Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

デルタ株へのワクチン有効性の解説動画

 おはようございます。昨日は五輪の開会式があったそうですが…私はイマイチ関心が持てず、別のチャンネルでやっていた『警察24時』(だったっけ?)的な番組を見て、美しい女性白バイ警官にデレデレでしたw

 但し、白血病を乗り越え見事に復活した池江璃花子ちゃんだけは応援してあげたい(判官贔屓と言われればそれまでですけど)ので、時間があったらTVで観戦し応援してあげたいなとは思っています。

 

 そんなご時世ですが、SARS-CoV-2変異型であるデルタ株やアルファ株に対するmRNAワクチン(ファイザー製), 及び ベクターワクチン(アストラゼネカ製)の有効性を推計した英国の研究結果がごく最近、New England Journal Medicineに発表されました。確かに難解でしたが、一度読み終えるとなんというか、「すげえなmRNAワクチン!」という感想を抱き、その思いを共有したくなったので(?)パワポでスライドを作成し、そのプレゼンを動画にしてYouTubeへアップロードしました。是非ご視聴の上、高評価やSNSへのシェア等よろしくお願いします。チャンネル登録者が増えたらなおさら喜びます笑

youtu.be

ファイザー製ワクチンの対象年齢が12歳まで引き下げられた理由

 こんばんは。当直明けにYouTube動画を撮影していた救急医のカ医ロ・レンです。去る7/19に、我が国で承認済みのモデルナ製mRNAコロナワクチンが、従来の18歳以上から12歳に拡大されました

実は5/31にも、ファイザー製のmRNAワクチンが、従来の16歳以上から12歳以上にまで対象年齢が引き下げられています

 そこで今回は、New England Journal of Medicineに5月末に発表された、(モデルナ製ではないですが)ファイザー製ワクチンの12~15歳の被験者における安全性・有効性を検証した第2・3相臨床試験に関する論文を解説する動画を作ってみました。

youtu.be

是非最後までご視聴の上、高評価やチャンネル登録, そしてこのブログの購読・ブックマーク等も宜しくお願いします。

Janssen・Johnson&Johnson製ワクチン1回接種の第3相臨床試験

 今日はまた英語論文を紹介してみようと思います。今回参考にするのは、今年4/21に発表された論文"Safety and Efficacy of Single-Dose Ad26.COV.S Vaccine against Covid-19."(Sadoff J., Gray G. et al., N Engl J Med, 2021;384:2187-201)です。

 

(1) Introduction

 Ad.26.COV2.Sワクチンは、膜結合型SARS-CoV-2スパイクタンパク質の全長をencodeした遺伝子組み換え複製不能ヒトアデノウイルス type 26(adenovirus type 26; Ad26)である。Ad26.COV2.Sは臨床前のSARS-CoV-2 challenge studyにおいて低用量にて強い免疫を誘導し, 初期の臨床的データでは、5x10^10("^10"とはここでは『10乗』を意味する)ウイルス粒子単回投与が安全であり, 良好な液性・細胞性免疫反応を誘導したことが示された。Ad.26.COV2.Sは通常の冷凍庫で2年間, 冷凍庫の温度で3ヶ月保存可能であることから、輸送・貯蔵・使用が簡単である。

 ENSEMBLEは、Ad26.COV2.S 5x10^10ウイルス粒子単回投与の、成人におけるCOVID-19予防・SARS-CoV-2感染に対する有効性, 並びに 安全性を評価する現在進行中の第3相臨床試験である。今回、その臨床試験のprimary analysisの結果を報告する。

(2)Method

①Trial Design

 ENSEMBLEはアルゼンチン, ブラジル, チリ, コロンビア, メキシコ, ペルー, 南アフリカ, 米国で現在進行中の2年間の多施設参加ランダム化二重盲検化プラセボコントロール第3相pivotal trialである。非盲検的な独立データ・安全性監視委員会が安全性の監視を継続した。

