Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

利益相反行為(COI)について ー 「製薬会社から何かもらうのはマズイんじゃね?」という話 ー

 先日、Yahooニュースを読んでいたら、以前このブログで著作を紹介した病理医 榎木英介氏の記事を見つけました。その内容が非常に面白かったので紹介します。

 医師の皆様は、事あるごとに製薬会社の説明会・講演会に誘われ、ボールペンを貰うはまだしも、話を聴講する傍ら弁当や懇親会のビュッフェ料理を頬張る機会が多いと思われます。医療スタッフ間では恒常化してしまい、もう疑問すら抱かないと思いますが、よくよく考えると、色々問題を孕んでいますよ、という話なのです。

 人間は何か物を贈られると、それに対するお返しの義務が生じ(或いは、感じてしまい)ます。つまり、製薬会社から金品はまだしも、弁当やボールペン, タクシー券などを贈られるだけでも、医師が無意識の内に製薬会社に忖度して行動してしまうのは大いにあり得る事なのです。

 このような行為を専門用語で利益相反行為(conflict of interest)』と呼び、略して'COI'と称することが多いです。下のWikipediaのリンクにも記載はありますが、利益相反の定義は「他人の信任を得て職務を遂行する人(ex. 政治家, 医師, 弁護士など)が、職務上追求すべき利益と、個人としての利益, ないし その人が他にも有している立場における利益が相反している状態」です。前者よりも後者を優先してしまった場合、問題となります。

利益相反行為 - Wikipedia

 「製薬会社が多くの医師同様、『公衆衛生や、様々な疾患の患者の予後改善などに寄与しよう』と考えていれば、COIなんて問題に気にしなくていいじゃん」と思うかもしれませんが、悲しいことに製薬会社が強欲になる事例もあります。

 最近あった事例は、インフルエンザの『新薬』と銘打って塩野義製薬から発売されたゾフルーザでしょう。マスコミだけでなく、塩野義製薬がMRを動員して全国の医療施設で盛んに売り込みを行なっていましたが、実は治験段階で都合の悪いデータが出ていたのです。下記にTwitterからの引用(また勝手に引用してしまい申し訳ありません)を列挙しましたが、治験段階でゾフルーザ耐性のインフルエンザウイルスが一定の割合で居ると判明しており、ゾフルーザ使用を推奨しない/否定的な見解を示す専門家・学会が居たのです。にも関わらず、塩野義製薬と商品の宣伝に協力した医師(当然それなりの謝礼は入る)は、不利なデータには触れることなくゾフルーザを大々的に宣伝。世間一般にゾフルーザ耐性ウイルスの存在が世間一般に認知されたのは、それから暫く後のことでした。

それに留まらず、ゾフルーザ耐性ウイルスがゾフルーザをまだ投与されていない人にまで感染した事が確認されました。耐性ウイルスが、社会へ『蔓延』してしまった事が予測されます。

※以前本ブログで紹介しましたが、本来、抗インフルエンザ薬(ゾフルーザ以外も)は重症化するリスクが高い患者にのみ出すべきものであり、濫用は耐性ウイルスの蔓延を招きかねません。

【医療関係者向け】全てのインフルエンザ患者に、抗ウイルス薬が必要なのか? - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

 このように、製薬会社から医師に何かをプレゼントされる場合、見返りとして何かを期待されています。しかし、その『見返り』を送っても、上記の事例のように公共の利益に繋がらぬこともあり得ます。COIに対して、より敏感になる必要があるのです。

医局肯定派の皆様へ提案。米国式メディカルスクールはどうですか?

 今日は、医局制度をどうしても残したい場合、どのようなシステムを新設すべきか(皮肉を込めた)提案を行いたいと思います。

 現在の医局制度の人材獲得の手段は次の3つでしょう:1.部活のOB, OGが後輩を勧誘する, 2. 病院実習で来た学生を飲み会に誘う, 3. 医師就学資金を学生に貸与し、一定の年数その地域に残れば返済を免除する(地域枠も同じようなもの)。それでも、一定数の学生・研修医は卒業・初期研修修了後に他の地域へ出て行ってしまいます。また、医師の中には「医学部定員が増えてから学生の学力が下がった」と主張する人も居ます。医局や地域に若手が残ってくれて、学力も保障ができる制度が欲しいと思うのは当然の流れかもしれません。

