Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

アストラゼネカ製ワクチン第3相臨床試験の結果

 こんばんは!専門医試験から解放されてうひゃっほーいうへへへへ〜いな現役救急医です!!今日も論文紹介しちゃうぞ!今日は今年9/29にNEJMに発表された、アストラゼネカ製のコロナワクチン'ChAdOx1 nCoV-19(AZD1222)'の第3相臨床試験の結果(DOI: 10.1056/NEJMoa2105290)を紹介しちゃうんだぞ〜〜〜!?!?

 

(1) Introduction

 過去の知見にて、ADZ1222ワクチンはCOVID-19発症予防効果, 及び 安全性が示されている。現在、ADZ1222は100カ国以上へ配分されている。

 ここでは、AZD1222の4週間間隔を空けた2回接種の有効性, 免疫原性, 安全性を評価する第3相・二重盲検化・プラセボコントロール臨床試験の解析結果を報告する。この臨床試験は、SARS-CoV-2暴露リスクが高い多様な集団と, COVID-19による合併症riskが高い集団を含めるように設計されている。

 

(2) Method

① Trial Design

 この臨床試験は現在進行中の第3相・二重盲検化・プラセボコントロール試験であり、米国, チリ, ペルーの88ヶ所で実施された。

 この臨床試験の目的は、健康状態が安定しており, 尚且つSARS-CoV-2感染リスクが高い18歳以上の参加者において、プラセボと比較したAZD1222の症候性COVID-19に対する有効性, 免疫原性, 安全性を評価することである。

 参加者はAZD1222接種もしくはプラセボ接種へ2:1の比率で割り振られた。ランダム化は更に年齢別に階層化された(18歳以上〜64歳 及び 65歳以上の2群に分類)。プラセボ 又は AZDワクチンを1回以上接種された全参加者を'safety analysis population(安全性解析集団)'と定義し, この集団では参加者を実際に接種された薬剤によって組み分けした。SARS-CoV-2が血清学的検査で陰性で, ワクチンないしプラセボを2回接種され, 2回目接種後15日以上臨床試験に残り, 尚且つ PCRで診断されたSARS-CoV-2感染の既往がない参加者は'fully vaccinated population(完全接種済集団)'に含まれた。

 参加者は毎週、COVID-19の症状の有無を調べるように通知された。COVID-19の症状が1つ以上ある参加者は診察と検査を受けた。全ての参加者は、症状の有無や重症度に関係なく、ワクチン有効性評価を目的とする抗SARS-CoV-2抗体検査の為の血清の採取を予定された。全ての参加者が、安全性に関するフォローアップと, 免疫反応の持続性を評価する為に、1回目接種後2年間この臨床試験に残る予定とされた。

 AZD1222の反応性・免疫原性を更に評価するsubstudyには、米国で各年齢層においてランダム化を受けた最初の参加者が含まれた。

② PICO

 1. Patients Selection:  上記のように、健康状態が安定し, 症候性・重症COVID-19高リスクを含めたSARS-CoV-2感染リスクが高い, 18歳以上の参加者が参加した。

 2. Intervention(AZDワクチン群):  AZD1222を4週間間隔で、1日目及び29日目の2回接種した。

 3. Comparison(プラセボ群):  プラセボである生理食塩水を、同上の間隔で2回接種した。

 4. Outcome

 安全性・反応性の評価には以下の指標を用いた。

  • 任意の(unsolicited)有害事象: ワクチンorプラセボの1回目ないし2回目接種から28日間に記録されたもの。
  • 重症有害事象: 同意書取得から730日間記録される予定である。
  • 医療が必要だった有害事象と, 注意を要する有害事象: 1回目接種の1日後から730日目まで記録される予定である。
  • 任意でない(solicited)局所性・全身性有害事象: 上記のsubstudy集団にて、ワクチンorプラセボの1回目ないし2回目接種から7日間の発症率を評価した。

 有効性の評価には、以下の指標を用いた。

  • Primary efficacy end point: baselineで血清学的にCOVID-19陰性だった参加者において、ワクチンorプラセボ2回目接種15日目以降に初めて発症した、症候性COVID-19
  • 主要なsecondary end point: 1) 2回目接種15日目以降の症候性COVID-19の発症baselineにおけるSARS-CoV-2感染既往の証拠の有無は問わない), 2) 重症ないし致死的なCOVID-19, 3) COVID-19による救急外来受診, 4) CDCの定義に則った症候性COVID-19, 5)治療後の血清学的反応(抗SARS-CoV-2ヌクレオカプシド抗体検査)で評価したSARS-CoV-2感染症状の有無, ないし重症度は問わない

統計学的解析

 1次解析の締め切り日(cutoff date)は2021年3/5だった。治療割り付けが非盲検化された参加者, もしくは 緊急使用承認(emergency use authorization; EUA)へ登録されたコロナワクチンを接種された参加者 からのデータは、割り付けの非盲検化が成された期日, もしくは EUAへワクチンが登録された期日 のいずれかにおいて削除された(were censored)。他の参加者のデータについては、最後の連絡日に削除された。COVID-19と関連ありと判断された死亡例全例はprimary efficacy end-pointの事象に含まれた。COVID-19と関連なしと判断された死亡は併発した事象として扱われ, その為、死亡日において削除された。