 この臨床研究は、スポンサーであるJanssen Research and DevelopementJanssen Vaccines and Preventionのaffiliateであり, Johnson&Johnson傘下企業?であるJanssen製薬会社の一部)と, Operation Warp Speed Covid-19 Rapid Response TeamNational Institutes of Health国防総省?等が参加するチーム)が連携したものである。

 参加者は1:1の比率でワクチン接種群ないしプラセボ接種群へ割り振られた。ランダム化はinteractive Web回答システムを用いて行われ、実施場所, 年齢グループ, 併存疾患の有無により階層化された。

 ワクチンないしプラセボの接種は第1日に行われた。ワクチンはウイルス粒子濃度1x10^11/mLの単回使用バイアルとして供給され、ウイルス粒子数5x10^10の用量にて単回の筋注が行われた。

 参加者は'Symptom of Infection with Coronavirus-19'アンケートを用いて電子媒体でCOVID-19症状を報告した。参加者と臨床試験のスタッフは鼻腔拭い液を採取し, 検体はまず地方の研究所で、FDAが緊急使用を承認したSARS-CoV-2用RT-PCRによって検査された後、中央で検査(m-2000 SARS-CoV-2 real-time RT-PCR)が行われた。SARS-CoV-2の血清学的陽性は、SARS-CoV-2 nucleocapsid(N) immunoassayによって臨床試験参加時, 並びに第29・71日目に行われた。

 COVID-19症例が多く発生し, 中央での検査に時間が掛かったことから、primary analysis時では全ての症例が中央で検査されていたとは限らない。

②PICO

 1. Participant Selection:  18~59歳の成人(Stage 1a)と60歳以上の成人(Stage 2a)の臨床試験が並行して行われ、健康状態良好で併存疾患の無い合計2,000名が参加した。3日間のsafty reviewの後、stage 1bと2bが開始された。このstageには上記と同じ年齢層で, 併存疾患が安定している成人が追加で参加した。

 2. Intervention:  Ad26. COV2.Sワクチンを接種された参加者(ワクチン群

 3. Comarison:  プラセボを接種された参加者(プラセボ

 4. Outcome:  安全性と有効性を以下のように評価した。

1) 安全性; 臨床試験から撤退するに至った重篤な有害事象と有害事象が試験期間中を通して記録された。約6,000名からなるsafety subpopulationでは、任意の局所性・全身性有害事象に関するデータが接種後7日間, 任意の有害事象に関するデータが接種後28日間電子日記に記録された。

2) 有効性; primary end pointper-protocol population(=計画通りの薬剤が投与された参加者)における、

  • 接種後14日以降に発症した初発の中等症〜重症・致死的COVID-19(中央で検査して診断したもの)に対する有効性
  • 接種後28日以降に発症した初発の中等症〜重症・致死的COVID-19に対する有効性

である。

(3)Result

①Participants

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Table 1

 参加登録は2020年9/21に開始され、今回のanalysis用のdata-cutoff期日は2021年1/22であった。合計44,325名がランダム化され、うち43,783名がワクチンないしプラセボを接種された; per-protocol populationには39,321名のSARS-CoV-2陰性参加者が含まれた(ワクチン群; 19,630名, プラセボ群; 19,691名。参加者のbaselineの人口統計学上の特徴や併存疾患は二群間で均衡だった(Table 1)

  • BaselineでSARS-CoV-2血清学的陰性だった参加者は9.6%
  • フォローアップ中央値は58日(range; 1~124日), フォローアップが8週間以上であった参加者は55%