 そこで、私は日本国内の医学部を全て、米国式のメディカルスクール(以下、『医学部』に呼称を統一)に変えてみることを提案します。米国のカリキュラムがどういう感じなのか説明しますと(私の知っている限りで書きました。不足・間違いがあったらご指摘下さい)、

① 学生はまず一般の学部に入学し、化学, 生物学, 物理学等(主に理系の学部・学科)を専攻し卒業。そこから大学院としてのに入学する。一般の学部での成績が振わなければ当然医学部への入学は叶わない。当然学費もバカにならず、医学部卒業後もローン返済に追われる医師が居る。

医学部の入試はもちろん、進級判定も厳しい。

③ 国家試験であるUSMLEはSTEP1, 2, 3の3段階に分かれており、全て合格しないと医師・専門医にはなれない。

 まずSTEP1は筆記試験のみで医学部2年の終わりに受けるが、1.合格基準点は60~70%(およそ190点。なおSTEP1の問題数は308問), 2.点数によって将来進める診療科のresidencyが左右される(下の写真も参照)という特徴がある。また、STEP2は医学部4年次に受験するが、筆記試験Clinical Knowledge(CK)と実技試験Clinical Skill(CS)がある。STEP3はresidency programに入ってから ーつまり卒業し働き始めてからー CKとCS両方を受験する。

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USMLE STEP1点数と各診療科residency programの関係。耳鼻科(248くらい), 皮膚科(247くらい), 形成外科(245くらい)の順に高得点を求められる一方、家庭医療 218, リハビリと精神科220, 産婦人科と小児科226といったぐあいである

 いかがでしょうか。学生そして研修医は必然的に勉強を継続しなければならなくなります。多分、学生/研修医の学力は上がるでしょう。また、上記のように学費が上がります。その分を地域枠や医師修学資金でその分をカバーしてあげる一方で、「一般学部を出たら必ず医学部に進学し, その上で医学部卒業後も最低X年間はこの地域で勤務しないと返済義務が生じる」という規定を設ければ、若手がその地域に残って、尚且つ医局に入局してくれる確率が上がると思います。

 但し、こうした『改革』にはデメリットが伴います。まず、このシステムに各大学を組み替える作業は半端ではなく、国家レベルでの大変動が必要となってしまいます。面倒に感じる人は決して少なくないでしょう。

 また、学生たちは勉強で忙しくなり、今までの医学生のように部活なんてやっていられなくなるでしょう。東医体・西医体といった一大イベントは消滅し、既述のような部活の先輩・後輩繋がりで新入医局員を獲得する流れが無くなるでしょう。また、一般学部で必死に勉強し、医学部入学後も、進級や希望診療科に進む為に必死に勉強してきた人たちが若手としてやって来る訳ですが、日本の従来型の医学部で教育を受けてきた先輩医師が、学力・教養的に彼らに太刀打ちできる保証は無いように思えます。

 更に、上記のようなメディカルスクールのシステム導入後のことを想像してみて下さい。あなたは医師であり、自身の子供も医師にするために大学に入学させたと仮定します。我が子を取り敢えず理学部生物学科に入学させたものの、一般学部+医学部となると、学費が高くなってしまい自分の収入で補えるのか非常に不安です。ましてや、医学部入学とその後の進級・医師免許取得に必要な勉強量を考えると、子供にバイトをさせる訳にはいきません。そこであなたは医師修学資金を利用する事にしました。

 しかしその後、思わぬ問題が生じるのです。あなたの子供は生物学科に在学中に遺伝子の研究に没頭してしまい、理学部卒業間際になって「遺伝子の研究者になりたいから、医学部でない大学院に進学したい」と言い出したのです。あなたはどうしますか?子供を叱責して無理やり行きたくもない医学部に行かせますか?或いは医師修学資金を返済しつつ子供の希望を叶えてやりますか?