 プラセボ群と比較したADZワクチン群の症候性感染の発症の相対的riskの推計には、Poisson回帰モデルという手法を道いた。ワクチン有効性は、1-相対的riskという公式により算出した。Primary efficacy end pointの成功基準は、ワクチン有効性50%以上を伴う統計学的有意性であった。

 

(3) Results

① 参加者について

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Figure 1

 2020年8/28~2021年1/15の間に、32,451名が参加登録基準に合致し, ランダム化を受けた(AZDワクチン群: 21,635名, プラセボ群: 10,816名(Fig. 1)。参加者のbaselineにおける人口学的・臨床的特徴は以下の通りであった。

  • 性別:  男性が55.6%と多数
  • 併存疾患が1個以上:  59.2%
  • 平均年齢(±標準偏差):  50.2±15.9歳
  • 人種:  白人: 79.0%, 黒人: 8.3%, アジア系: 4.4%, 米国・アラスカ先住民: 4.0%など

ワクチン群とプラセボ群間で、baselineの特徴は均衡だった。

② 安全性について

 合計11,972名(37.0%; AZDワクチン群では8,771名[40.6%], プラセボ群では3,201名[29.7%])が23,538件の有害事象を報告した。ワクチン群・プラセボ群いずれかで1回目ないし2回目接種後28日以内に発生した有害事象で最も多かった(5%≦)のは、

  • 疼痛全般ワクチン群: 8.2%, プラセボ群: 2.3%
  • 頭痛ワクチン群: 6.2%, プラセボ群: 4.6%
  • 注射部位の疼痛ワクチン群: 6.8%, プラセボ群: 2.0%
  • 倦怠感ワクチン: 5.1%, プラセボ群: 3.5%

 両群で発生した重症有害事象(1回目ないし2回目接種後28日以内に発生したもの)の割合は両群で類似していたAZDワクチン群では119件(101名[0.5%]で発症), プラセボ群では59件(53名[0.5%]で発症)だった。全研究期間で、死亡に繋がった有害事象はワクチン群で合計7件(7名で), プラセボ群で合計9件(7名で)発生した。COVID-19に関連した死亡はワクチン群で0であった一方、プラセボ群では2名だった。

 医療が必要だった有害事象と, 注意を要する有害事象(接種後28日以内に発生したもの)も、両群で同じ割合で発生した免疫が介在した可能性がある症状の発症率は両群間で一致(ワクチン群: 1.8% vs プラセボ群: 3.4%)し, 注意を要する有害事象についても同様だった:

  • 神経系の有害事象ワクチン群: 0.5%, プラセボ群: 0.4%
  • 血管系の有害事象ワクチン群: 0.1%, プラセボ群: <0.1%
  • 血液系の有害事象:  両群で<0.1%

特に、

の発症率は低く, 両群で類似していた。両群で血小板減少性血栓症, 脳静脈洞血栓症, もしくは 非典型的な静脈血栓症の症例は認められなかった。

③ 反応性について

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Figure 2

 AZDワクチンによる反応性を調べるsubstudy集団において、プラセボ群よりもAZDワクチン群で、任意でない局所性有害事象(ワクチン群: 74.1% vs プラセボ群: 24.4%), 及び 任意でない全身性有害事象(ワクチン群: 71.6% vs プラセボ群: 53.0%)が多かった(Fig. 2)。両群で、大半の任意でない有害事象が軽症ないし中等症であった(92.6%)。2つの年齢層集団において、1回目接種後よりも2回目接種後で有害事象の発生率が少なく, そしてこの差は18~64歳の参加者で顕著であった。

④ 有効性について

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Figure 3

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Figure 4

 症候性COVID-19は203件がprimary end pointの定義に合致し、完全接種済集団の1次解析に含まれた(AZDワクチン群: 17,662名, プラセボ群: 8,550名) (Fig. 1)。2回目接種からデータ締め切り期日までのフォローアップ期間中央値は、両群において61.0日だった。合計して、AZDワクチン群でprimary end pointの事象が73件(0.4%), プラセボ群で130件(1.5%)発生した(Fig. 3)Primary efficacy end pointに関して、全体的なワクチン有効性の推計値は74.0%(95%CI 65.3~80.5; P<0.001)であった。AZDワクチン2回目接種後の初回の症候性COVID-19(PCRSARS-CoV-2陽性となったもの)の累積発症率を考慮した結果(Fig. 4)は、AZDワクチンの2回目接種直後から効果が発現することを示している。

 2020年9/9、別のAZDワクチン臨床試験で横断性脊髄炎の発症が報告された為に、この臨床試験も中断された。データ検証後、食品医薬品局(Food and Drug Administration; FDA。米国の政府機関)は2020年10/23に中断を撤回し, 同年10/28にはこの臨床試験が再開された。安全性解析集団では合計775名(2.4%)がこの中断の影響を受け, 2回目接種を本来の28日間隔よりも遅れて接種された。2回目接種が遅れて接種された参加者のsubgroupにおけるワクチン有効性(78.1%; 95%CI 49.2~90.6)は、全体のそれと一致していた。

