Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

家庭内SARS-CoV-2伝染に対するコロナワクチンの影響

 みなさんこんばんは。現役救急医です。日本では最近、コロナワクチン接種率が7割を超え、感染者数が落ち着いています。但し、ワクチンを接種したからといって感染を100%防げる訳ではないし, 感染した以上、周囲を感染させる可能性もある訳です。今回は、「ワクチン接種後に感染した人は、周囲へどれくらいSARS-CoV-2をうつすのか?」というトピックの論文をたまたま発見したので紹介してみます。元ネタは、今年11/4に"Eurosurveillance"というジャーナルに掲載されたオランダの論文(https://doi.org/10.2807/1560-7917.ES.2021.26.44.2100977 )です。

 

(1) Introdutcion

 2021年8月初頭、論文筆者ら(オランダのCenter for Infectious Disease Control, National Institute for Public Health and the Environment[RIVM]; 『国立公衆衛生・環境研究所附属の感染症制圧センター』?の研究者ら)は、SARS-CoV-2確定診断例の家庭内及びその他の環境での濃厚接触者内での、他者への感染(or 伝染; "transmisson")や, SARS-CoV-2感染("infection")に対するコロナワクチンの有効性を報告した。この研究は野生型とアルファ株SARS-CoV-2が優勢だった2021年2〜5月の期間に収集したデータを元にしてなされている。だが2021年5/29~7/4の間にデルタ株が優勢となり, 7/5以降では、配列解析が行われたもののうち85%超がデルタ株となっていた。

 

(2) Method

 オランダでは2021年6月末にCOVID-19症例数の大幅な増加が起こり、市立保健サービス(Municipal Health Services; MHS)では7月〜8月初頭の間、材料と追跡調査能力が不足していた(Figure)。そのため、デルタ株による伝染に対するワクチン有効性(VET; vaccine effectiveness against transmisson)解析は、8/9以降(材料が補充され, 追跡調査が再開された期日)のデータのみによって可能となった。今回の研究は9/24までを対象としているこの研究期間中、オランダ国内で配列解析されたウイルスのうち97%超がデルタ株だった。

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Figure: オランダでの日別SARS-CoV-2陽性件数, 完全接種済人口の割合の推移(202年11/13~2021年9/24)

 2021年7月まで、SARS-CoV-2感染確定例の家庭内濃厚接触者全員に対して10日間の隔離("quarantine")が課され, 曝露後ないし症状ありの場合、1日目と5日目に検査を受けるよう求められた。5日目に陰性となった場合、濃厚接触者は隔離を終了可能となった。7/8日に方針変更が行われ、感染確定例濃厚接触者がコロナワクチン完全接種済("fully vaccinated"; ここでは、2回目接種から14日以上経過した or ワクチンが単回接種のみのものである場合、接種から28日以上経過した人を指す)であれば隔離不要とされた。但し完全接種済濃厚接触者は5日目に検査を受けること, 及び 10日目までは周囲と身体的距離を取るように強く勧められた。

 匿名化された最小限の濃厚接触monitoringのデータが使用され, "index case"(定義は後述)に関するデータは、全国規模の感染症届出登録データベースから抽出した。VETは、感染確定例との濃厚接触者におけるsecondary attack rate(SAR; 2次感染率?)と, index caseのワクチン接種状況を比較することで推計した。

VETの公式:  1-(ワクチン接種済indexのSAR/ワクチン未接種indexのSAR)x100 [単位: %]

 Index caseとはここでは、家庭内で感染していないと思われるSARS-CoV-2陽性者のことを示す。ここではindex caseと, 12歳以上の家庭内濃厚接触者を解析に含めている。

 

(3) Result

 最終的に、4,921名のindex caseと7,771名の濃厚接触者が対象となった。濃厚接触者中、

  • 完全接種4,189名(53.9%)
  • 接種は2,941名(37.8%)

だった。Index case中、

  • 接種は2,641名(53.7%)
  • 完全接種1,740名(35.4%)

であり、一般人口よりも接種率が低かった(一般人口成人における接種率は、この研究の開始時期において71%だった)。Table 1にindex caseと濃厚接触者の特徴を示す。年齢別のワクチン接種状況は、ワクチン接種が高齢者から始まり若年者へ広まったことを反映していた。Index caseのワクチン接種状況によって分類した濃厚接触者のワクチン接種状況をTable 2に示す。未接種index caseの場合、家庭内濃厚接触者の59.1%が同様に未接種であった。一方、接種済index caseの場合は家庭内濃厚接触者の11.6%のみが未接種だった

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Table 1: Index caseと濃厚接触者の特徴

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Table 2: Index caseの接種状況により分類した、濃厚接触者のワクチン接種状況

※注釈:  Tabe 1~3中の"partly vaccinated"とはここでは、2回接種のうち1回目を接種後14日以上経過した人を指す。

 Table 3は、未接種index caseの接種家庭内家庭内濃厚接触者と比較すると、接種済index caseの接種家庭内濃厚接触者の粗SARは低いことを示している。

  • 接種index caseの接種濃厚接触者における粗SAR:  13%
  • 接種index caseの接種濃厚接触者における粗SAR:  22%
  • (Index caseが接種済であることの)調整VET:  63%(95%confidence interval[CI]: 46~75)