 

 私なりに、極力面白くしてみたつもりですが、いかがだったでしょうか?感想などありましたら、遠慮なく教えて下さい。

医局肯定派の言動に、昭和の陸軍を見てしまった話。

 過日、Twitterを見ていたら医局制度に関して非常に興味深い、刺激的な議論が飛び交っていました。私はこれまで、大学病院・医局中心の医療について批判的な記事を幾多と書いてきましたが、同じく従来の制度に批判的な医療関係者の方は結構いらっしゃいます。

 例えば(勝手に引用し申し訳ありません)

と仰る方も居れば、

と述べる方も居ます。

 東軍が居れば西軍, 南朝ができれば北朝が出来るといった具合に、何事についても意見の異なる集団間の相克が存在します。

やはり医局制度をあくまで擁護する方々も相当数いらっしゃいます。そうした方々の中には「医局員を派遣してやっているのだから、批判するな。感謝しろ(立場をわきまえろ)」といった趣旨の主張を行う人すら居ました。例えがアレですが、英国の首相がインド・パキスタンバングラデシュ国民に対し「植民地時代、鉄道等のインフラを敷設してやったんだから感謝しろ」と言ってのけるようなものだと私は思いました。

 こんな医局擁護派の言動を目にして、私は日本映画『日本のいちばん長い日』(原田眞人 監督, 役所広司, 元木雅弘ら出演)を思い出しました。 

この映画は、同名のノンフィクション書籍の映画化であり、日本政府がポツダム宣言受諾を決定し、1945年8月15日に玉音放送に踏み切るまでの過程を描いたものです。

 この中で、陸軍の主戦派はポツダム宣言受諾を良しとせず、連合国軍への徹底抗戦を主張します。陸軍は江戸時代以前の甲冑・槍・火縄銃までをもかき集めて「本土決戦」・「一億火の玉」を強調。更に、8月10日の御前会議でポツダム宣言受諾が決定したと知るや、陸軍の多数の将校がクーデター決行を決意。8月15日未明には決起に否定的な近衛第一師団長を殺害。その後、近衛歩兵連隊を皇居に送り込んで玉音放送が収録されたレコード盤を奪取しようとしたのです。

宮城事件 - Wikipedia

 準備不足かつ長期戦略も無いまま始めた結果、絶望的に不利な立場に陥りながらも戦争継続に拘る日本陸軍と、様々な矛盾や欠陥が続々と露呈し、存在意義に疑義が呈されているにも関わらず、あくまで従来通りのやり方と利権にしがみ付く医局(と医局肯定派)。似たような組織に見えてしまうのは私の錯覚でしょうか?

クマvsイノシシ 社会的(そして医療的)な認知度が高いのはどっち?

 過日、NHK総合の『クローズアップ現代プラス』で「アーバンイノシシ物語 ワシらが都会を目指すわけ」という物を放送していました。

 最近、イノシシが東京都心部や神戸市中心部といった都会に出没しているのだそうです。その原因としては、

1. 天敵であったオオカミが明治期に絶滅した。人間の狩猟だけ(しかも高齢化している)では頭数を減らす効果も高が知れている。

2. 農村部の高齢化・人口流出(後継者世代は都会に移住して戻ってこない)により、耕作放棄地が増えた。放棄された田畑はイノシシの活動範囲となる。放置された果樹は実がなっても収穫されず、自然に落ちるのでイノシシの餌になる。こうしてイノシシは人間の集落に進出すると同時に頭数を増やし、河川敷を通じて下流(都会)に向かった。

3. 都会の住民にとってイノシシは見慣れないものであり、むしろ可愛がられる。餌をあげてしまった結果、イノシシは人間への恐怖心を忘れ「人間は餌をくれる存在」と学習するに至る。またゴミ捨て場に生ゴミが放置されていることも多く、これが格好の餌になる。

 こうした事が重なり、神戸では市街地にイノシシが完全に定住してしまったのだそうです。また都会の生ゴミは栄養豊富であるため、都会に定住したイノシシは山間部個体に比較して巨大化しているのだそうです。更に、都会部でコンビニ弁当を持って歩いていた市民が、突進して来たイノシシに衝突されて弁当を奪われ、下肢に負傷した事例もあるようです。

 こうした話題を聞いて、私はふと疑問に思いました。「救急医が診療する野生動物による外傷はクマが比較的多いけど、イノシシによる外傷って聞いたこと無くね???」そこで、私はPCを駆使して(かなり大雑把ですが)文献を当たってみることにしました。

 

(1) イノシシによる外傷はどれほどあるのか?