 一部のsubgroupにおいて症例数が不十分(ICUへ入った参加者由来のデータや, チリ・ペルーの参加者由来のデータ)な為に信頼性が低下したが、Figure 3はsubgroup別のワクチン有効性の推計を示している。症候性COVID-19に対するワクチン有効性の推計値は、18~64歳の参加者(72.8%; 95%CI 63.4~79.9)と65歳以上の参加者(83.5%; 95%CI 54.2~94.1)で高値であり, 人種・併存疾患・baselineの抗SARS-CoV-2抗体の有無・性別が異なる参加者の中で一致していた。SARS-CoV-2感染既往の有無を問わない症候性COVID-19に対する有効性の推計値は73.2%(95%CI 65.1~80.1; P<0.001)だった

 ワクチンは、他の主要なkey secondary efficacy end pointに対して有意に有効だった(Fig. 3)。完全接種済集団における重症・致死的COVID-19の症例数は、

  • AZDワクチン群: 17,662名中0名
  • プラセボ群: 8,550名中8名(<0.1%)

だった。CDCの基準に則ったCOVID-19予防に関するAZDワクチンの有効性(69.7%; 95%CI 60.7~76.6; P<0.001), 及び COVID-19による救急外来受診に対する有効性(94.8%; 95%CI 59.0~99.3; P=0.005)は高かったなお救急外来受診は、

  • AZDワクチン群: 1名(<0.1%)
  • プラセボ群: 9名(0.1%)

だった。COVID-19関連入院に対するワクチン有効性の推計値は94.2%(95%CI 53.3~99.3) (Fig. 3)

 2回目接種後15日以降にヌクレオカプシド抗体で評価したSARS-CoV-2感染(症状 or 重症度に関係なく、抗SARS-CoV-3ヌクレオカプシド抗体陽性となった参加者全員が対象)の予防に関しても、AZD1222は有効だった(64.3%; 95%CI 56.1~71.0; P<0.001)

 

(4) Discussion

 AZD1222ワクチンは、症候性COVID-19予防に関して有効性を示し, 安全であった。AZD2回接種(間隔は4週間)は、2回目接種15日以降において、症候性COVID-19の予防に関して74%の有効性を示した。

 CDCの定義に則ったCOVID-19(軽症例を含む)に対する有効性は70%だった。これに加えて、発症率が低かったものの、AZD1222ワクチンを接種された参加者では重症or致死的COVID-19の症例は無く, またプラセボと比べると、COVID-19による救急外来受診・入院・ICU入室は有意に少なかった。

 ワクチンの安全性に関する新たな警告は検出されなかった。また、任意でない有害事象は多くが軽症〜中等症であり, 1回目接種後よりも2回目接種後で発生件数が少なかった今回の知見で、神経系有害事象のriskの合計が増加したという証拠は示されなかった。

 今回の研究では、AZD1222を接種された参加者において、血栓症, ないし 血栓性血小板減少症の合計riskが増加したという証拠は示されなかったものの、血栓性血小板減少症は稀だった。規制当局は独自の安全性の評価を行い、AZD1222ワクチンは加齢に伴うCOVID-19に対する予防効果上昇や, SARS-CoV-2感染率に対する予防効果といったワクチン接種による利益が、ワクチンが与えうるriskを上回ると結論づけている。

ファイザー製コロナワクチンの安全性に関する全国規模のデータ from イスラエル

 みなさんこんばんは。専門医試験を終えた現役救急医です。取り敢えず、マークミスや氏名・受験番号記入漏れは試験時間中、2回くらいは確認したのでひとまず安心していいと思います。あとは結果を待つだけですが、不安もそれなりにあります。概ね過去問と同じor似たような領域から出題はされていたものの、選択肢中に正解と紛らわしいものが2~3個存在するような設問は結構ありましたし, 「これは全然分からん(でも冷静に考えればワンチャンいける)」設問は100問中2~3個はありました。

 まあそんな訳で、少なくともしばらくの間、試験勉強とほぼ無関係な生活が送れそうなのでブログを気まぐれに更新していきます。今回は論文紹介なのですが、発表時期は今年の8/25と少し前になります。掲載されたジャーナルはNew England Journal of Medicineで, イスラエルで作成されたものです(DOI: 10.1056/NEJMoa2110475)。

 

(1) Introduction

 イスラエルでは2021年5/24時点で、約500万人の国民(全人口の55%<に相当)がBNT162b2ワクチン(ファイザー製のmRNAコロナワクチン)2回接種を終えていた。今回、イスラエル最大規模の医療組織(というより保険会社?)のデータベースを使用して、ファイザー製ワクチンの安全性評価を行なった。ワクチン接種済の人の集団と未接種者の集団の間で、短期的, 及び 長期的な有害事象の発生率を比較した。

 

(2) Method

① Study Design

 Clalit Health Service(CHS)イスラエルの人口の約52%の保険をカバーしている。今回はCHSに登録された観察的データの分析を行なった。イスラエル保健省がCOVID-19に関するデータを収集した。

 2020年12/20(イスラエルでコロナワクチン接種キャンペーンが開始した期日)から、2021年5/24(この研究が終了する期日)までの連日において、その日にワクチンを接種された人の中で参加登録基準を満たした人が、まだコロナワクチン接種を受けていない, 参加登録基準を満たす人とmatchされた。なお未接種者が後日ワクチンを接種され, ワクチン接種済集団へ加わる可能性は十分あったものとする。

