Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

コロナワクチン3種類のCOVID-19による入院に対する効果 in 米国

 こんばんは。現役救急医です。遂に今週末が救急専門医試験です。一応今年の春くらいから本格的に過去問数年分を解き, 分からなかった・間違えた問題を中心に参考書を読み込んだりして対策はしてきたつもりですが、私の小学生以下の集中力・飽きっぽさでどこまで成果が出るのか不安です。

 今日はちょっと気になるデータをネット上で見つけたので紹介してみます。今回の参考文献は、今年9/17頃に米国CDCが発行している"Morbidity and Mortality Weekly Report"というジャーナルのウェブサイトへ掲載されたもの(Self WH, Tenforde MW. et al., "Comparative Effectiveness of Moderna, Pfizer-BioNTech, and Janssen Vaccines in Preventing COVID-19 Hospitalazations Among Adults Without Immunocompromising Conditions - United States, March-August 2021." September 24, 2021 / Vol. 70 / No. 38)です。

 

 (1) Introduction

 米国で現在、緊急使用承認(Emergency Use Authorization; EUA)が下りているのは以下3種である。

  • mRNA-1273モデルナ製のmRNAワクチン。2020年12月に18歳以上へ接種が緊急承認された。2回接種。
  • BNT162b2ファイザー・BioNTech製のmRNAワクチン。上記と同時期に16歳以上へ接種が緊急承認され, 2021年8/23に16歳以上への接種が正式承認された。2回接種。
  • Ad26.COV2ヤンセン・Johnson & Johnson製のウイルスベクターワクチン。2021年2月に18歳以上への接種が緊急承認された。1回接種。

(2) Method

 CDCは2021年3/11~8/15の期間において、米国18州の病院21ヶ所で入院した18歳以上の成人3,689名を対象にして、症例対照解析を行った。なお、免疫不全状態にある患者は今回の研究から除外され, また以下のいずれかに該当する患者も除外された。

  • 冒頭の3種以外のコロナワクチンを接種された
  • 1回目以上のコロナワクチンを接種されたが、"full vacctination"(定義は後述)の基準は満たさない
  • 1回目と2回目で別種のコロナワクチンを接種された

 COVID-19症例患者とは、1) COVID-19様症状で入院し, 尚且つ 2) RT-PCRまたは抗原検査でSARS-CoV-2陽性となった 患者を示す。また対照群となる患者は、RT-PCRSARS-CoV-2陰性である成人入院患者である。

 患者の人口学的な特徴や臨床経過, 接種されたワクチンの種類等に関する情報は、本人・代理人へのインタビューや州のワクチン登録情報, 病院の電子医療記録等から取得した。発症から14日以上前にmRNAワクチン接種2回目を受けた, ないし ヤンセン製ワクチン単回接種を受けた人は完全接種済(fully vaccinated)と見做された。

 COVID-19入院に対するワクチン有効性は、有効性=100x(1-調整odds比)という公式を用いて, COVID-19症例群と対照群の間のワクチン完全接種に対する未接種のodssを比較し, ロジスティック解析という方法で推計した。mRNAワクチンの有効性は3/11~8/15の期間で, 2回目接種後14~120日目, 及び 120日以降にて行なった。ヤンセン製ワクチンについては発症120日より前にワクチンを接種された人数が少ない(19名)ため、ワクチン有効性の時間による階層化は行われなかった。

 これに加え、2021年4/6~6/4の間に、18歳以上の成人で, SARS-CoV-2感染既往がないボランティア100名を対象にして、ワクチン完全接種後2~6週間の時期に採血を行い、1) 抗SARS-CoV-2スパイクIgG, 2) 抗SARS-CoV-2 receptor binding domein(RBD; 受容体結合部位)IgG, 3) 抗SARS-CoV-2ヌクレオカプシドIgG の血清中濃度の比較を行なった。抗ヌクレオカプシド抗体が陽性(>11.8 Binding Antibody Unit[BAU])だった2名はSARS-CoV-2感染既往ありと考えられたので除外された。

(3) Result

① ワクチンの有効性について

 3,689名の患者(症例群 1,682名, 対照群 2,007名)のうち2,364名(64.0%)が未接種だった。

  • モデルナ完全接種済は476名(12.9%)
  • ファイザー完全接種済は738名(20.0%)
  • ヤンセン完全接種済は113名(3.1%)

だった、全参加者において、年齢中央値は58歳, 女性は48%, 23%は非ヒスパニック系黒人, 18%はヒスパニックだった。2021年3/11~8/15の間のCOVID-19による入院に対するワクチンの有効性は、

  • ファイザー(88%)よりモデルナ(93%)で高かった(p=0.011)
  • 2種のmRNAワクチンの有効性はヤンセン(71%)よりも高かった(全てp<0.001) (Table 2)
  • モデルナの2回目接種後14~120日目の有効性は93%で、120日を超えたら92%だった(p=1.000)
  • ファイザーの2回目接種後14~120日目の有効性は92%で、120日を超えたら77%だった(p<0.001)

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Table 2

② 抗体濃度の分析

 抗体の解析を行なった100名のボランティアの内訳は、

だった。抗RBD抗体濃度は、

  • ファイザーを接種された人(中央値 3,217 BAU/mL; 幾何平均 2,950 BAU/mL; 95%CI 2,325~3,742 BAU/mL)よりも、モデルナを接種された人(中央値 4,333; 幾何平均 4,274; 95%CI 3,393~5,384)で高かった。(p=0.033)
  • ヤンセンを接種された人(中央値 57; 幾何平均 51; 95%CI 30~90)よりも、モデルナを接種された人で高かった。(p<0.001) (Figure)

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Figure

抗スパイクIgG濃度は、

  • モデルナを接種された人(中央値 3,236 BAU/mL; 幾何平均 3,059 BUA/mL; 95%CI 2,479~3,774 BAU/mL)ファイザーを接種された人(中央値 2,883; 幾何平均 2,444; 95%CI 1,936~3,085)有意差は無かった。(p=0.217)
  • モデルナを接種された人は、ヤンセンを接種された人(中央値 59; 幾何平均 56; 95%CI 32~97)よりも有意に高値だった。(p<0.001)

(4) Disucussion

 モデルナ製とファイザー製のmRNAワクチンの2回接種は、COVID-19による入院に対して高度の予防効果を示した。COVID-19入院に対する有効性は、ファイザー製で88%, モデルナ製で93%だったが、ヤンセン製で71%と低値だった。ヤンセン製ワクチンを接種された人は、mRNAワクチンを接種された人よりも接種後の抗SARS-CoV-2抗体濃度が低かった。COVID-19ワクチンに関する予防効果の免疫学的な相関関係は確立されていないものの、感染・ワクチン接種後の抗体力価と予防効果は関連している。現実世界のデータは、モデルナ・ファイザー製2回接種はヤンセン製単回接種よりも強い予防効果を持つことを示唆している。ヤンセン製ワクチンの有効性は低値であったものの、ヤンセン製1回接種はCOVID-19関連入院のriskを71%減少させた。

 COVID-19入院に対する有効性は、モデルナ製よりもファイザー製で僅かに低値であり, ファイザー製の有効性は120日目以降減少している一方で、モデルナ製ではそうでもなかった。モデルナ製はファイザー製よりも高値の抗RBD抗体濃度を産生させた。モデルナ製とファオザー製の間のワクチン有効性の差は、1) モデルナ製ワクチンの高濃度のmRNA成分, 2) 1回目と2回目接種の間隔の違いファイザー製は3週間, モデルナ製は4週間), ないし 3) 両群間の潜在的な差異, のいずれかが原因となっている可能性がある。