 まず、『医中誌』で「イノシシ 外傷」と検索してみたところ、関連性がある症例報告はたったの1件でした。その内容をざっくり紹介してみます(個人情報が含まれるので、重要な点以外は省いて書きます)。

 念の為日本救急医学会雑誌』のオンラインジャーナル(但し、2015年以降)でも検索してみましたが、1件もヒットしませんでした。

症例1: 農作業中、イノシシに突進され転倒, 突き上げられた。下腿と体幹部に咬創と牙創を受傷。特に背部の牙創は脊椎・胸郭に至る深さに至っていたが、CT上椎体・肋骨骨折や肺挫傷等は認めず、処置時に観察したところ胸郭損傷・肺からのエアリークは認めなかった。

症例2: 狩猟中にイノシシが突進して来たので避けようとして転倒。そこへのし掛かられて噛まれた上に、鼻先で突き上げられた。母指の切断と上肢・大腿部の咬創を受傷。

 共通する受傷機転は①咬傷, ②下顎犬歯で突き上げられる事による切創, ③衝突される(高エネルギー外傷)です。オスのイノシシの犬歯は鋭利で、特に下顎犬歯はナイフのような形状をしています。また、高エネルギー外傷は大動脈損傷・骨盤骨折・臓器損傷・出血性ショック等を伴って致命的となり得るので、初期診療では注意せねばなりません。

 また、これは動物による咬傷に共通する治療(口腔内に様々な細菌が居る為)なのですが、破傷風予防のため沈降破傷風トキソイドと抗破傷風ヒト免疫グロブリンの投与 と, ②創部の洗浄とデブリードマン が必要です。抗菌薬はネコ, イヌ等の他の動物に準じてアモキシシリン・クラブラン酸(経口)やアンピシリン・スルバクタム(静注)を投与します。

 またイノシシに特有の人畜共通感染症が報告されているので、そちらも注意が必要です。具体例を挙げるとMycobacterium bovis・Coxiella brumetti等の細菌, Trichinella, Toxoplasma gondii等の寄生虫, E型肝炎といったウイルスです。

 また、環境省のHPでイノシシによるヒトへの被害(外傷)の統計データ等を探してみましたが、後述のクマのようにデータを取っている様子はありませんでした。むしろ、農産物への被害状況や駆除の方法に関心が向いているようです。

特定鳥獣保護管理計画作成のためのガイドライン(イノシシ編) || 野生鳥獣の保護及び管理[環境省]

 

(2) ではクマの外傷は?

 「クマ 外傷」でまず医中誌を検索しました。最近のものですが、2件症例報告がヒットしましたのでざっと紹介します。

① 2018年掲載の秋田大学の報告

 1995〜2017年のクマによる顔面外傷13例を検討。

受傷した時期: 8月が最多(5件)で、次いで9月(3件), 10月(2件), 11月(1件)であった。ちなみにクマの活動時期は冬眠時期を除いた4~11月である。

受傷した時間帯: 昼7件, 昼3件, 夕3件といずれも日中であり、特に朝で多かった。

受傷した場所: 住宅地等ヒトの生活圏内が8件, 山林が5件ヒトの生活圏内の方が多かった。

外傷の部位: 頭部外傷(頭蓋骨骨折, 髄液漏, 硬膜下血腫を合併) 1例, 頭皮の広範囲剥離 2例, 眼瞼裂傷・脱落 10例(うち眼球破裂・脱落による失明 4例), 顔面骨骨折 10例

頭頸部以外の外傷: 10例で頭頸部以外に裂傷・咬傷を認めた。最も多かったのは上肢。また、鎖骨骨折, 肘関節開放骨折がそれぞれ1例あった他、肋骨骨折と血気胸の合併が1例あった。更に、搬送時に出血性ショックを来していた症例が3例あった(いずれも輸血・昇圧薬投与で救命)。

気道確保の為の気管切開: 8例

治療内容など: 1例を除き全身麻酔下での処置が必要だった。7例では欠損部形成等の為に複数回の手術を要した。平均手術回数は2回。平均入院期間は50日。

 クマは攻撃を行う時に立位を取り、相手の頭頸部を狙うので頭頸部に外傷が集中するのだそうです。頭頸部外傷は①意識障害, ②気道閉塞/狭窄(出血や顔面骨折による), ③大量出血(とそれによるショック)を合併しやすいので注意が必要です。また、上記のように頭頸部以外に外傷を合併する場合もあるので、他の高エネルギー外傷と同様に全身検索が必要です。