 ワクチン接種済集団と未接種者集団は、baselineにおける社会人口学的変数(e.g. 年齢, 性別, 居住地などの項目)や, 医療的な要素(e.g. 基礎疾患/既往歴, 妊娠の有無などの項目)を厳密にmatchさせた。

② 参加登録基準

 以下の基準を全て満たした人が参加登録可能と判断された。

  • 16歳以上
  • 1年を通じてCHSと契約していた
  • SARS-CoV-2感染既往がない
  • その前の7年間において医療機関受診がない

各有害事象の評価の際には、その有害事象の既往歴がある人は除外された。

 また、長期療養型施設住人, 健康上の理由で自宅にこもっている人, 医療従事者, BMIもしくは居住地が不明な人も、交絡因子の修正が難しいので除外された。

③ ワクチンの有害事象評価

 臨床上重要な短期的・長期的な有害事象を広範囲にわたり捕捉する為に、検索対象は広く設定した。よって、発熱・倦怠感等の中等度有害事象は対象にされなかった。今回は、1回目接種後21日間, 及び2回目接種後21日間の合計42日のフォローアップ期間が対象になった。

 それぞれの有害事象の追跡は、matchingが行われた当日から、1)有害事象の発生, 2)42日間が経過, 3)研究期間の終了, 4)死亡 のどれかが先に発生するまでの間、全参加者に対して行なった。また、未接種者が1回目接種を受けた場合, 或いは 未接種者・接種済の人どちらかがSARS-CoV-2感染症と診断された場合は、matchされたペアのフォローアップは終了した。

④ 感染riskの評価

 感染後42日間における、同様の有害事象に対するSARS-CoV-2感染症の影響も推定した。ワクチンの有害事象評価と同様のデザインを用いたが、1)対象期間が2020年3/1(イスラエルでCOVID-19パンデミックが始まった時期)から開始である点, 2)直近の医療機関受診があった人を除外しない点, が異なる。

 SARS-CoV-2感染に関する解析では、新たに診断された人と, 感染既往がない対照群の人が連日matchされた。このペアに対するフォローアップは、感染者群の人がPCRで陽性となった日から、control群の人が感染した, 或いは ペアの片方がワクチンを接種された日までの間に行われた。

統計学的解析

 フォローアップ期間中、未接種者対照群の多くがコロナワクチンを接種されたことから、未接種者が研究期間に全くワクチンを接種しなかった場合のper-protcol(『当初の計画/割り付け通りの治療等が行われた被験者を対象とする』という意味)な効果の類似性を推定することにした。当初未接種controlだった人が、研究期間中にワクチンを接種された結果、新たにワクチン接種済群に入る可能性があった。SARS-CoV-2感染症に関する解析にも同様の処理を行なった。

 累積発症曲線を作成し, 両群における42日後の有害事象のriskを推計する為に、Kaplan-Meier法という手法を用いた。Riskはrisk比やrisk差により比較した(単位は100,000人ごと)。

 

(3) Result

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Figure 1

 ワクチン接種コホートに参加登録可能だったのは、合計1,736,832名だった(Fig. 1)。年齢中央値は43歳だった。各有害事象について、研究へ参加した集団の最終的な人数はバラバラであった。ワクチン接種コホートには平均884,828名のワクチン接種済の人が含まれ、年齢中央値は38歳だった。

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Table 2

 各種の有害事象に対するワクチンの影響をTable 2に示す。Risk比・risk差いずれかに関して、ワクチン未接種集団よりも接種済集団にてriskが顕著に高かったのは、

  • 心筋炎Risk比: 3.24; 95%CI 1.55~12.44, Risk差: 2.7/100,000名; 95%CI 1.0~4.6
  • リンパ節腫脹:  Risk比: 2.43; 95%CI 2.05~2.78, Risk差: 78.4/100,000名; 95%CI 64.1~89.3
  • 虫垂炎:  Risk比: 1.40; 95%CI 1.02~1.73, Risk差: 5.0/100,000名; 95%CI 0.3~9.9
  • ヘルペス帯状疱疹ウイルス感染症:  Risk比: 1.43; 95%CI 1.20~1.73, Risk差: 15.8/100,000名; 95%CI 8.2~24.2

であった。ワクチン接種は、貧血, 急性腎傷害, 頭蓋内出血, リンパ球減少に対して顕著に予防的であった。

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Figure 2

 SARS-CoV-2感染症コホートに参加登録可能であったのは合計233,392名だった(年齢中央値 36歳) (Fig. 2)このコホートには平均で173,106名のSARS-CoV-2感染者が含まれ、54%が女性で, 年齢中央値は34歳だった。