60歳以上で併存疾患のある参加者の遅い参加登録は、このsubgroupにおけるフォローアップ期間短縮に繋がった。

②安全性

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Fig. 1

 Safety subpopulationにはワクチン群3,356名プラセボ群3,380名が参加した。ワクチンorプラセボ接種後の7日間において、プラセボ群よりもワクチン群の参加者で, そして60歳以上の参加者よりも18~59歳の参加者で任意の有害事象が多く報告された(Fig. 1)。ワクチン群で最も多い局所性過敏症は注射部位の疼痛だった(48.6%); ワクチン群で最も多い全身性過敏症は頭痛(38.9%), 疲労感(38.2%), 筋肉痛(33.2%), 吐き気(14.2%)だった。

 COVID-19関連製のものを除く重篤有害事象は、ワクチン群21,895名中83名(0.4%), プラセボ群21,88名中96名(0.4%)で報告された。7つ重篤な有害事象は、ワクチン群におけるワクチン接種と関連していると判断された。

 静脈血栓症イベントの数的な不均衡が観察されたワクチン群; 11名 vs プラセボ群; 3名)。この参加者の大半が基礎疾患及び素因を持っていた。痙攣ワクチン群; 4名 vs プラセボ群; 1名)と耳鳴ワクチン群; 6名 vs プラセボ群; 0名)でも数的な不均衡が見られた。これらの有害事象とAd26.COV2.Sの因果関係は不明である。

 ワクチン群で3名, プラセボ群で16名死亡したが、いずれも臨床試験における介入と無関係と判断された。ワクチン群でCOVID-19と関連した死亡0であった一方、プラセボ群でCOVID-19と関連した死亡5名であった。脳出血を伴う横静脈洞血栓症とギランバレー症候群が見られたワクチン群参加者はそれぞれ1名であった。

③有効性

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Table 2

 Per-protocolのriskありpopulationにおいて、接種後14日以降に発症した症候性COVID-19症例(中央の検査で診断)は468名であり、うち464名が中等症〜重症・致死的であったワクチン群; 166名 vs プラセボ群; 348名)。ワクチン有効性は66.9%(調整後95%CI 59.0~73.4)であった(Table 2)接種後28日以降に発症したprimary endo pointに関しては中等症〜重症・致死的COVID-19症例数ワクチン群で66名, プラセボ群で193名であり、ワクチン有効性は66.1%(調整後95%CI 55.0~74.8)だった(Table 2)

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Fig.2 A, B, and C

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Table 3

 中等症〜重症・致死的COVID-19初回発症の累積罹患率は、ワクチンorプラセボ接種後のおよそ14日以降から二群間で異なっており, ワクチンによる免疫が早期に発生することを示している(Fig. 2A)。接種後28日以降に発症したCOVID-19に対する有効性は年齢別グループで類似していたが、接種後14日以降に発症したCOVID-19に対する有効性は若年者より高齢者で高かった(Table 2)この不均衡はおそらく、フォローアップ期間の違いもしくはsubgroupの小さなサンプルサイズによるものと思われる。2つのprimary end pointの解析と, 中央の検査で診断されたCOVID-19症例というsecondary end pointにおけるワクチン有効性の推定値は、全ての陽性症例の解析における推定値と2%未満の差があり, 信頼区間も類似していた(Table 2 and 3)。完全な解析セットにおけるワクチン有効性推定値は、全般的にper-protocol populationのそれよりも低かった。

 重症・致死的COVID-19に関しては

  • 接種後14日以降に発症したCOVID-19への有効性:  76.7%(調整後95%CI 54.6~89.1)
  • 接種後28日以降に発症したCOVID-19への有効性:  85.4%(調整後95%CI 54.2~96.9)
  • 累積罹患曲線は接種後7日ぐらいから分離し始めた; フォローアップ期間が延びるにつれてワクチン有効性は増加し, 42日後には92.4%になっていた(Fig. 2B)

 症候性感染に対するワクチン有効性の解析には、71日目に新規にN-immunoassayが陽性となった参加者全員が参加した。71日目でN-immunoassay結果が分かったのはたった2,650名であり、そのためpreliminary analysisしか行えなかった。ワクチン群で18名, プラセボ群で50名の無症候性感染が判明した(ワクチン有効性 65.5%; 95%CI 39.9~81.1)。