完全接種である濃厚接触者のSARは、

  • Index case完全接種の場合:  11%
  • Index case接種の場合:  12%

と同等であったが、これはindex caseの年齢が交絡因子となっているIndex caseが完全接種済であることの調整VETは40%(95%CI 20~54)だった。

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Table 3: Index caseのワクチン接種状況別の2次感染率(SAR), 及び SARS-CoV-2伝染に対するワクチンの有効性

 

(4) Discussion

 以前の研究では、アルファ株が流行している時期において、未接種濃厚接触者のVETが高い(73%; 95%CI: 65~79)ことが示されている同期間における未接種濃厚接触者のSAR(31%)も、デルタ株流行期のそれ(22%)より高かった。これはSARS-CoV-2による免疫の有病率(or 普及率; "prevalence")が増加した結果かもしれない前回の解析と比較して、index caseの多くが30歳未満と若年であり, またSARはindex caseが若年となるほど低くなった。

 この研究では検査結果陰性に関する情報を含めていない。そのため、濃厚接触者が陰性だったのか, 或いは 検査を受けていなかったのかどうかは不明である。

 今回の研究期間中、オランダの成人の大半にコロナワクチン接種の機会が与えられていた(12~17歳への接種率はこの期間中、増加途上だった[研究期間終了時に約60%])。現在の接種済集団及び未接種集団は、リスクを伴う行動, 検査を受けて隔離に従う意思といった複数の要因が異なっている可能性がある。こうした側面が、次の2方向でVET推計に当たってバイアスとなった可能性がある: ワクチン接種集団では感染のリスクへの受け止めが小さい可能性がある一方で、接種集団内での感染リスクへの受け止めも小さい可能性がある2021年春のMHSの検査施設における1日の検査数は平均で約60,000件だったが、8~9月では平均で約20,000件だった(家庭での迅速抗原検査の使用増加によって影響を受けた可能性もある)。更に、ワクチン接種済の人, 及び 未接種の人は家庭内でクラスター化する傾向が強かった。

 デルタ株はアルファ株と比べて感染力が強く, また ワクチン接種後ブレークスルー感染を起こす可能性が高いことが知られている。そのため、アルファ株と比較してデルタ株へのVETが低いことは想定外ではなかった。

 

(5) Conclution

 今回の結果は、ワクチン接種済のindex caseからのSARS-CoV-2伝染に対し、ワクチン接種が予防に寄与することを示しているしかしながらアルファ株に対する効果と比べて、デルタ株に対する効果は低い。接種済濃厚接触者に対するVETと比べると未接種濃厚接触者に対するVETの方が高く, 接種済濃厚接触者はワクチンが誘導した免疫により、とりわけ重症化から守られている(感染からも大いに守られている)。未接種濃厚接触者と完全接種済濃厚接触者間のVETの違いは、年齢分布 and/or 不明な交絡因子(リスクを伴う行動, 臨床的な脆弱性など)によるものかもしれない。ワクチンのSARS-CoV-2感染・他者への伝染に対する有効性の減少は、ワクチン接種率が高い集団においてSARS-CoV-2流行を増加させるかもしれない。

コロナワクチンと季節性インフルエンザワクチン同時接種

 こんばんは。現役救急医です。今日はお題にあるように、コロナワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種の安全性等を評価した臨床試験の論文を見つけたので、紹介してみます(https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)02329-1 )。

 

(1) Introduction

 現在国際的なガイドラインでは、コロナワクチン接種とインフルエンザワクチン接種の期日は14日間隔を空けるよう推奨されている。コロナワクチン・インフルワクチン同時接種が安全かどうか, そして 同時接種が反応性率("reactogenicity rate")を上昇させるかどうか検証する必要がある。

 そこで、コロナワクチンと不活化インフルワクチンの同時接種の安全性と免疫反応性を評価することにした。

 

(2) Method

① Study Design

 この臨床試験は'ComFluCOV'と命名され、多施設参加型のランダム化コントロールの第4相臨床試験である。英国内の12施設で実施された。ComFluCOVは、コロナワクチン(アストラゼネカ社製とファイザー製。詳細は後述)の2回目接種と, インフルワクチン(3個の製品。詳細は後述)の同時接種を評価するように設計されている。被験者は6つのコホートのうちどれか1つへ割り振られる形となった。

 臨床試験開始後、protcolに2度の修正が加えられた。まず、被験者の登録開始後にインフルワクチンが1種類追加された。サンプルサイズは504から756へ拡大され, コホートの個数は4個から6個に増加した。また2021年4/9には、アストラゼネカ製ワクチンを接種された30歳以上の被験者の登録が中止された(同年4/14に再開)。ComFluCOV参加除外基準に、血栓症リスクのある参加者が加えられた。

