こんばんは。なんか面白い論文を発見したので今日も大雑把に紹介していきます。参考文献は、9/22にLancetへ発表されたイスラエルの論文(https://doi.org/10.1016/S1473-3099(21)0056-1 )です。
(1) Introduction
① イスラエルのワクチン接種プログラムや, SARS-CoV-2流行状況の時系列について
2020年12/20: BNT162b2 mRNAワクチン(ファイザー・BioNTech製)の接種プログラム開始。同時期にSARS-CoV-2感染拡大が発生した。
同年12/27: 全国規模のロックダウン開始。
2021年1/8: 追加のロックダウン措置実施。
同年1/20: 1日あたりの感染者数が10,000名<とピークに達した。
2/7: ロックダウン緩和が開始された。
2/11と21, 3/7: 学校再開。
この後しばらく、感染者数は低値にとどまっていた(4/23〜6/23の期間で、1日の新規感染者数は<150名だった)。
4/10: この時点で、イスラエルの16歳以上の人口の70%<が2回接種を終えていた。
6/24〜: デルタ株流入に伴い、感染者数が増加。
② この研究の目的など
ワクチン接種プログラムによって防がれたCOVID-19関連の入院患者数と死者数, SARS-CoV-2感染者数はまだ分かっていない。ワクチン接種により防がれた負担の推計は、ワクチンの公衆衛生上の利益を明らかにするであろう。
(2) Metod
① Study Design
今回、ワクチン接種プログラムが開始された2020年12/20から2020年4/10の間に, 16歳以上の人々において, ワクチン接種が防いだSARS-CoV-2感染者数・COVID-19関連入院患者数・死者数を推計した。コロナワクチン接種1回目以上が接種され, 尚且つ 1回目接種から14日以上フォローアップを受けていた人全員がこの推計に含まれた(つまり、推計はワクチン接種プログラム開始から14日後の1/3より開始されることになる)。
② Outcome
4つのoutcomeについて、防がれた負担を推計した。
- SARS-CoV-2感染者数: PCRでSARS-CoV-2陽性となった人数
- COVID-19関連入院患者数: COVID-19によって入院した患者数
- 重症例 or 致死的症例数: 重症例とは、呼吸数>30/min., SpO2<94%(室内気で), PaO2/FiO2<300 mmHg のいずれかを満たす入院患者のこと。致死的症例数とは、人工呼吸器使用, ショック, 心・肝・腎不全のいずれかを満たす入院患者のこと。
③ 統計処理方法
- 1) コロナワクチン1回目以上が接種され、1回目接種から14日以上フォローアップを受けた人(以下、『部分接種以上』と呼ぶ)全員
- 2) コロナワクチンは2回目接種を終え、2回目接種後7日以上フォローアップを受けた人(以下、『完全接種済』と呼ぶ)と, 3) 1回目接種しか受けておらず、1回目接種後14日以上フォローアップを受けた人(以下、『部分接種済』と呼ぶ)という、1)の集団に含まれる2つのsubset曝露群
において、防がれた感染者数・入院患者数・死亡数を推計した。
1. まず16歳未満と, SARS-CoV-2感染既往がある人を除外した。
2. 次に、未接種者と部分接種以上の人双方で、この研究の対象期間中における発症率を、1日ごと, 及び 年齢層ごとに算出(≒年齢層別の発症率を、毎日算出)した。発症率は人日("person-day")で表し、それぞれ
- 部分接種以上・完全接種済の人: [部分接種以上 or 完全接種済の人の割合]と[各年齢層の人口の推計値]の積
- 未接種者: [各年齢層の人口の総計]から[BNT162b2接種歴のある人が寄与した人日]を減じる
という形で求めた。
3. 次に、この2群(未接種者と部分接種以上)間の発症率の差を1日単位で算出した。
4. 続いて各年齢層において、[1日の発症率の差]と[SARS-CoV-2感染既往がない集団のサイズ]の積, 及び [1日の発症率の差]と[部分接種以上の人の割合]の積 を求めた。
5. この過程を研究対象期間中において繰り返し, また 全ての期日について合計した。SARS-CoV-2による負担の合計は下に示す公式で行った。
