Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

mRNAワクチン接種後の心筋炎に関するデータ

 みなさんこんばんは。現役救急医です。最近、コロナワクチン − とりわけモデルナ製やファイザー製のmRNAコロナワクチン − の副作用である心筋炎についてニュース等で話題になっていましたね。

 以前の記事でもとある論文を紹介しmRNAワクチン接種後に心筋炎を発症するriskと, COVID-19罹患後に心筋炎を発症するriskを比較すると、後者の方が高いという話をしていましたが、今回は、その論文以外の最新のデータをちょっと紹介してみようと思います。

 

 

(1) 米国カリフォルニア州の研究 (DOI: 10.1001/jamainternmed.2021.5511)

 Kaiser Permanente Southern CaliforniaKPSC; 病院グループ或いは医療保険会社の類か?)のメンバーのうち, 18歳以上で, 2020年12/12~2021年7/20の間にファイザー製(BNT162b2)or モデルナ製(mRNA-1273)コロナワクチンを1回以上接種された人が解析の対象であった。医師からの心筋炎の報告, 及び コロナワクチン接種後10日以内に入院し、退院時の診断名が心筋炎である患者を同定することでコロナワクチン接種後の心筋炎発症を特定した。コロナワクチン接種後の心筋炎の発症率を算出した上で、1) 2020年12/14〜2021年/7/20の間の接種者における心筋炎の発症率, 及び 2) コロナワクチンを接種される1年前の10日間における被接種者内の心筋炎発症率と比較した。

 mRNAワクチン接種を受けたKPSCメンバー2,393,924名のうち、50.2%がモデルナ製・50.0%がファイザー製ワクチンを接種された。

 コロナワクチン被接種集団内で心筋炎と診断されたのは15名(1回目接種後: 2名, 2回目接種後: 13名)であり、発症率は1回目接種後: 0.8症例/100万人, 2回目接種後: 5.8/100万人(観察期間は10日間)となった。全員が男性で, 年齢中央値は25歳だった。接種者内内では、研究対象期間中において75例の心筋炎が確認され、男性は39名(52%), 年齢中央値は52歳で, 心筋炎の発症率(観察期間=10日)は2.2/100万人だった。心筋炎のIncident rate ratio(IRR)は、1回目接種後: 0.38(95%CI 0.05~1.40), 2回目接種後: 2.7(95%CI 1.4~4.8)だった。ワクチン被接種者の1年前の状態をcontrolとした解析でも、1回目接種後のIRR: 1.0(95%CI 0.1~13.8), 2回目接種後のIRR: 3.3(95%CI 1.0~13.7)と似たような結果を示した。

 ワクチン接種後心筋炎の患者にて、心疾患の既往がある人はいなかった。15名中8名がファイザー製, 7名がモデルナ製を接種されていた。15名全員が入院し, PCRSARS-CoV-2陰性と確認されている。14名がワクチン接種1~5日後の間に胸痛を自覚した。全例が保存的治療で改善した。

 

 

(2)BNT162b2 mRNAワクチン(ファイザー製)を採用したイスラエルの全国規模データ (DOI: 10.1056/NEJMoa2109730)

① Method

 保健省のデータベースが収集した医療記録から、心筋炎疑い例に関するデータを後方視的に検証した。対象期間は2020年12月〜2021年5月の6ヶ月間とした。

 心筋炎症例の特徴付けを行う為に、記述的な頻度, 割合, 平均値, 標準偏差を使用した。1回目接種後21日間, 及び 2回目接種後30日間において、心筋炎新規発症の発症数を調べる為に、発生率曲線を用いた。データは男女別, 及び 年齢層(16~19歳, 20~24歳, 25~29歳, 30~39歳, 40~49歳, 50歳以上)別に解析した。ワクチン被接種者内の心筋炎発症率を評価する為に、risk差, 観測値/予測値比, 被接種者と未接種者間のrate ratioを算出した。

 Risk差を求める為に、1回目接種後及び2回目接種後の心筋炎riskをper 100,000人にて現し, 年齢層別・男女別に算出この解析には、心筋炎確定診断例("definite"), 或いは 蓋然例("probable")のみが含まれた1回目接種と2回目接種の間のrisk差の計算には、1回目及び2回目接種後21日間の累積発症率を使用した。2回目接種によると思われる心筋炎riskの割合は、1回目と2回目接種の間のrisk差を2回目接種後のriskで割り, 単位はパーセンテージで現した。

 報告された心筋炎症例全例について、標準化発症比を求めることで、心筋炎発症率の観測値と, 2017~2019年(COVID-19パンデミック前)の心筋炎発症率予測値を比較した。この解析を、ワクチン接種と時間的に近接して(≒接種直後に)発症した心筋炎症例全例に対して行った。心筋炎症例の過剰な報告により標準化発症比が過大評価されているかどうか評価する為に、2回目接種後の男性の標準化発症比に有意差が生じるには最小でどれくらいの症例が必要か決定するsensitivity analysisを行った。

 2回目接種後30日経過した参加者における心筋炎発症率と, 2021年1/11〜5/31の間の接種者における心筋炎発症率を比較し、年齢別・男女別に報告した。被接種者と未接種者間のrate ratioや95%信頼区画を、それぞれの階層, 及び集団全体に関して計算したこの解析には心筋炎確定例, もしくは 蓋然例のみが含まれた。

 