 0日目において被験者は、コロナワクチン2回目接種と同時にインフルワクチンを接種される群と, プラセボを接種される群へ1:1の比でランダムに割り振られた。

 被験者・有害事象の危険性を評価する医療従事者・実験室のスタッフは治療の割り振りを知らなかった。

② PICO

1. Participant(参加者)について

 被験者はSNS等を通じて、ボランティアを募集する形で採用した。

  • 18歳以上
  • その前の56~90日にアストラゼネカ製コロナワクチン1回目, もしくは その前の28~90日にファイザー製ワクチン1回目を接種されている

という基準を満たすボランティアが参加登録可能であった。一方、以下のいずれかに該当したボランティアは除外された。

  • ComFluCOV参加30日前に、別種のワクチンを接種された
  • その前の3ヶ月間に免疫グロブリン製剤or血液製剤を投与された
  • ComFluCOVで用いるワクチンの成分へのアレルギー・過敏症の既往あり
  • 凝固障害or抗凝固薬使用中
  • アルコール依存症(疑い例含む)
  • 進行性の神経障害

2. Intervention:  コロナワクチン2回目接種とインフルワクチンを接種される集団(以下、『介入群』と呼ぶ)

 介入群ではまず0日目にコロナワクチン2回目接種とインフルワクチンを同時に接種された。それから21日後に介入群はプラセボを接種された。

 なおインフルワクチンは年齢により異なる製品が使用された。

  • 65歳以上:  'FluAd'と呼ばれる3価の表面抗原不活化ワクチン。MF59Cというアジュバントも含む。
  • 65歳未満:  4価ワクチンの'Flucelvax'(細胞培養により製造された表面抗原不活化ワクチン), ないし 'Flublok'(組換え型)のいずれか。

インフルワクチンはWHOの北半球に対する推奨に則って、2020~21年シーズン由来で, A系統(H1N1とH3N2)及びB系統(YamagataとVictoria)を含んでいた。

 ちなみに英国で使用されているコロナワクチンは以下の2種だった。

3. Comparison:  コロナワクチン2回目接種時にプラセボを接種される群(以下、『対照群』と呼ぶ)

 対照群はまず0日目にコロナワクチン2回目とプラセボを同時に接種されたそして21日後にインフルワクチンを接種された。

4. Outcome:  Primaryとsecondaryの2つに分けて転帰を評価した。

 1) Primary outcome:  0日目から7日後の間に発生し, 報告が求められている("solicited")全身性反応。具体的には、BT>38℃の発熱, 寒気, 関節痛, 頭痛, 倦怠感, 吐き気, 嘔吐, 下痢などの症状。

 2) Secondary outcome:  以下のような項目を評価した。

  • 0日目から7日後と21日後に発生し, 報告が求められている局所性反応。疼痛, 腫脹, 掻痒感などの症状。
  • 21日目の接種から7日後に発生した, 報告が求められている全身性反応。
  • 全期間における任意の有害事象
  • 0日目及び21日目に採取した血清中の抗SARS-CoV-2免疫グロブリン濃度
  • 0日目及び21日目, 42日目に採取した血清における、インフルワクチンに使用したウイルス4系統に対するhaemagglutinin抗体抑制

統計学的解析

 サンプルサイズは1コホート当たり126名に設定され, これによってコロナワクチンのみ接種に対するコロナワクチン・インフルワクチン同時接種の非劣性の評価の為に80%の力が与えられ, primary outcomeの頻度は50%・非劣勢の境界は25%と仮定された。

 

(3) Result

 2021年4/1~6/26の間に679名が参加登録・ランダム化された(Figure 1)

  • 介入群(0日目にインフルワクチン・コロナワクチンを接種, 21日目にプラセボ接種):  340名
  • 対照群(0日目にコロナワクチン・プラセボを接種, 21日目にインフルワクチン接種):  339名

ファイザー製コロナワクチンFluAdの組み合わせ, ファイザーFlublockの組み合わせの2コホートでは、計画よりも被験者が少なかった(集まらなかった)

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Figure 1: 患者のランダム化

 各コホートでランダムに割り振られた2群の間で、baselineの特徴は等しかった。58%(397/679名)の被験者が女性であり, 92%(627/679名)が英国白人だった。

 679名の被験者中、651名(96%)の被験者でprimary outcomeが判明した。0日目〜7日後に発生した全身性反応は、

  • 介入群:  330名中254名(77%)
  • 対照群:  321名中239名(75%)

であり、疲労感が最も多く報告された。以下の4コホートにおける0日目から7日後までの全身性有害反応を考慮すると、コロナワクチンのみ接種に対してコロナワクチン・インフルワクチン同時接種は非劣性であることが明らかとなった。

  • アストラゼネカ製コロナワクチンFlucelvax:  インフルワクチン−プラセボのリスク差: -1.29%, 95%CI -14.7~12.1
  • ファイザー製コロナワクチンFlucelvax:  リスク差: 6.17%, 95%CI: -6.27~18.6
  • ファイザー製コロナワクチンFluAd:  リスク差: -12.9%, 95%CI: -34.2~8.37
  • アストラゼネカ製コロナワクチンFlublck:  リスク差: 2.53%, 95%CI: -13.3~18.3

他の2コホート(下記)では95%CIの上限が非劣性境界である0.25を超えていた(Figure 2)

  • アストラゼネカ製コロナワクチンFluAd:  リスク差: 10.3%, 95%CI: -5.44~26.0
  • ファイザー製コロナワクチンFlublock:  リスク差: 6.75%, 95%CI: -11.8~25.3

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Figure 2: 7日目において全身性反応を報告した参加者