 また入院については、

  • 接種後14日以降に発症したCOVID-19による入院ワクチン群; 2名 vs プラセボ群; 29名ワクチン有効性 93.1%(95%CI 72.7~99.2)
  • 接種後28日以降に発症したCOVID-19による入院ワクチン群; 0 vs プラセボ群; 16名ワクチン有効性 100%(95%CI 74.3~100.0)

という結果であった。

 中等症COVID-19に罹患した参加者のうち、ワクチン群参加者は4~6個の症状を訴えることが多かったが、プラセボ群では7~9個だった。また、接種後28日以降に中等症COVID-19を発症した参加者によって'Symptoms of Infection with Coronavirus-19'アンケートへ報告された重症度スコア平均値の合計は、

  • 発症後1日目では、ワクチン群がプラセボ群よりも24%(95%CI -1~46)低かった
  • 発症後7日目では、ワクチン群がプラセボ群よりも47%(95%CI 23~66)低かった
  • 発症後14日では、ワクチン群がプラセボ群よりも53%(95%CI 0~81)低かった

 重症・致死的COVID-19に対する有効性の推定値は、各国の間で一致して高かった(Table 3)。714名(71.7%)のSARS-CoV-2に感染した参加者から得た唯一の("unique")RT-PCR陽性検体512個に由来する、中間配列解析データに基づいた知見は以下の通りである。

  • 米国:  基準配列(D614G変異を含むWuhan-Hu-1)が優勢(197配列中190[96.4%])
  • 南アフリカ20H/501Y.V2変異型(B.1.351, またはベータとも呼ぶ)が優勢(91配列中86[94.5%]
  • ブラジル:  基準配列; 124配列中38(30.6%), E484K変異のある基準配列(P.2系統, またはガンマとも); 124配列中86(69.4%)

南アフリカ 及び この臨床試験のCOVID-19症例におけるベータ変異型の流行にも関わらず、ワクチン有効性は維持された(ワクチン接種後14日以降に発症した中等症〜重症・致死的COVID-19に対して52.0%, 重症・致死的COVID-19に対して73.1%; ワクチン接種後28日以降に発症した中等症〜重症・致死的COVID-19に対して64.0%, 重症・致死的COVID-19に対して81.7%(Fig. 2C and Table 3)南アフリカでは、ワクチン接種後28日以降に発症したCOVID-19による入院はワクチン群で0名, プラセボ群で6名だった。南アフリカでは、COVID-19関連死亡例5名全員がプラセボ群であった。

 性別, 人種に従って定義したsubgroupにおいて、ワクチン有効性の有意義な差は見られなかった。接種後28日以降に発症した症例の解析では、併存疾患のある60歳以上の参加者でワクチン有効性の点推定値の低下が見られた中等症〜重症・致死的COVID-19症例数:  ワクチン群; 15名 vs プラセボ群; 26名)ものの、接種後14日以降に発症した症例の解析では見られなかった中等症〜重症・致死的COVID-19症例数:  ワクチン群; 22名 vs プラセボ群; 63名)。Kaplan-Meier解析に基づいた時間経過に基づく有効性の推定値は、60歳以上で併存疾患のある参加者, 及び 併存疾患のない参加者で類似していた。60歳以上で併存疾患のある参加者の入院は、ワクチン群で2名, プラセボ群で11名だった(ワクチン有効性 81.6%; 95%CI 15.8~98.0)。

(4)Disucussion

 国際的な第3相臨床試験ENSEMBLEは、Ad26.COV2.Sワクチン単回接種がCOVID-19予防に有効であると示した。接種後14日以降に発症した中等症〜重症・致死的COVID-19への有効性は67%, 接種後28日以降に発症したそれへの有効性は66%だった。接種後14日以降に発症した重症・致死的COVID-19への有効性は77%, 接種後28日以降に発症したそれへの有効性は85%であり、重症・致死的COVID-19へのより高い有効性が観察された。

