12); P=0.39
  • NCCT vs MRIaOR 1.01(95%CI 0.85~1.21); P=0.92

有意差がなかった

 

 また別個の解析にて、再開通を得られた患者は、そうでない患者と比較して良好な臨床転帰となるoddsが良かった(aOR 6.31[95%CI 4.45~8.95]; P<0.001)。3つの画像検査のうち、MRIaOR 8.9[95%CI 6.7~11.9]; P<0.001)で再開通による良好な転帰のoddsが最も高く, その次にNCCT(aOR 6.1[95%CI 2.2~16.5]; P<0.001), CTP(aOR 5.1[95%CI 2.9~9.2]; P<0.001)という順で高かった。

 

 

(4) Discussion

 TLSWより6~24時間以内に来院し, MTを行った内頸動脈閉塞, 中大脳動脈M1・2閉塞による脳梗塞患者では、CTPないしMRIで治療適否を判断した患者と, NCCTで治療適否を判断した患者の間で良好な機能的転帰は同等であった。NCCT群の患者の90日後機能的自立の比率は、DAWN trial, DEFUSE-3 trialの患者と同等であった。画像検査の種類によって症候性頭蓋内出血, または 死亡のリスクが増加することを示す証拠は無かったとりわけNCCT群では、CTP群・MRI群と比べて来院から血管穿刺までの時間が短かった。

 遅い時間枠で来院した脳梗塞患者に対してMTの適否を判断する上で、今回の知見はより実用的な基準(=NCCTの所見と, 前方循環系大血管中枢側の閉塞)の採用を支持している可能性がある。一方で、CLEAR studyのNCCT群における患者診療は、米国や欧州のガイドラインに一致しないことを認識することも重要である。

 CLEAR studyでは"clinical-core mismatch"(臨床症状と画像所見のミスマッチ?)に基づく臨床研究参加基準を予め設定していなかったものの、NCCTによる治療適否判断を行った患者群は、CTP・MRIを使用した患者群と同等な転帰を示したこの原因を説明可能なのは次の2因子である。1) 過去の研究では、NCCT上のASPECTSとCTP上のcore volumeの間に中程度の関連性が報告されている。2) ASPECTSが等しい患者の中で、clinical-core mismatchは時間経過とともに減少しない。

 CTP群と比較して、NCCT群における90日後機能的自立の比率は数字上低かったが、有意に低くはなかったこの明らかな差は多変量解析では認めず、CTP群よりもNCCT群でNIHSSスコアが高い・転院搬送が多い・内頸動脈閉塞が多いことで説明可能かもしれないMRIにより治療適否を判断した患者と比較して、NCCTを用いた患者では90日後の機能的自立の比率は高くMRIよりもNCCT群で再開通率が高いことで説明可能かもしれない。

 CLEAR studyでは患者の臨床試験参加基準に明確なASPECTSの閾値を示していなかったものの、大半の施設では、遅い時間枠で来院した脳梗塞患者の治療適否の選択にASPECT≧6点を用いていた。この研究でNCCT群のASPECTS中央値は8点であり、MTが選択された患者の大半でNCCT上のASPECTSが高値であることを反映している。この研究コホートのASPECTSの4分位範囲は7~9なので、遅い時間枠にて来院した脳梗塞患者でNCCTにより治療適否を判断する場合、ASPECTS≧7点で機械的血栓回収術を考慮することを示唆している。