コホートにおいて、全身性反応は多くの場合軽症ないし中等症だった。重症("severe")有害反応を1個以上報告したのは、

  • 介入群:  全身性反応を1個以上報告した被験者254名中14名(5%)
  • 対照群:  全身性反応を1個以上報告した被験者239名中6名(3%)

だった。重症の全身性反応の発生は、

  • アストラゼネカ製コロナワクチンFluAdコホート0日目にFluAdを接種された(=介入群)2名で発症した4件(熱感・悪寒・発汗, 寒気, 頭痛, 倦怠感)
  • ファイザー製コロナワクチンFlublockコホート0日目にプラセボを接種された(=対照群)2名疲労感と倦怠感), 0日目にFlublockを接種された(=介入群)1名(倦怠感)で発症した3件

であった。

 0日目のワクチン接種後に局所性有害反応を1個以上報告したのは665名中555名(83%)だった。

  • 介入群:  331名中282名(85%)
  • 対照群:  334名中273名(82%)

コホート全体で最も多く報告された局所性有害反応は注射部位の疼痛だった。大半の反応は軽度ないし中等症だった。21日目にプラセボを接種された被験者(介入群)と比較すると、21日目にインフルワクチンを接種された被験者(対照群)で局所性有害反応を報告した人の割合が有意に高かったものの、重症の局所性反応は報告がなかった。

 0日目以降の任意の有害事象は、

  • 介入群:  173件(112名)
  • 対照群:  155件(99名)

だった。21日目以後で報告された任意の有害事象は、

  • 介入群:  66件(49名)
  • 対照群:  84件(57名)

であった。0日目以後と21日目以後では、医療を必要とした有害事象の発症率は両群間で同等であった。

 重篤な("serious")有害事象は7名が報告しており、うち1名ではワクチンが関係していると判断された。その患者には偏頭痛の診断が下されている。

 

 2種のコロナワクチンいずれかを接種後21日目に計測した抗スパイク免疫グロブリン幾何平均単位は、全てのコホートにおいて, 介入群と対照群の間で同等だった(Figure 3)

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Figure 3: 抗スパイク免疫グロブリン幾何平均力価の比

 FlucelvaxFluAdコホート, 或いは アストラゼネカ製コロナワクチンFlublockを接種されたコホートにおいて、インフルワクチンのみ接種後21日後と比較すると、インフルワクチン・コロナワクチン接種後21日後のhaemagglutinin抗体抑制幾何平均比は有意差を認めなかった(どのインフルエンザウイルス系統に対してもそうであった)(Figure 4)ファイザー製コロナワクチンFlublockコホートでは、Flublockのみ接種した時と比較すると、Flublockファイザー製ワクチン同時接種ではH1N1(A系統)・B系統への幾何平均力価が高値だったものの、H3N2(A系統)の幾何平均力価は同等だった。

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Figure 4: インフルエンザに対するhaemagglutination抑制の幾何平均比

 

(4) Discussion

 今回の知見は、コロナワクチンとインフルワクチンの異なる組み合わせの同時接種が安全面で懸念が無いこと, 反応性も許容範囲内であること, 結合抗体反応も維持されていることを証明している。2つのコホートで全身性イベント発症率が25%を超えたものの、全身性反応のprofileは許容範囲内であると考えられる。アストラゼネカ製コロナワクチンFluAdコホートでは95%CIの上限が25%をわずかに超えており, 多くの反応は軽症ないし中等症だった。ファイザー製コロナワクチンFlublockコホートは計画よりも少人数だった; その為、結論は導けない。

 ファイザー製・アストラゼネカ製コロナワクチンの抗スパイク免疫グロブリン反応は、インフルワクチン全3種との組み合わせにて維持されていた。ワクチンの組み合わせ6組において、幾何平均比は0.8~1.13だった。WHOが新規のワクチンに関して「従来のものに非劣勢である」と承認する基準値は0.67であり、これら6コホートの幾何平均比はこの値を上回っているファイザー製コロナワクチン・Flublockコホートを除くと、全てのインフルワクチンへの液性免疫反応は各コホートにおいて同等であった。

 ComFluCOVは、アデノウイルスベクターないしmRNAコロナワクチンと, 別種のワクチンの同時接種を検証した初のデータである。NVX-CoV2373ワクチン(蛋白質サブユニットコロナワクチン)の第3相臨床試験のsubstudyでは、18~64歳の被験者に対してNVXワクチン1回目接種とインフルワクチンの同時接種が行われた。NVXワクチンのみの集団とNVXワクチン・インフルワクチン同時接種集団の間では、反応性に有意差が見られなかった。対照的に、両群間でELISA法の単位の幾何平均では両群間で有意差が見られた(幾何平均比0.57[95%CI 0.47~0.70]でWHOの基準を下回る)。重要なことに、同時接種の有効性に関しては差が見られなかった。この知見とComFluCOVの違いは、インフルワクチンがコロナワクチン接種1回目と同時だったことである。こうした知見は、同時接種が最初の免疫反応に作用すると思われるものの、その後の免疫反応には作用しないことを示唆しており, インフルワクチンはコロナワクチン2回目ないしそれ以降の接種で一緒に投与することが妥当である可能性を示している。

