超久しぶりに更新します
長らく更新の間隔が空いてしまいました。現役救急医です。読者の皆様にはご心配をかけてしまい申し訳ありません。ちゃんと生きていますし、仕事もしています。実のところ、このブログを更新する原動力に、日々の診療の中で感じる不満があったことは否めないのですが、大都市部に移住して働きやすい環境になったせいか、ここに書くような不満や批判がだいぶ減っていたと思うのです。
久々の更新ですので、医療界のことについてだらだらと私見を綴っていこうと思います。昨年から、医療従事者の間で『直美』というフレーズが頻繁に聞かれるようになり、程なく新聞やTV番組等を通じて一般市民にもその存在が知られるようになりました。既に周知のフレーズなのでここでの説明は軽く流しますが、医学部医学科卒業後2年間の初期研修が終わって直ぐに, ないし 数ヶ月程度で専門医課程を離脱して, 美容外科に所属してしまうという現象のことです(言うまでもないかと思われますが、美容外科は保険診療ではないです)。
通常であれば、初期研修終了後は内科系・外科系(ここでは消化管・肝胆膵, 心臓・血管外科, 脳外科, 小児外科以外に、整形外科や産婦人科も含む)・小児科・その他の麻酔科, 耳鼻咽喉科, 精神科, 放射線科, 眼科, 病理診断科等の診療科の専門医課程に進み、各診療科の専門医資格取得を目指します。その過程で各大学病院医局に所属する必要がありますが、その医局の人事により関連病院へ一定期間(数ヶ月〜数年程度と様々)派遣となることもあります。
そうした『従来の/通常の』進路が益々敬遠されるようになっているのです。彼ら・彼女らの動機は各々異なると推察されますが、
- 大学病院・市中病院, 或いは国公立病院・民間病院を問わず、外来や入院の患者数, 重症患者を担当した回数, 勤務時間, 手術や検査・処置の回数が増えても、必ずしも医師や看護師の給与が増える訳ではない
- 医師の働き方改革が始まっているとはいえ、中央省庁の官僚の机上の空論であるため現場の医療従事者がその効果を感じるに至っていない(過重労働が解消されていない)
- 急性期医療機関の集約化が進んでいない(1地域内に急性期医療機関が複数散在しており、それぞれの医療機関で必要最小限ないしそれ以下のキャパシティで診療をなんとか回しているような状況が持続している)
- 大学医局や地域, 病院によっては、若手医師への監督・教育態勢が機能しておらず、指導医の診療能力が劣っている場合もある
- 大学医局や地域によっては、自分のステータス(卒業年数や地位, 性別など)を利用して後輩や他職種・他診療科へのハラスメントが横行している場合がある
といった要因があると私は思っています。美容医療の場合、グループ・施設によってはハラスメントが横行している可能性もありますし, 報道にもあるように手術後の合併症への対応が杜撰で患者に不利益が及ぶ事例も現実に見られていますが、基本的に入院施設が無いので当直・オンコールは無し, 給与体系も(おそらく)症例数が多いほど報酬が増えるような体制でしょうから、そちらへ足が向いてしまうのは無理も無いでしょう。
逆に言うと、上記に挙げたような課題を是正しない限り、仮に『直美』を出来ないように規制しても、また別の業界(例えば、効果や安全性について十分な検証を経ていない治療法をあたかも「効果があり安全だ」と宣伝して勧める自由診療。抗癌剤・手術・放射線療法等を否定する癌治療や, ワクチンの効果を全否定し有害性を前面に出す主張などが典型例)に流れてしまうのがオチではないでしょうか。
厚労省や政治家, メディアはもう少し、こうした背景をしっかり吟味して、国会や省庁での議論を行い、かつ国民間の議論も促すべきなのです。また一般市民もメディアも、政治家も、感情論に至らず, 事実関係・相関関係を正確に把握した上で議論を深めルべきです。