 中等症〜重症・致死的COVID-19に対する効果の発現は接種後14日目まで, 重症・致死的に対する効果の発現は接種後7日目までに明らかとなった。有効性の増加は、特に重症・致死的に関しては接種後約8週間後まで持続した。11週間フォローされた3,000名, または 15週間フォローされた1,000名において、効果減弱の証拠は認められなかった。これは第1・2a相臨床試験で観察された液性免疫持続と矛盾しない。

 重症・致死的COVID-19に対する有効性は、全体, 並びに 参加各国で一致して高かった。これは重症COVID-19が各個人, 及び 医療態勢に与える影響が最も多い為、特に重要である。接種後14日以降に発症したCOVID-19による入院に対する有効性は93%, 接種後28日以降に発症したCOVID-19による入院に対する有効性は100%であった。入院はその地域の実践や資源の入手可能性に影響されるものの、報告された入院は全て明確な臨床所見によって正当化されており, 各国で一致していた。加えて、各国でワクチン群とプラセボ群双方へ同じmanagementが行われたはずである。プラセボ群ではCOVID-19と関連した死亡が5名だったが、ワクチン群では0であった。死亡率の減少と入院に対する高い有効性は、各個人でのCOVID-19の影響を顕著に減らし, 尚且つ 医療態勢への負荷を劇的に減らすと期待されている。

 ワクチン接種にも関わらずCOVID-19に感染した参加者は、プラセボ被接種者よりも少ない・軽症の症状を報告しており、これはワクチン接種後に病勢が軽くなることを示唆している。血清学的に診断した無症候性感染へのAd26.COV2.Sの予防効果は66%以上とpreliminary analysisで示されている症候性及び無症候性感染発症に対する効果は、ワクチンが地域内感染("community-wide transmission)を減らすのに有効である可能性を示唆している。

 スパイクタンパク質のN-terminalと受容体結合ドメイン(中和抗体の標的として知られている; 特にE464K変異は中和感受性の減少と関連している)の変異があるSARS-CoV-2の新系統が出現している。この臨床試験では、アフリカのCOVID-19症例のうち配列解析が行われた症例の95%がベータ変異型, ブラジルのCOVID-19症例のうち配列解析が行われた症例の69%がガンマ変異型だった。しかしながら、variants of concernの高度な流行にも関わらず、ワクチン有効性は高値を維持した。この知見は、従来のWuhan-Hu-1系統に基づくCOVID-19ワクチンが南アフリカ・ブラジルで発生した新規変異型に対する交差免疫効果を発揮可能であることを示している。Ad26.COV2.Sは人体内で、SARS-CoV-2に対してFcを介した機能を持つ抗体を誘導し, これらのFc機能あり抗体は、新規変異型に対する能力低下を示さなかった。加えて、第1・2a相試験ではSARS-CoV-2スパイクタンパク質に対するCD8+T細胞反応が見られた。免疫情報学的分析によると、SARS-CoV-2変異型の間でT細胞epitopeが保持されていたことが示された。これらの要素が南アフリカにおける重症・致死的COVID-19, 入院, 死亡に対する高い有効性へ寄与したと思われる。

 若年者と高齢者, そして 併存疾患のある参加者とない参加者の間で、症候性感染への有効性は類似していた。60歳以上参加者が参加するsubgroupの解析は、接種後14日以降に発症した症候性COVID-19に対する有効性が、併存疾患有無に従って定義したsubgroupのそれと類似していることを示した。接種後28日以降に発症したCOVID-19に関しては、併存疾患の無い参加者のワクチン有効性が、併存疾患がある参加者より低かった。この知見は、このsubgroupにおける少ない症例と短いフォローアップによる不正確さに帰することができる。加えて、Kaplan-Meir曲線は併存疾患のある60歳以上のワクチン被接種参加者内の累積罹患率が臨床研究参加者全体のそれと類似していることを示しており、ワクチン有効性が類似していることを示唆している。併存疾患のある60歳以上のワクチン被接種参加者における入院に対するワクチン有効性は82%であり、この結果と矛盾しない。