第49回日本救急医学会総会に行ってきた。

 こんばんは。現役救急医です。TwitterYouTubeのフォロワーさんは既にご存知かと思いますが、11/21~23(今日)まで、東京で開催されていた第49回日本救急医学会総会・学術総会に行っていました。COVID-19パンデミックにより、2020年初頭以来、医療系の学術総会も軒並み影響を受けてオンライン開催が主体になっていました。私が最後に学会へ現地参加したのは2019年10~11月頃(10月の救急医学会は東京で開催, 11月の某外科系の学会は西日本での開催だった)ので、実に2年ぶりの県外への旅行, かつ 東京への出張だった訳です。

 そこで今回は、約2年ぶりに東京へ出た田舎住民の感想を挙げていきます。

 

① 徒歩圏内で道に迷う

 自動車の場合、ほぼ全ての自家用車にGPSが付いているのでまず道に迷うことはありません(時々、変なルートへ誘導しやがることはありますが)。そして田舎は公共交通機関が十分でないので、自家用車での移動が主になります。

 しかし東京への出張・旅行で赴いた時、多くの場合は電車and/orバス+徒歩での移動になると思います。今回の私も例外なくそうでした。学会会場は、Google Mapによると東京駅から徒歩圏内であり, ホテルも学会会場・東京駅双方から徒歩で到達可能な所に予約しました。

 

 で す が………

 

 

いざ東京駅構内から駅前の大通りに顔を出し, Google Mapを参照しつつ学会会場へ足を進めたものの………

 

 

あれ?

 

 

あれれ?????

 

 

 

Google Map上、スッゲー近いはずなのに、どの建物か分からない!!!!!

 

東京はどこもかしこも高いビルだらけ, 商店・飲食店・オフィスの看板や、窓やショーウィンドウに掲げられた広告やらで目に入る情報量が多すぎて、頭が混乱するのです🥺

 逆に田舎は(東京と比較して)低いビルばかりで、映画館やショッピングモール等の数もたかが知れています。言い方を変えると、群を抜いて高いビルやショッピングモール, 映画館, 駅がランドマークになってくれるのですまた前述のように、田舎の移動手段はほぼ自家用車です。自家用車を運転しながら目的地に行く(場合によりGPSの音声通りにハンドルを切る)のと、地図やスマホを見ながら歩いて目的地に行くのとでは視点が異なります。それに加えて、地方都市の規模なんてたかが知れているわけで、取り敢えず幹線道路(国道・県道・市道など)を走っていればなんとかなる訳です(但し、幹線道路を外れて田園地帯や山道に入った場合は別)。

 

② 地下道はもっと訳が分からない

 東京は山手線のようなJRに加え、東京メトロのような地下鉄が縦横無尽に走っています。それもあってか、東京は至る所に地下街・地下通路が発展しています。

 ですが、その地下街も私には大問題です。そもそも、広すぎるのです(そして、うねうねと曲がりくねりまくって迷路もいいところ)!それに加えて、地上と違って目印となるであろう建物が存在せず、あるのは柱と壁と広告くらい。構内図や, 地上との位置関係を示す地図は探せばありますが、如何せん細かすぎて、『現在地』を示すマークを探し出すのすら一苦労でした。

 

③人がとにかく多い

 言うまでもないですが、東京って人が多いです。通勤時間帯でもそうでなくても、老若男女が街頭・地下街・駅構内・電車内とうじゃうじゃいる訳です。鬼滅の刃』で人混みの中に鬼無辻ナントカが紛れ込んでいても、炭治郎以外気づかないというのが自然に感じるくらいです(笑)

 土産物を探したり、コンビニに買い物を行く際に東京駅周辺の繁華街や, 八重洲の地下街を夕刻〜夜や昼時に徘徊したことが何度かあったのですが、飲食店内では沢山の人がマスクを外して飲食しつつ談笑している光景を何度も目にしました(おそらく皆、友人・同僚・恋人同士あるいは家族連れでしょう)。現在はワクチン接種拡大のお陰もあってか、SARS-CoV-2感染者数は落ち着いてきてはいます。しかしワクチンを接種していても感染はしますし、感染者が増えれば当然重症化する人は一定数生じます。もし近いうちに第6波が到来すれば、悠長に飲食店で談笑や飲み会をやることは(本来であれば)もう叶わないでしょう。

 とはいえ、飲食店によって若干傾向に差があるように見えました夜の居酒屋や, 日中と夜間のレストラン(イタリアン・中華・東南アジア・和食等ジャンルは問わず)は、2~3名以上のグループが向かい合って談笑しながら飲食している所が多く、行列すら出来ていました。その反面、吉野家やラーメン店は1人(或いは2人)で入る人が圧倒的多数であり、従っ、喋りながら飲食をする人がほぼ居ませんでした。スターバックスのようなカフェは、1~2人の少人数と, 3名位以上の大人数集団が入り混じっており、レストランと吉野家・ラーメン店の中間に位置しているような印象でした。

 飲食店での外食に関して結論を出すのであれば、私のようなボッチ飯系非リア充非モテはラーメン店・吉野家くらいしか外食する店がないので、感染対策上有利なのかも知れません(笑)(注意: あくまで個人の感想です!)

