Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

ミサイルを撃った奴は誰だ?(inイエメン)

 昨年12/30(現地時間)、イエメンのアデン空港で爆発が発生し, 22名(報道によっては26名とも)が死亡しました。この時空港には新政権の閣僚の乗った飛行機が到着しており、国際的に承認されたイエメン政府とSouthern Transitional Council(STC; 南部暫定評議会)の双方のメンバーが参加していたそうです。イエメン政府・STCはHouthi派と対立関係にあり, Houthi派の犯行と考えられていますが当の本人らは否定しているとのこと。

www.afpbb.com

 そんな中、去る2/9に'Bellingcat'は、爆発現場を捉えた写真・映像や, Houthi派が飛翔体を発射する様子を映した映像などを検証して事実関係の検証を試みた結果、Houthi派が関与した可能性が高いとの結論を出しました。今回、私はその検証の過程を以下にまとめてみました。

www.bellingcat.com

 

(1) アデン空港の映像から分かったこと

 イエメン政府の公式発表や監視カメラ映像等から、爆発は現地時刻(12/30の)13:27に発生し, 約1分間の間に3回爆発が生じたことが分かっています。また、映像や衛星写真・現場写真を分析した結果、それぞれの爆発は

1回目:  空港ターミナル壁から数メートル離れた場所

2回目:  飛行機から約50メートル離れた滑走路

3回目:  ターミナル壁のすぐ近くの低い壁

を直撃していました。

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赤枠が爆発の起きた場所。数字は爆発が起きた順番を示す。(Bellingcatの記事のスクショ)

当初飛行機はターミナルにより近い場所の滑走路上に駐機する予定でしたが、出迎えの人が多かったので急遽遠い場所に駐機したそうです。2回目の爆発は、当初飛行機が止まる予定だった場所を狙っていたと考えられます。

 また2回目の爆発のクレーターを解析した結果、爆発の原因(=飛翔体)は北西方向から飛来したことが分かりました。その方角はHouthi派支配地域であり, そこTa'izzという街では同日に複数回のミサイル発射が目撃されていたそうです。なお1・3回目の飛翔体については北方から飛来したと思われるものの、壁へ直撃したので正確な方向を計算することまでは出来なかったそうです。

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クレーターの写真(Bellingcatの記事のスクショ)

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クレーターから発射位置を特定する様子を示した写真(Bellingcat記事のスクショ)

(2)ミサイル発射地点の映像

 アデンで爆発があったのと同じ日にTa'izz, 及び Dhamar(Ta'izzと同じくHouthi派支配下)ミサイルを発射する様子を収めた映像が複数SNS上に投稿されていました。これらの映像を解析した結果、次のような事実が判明しました。

 ① Ta'izzから発射されたミサイルについて:  2発。いずれもTa'izz空港の近隣から発射された。また、このうち少なくとも1発については途中で墜落する映像も投稿されていた。映像を解析し衛星写真と照合した結果、Ta'izz空港から南西へ2~3キロの工場近辺へ墜落したと考えられる(それと符合するSNS投稿も確認されている)

 ② Dhamarから発射されたミサイルについて:  2発いずれも墜落せずに飛んでいった。①と同様の方法で解析した結果、発射された場所は警察の訓練センターの近くと判明。

また、映像に映った太陽の傾きと影の角度から、発射時刻は13:00以降と推定されたとのこと。

 

(3) 破片から分かったこと

 空港に着弾した飛翔体の破片は後日当局が記者会見で公表していますが、破片が比較的小さく, 高画質の写真でなかった為、種類を特定できませんでした。しかし、1回目の爆発の瞬間を映した映像に偶然飛翔体が映り込んでおり、形状からミサイルと判明しました。また、途中で墜落したミサイルの破片を記録した写真と, Houthi派やイラン軍(Houthi派を支援している)のミサイルを比較しましたが、ミサイルの種類までは同定できませんでした。なおHouthi派のミサイル製造工程・材料は複雑なので, 展示した(or誇示した)ミサイルと違う物を使用することも多いそうです。

 Houthi派は以前から'Badr-1P ballistic missile'(弾道ミサイルの一種)の使用を公表しており、射程は150kmであることが分かっています。これはTa'izzからアデンへ到達するのに十分ですが、Dhamarからアデンまでは約200kmあります。Dhamarから発射されたミサイルはBadr-1Pとは別種か, 改良型のBadr-1Pのいずれかの可能性があります。

 

 以前、NHK BSプレミアムの番組で1968年に起きた三億円事件について扱った番組を見た記憶があります。同番組の中で、犯人逮捕に至らなかった要因について ① 今日のように監視カメラが各所に無かった(今日では、コンビニの監視カメラ等に偶然映り込んだことで逃走経路等が割れることもある), ② 警察は犯人の人相をモンタージュ写真にして公表したが、これは現場に居合わせた銀行員のバイアスが入ったせいで正確でない可能性がある(今日では、専門の捜査員が目撃者へ顔のパーツごとに慎重に質問しながら似顔絵を作成する。また、監視カメラに犯人の服装と人相が映り込むこともある), といったことが指摘されていたと私は記憶しています。また、1968年の世界にインターネットなんてありません(よって、Google Map等で衛星写真を手に取って調べたり, 撮った写真・映像をSNSへ上げることは出来ません)が、今日は多くの人間がスマホタブレットを持ち歩き, 撮影した写真・映像を保管したり, それらをインターネット上にいつでも好きな時にアップロード出来ます。

 街のあちこちにカメラが存在するということは、悪事を働いてもバレる可能性が昔より高くなったということでしょう(ましてや、DNA鑑定等の科学技術が発展しているのであれば尚更です)。またBellingcatの記事が示すように、映像・写真に映り込んだ建物や太陽・日陰を詳細に分析することで、撮影場所・時間帯まで特定することが出来るのです。即ち、我々がSNS等に上げた写真・映像には常に、他人に自分のプライバシーを暴くきっかけとなる情報がくっついているということなのです(YouTubeTwitterをやっときながら『おまいう』ですよね、分かりますw)。