 SARS-CoV-2感染は、以下の有害事象のriskを顕著に増加させた。

  • 心筋炎Risk比: 18.28; 95%CI 3.95~25.12, Risk差: 11.0/100,000名; 95%CI 5.6~15.8
  • 急性腎傷害:  Risk比: 14.83; 95%CI 9.24~28.75, Risk差: 125.4/100,000名; 95%CI 48.5~75.4
  • 肺塞栓症:  Risk比: 12.14; 95%CI 6.89~29.20, Risk差: 61.7/100,000名; 95%CI 48.5~75.4
  • 頭蓋内出血:  Risk比: 6.89; 95%CI 1.90~19.16, Risk差: 7.6/100,000名; 95%CI 4.9~16.9
  • 心膜炎:  Risk比: 5.39; 95%CI 2.22~23.58, Risk差: 10.9/100,000名; 95%CI 4.9~16.9
  • 心筋梗塞:  Risk比: 4.47; 95%CI 2.47~9.95, Risk差: 25.1/100,00名; 95%CI 16.2~33.9
  • 深部静脈血栓症:  Risk比: 3.78; 95%CI 2.50~6.59, Risk差: 43.0/100,000名; 95%CI 29.9~56.6
  • 不整脈:  Risk比: 3.83; 95CI 3.07~4.95, Risk差: 166.1/100,00名; 95%CI 139.6~193.2

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Figure 3

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figure 4

 Figure 3は、ワクチン接種もしくはSARS-CoV-2感染がriskを顕著に増加させた有害事象に関する, ワクチン接種の解析とSARS-CoV-2感染の解析双方におけるrisk比の推計を示している。Figure 4は、同じ有害事象に関する, ワクチン接種やSARS-CoV-2感染に関連した絶対的riskを示している。

 

(4) Disucussion

 今回、ファイザー製コロナワクチンの安全性評価の為に、ワクチンを接種された人240万人超を含めたデータを利用した。今回特定された主要な有害事象には、リンパ節腫脹, ヘルペス帯状疱疹ウイルス感染症, 虫垂炎, 心筋炎が含まれる。

 また、同じ有害事象の発症率に対するSARS-CoV-2感染症の影響を推計する為に、240,000名超の感染者のデータを検証した。SARS-CoV-2感染はリンパ節腫脹, ヘルペス帯状疱疹感染症, ないし 虫垂炎の発症に対して顕著な効果は無いと推定されたが、心筋炎riskが顕著であると推計された。また感染は、ワクチン接種がriskを増加させなかった有害事象(不整脈, 肺塞栓症, 深部静脈血栓症, 心筋梗塞, 心膜炎, 頭蓋内出血)のriskを上昇させた。

 ファイザー製, モデルナ製, もしくは アストラゼネカ製ワクチンの第3相臨床試験で心筋炎の報告は無かったものの、最近になってコロナワクチン接種後の心筋炎の報告は複数なされている。心筋炎riskは若年者で最も高いように見える。ワクチン接種後、心筋炎のriskは3倍増加することが今回判明しており, これはつまり100,000人の集団において、心筋炎の発症が約3件増加するということである; 95%信頼区画は、10,000名中1~5名の発症数増加を示している。ワクチン接種済集団内の21名の心筋炎患者にて、年齢中央値は25歳であり, 男性は90.9%であった。

 コロナワクチン関連の有害事象で最近他に注目されたものには、ベル麻痺も含まれる。文献/報告によってワクチン接種後のベル麻痺発症率は異なっている。今回の研究でベル麻痺のrisk比は1.32(95%CI 0.92~1.86)であり、軽度増加の可能性があった。絶対的risk差は、100,000名にて8件までの増加と小規模であった。ワクチン接種後に増加したヘルペス帯状疱疹ウイルス感染症は、顔面神経麻痺の原因の1つである可能性がある。

 コロナワクチンで他に注目されている有害事象は、血栓塞栓症である。今回、ファイザー製ワクチンと血栓塞栓症の関連性は認められなかった。

 今回の研究では、当初予想されていなかった効果も見られた。ファイザー製ワクチンは貧血, 脳出血等の有害事象に対して予防効果があるように思われた。これら有害事象は、SARS-CoV-2感染の合併症としても認められた。そのため、ワクチンの予防効果は診断されていないSARS-CoV-2感染症に対する予防効果によって発揮されていると思われる。

 なお今回の研究には複数の欠点がある。

  • この研究の参加者は、ワクチン接種・SARS-CoV-2感染という曝露に則ったランダム化がされていない。
  • Matchingの過程で、解析が行われた集団が参加登録可能な集団と異なる構成になった。
  • ネットワークに参加していない病院でなされた診断例が見逃されている可能性がある。
  • ワクチン接種後 ないし SARS-CoV-2感染後に参加者の注意や心配が増したことによって、症状が出た際にそれを報告, もしくは 医療機関受診へ繋げる可能性がある。また同様にして、SARS-CoV-2感染者では特定の有害事象発症率の急増がCOVID-19の初発症状を示している可能性があるものの、積極的なSARS-CoV-2検査と関係している可能性もある。
  • ワクチンまたはSARS-CoV-2感染の影響を示す指標は、目下検証が行われている特定の有害事象の新規発症のみに基づいたものである。つまり、こういった有害事象の既往がある人における、潜在的な発症riskがそれほど注意を払われていない事になる。

コロナワクチンで救われた人数の推計 in イスラエル

 こんばんは。なんか面白い論文を発見したので今日も大雑把に紹介していきます。参考文献は、9/22にLancetへ発表されたイスラエルの論文(https://doi.org/10.1016/S1473-3099(21)0056-1 )です。