 あと東京駅から帰る時、東京駅の改札をくぐって地方行きの新幹線へ乗り込む人の数や、私の乗った新幹線の自由席へ乗ってくる人の数が多いのには少々驚きました。駅構内で幼い子供を伴った家族連れも多数見かけたので、東京→地方への短期帰省, もしくは 地方→東京への1日旅行の帰途の人も相当数居たと思います。多人数と集合しての会話・飲食のみならず, 県境を跨ぐような移動も、場合によっては感染拡大の端緒となり得ます。日本国内の人間の多くでコロナワクチンによる免疫が高度に維持されている段階ならまだ良いのですが、半年以上が経過して(重症化予防効果は維持されるというものの)SARS-CoV-2感染に対する防御効果が低下してしまう, and/or 第6波が起き始めたら、悠長に旅行なぞしている場合ではありません(だからこそ3回目接種を行うのです)。

 

 最後に、学会と言えば出版社・書店の専門書コーナーがつきものですよね?今年も2年ぶりにそうゆうコーナーに行き, 私のようなポンコツ救急医や経験の浅い研修医・専攻医の皆様にとって大いに参考になりそうな図書を発見し、購入してから新幹線車内で読んでみたところ目から鱗だった(注意: まだ最初の方までしか読んでいません)ので紹介しておきます。

1. 『救急現場から専門医へ あの先生にコンサルトしよう!』(増井伸高 編著, 金芳堂

2. 『終末期ディスカッション 外来から急性期医療まで現場でともに考える』(平岡栄治, 則末泰博 著, メディカル・サイエンス・インターナショナル)

読んだ感想は後日改めてブログ等にuploadする予定ですが(そもそも忙しくて読む時間が確保できるか微妙ですが)、1.は(とりわけ)他科上級医へ患者のことで相談を行う準備になると思いますし、2.は患者の死と尊厳について考え, また患者家族との向き合い方を考えるに当たって大いに参考となりうる本だと私は感じました。

脳梗塞急患への画像検査の選択

 こんばんは。現役救急医です。今日は専門ジャーナル"JAMA Neurology"に今年11/8に発表された論文(doi: 10.1001/jamaneurol.2021.4082)を紹介してみます。所々意訳とか、割愛したりした部分があるのであらかじめご了承下さい。

 

(1) Introduction

 "DAWN", 及び "DEFUSE3"という臨床試験2件は、症状出現(最終健常目撃時間["time last seen well"; TLSW]と呼ぶ)から6~24時間以内に来院した大血管閉塞による脳梗塞患者への治療を転換させ、こうした遅い時間枠("extended time window")における血管内治療の適応を示したMRI もしくは CT perfusion(CTP)といった臨床的or組織のmismatchを示す先進的な画像診断は、この2件の臨床試験ではトリアージの主流であり, また米国と欧州のガイドラインでは治療適応の判断に用いることを推奨している。

 急性期においてMRIやCTPは必ずしも使用可能ではなく、また全ての施設で実施可能とも限らない。単純CT(noncontrast CT; NCCT)で評価したAlberta Stroke Program Early CT Score(ASPECTS)とCTPの間の関連性は複数の研究で実証されているしかしながらASPECTの解釈には、評価者により質のばらつきがあることが知られている。

 治療により利益を受ける患者を同定するためのトリアージと, 他の患者よりも良好な転帰になりうる患者を同定するためのトリアージを区別することが重要である。

 この研究の目的は、遅い時間枠で受診した脳血管前方循環系の中枢側の閉塞による脳梗塞患者において、NCCTとCT angographyで治療適否を判断した患者群と, CTPないしMRIで治療適否を判断した患者群の臨床的転帰を比較することである。この研究では、「この3つの患者群の間で有意差がない」という仮説を立てた。

 

 

(2) Method

① 参加者について

 "CT for Late Endovascular Reperfusion(CLEAR)" studyは、遅い時間枠(=TLSWから動脈穿刺[血管内治療開始]までが6~24時間)に機械的血栓回収術(MT; mechanical thrombectomy)を行う, 連続した前方循環系中枢側閉塞による脳梗塞患者に対する、多施設型コホート研究である。2014年1/1〜2020年12/31の間に、欧州と北米の5ヵ国・15施設で被験者を採用した。

 今回解析を行った研究コホートには、以下の基準を満たす連続した患者が含まれた:

  • BaselineのNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)≧6点
  • 内頸動脈 もしくは 中大脳動脈中枢側(M1, M2 segment)の閉塞
  • TLSWから治療まで6~24時間

 CLEAR studyのコホートは、血管内治療の適否判断に使用した画像検査に従って、NCCT・CT angiography群, CTP群, または MRIへ分類された。なお以下のいずれかに該当する患者は除外された(Figure 1)

  • TLSWから動脈穿刺まで0~<6時間
  • 発症前のbaselineのmodified Rankin Scale(mRS)が3~5点
  • 脳血管後方循環系の閉塞

