Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

デルタ株流行下でのコロナワクチンの有効性

 みなさんこんにちは。現役救急医です。今日は最近目を通した論文について、自分の頭の中の整理も兼ねてまとめてみたいと思います。お題は『デルタ株に対するコロナワクチンの有効性』です。今回は、複数の論文を参考にし, 重要そう or 関連がありそうな部位だけを適宜抜粋してやってみました。

 

(1) 米国のデータ

① 医療従事者・救急隊員の集団について

 2020年12/14~2021年4/10までの間医療従事者と救急隊員でmRNAワクチンの有効性を調べた'HEROES-RECOVER'では、コロナワクチンの症候性・無症候性SARS-CoV-2感染に対する予防効果は約90%であることが示されている。そして同じコホートで、2021年8/14までのワクチンの有効性を推計し, デルタ株流行前後の有効性を比較した

 米国6州の8ヶ所で、医療従事者と救急隊員へ毎週, 及び COVID-19症状発症時のSARS-CoV-2に対するPCRを行なった。なおここで『デルタ株が優勢であった週』とは、配列解析を行われたウイルス中≧50%がデルタ株だった週と定義する。なお4,217名の参加者のうち、3,483名(83%)がワクチンを接種されていた。

 2020年12/14~2021年8/14の間

  • SARS-CoV-2感染既往の無い4,136名が、ワクチン未接種期間中央値20日間へ寄与した。その間に194例の感染が確認された。
  • 3,976名が、ワクチン接種完了期間中央値177日間へ寄与した。その間に34例の感染が確認された。
  • SARS-CoV-2感染に対する調整後ワクチン有効性は80%(95%CI 69~88%)だった。

 他方、デルタ株が優勢であった週において、

  • 488名がワクチン未接種期間中央値43日間へ寄与し, 19件の感染例が確認された。
  • 2,352名がワクチン接種完了期間中央値49日間へ寄与し, 24件の感染例が確認された。
  • SARS-CoV-2感染に対する調整後ワクチン有効性は66%(95%CI 26~84%)だった。なおデルタ株が優勢となる前月の有効性は91%(95%CI 81~96%)だった。

※上記の参考文献はFowlkes A, Gaglani M et al. "Effectiveness of COVID-19 Vaccines in Preventing SARS-CoV-2 Infection Among Frontline Workers Before and During B.1.617.2(Delta) Variant Predominance - Eight U.S. Locations, December 2020-August 2021." MMWR. August 27, 2021/Vol. 70/No. 34です。

 

カリフォルニア州サンディエゴの1施設の医療従事者について

 University of California San Diego Health(UCSDH; カリフォルニア大学サンディエゴ校の附属病院?)の医療スタッフは2020年12月に、SARS-CoV-2感染例の急増を経験した。同年12月中旬にmRNAワクチン接種が開始され、2021年3月までには76%, 同年7月までには87%の医療スタッフがワクチン接種を完了させていた。同年2月上旬までには、スタッフ内の感染例は激減していた。しかし、同年6/15にカリフォルニア州のマスク装着義務が終了し, デルタ株が急速に優勢となった(Fig. 1)ことから、医療スタッフでの感染例が急増してしまった。

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Fig. 1

 2021年3/1〜7/31の間に、227名のUCSDH医療スタッフがPCRSARS-CoV-2陽性となった。このうち130名(57.3%)がワクチン接種を完了させていた。なおワクチン未接種スタッフ感染者と接種完了スタッフ感染者の双方で死亡例は認められなかったが、未接種感染スタッフ1名がCOVID-19により入院した。

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Table 1

 3〜7月の毎月についてワクチン有効性を計算した(Table 1)attack rateは、

  • 2021年1~2月にワクチン接種を完了させたスタッフ:  1,000名ごとに6.7(95%CI 5.9~7.8)
  • 同年3~5月にワクチン接種を完了させたスタッフ:  1,000名ごとに3.7(95%CI 2.5~5.7)
  • 未接種スタッフにおける5月までのattack tate:  1,000名ごとに16.4(95%CI 11.8~22.9)

であった。

 ワクチンの症候性COVID-19に対する有効性が、デルタ株については低下し, また ワクチン接種後の時間経過に伴って低下する可能性が示唆された。

※上記の参考文献は、Binkin NJ, Laurent LC. et al. "Resurgence of SARS-CoV-2 Infection in a Highly Vaccinated Health System Workforce." New Engl J Med. DOI: 10.1056/NEJMc2112981 です。

 

③ 'VISION Network'

 VISION Networkとは、2021年6〜8月の間に, 187ヶ所の病院と221ヵ所の救急外来(emargency department; ED)・緊急治療(urgent care)クリニックの受診者を調べるために、米国CDCが使用したネットワークである。なお同年6月には、このネットワークに参加している各施設で分離・配列解析されたSARS-CoV-2の>50%がデルタ株となっていた。