- N=[1日のSARS-CoV-2感染既往がない集団のサイズ]
- VX≧1dose=[1日の1回目接種以上を受けた人の累積比率]
- COVIDUnVx=[未接種群内の、その日のSARS-CoV-2感染例・COVID-19関連入院・重症or致死的入院例・死亡例の発症率]
- COVID≧1dose=[1回目接種以上を受けた集団内の、その日のSARS-CoV-2感染例・COVID-19関連入院・重症or致死的入院例・死亡例の発症率]
(3) Result
2021年4/10までに、16歳以上のイスラエル国民650万人中、520万人(79.8%)が部分接種以上の状態であった。そのうち完全接種済は480万人(92.4%)であり, 16歳以上のイスラエル国民の73.8%が完全接種を終えていたことになる。ワクチン接種率は、高齢であるほど早期に実施され, 高率であり, また 急速だった(Figure 1)。
16歳以上の人口において、SARS-CoV-2感染例は269,459名, 入院例は12,228名, 死亡は2,859名だった。部分接種以上の人と未接種者の間の1日発症率の差は、
- SARS-CoV-2感染例: 71.8/100,000
- COVID-19関連入院例: 3.0/100,000
- 重症or致死的入院例: 1.5/100,000
- COVID-19関連死亡例: 0.3/100,000
であった(Table 1)。時期と年齢で階層化した結果により、時間経過とともに発症率の差は変動し、2021年1~2月が最も高値であったこと, 及び 65歳以上の集団では、未接種者と部分接種以上の人の間で入院と死亡の発症率の差が最大であったこと, が判明した(Table 1, 2)。
2021年4/10までに、16歳以上の部分接種以上の集団では、
- 158,665名(95%CI 144,640~172,690)のSARS-CoV-2感染例
- 24,597名(95%CI 18,942~30,252)の入院例
- 17,432名(95%CI 12,770~22,094)の重症or致死的入院例
- 5,532名(95%CI 3,085~7,982)の死亡例
が防がれたと推計される(Table 3, Figure 2)。16歳以上の完全接種済の集団が最も上記outcomeを回避したと推計された;
- 158,655名の感染例中、116,000名(73.1%)
- 24,597名の入院例中、19,467名(79.1%)
- 17,432名の重症or致死的症例中、13,925名(79.9%)
- 4,432名の死亡例中、4,351名(78.7%) (Table 3)
(4) Discussion
パンデミック開始〜2021年4/10までの間に、イスラエルでは合計835,811名のSARS-CoV-2感染例と6,292名のCOVID-19関連入院・死亡例が記録された。このうち感染例 269,459名, 入院例 13,338名, 重症or致死的症例 8,429名, 死亡例: 2,859名はこの研究の対象期間である2021年1/3~4/10の間に発生している。2021年4/10の時点で(ワクチン接種キャンペーン開始から112日目)、感染例 158,665名・入院例 24,597名・重症or致死的症例 17,432名・死亡例 5,532名がワクチンにより防がれたと推計された。つまり今回の知見は、もしワクチン接種プログラムが迅速に開始されていなければ、ワクチン接種プログラム開始〜4/10の間に実際に発生した入院例・死亡例の実に3倍の症例が発生していた可能性を示している。こういった推計によると、研究対象期間終了までに発生していたであろう死亡例のほぼ全てが防がれたことになる。
今回の研究は、1回目接種以上の効果に対して設計されていたものの、1回目接種以上を受けた人の大半(92%)は完全接種済であった。つまり、今回の知見は全国規模のワクチン接種の効果を強く反映していることになる。合計すると、感染例の73%, 及び 入院例と死亡例の79%が完全接種済の集団に属していた。こうしたデータは、2回接種の直接的な影響だけでなく、1回目接種以後・2回目接種前の予防効果も明らかにした。