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Figure 1

転帰の指標

 患者の転帰は以下の項目で評価した。

1) Primary end point・・・90日後のmRSスコアの分布

2) Secondary clinical outcome

  • 90日後における機能的自立(=mRSスコア0~2点)の比率
  • TLSW〜動脈穿刺までの時間, 来院〜動脈穿刺までの時間, 術後の再開通成功

3) Safery end point

  • 術後の症候性頭蓋内出血
  • 90日後の死亡率

統計学的解析

 90日後機能的自立という転帰に関しては、mRSスコアが0~2となる可能性(or 尤度 or 確率: "likelihood")を推計する為に、ロジスティック回帰モデルという方法が使用された。各パラメーターについて、粗odds ratio(OR)及び調整ORと, 95%CI(confidence interval; 信頼区間)を計算した。以下の項目が、事前に共変量として選択された:

  • 年齢
  • BaselineのNIHSSスコア
  • 性別
  • BaselineのmRSスコア
  • 高血圧
  • 心房細動
  • 糖尿病
  • 転院搬送
  • 血栓溶解薬静注
  • BaselineのASPECTS
  • 閉塞部位
  • TLSWから動脈穿刺までの時間

 90日後mRSスコアの分布に関しては、より順序の低い数値への1点のシフト(=より良好な転帰)を推計する為に、多項順序ロジスティック回帰という方法が使用された。

 

 

(3) Result

 CLEAR studyに採用され, 内頸動脈ないし中大脳動脈中枢側の閉塞がある患者は2,304名であった。このうち1,604名はbaselineのNIHSSが6点以上で, 主要な数値に関してデータが存在したので、primary analysisのコホートになった(Figure 1)。患者は以下の画像検査によりMTの適応となった(治療法としてMTを選択された):

  • NCCT(とangiography)群:  534名
  • CTP群:  753名
  • MRI群:  318名

 3種類の画像検査の間で年齢, 性別, baselineのmRSスコア, 糖尿病について有意差は見られなかった。

  • BaselineのNIHSSスコア中央値:  CTP(16点)MRI(16点)よりもNCCT(17点)でわずかに高かった。
  • 高血圧: NCCT(72.1%; 385名)で高率だった。(対するCTPは72.3%[544名], MRIは64.5%[205名]
  • 心房細動:  NCCT(35.8%; 191名)で高率だった。(CTPでは29.1%[219名], MRIでは36.8%[117名]
  • 転院搬送:  NCCT(67.8%; 362名)で高頻度だった。CTPでは56.1%[362名], MRIでは69.8%[222名]
  • 血栓溶解薬静注:  MRI(42.8%; 136名)で多かった。(NCCTでは23.6%[126名], CTPでは12.1%[91名]

3群においてASPECTSの中央値は9点(4分位範囲: 7~9)だった。血管閉塞部位は、

  • 内頸動脈閉塞:  CTP(21.5%[162名])よりもMRI(32.4%[161名])NCCT(30.2%[161名])多い
  • M2閉塞:  NCCT(13.7%[73名])MRI(12.3%[39名])よりCTP(21.3%[160名])で多い

という結果であった。

 

 TLSWから血管穿刺までの時間は、CTP(中央値で11.3時間)MRI(中央値で12.4時間)よりもNCCT(10.4時間)で短かった

 再開通成功はMRI(78.9%)よりもNCCT(88.9%)CTP(89.5%)多かった

 

 退院時NIHSSスコア中央値は、MRI(11点)よりもNCCT(7点)CTP(6点)低かったコホート全体で合計すると、症候性頭蓋内出血は6.3%(100名)で認め、3群間で等しかった。

  • NCCT:  8.1%(42名)
  • CTP:  5.8%(43名)
  • MRI:  4.7%(15名)

90日後死亡率も3群間で類似していた

  • NCCT:  23.4%(125名)
  • CTP:  21.1%(159名)
  • MRI:  19.5%(62名)

 

 90日後の機能的自立(mRSスコア0~2点)は、

  • NCCT:  41.2%(220名)
  • CTP:  44.3%(333名)
  • MRI:  38.7%(123名)

であった。画像検査種類別の機能的自立・baselineの特徴・baselineの数値のodds(粗と調整)をTable 2に示す。これらの因子を調整した多変量解析では、90日後の機能的自立のoddsは、CTPNCCTの間で類似していた(調整後OR[adjusted OR: aOR] 0.90; 95%CI 0.70~1.16; P=0.42)。一方、NCCTよりもMRIで機能的自立のoddsが低かったaOR 0.79[95%CI 0.63~0.98]; P=0.03)。その他の年齢, baselineのNIHSSスコア, baselineのmRSスコア, 糖尿病, 転院搬送の有無, baseline ASPECTSといった因子は90日後の機能的自立と関連していた(Table 2)

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Table 2

 

 上記因子を調整した多変量解析にて、90日後のordinal mRSのシフト(or 順序的なmRSのシフト?)は

  • NCCT vs CTP:  有意差なしaOR 0.95[95%CI 0.77~1.17]; P=0.64)
  • NCCT vs MRI:  有意差なしaOR 0.95[95%CI 0.80~1.13; P=0.55)

であった(Table 3, Figure 2)。多変量解析では、順序の低い数値へ1点シフトするoddsの減少と関連していたのは以下の項目であり, 予後悪化を示唆していた。