 1)18歳以上で, 2)入院・受診の14日前 or 入院受診72時間後にPCRSARS-CoV-2感染が診断され, 3)退院時診断名がCOVID-19様症状である 人のデータが登録された。mRNAワクチン接種が1回のみ, もしくは 2回目接種が受診・受診日後14日未満であった人は除外された。ここで『ワクチン完全接種済(fully vaccination)』とは、検査or受診の14日以上前にmRNAワクチン2回目接種, ないし Ad26.COV2ワクチン単回接種を受けていたことを意味する。また『未接種(unvaccinated)』の定義は、コロナワクチンを一切受けていない状態を意味する。

 COVID-19様症状で入院した14,636名の中でSARS-CoV-2感染が診断された参加者の内訳は、

  • ワクチン未接種の割合: 18.9%(1,316/6,960名)
  • ワクチン完全接種済の割合: 3.1%(235/7,676名)

であり、COVID-19による入院に対するワクチン有効性は86%(95%CI 82~89%)だった。

 COVID-19様症状でED/UCを受診した18,231名の中でSARS-CoV-2感染が診断された参加者の内訳は、

  • ワクチン未接種の割合: 28.9%(3,145/10,872名)
  • ワクチン完全接種済の割合: 7.0%(512/7,359名)

であり、COVID-19による受診に対するワクチン有効性は82%(95%CI 81~84%)だった。

※上記の参考文献は、 Grannis S, Rowley EA. et al. "Interim Estimate of COVID-19 Vaccine Effectiveness Against COVID-19-Associated Emergency Department or Urgent Care Clinic Encounters and Hospitalizations Among Adults During SARS-CoV-2 B.1.617.2(Delta) Variant Predominance - Nine States, June-August 2021." MMWR/September 17, 2021/Vol. 70/No. 37です。

 

 

(2) ノルウェーのデータ

 ノルウェーで最初にデルタ株が検出されたのは2021年4月中旬であったが, 7月中旬までにデルタ株は、配列解析された検体の67%を占めており、アルファ株に取って替わった。2021年8/19に"BeredtC19"(SARS-CoV-2感染例と医療サービス使用率を監視する為に作られた、ノルウェー全国規模のregstry)からデータを取得した。18歳以上の全成人が含まれ, 同年4/15~8/15のデータを使用したOutcomeは、デルタ株またはアルファ株への感染に設定した。SARS-CoV-2感染感染既往ありの人, 推奨されているコロナワクチン1回目-2回目接種の間隔に従ってワクチン接種を受けなかった人は除外された。ノルウェーで推奨されている1回目-2回目接種間隔は、免疫が正常な人ではファイザー製; 12週間, モデルナ製; 12週間, 免疫不全がある人では、ファイザー製; 3週間, モデルナ製; 4週間だった。なお、ここで『未接種(unvavvinated)』とは(文字通り)コロナワクチン未接種 ないし 1回目接種後から21日未満のことを指し, 『部分接種済(partly vaccinated)』とは1回目接種から21日以上経過 and/or 2回目接種から7日以内のこと, 『完全接種済(fully vaccinated)』とは2回目接種から7日以上経過したことを示す。

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Figure 1

 合計で4,204,859名が含まれ、うち32.4%(1,360,772名)が部分接種済, 46.0%(1,934,912名)が完全接種済であった。感染者数やワクチン接種率変動をFigure 1に示す。2021年8/15までに、27,284名がSARS-CoV-2陽性となった。

  • デルタ株は5,430名(0.13%)で検出され、うち部分接種済は1,609名(29.6%), 完全接種済は558名(10.3%)だった。
  • アルファ株は13,001名(0.31%)で検出され、うち部分接種済は596名(4.6%), 完全接種済は207名(1.6%)だった。

 年齢や性別, 出生地域, 居住地, 併存疾患で調整して、デルタ株感染とアルファ株感染に対するワクチン有効性を推計した。

  • デルタ株感染に対する有効性:  部分接種済; 22.4%(95%CI 17.0~27.4), 完全接種済; 64.6%(95%CI 60.6~68.2)
  • アルファ株感染に対する有効性:  部分接種済; 54.5%(95%CI 50.4~58.3), 完全接種済; 84.4%(95%CI 81.8~86.5)

※上記の参考文献は、Seppala E, Veneti L. et al. "Vaccine effectiveness against infection with the Delta(B.1.617.2) variant, Norway, April to August 2021." Euro Surveill. 2021;26(35):pii=2100793. https://doi.org/10.2807/1560-7917.ES.2021.26.35.2100793 です。

 

 こうした知見をもとに、コロナワクチン(主にmRNAワクチン)のデルタ株流行下における有効性をまとめてみると、

  • 感染に対する有効性:  医療従事者間ですら60%台後半へ低下あり(ワクチンが誘導した免疫の経時的な低下も考慮に入れる必要あり)
  • COVID-19による入院や救急外来受診に対する有効性:  成人において80%台

ということになるのでしょうか。私は、各国政府や専門家がコロナワクチン3回目接種へ前向きになる理由がまた一つ分かったような気がしました。