 

(1) Introduction

イスラエルのワクチン接種プログラムや, SARS-CoV-2流行状況の時系列について

2020年12/20: BNT162b2 mRNAワクチン(ファイザー・BioNTech製)の接種プログラム開始。同時期にSARS-CoV-2感染拡大が発生した。

同年12/27: 全国規模のロックダウン開始。

2021年1/8: 追加のロックダウン措置実施。

同年1/20: 1日あたりの感染者数が10,000名<とピークに達した。

2/7: ロックダウン緩和が開始された。

2/11と21, 3/7: 学校再開。

 この後しばらく、感染者数は低値にとどまっていた(4/23〜6/23の期間で、1日の新規感染者数は<150名だった)。

4/10:  この時点で、イスラエルの16歳以上の人口の70%<が2回接種を終えていた。

6/24〜: デルタ株流入に伴い、感染者数が増加。

この研究の目的など

 ワクチン接種プログラムによって防がれたCOVID-19関連の入院患者数と死者数, SARS-CoV-2感染者数はまだ分かっていない。ワクチン接種により防がれた負担の推計は、ワクチンの公衆衛生上の利益を明らかにするであろう。

 

(2) Metod

① Study Design

 今回、ワクチン接種プログラムが開始された2020年12/20から2020年4/10の間に, 16歳以上の人々において, ワクチン接種が防いだSARS-CoV-2感染者数・COVID-19関連入院患者数・死者数を推計した。コロナワクチン接種1回目以上が接種され, 尚且つ 1回目接種から14日以上フォローアップを受けていた人全員がこの推計に含まれた(つまり、推計はワクチン接種プログラム開始から14日後の1/3より開始されることになる)。

② Outcome

 4つのoutcomeについて、防がれた負担を推計した。

  • SARS-CoV-2感染者数: PCRSARS-CoV-2陽性となった人数
  • COVID-19関連入院患者数: COVID-19によって入院した患者数
  • 重症例 or 致死的症例数: 重症例とは、呼吸数>30/min., SpO2<94%(室内気で), PaO2/FiO2<300 mmHg のいずれかを満たす入院患者のこと。致死的症例数とは、人工呼吸器使用, ショック, 心・肝・腎不全のいずれかを満たす入院患者のこと。

③ 統計処理方法

  • 1) コロナワクチン1回目以上が接種され、1回目接種から14日以上フォローアップを受けた人(以下、『部分接種以上』と呼ぶ)全員
  • 2) コロナワクチンは2回目接種を終え、2回目接種後7日以上フォローアップを受けた人(以下、『完全接種済』と呼ぶ)と, 3) 1回目接種しか受けておらず、1回目接種後14日以上フォローアップを受けた人(以下、『部分接種済』と呼ぶ)という、1)の集団に含まれる2つのsubset曝露群

において、防がれた感染者数・入院患者数・死亡数を推計した。

 1. まず16歳未満と, SARS-CoV-2感染既往がある人を除外した。

2. 次に、接種者部分接種以上の人双方で、この研究の対象期間中における発症率を、1日ごと, 及び 年齢層ごとに算出(≒年齢層別の発症率を、毎日算出)した。発症率は人日("person-day")で表しそれぞれ

  • 部分接種以上完全接種済の人: [部分接種以上 or 完全接種済の人の割合]と[各年齢層の人口の推計値]の積
  • 未接種者: [各年齢層の人口の総計]から[BNT162b2接種歴のある人が寄与した人日]を減じる

という形で求めた。

3. 次に、この2群(未接種者部分接種以上)間の発症率の差を1日単位で算出した。

4. 続いて各年齢層において、[1日の発症率の差]と[SARS-CoV-2感染既往がない集団のサイズ]の積, 及び [1日の発症率の差]と[部分接種以上の人の割合]の積 を求めた

5. この過程を研究対象期間中において繰り返し, また 全ての期日について合計した。SARS-CoV-2による負担の合計は下に示す公式で行った。

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  • N=[1日のSARS-CoV-2感染既往がない集団のサイズ]
  • VX≧1dose=[1日の1回目接種以上を受けた人の累積比率]
  • COVIDUnVx=[未接種群内の、その日のSARS-CoV-2感染例・COVID-19関連入院・重症or致死的入院例・死亡例の発症率]
  • COVID≧1dose=[1回目接種以上を受けた集団内の、その日のSARS-CoV-2感染例・COVID-19関連入院・重症or致死的入院例・死亡例の発症率]

 

(3) Result

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Figure 1

 2021年4/10までに、16歳以上のイスラエル国民650万人中、520万人(79.8%)が部分接種以上の状態であった。そのうち完全接種済は480万人(92.4%)であり, 16歳以上のイスラエル国民の73.8%が完全接種を終えていたことになる。ワクチン接種率は、高齢であるほど早期に実施され, 高率であり, また 急速だった(Figure 1)

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Table 1

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Table 2

 16歳以上の人口において、SARS-CoV-2感染例は269,459名, 入院例は12,228名, 死亡は2,859名だった。部分接種以上の人と未接種者の間の1日発症率の差は、