  • 高齢:  OR 0.97(95%CI 0.96~0.99); P<0.001
  • Baseline NIHSSスコア高値:  OR 0.91(95%CI 0.89~0.92); P<0.001
  • Baseline mRSスコア高値:  1点: OR 0.68(95%CI 0.54~0.86); P=0.001, 2点: OR 0.48(95%CI 0.34~0.65); P<0.001
  • 糖尿病:  OR 0.77(95%CI 0.62~0.96); P=0.02
  • 内頸動脈閉塞:  OR 0.83(95%CI 0.69~1.0); P=0.049
  • 転院搬送された:  OR 0.79(95%CI 0.67~0.92); P=0.002

逆に、ASPECTSスコア増加は1点シフトのodds増加と関連しており(OR 1.18[95%CI 1.13~1.24; P<0.001)、予後改善を示唆した

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Table 3

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Figure 2

 

 転院搬送を行なわれなかった患者598名に限定したsensitivity analysisにて、90日後の機能的自立のoddsは

  • NCCT vs CTP:  aOR 0.71(95%CI 0.42~1.21); P=0.21
  • NCCT vs MRIaOR 0.69(95%CI 0.36~1.33); P=0.27

であり, 両群間で類似していた。同様に、順序的なmRSのシフトは

  • NCCT vs CTP:  aOR 0.74(95%CI 0.46~1.18); P=0.21
  • NCCT vs MRIaOR 0.78(95%CI 0.54~1.12); P=0.18

であり, 有意差は認めなかった

 

 2014年〜2020年までの連続的な数値としての時間との関連性に関するsensitivity analysis(データが存在する患者1,425名が対象)では、90日後の良好な転帰のoddsは、

  • NCCT vs CTP:  aOR 0.88(95%CI 0.67~1.15); P=0.35
  • NCCT vs MRIaOR 0.85(95%CI 0.64~1.14); P=0.29

差が見られなかった同様に、順序的なmRSのシフトは

  • NCCT vs CTP:  aR 0.92(95%CI 0.75~1.12); P=0.39
  • NCCT vs MRIaOR 1.01(95%CI 0.85~1.21); P=0.92

有意差がなかった

 

 また別個の解析にて、再開通を得られた患者は、そうでない患者と比較して良好な臨床転帰となるoddsが良かった(aOR 6.31[95%CI 4.45~8.95]; P<0.001)。3つの画像検査のうち、MRIaOR 8.9[95%CI 6.7~11.9]; P<0.001)で再開通による良好な転帰のoddsが最も高く, その次にNCCT(aOR 6.1[95%CI 2.2~16.5]; P<0.001), CTP(aOR 5.1[95%CI 2.9~9.2]; P<0.001)という順で高かった。

 

 

(4) Discussion

 TLSWより6~24時間以内に来院し, MTを行った内頸動脈閉塞, 中大脳動脈M1・2閉塞による脳梗塞患者では、CTPないしMRIで治療適否を判断した患者と, NCCTで治療適否を判断した患者の間で良好な機能的転帰は同等であった。NCCT群の患者の90日後機能的自立の比率は、DAWN trial, DEFUSE-3 trialの患者と同等であった。画像検査の種類によって症候性頭蓋内出血, または 死亡のリスクが増加することを示す証拠は無かったとりわけNCCT群では、CTP群・MRI群と比べて来院から血管穿刺までの時間が短かった。

 遅い時間枠で来院した脳梗塞患者に対してMTの適否を判断する上で、今回の知見はより実用的な基準(=NCCTの所見と, 前方循環系大血管中枢側の閉塞)の採用を支持している可能性がある。一方で、CLEAR studyのNCCT群における患者診療は、米国や欧州のガイドラインに一致しないことを認識することも重要である。

 CLEAR studyでは"clinical-core mismatch"(臨床症状と画像所見のミスマッチ?)に基づく臨床研究参加基準を予め設定していなかったものの、NCCTによる治療適否判断を行った患者群は、CTP・MRIを使用した患者群と同等な転帰を示したこの原因を説明可能なのは次の2因子である。1) 過去の研究では、NCCT上のASPECTSとCTP上のcore volumeの間に中程度の関連性が報告されている。2) ASPECTSが等しい患者の中で、clinical-core mismatchは時間経過とともに減少しない。

 CTP群と比較して、NCCT群における90日後機能的自立の比率は数字上低かったが、有意に低くはなかったこの明らかな差は多変量解析では認めず、CTP群よりもNCCT群でNIHSSスコアが高い・転院搬送が多い・内頸動脈閉塞が多いことで説明可能かもしれないMRIにより治療適否を判断した患者と比較して、NCCTを用いた患者では90日後の機能的自立の比率は高くMRIよりもNCCT群で再開通率が高いことで説明可能かもしれない。

 CLEAR studyでは患者の臨床試験参加基準に明確なASPECTSの閾値を示していなかったものの、大半の施設では、遅い時間枠で来院した脳梗塞患者の治療適否の選択にASPECT≧6点を用いていた。この研究でNCCT群のASPECTS中央値は8点であり、MTが選択された患者の大半でNCCT上のASPECTSが高値であることを反映している。この研究コホートのASPECTSの4分位範囲は7~9なので、遅い時間枠にて来院した脳梗塞患者でNCCTにより治療適否を判断する場合、ASPECTS≧7点で機械的血栓回収術を考慮することを示唆している。