② 2017年掲載の岩手医科大学の報告

 2011年1月〜2016年12月に救急センターへ搬送されたクマ外傷を集積。合計50例であった。

受傷時期・状況など: 5月に最多山菜採りの最中に遭遇するケースが目立った。ほか9~11月のキノコ採りの最中に遭遇した事例も6例あり。

時間帯: 8時〜11時59分で多発。日中の被害が圧倒的に多かった。

搬送手段: 救急車・ドクターヘリで搬送 33例, 他院からの紹介搬送 17例。なお前者の搬送時間(受傷〜搬入まで)は182±10分であった。山林で受傷した場合、自力で下山した後に救急要請しているので、その分時間がかかっている。なお搬入前後に死亡した症例はない。

ショック・輸血を要した症例: ショック 5例(10%), 輸血 11例(22%)。顔面及び頭部からの出血が多い。

受傷部位: 顔面 45例(90%), 上肢 19例(38%), 頭部 13例(26%)。上肢の創傷は前腕の裂傷・咬傷が多く、防御の際に付いたと思われる。

合併症: 創部感染 10例(20%), 眼球破裂と頬骨骨折 各8例(16%)。なお創部感染症例のうち原因菌が同定されたのは5例(10%)で、通性嫌気性菌が7種, 嫌気性菌が4種検出された。

全身麻酔下の緊急手術: 34例(68%)

使用した抗菌薬: βラクタマーゼ阻害剤(セファゾリン, ピペラシリン, セフタシジム) 28例, βラクタマーゼ阻害剤(アンピシリン・スルバクタム) 22例。

創部感染発生率: βラクタマーゼ阻害剤使用例で28例中8例(28.5%), βラクタマーゼ阻害剤使用例で22例中2例(9.1%)であり、統計学的有意差は認めなかったもののβラクタマーゼ阻害剤で創部感染が少ない傾向が見られた。

 なお創部感染症例で検出された原因菌の大半はセファゾリンに感受性が無く、一方でアンピシリン・スルバクタムは検出された11菌種中9種に感受性があった。

 

 この2つの症例報告は、異なる都道府県・施設から出されていますが、考察で共通した見解を述べています。

1. 動物咬傷(汚染創)に共通したもの

 沈降破傷風トキソイド 及び 抗破傷風免疫グロブリンの投与破傷風を予防するとともに、動物の口腔内の細菌(嫌気性菌, Staphylococcus等)や土壌中の細菌をカバーする抗菌薬(ex. βラクタマーゼ阻害剤とペニシリン系の合剤)の投与が必要。

2. クマとヒトの関係性

 人口減少・過疎化・高齢化に伴って、里山が荒廃し(耕作放棄地が増え)た結果、クマが人里に進出するようになっている。

 いずれも、既述のイノシシ問題と共通したものであることがわかります。

 なお、クマに関しては以前よりヒトを襲った情報がメディアを通じて報道される機会が多く、市町村が出没/警戒情報を発令しています。環境省のホームページを検索すると、ヒトへの被害件数の統計や出くわした時の対応法マニュアル等、人的被害に関連した情報が多く掲載されている事が分かります。

 

(3) まとめ

  • クマもイノシシも、受傷しやすい部位は違えど①高エネルギー外傷となり致命的となりうる, ②汚染創・咬傷なので破傷風予防と抗菌薬投与が必要であり、デブリードマンも適宜行う必要がある
  • ヒトへの襲撃/外傷に対する、社会的な注目度・認知度(そして実際に発生する被害件数?)はイノシシ<<<クマであると思われる。
  • イノシシ及びクマの出没問題の根幹は少子高齢化・人口減少による農村/里山の荒廃である。ヒトによる生態系破壊(特にオオカミの絶滅)も良くなかった。

(4) 参考文献

『多発イノシシ外傷の2例』創傷, 8(4):150-154, 2017
『クマによる顔面外傷13症例の検討』頭頸部外科, 28(2):183~190, 2018
『当施設におけるクマ外傷50例の検討』日外傷会誌, 31(4):442~447, 2017