  • SARS-CoV-2感染例: 71.8/100,000
  • COVID-19関連入院例: 3.0/100,000
  • 重症or致死的入院例: 1.5/100,000
  • COVID-19関連死亡例: 0.3/100,000

であった(Table 1)。時期と年齢で階層化した結果により、時間経過とともに発症率の差は変動し、2021年1~2月が最も高値であったこと,  及び 65歳以上の集団では、未接種者と部分接種以上の人の間で入院と死亡の発症率の差が最大であったこと, が判明した(Table 1, 2)

 2021年4/10までに、16歳以上の部分接種以上の集団では、

  • 158,665名(95%CI 144,640~172,690)SARS-CoV-2感染例
  • 24,597名(95%CI 18,942~30,252)の入院例
  • 17,432名(95%CI 12,770~22,094)の重症or致死的入院例
  • 5,532名(95%CI 3,085~7,982)の死亡例

が防がれたと推計される(Table 3, Figure 2)16歳以上の完全接種済の集団が最も上記outcomeを回避したと推計された;

  • 158,655名の感染例中、116,000名(73.1%)
  • 24,597名の入院例中、19,467名(79.1%)
  • 17,432名の重症or致死的症例中、13,925名(79.9%)
  • 4,432名の死亡例中、4,351名(78.7%) (Table 3)

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Table 3

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Figure 2


(4) Discussion

 パンデミック開始〜2021年4/10までの間に、イスラエルでは合計835,811名のSARS-CoV-2感染例と6,292名のCOVID-19関連入院・死亡例が記録された。このうち感染例 269,459名, 入院例 13,338名, 重症or致死的症例 8,429名, 死亡例: 2,859名はこの研究の対象期間である2021年1/3~4/10の間に発生している。2021年4/10の時点で(ワクチン接種キャンペーン開始から112日目)、感染例 158,665名・入院例 24,597名・重症or致死的症例 17,432名・死亡例 5,532名がワクチンにより防がれたと推計された。つまり今回の知見は、もしワクチン接種プログラムが迅速に開始されていなければ、ワクチン接種プログラム開始〜4/10の間に実際に発生した入院例・死亡例の実に3倍の症例が発生していた可能性を示している。こういった推計によると、研究対象期間終了までに発生していたであろう死亡例のほぼ全てが防がれたことになる。

 今回の研究は、1回目接種以上の効果に対して設計されていたものの、1回目接種以上を受けた人の大半(92%)は完全接種済であった。つまり、今回の知見は全国規模のワクチン接種の効果を強く反映していることになる。合計すると、感染例の73%, 及び 入院例と死亡例の79%が完全接種済の集団に属していた。こうしたデータは、2回接種の直接的な影響だけでなく、1回目接種以後・2回目接種前の予防効果も明らかにした。

コロナワクチン3種類のCOVID-19による入院に対する効果 in 米国

 こんばんは。現役救急医です。遂に今週末が救急専門医試験です。一応今年の春くらいから本格的に過去問数年分を解き, 分からなかった・間違えた問題を中心に参考書を読み込んだりして対策はしてきたつもりですが、私の小学生以下の集中力・飽きっぽさでどこまで成果が出るのか不安です。

 今日はちょっと気になるデータをネット上で見つけたので紹介してみます。今回の参考文献は、今年9/17頃に米国CDCが発行している"Morbidity and Mortality Weekly Report"というジャーナルのウェブサイトへ掲載されたもの(Self WH, Tenforde MW. et al., "Comparative Effectiveness of Moderna, Pfizer-BioNTech, and Janssen Vaccines in Preventing COVID-19 Hospitalazations Among Adults Without Immunocompromising Conditions - United States, March-August 2021." September 24, 2021 / Vol. 70 / No. 38)です。

 

 (1) Introduction

 米国で現在、緊急使用承認(Emergency Use Authorization; EUA)が下りているのは以下3種である。

  • mRNA-1273モデルナ製のmRNAワクチン。2020年12月に18歳以上へ接種が緊急承認された。2回接種。
  • BNT162b2ファイザー・BioNTech製のmRNAワクチン。上記と同時期に16歳以上へ接種が緊急承認され, 2021年8/23に16歳以上への接種が正式承認された。2回接種。
  • Ad26.COV2ヤンセン・Johnson & Johnson製のウイルスベクターワクチン。2021年2月に18歳以上への接種が緊急承認された。1回接種。

(2) Method

 CDCは2021年3/11~8/15の期間において、米国18州の病院21ヶ所で入院した18歳以上の成人3,689名を対象にして、症例対照解析を行った。なお、免疫不全状態にある患者は今回の研究から除外され, また以下のいずれかに該当する患者も除外された。

  • 冒頭の3種以外のコロナワクチンを接種された
  • 1回目以上のコロナワクチンを接種されたが、"full vacctination"(定義は後述)の基準は満たさない
  • 1回目と2回目で別種のコロナワクチンを接種された

 COVID-19症例患者とは、1) COVID-19様症状で入院し, 尚且つ 2) RT-PCRまたは抗原検査でSARS-CoV-2陽性となった 患者を示す。また対照群となる患者は、RT-PCRSARS-CoV-2陰性である成人入院患者である。

