Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

東京女子医大のニュースを聞いて色々考えてしまった。

 さて今週に入り、東京女子医科大学附属病院に関して衝撃的(?)なニュースが飛び込んできました。Covid-19パンデミックが日本にも波及する中、病院の経営が悪化したことを理由に同病院では看護師に危険手当等を至急しないどころか、夏のボーナスを支給しないことも決まっていたそうです。それに加え、病院の施設(理事長室など)を6億円かけて増築・改修したことが判明。それを契機に看護師側の不信感や不満が爆発したのか、400名が退職を希望したそうです。

 この現状を見聞きして、私はアジア太平洋戦争中の日本軍兵士を連想してしまいました。例えば1942年のガダルカナル島攻防戦の際、前線の日本軍部隊は、米軍の航空攻撃のせいで十分な武器弾薬や食糧が届かぬまま、同島に作られた飛行場の奪還の為に2回の総攻撃を行いいずれも失敗に終わりました。皆様もご存知の通り、多数の戦死者に加え、マラリアでの病死や食糧不足による餓死が多かったことでも悪名高い作戦です。

 医療スタッフの場合、SARS-CoV-2に感染・発症し入院, 最悪の場合死亡するリスクが常に付き纏う状況で、給与 ー 換言すれば『補給』・『兵站 ー が削られたまま努力(しかも、人様の健康・生命を預かる重大な業務)を求めらているのです。医療スタッフの場合、給与が減ったことで必ずしも餓死する訳ではありませんが、モチベーションは下がるでしょう。ガダルカナル島では戦死・病死・餓死で兵士が居なくなりましたが、東京女子医大の場合は退職によって前線のスタッフが居なくなりつつあるのです。

 加えて上記ツイートが示すように、なんと大学側の弁護士は「看護師が退職した分は新たに雇って補充する」と労働組合へ回答したようです。1939年に勃発したノモンハン事件の際、関東軍は火力・兵力に勝るソ連軍に対して兵力逐次投入を繰り返しました(関東軍の損失は拡大し、結局ソ連軍を打ち負かせなかった)。ガダルカナル島攻防戦も、総攻撃前の約2,000人からなる支隊による攻撃(対する米海兵隊はその時約10,000人), 第一次総攻撃, 第二次総攻撃とこれまた兵力逐次投入を繰り返しました(そして島は奪還できずに撤退)。「ジリ貧な状況で人手が減ったから、逐一補充してやり過ごそうとする」 ー デジャヴで無ければ、何なのでしょうか?

 またミッドウェー海戦マリアナ沖海戦で日本軍は多くのベテランパイロットと航空機を喪失し、未熟なパイロットの占める割合が増えて航空戦力が弱体化しました。その結果、1944年の台湾沖航空戦では米海軍はほぼ無傷なのに戦果を誤認し, その後のレイテ沖海戦では米軍の上陸を阻止することが出来ませんでした。またレイテ沖海戦以降、苦し紛れで生まれた神風特攻隊の運用が本格化しましたが、特攻隊の航空機・パイロットの喪失に比して米海軍艦艇の損失があまりにも少ないという結果に終わっています。今日の医療現場でも、若手医療スタッフの取り扱いは特攻隊を彷彿とさせるものがあります。今後もその傾向が強まることを懸念せざるを得ません。