② Result

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Table 1

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Table 2

 9,289,765名のイスラエルの住民の中で、1回目接種を受けたのは5,442,696名, 2回目接種を受けたのは5,125,635名だった(Table 1)保健省には合計304例の心筋炎が報告された(Table 2)。2回接種を受けた196名でこうした診断が下された。各症例の経過を見直した後、21名は他の診断が成立したので除外された。つまり、心筋炎の診断が確定したのは283例だった。このうち、

  • 1回目接種後21日以内・2回目接種後30日以内: 142例
  • 心筋炎発症時期が接種直後でない: 40例
  • 接種: 101例(COVID-19の確定診断を受けた人: 29例, 確定診断名なし: 72例)

だった。

 上記の142例中、136例は心筋炎確定例ないし蓋然例の診断を受けており, 1例は心筋炎の可能性あり("possible")と診断され, 5例はデータが不足していた。

 心筋炎確定 or 蓋然例136例のうち、129名では臨床症状がおおむね軽症で, 大半が寛解したしかし1名が劇症型心筋炎で死亡した。大半の患者でejection fractionは正常ないし軽度低下しており, 4名では重度の低下が見られた。

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Fig 1

 ワクチン接種直後心筋炎の症例数のピークは2021年2月と3月に発生した; ワクチン接種状況, 年齢, 性別との関連性をTable 1Figure 1に示す。心筋炎確例 or 蓋然例となった136名のうち、1回目接種後に発症したのは19名, 2回目接種後に発症したのは117名だった。1回目接種後21日間において、19名が入院し, 入院期日の時間的分布はほ等しかった。2回目接種後に発症した117名中95名(81%)が、接種後7日内に入院した。

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Table 3

 同一期間における(1回目, 及び 2回目接種後21日間)riskの男女別・年齢別比較をTable 3に示す。心筋炎症例は2回目接種後の最初の数日間に集中していた(Fig. 1B and 1D)1回目接種と2回目接種間の合計risk差は1.76/100,000名(95%CI 1.33~2.19)だった;

  • 男性における合計risk差: 3.19 (95%CI 2.37~4.02)
  • 女性における合計risk差: 0.39 (95%CI 0.10~0.68)

16~19歳の男性被接種者で最大のrisk差が見られた:  12.73/100,000名(95%CI 8.11~19.46); この年齢層において、2回目接種によると思われる心筋炎の割合は91%だった。女性被接種者において、同一年齢層における1回目と2回目接種間のrisk差は1.00/100,000名(95%CI -0.63~2.72)だった。フォローアップ期間を7日間にしてこうした解析を行っても、16~19歳の男性被接種者におけるrisk差は13.62/100,000名(95%CI 8.31~19.03)と同等の結果であった。これらの知見は、2回目接種後の最初の1週間がriskの高い期間であることを示す。

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Table 4

 パンデミック前の時期における心筋炎発症率と比較した、ワクチン接種時期(1回目か2回目か)・年齢・男女別の心筋炎標準化発症比をTable 4に示す。2回目接種後の心筋炎の標準化発症比は5.34(95%CI 4.48~6.40)であり, これは主に若い男性被接種者における心筋炎の診断によるものである男児と成人男性において、

  • 16~19歳の標準化発症比: 13.60 (95%CI 9.30~19.20)
  • 20~24歳の標準化発症比: 8.53 (95%CI 5.57~12.50)
  • 25~29歳の標準化発症比: 6.96 (95%CI 4.25~10.75)
  • 30歳以上の標準化発症比: 2.90(95%CI 1.98~4.09)

だったこうした顕著な増加は1回目接種後では見られなかった

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table 5

 2回目接種後30日以内の集団全体において、被接種者と未接種者の心筋炎発症率を比較したrate ratioは2.35(95%CI 1.10~5.02)だった。こうした結果は、主に若年男性における知見によるもの (Table 5)

  • 16~19歳のrate ratio: 8.96 (95%CI 4.50~17.83)
  • 20~24歳のrate ratio: 6.13 (95%CI 3.16~11.88)
  • 25~29歳のrate ratio: 3.58 (95%CI 1.82~7.01)

2回目接種後フォローアップを7日にすると、16~19歳の男性被接種者に対する解析結果は、接種後30日以内の知見よりも強かった(rate ratio 31.90; 95%CI 15.88~64.08)。

 

③ Discussion

 ファイザー製ワクチン2回接種後に発症した心筋炎確定例ないし蓋然例は126例が記録され、このriskは未接種者の2倍を上回った2回目接種後21日以内の16~19歳の人における心筋炎症例は、男性で6,637名中1名, 女性で99,853名中1名にて発生した。

 大半の症例は、2回目接種後数日以内に心筋炎の症状を発症した。心筋炎の発症数は、時間経過とともに新規被接種者が増えるに従って減少した。これらの知見は、2回接種と心筋炎riskの間の因果関係を示唆するものである。合計すると、イスラエルでは、2回目接種後の心筋炎発症率は男性: 26,000名中1名, 女性: 218,000名中1名と推定される。

 

 こうした知見をざっくりとまとめると、

  • mRNAワクチン接種後の心筋炎は男性の方で多く発症する
  • 年齢が若いほど、mRNAワクチン接種後の心筋炎riskが上がる
  • 入院が必要な場合もあるが、心筋炎の経過は大半が軽症で済み, 多くが保存的治療で改善する。

ということが言えるでしょう。