 患者の人口学的な特徴や臨床経過, 接種されたワクチンの種類等に関する情報は、本人・代理人へのインタビューや州のワクチン登録情報, 病院の電子医療記録等から取得した。発症から14日以上前にmRNAワクチン接種2回目を受けた, ないし ヤンセン製ワクチン単回接種を受けた人は完全接種済(fully vaccinated)と見做された。

 COVID-19入院に対するワクチン有効性は、有効性=100x(1-調整odds比)という公式を用いて, COVID-19症例群と対照群の間のワクチン完全接種に対する未接種のodssを比較し, ロジスティック解析という方法で推計した。mRNAワクチンの有効性は3/11~8/15の期間で, 2回目接種後14~120日目, 及び 120日以降にて行なった。ヤンセン製ワクチンについては発症120日より前にワクチンを接種された人数が少ない(19名)ため、ワクチン有効性の時間による階層化は行われなかった。

 これに加え、2021年4/6~6/4の間に、18歳以上の成人で, SARS-CoV-2感染既往がないボランティア100名を対象にして、ワクチン完全接種後2~6週間の時期に採血を行い、1) 抗SARS-CoV-2スパイクIgG, 2) 抗SARS-CoV-2 receptor binding domein(RBD; 受容体結合部位)IgG, 3) 抗SARS-CoV-2ヌクレオカプシドIgG の血清中濃度の比較を行なった。抗ヌクレオカプシド抗体が陽性(>11.8 Binding Antibody Unit[BAU])だった2名はSARS-CoV-2感染既往ありと考えられたので除外された。

(3) Result

① ワクチンの有効性について

 3,689名の患者(症例群 1,682名, 対照群 2,007名)のうち2,364名(64.0%)が未接種だった。

  • モデルナ完全接種済は476名(12.9%)
  • ファイザー完全接種済は738名(20.0%)
  • ヤンセン完全接種済は113名(3.1%)

だった、全参加者において、年齢中央値は58歳, 女性は48%, 23%は非ヒスパニック系黒人, 18%はヒスパニックだった。2021年3/11~8/15の間のCOVID-19による入院に対するワクチンの有効性は、

  • ファイザー(88%)よりモデルナ(93%)で高かった(p=0.011)
  • 2種のmRNAワクチンの有効性はヤンセン(71%)よりも高かった(全てp<0.001) (Table 2)
  • モデルナの2回目接種後14~120日目の有効性は93%で、120日を超えたら92%だった(p=1.000)
  • ファイザーの2回目接種後14~120日目の有効性は92%で、120日を超えたら77%だった(p<0.001)

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Table 2

② 抗体濃度の分析

 抗体の解析を行なった100名のボランティアの内訳は、

だった。抗RBD抗体濃度は、

  • ファイザーを接種された人(中央値 3,217 BAU/mL; 幾何平均 2,950 BAU/mL; 95%CI 2,325~3,742 BAU/mL)よりも、モデルナを接種された人(中央値 4,333; 幾何平均 4,274; 95%CI 3,393~5,384)で高かった。(p=0.033)
  • ヤンセンを接種された人(中央値 57; 幾何平均 51; 95%CI 30~90)よりも、モデルナを接種された人で高かった。(p<0.001) (Figure)

f:id:VoiceofER:20211004215826p:plain

Figure

抗スパイクIgG濃度は、

  • モデルナを接種された人(中央値 3,236 BAU/mL; 幾何平均 3,059 BUA/mL; 95%CI 2,479~3,774 BAU/mL)ファイザーを接種された人(中央値 2,883; 幾何平均 2,444; 95%CI 1,936~3,085)有意差は無かった。(p=0.217)
  • モデルナを接種された人は、ヤンセンを接種された人(中央値 59; 幾何平均 56; 95%CI 32~97)よりも有意に高値だった。(p<0.001)

(4) Disucussion

 モデルナ製とファイザー製のmRNAワクチンの2回接種は、COVID-19による入院に対して高度の予防効果を示した。COVID-19入院に対する有効性は、ファイザー製で88%, モデルナ製で93%だったが、ヤンセン製で71%と低値だった。ヤンセン製ワクチンを接種された人は、mRNAワクチンを接種された人よりも接種後の抗SARS-CoV-2抗体濃度が低かった。COVID-19ワクチンに関する予防効果の免疫学的な相関関係は確立されていないものの、感染・ワクチン接種後の抗体力価と予防効果は関連している。現実世界のデータは、モデルナ・ファイザー製2回接種はヤンセン製単回接種よりも強い予防効果を持つことを示唆している。ヤンセン製ワクチンの有効性は低値であったものの、ヤンセン製1回接種はCOVID-19関連入院のriskを71%減少させた。

 COVID-19入院に対する有効性は、モデルナ製よりもファイザー製で僅かに低値であり, ファイザー製の有効性は120日目以降減少している一方で、モデルナ製ではそうでもなかった。モデルナ製はファイザー製よりも高値の抗RBD抗体濃度を産生させた。モデルナ製とファオザー製の間のワクチン有効性の差は、1) モデルナ製ワクチンの高濃度のmRNA成分, 2) 1回目と2回目接種の間隔の違いファイザー製は3週間, モデルナ製は4週間), ないし 3) 両群間の潜在的な差異, のいずれかが原因となっている可能性がある。