 この臨床試験は、Ad26.COV2.Sが容認できる安全性・過敏症profileを有していることを示した第1・2a相試験の知見を確定するものである。Ad26.COV2.Sの過敏症は一過性で、高齢者より若年者で多く, 急速に消退した。重症過敏症は少なく, 重篤な有害事象は稀であった。

 この臨床試験の主要なstrengthは、この臨床試験が倫理的・地理的に広大なpopulationでワクチンの有効性を示したことである。他方、limitationこの臨床試験のフォローアップ期間が比較的短いことである。データは予防効果の減弱を示唆していない。最初のAd26.COV2.S被接種参加者の結果とプラセボ被接種者(protocol修正が承認された後にはAd26.COV2.S接種を受ける予定)の結果を比較する為の、長期的な非盲検化フォローアップが計画されている。

軽症〜中等症COVID-19患者へのモノクローナル抗体2剤併用療法の臨床試験

 さ〜て!専門医試験勉強に飽きたからどうゆう訳か論文を読み始めた救急医のカ医ロ・レンですよぉ〜!!今日皆様に紹介するのわぁ、ことし7月14日に発表された論文"Bamlanivimab plus Etesevimab in Mild or Moderate Covid-19."(Dougan M., Nirula A. et al., New Engl J Med 2021. DOI: 10.1056/NEJMoa2102685)ですぅ〜〜〜〜!

(注:ふざけた書き出しで申し訳ありませんw)

 

(1) Introduction

 現在、mRNAワクチン等のワクチンが出荷されている最中だが、ワクチン摂取前に症候性COVID-19に罹患, もしくは ワクチン接種にも関わらず感染した患者の治療法開発も依然重要である。中和モノクローナル抗体による即効性受動液性免疫療法は、COVID-19に関連した入院と死亡を防ぐ事に関して、可能性がある予防的・治療選択肢である。

 そのような中和モノクローナル抗体の中に、COVID-19患者の回復血清から分離されたbamlanivimab(米国製)etesevimab(中国製)の2つがある。これらはSARS-CoV-2表面スパイク糖タンパク質を標的としている。Bamlanivimabは、AbCellera Biologicsと,国立アレルギー・感染症研究所内のワクチン研究センターの研究者に発見された後, イーライリリーにより開発された。一方のEtesevimabはイーライリリー, Junshi Biosciences, 及び 中国科学アカデミー内の微生物研究所の共同研究により開発された。

 Blocking Viral Attachment and Cell Entry with SARS-CoV-2 Neutralizing Antibodies(BLAZE-1)の第2相, 及び 第3相早期臨床試験の結果は、bamlanivimab・etesevimabのうちいずれかの単剤療法, 及び 2剤併用療法がCOVID-19に関係した入院と重症への進行のrisk低減に有効であることを示した。その結果、FDAは2020年11月にbamlanivimab単剤療法の緊急使用を承認したが、後に取り消した。FDAは2021年2月にbamlanivimabとetesevimab併用療法の緊急使用を承認した。今回は、BLAZE-1の第3相臨床試験の最新のデータ - すなわちCOVID-19軽症or中等症に罹患し, 重症化riskが高い思春期・成人の外来患者という集団における結果を報告するものである。

 

(2) Method

① Trial Design

 BLAZE-1は現在進行中の第2・3相ランダム化二重盲検化プラセボコントロール単回投与臨床試験である。患者は全員、外来にて直近に軽症・中等症のCOVID-19と診断されている。患者は直接的抗原検査・核酸検出検査のいずれかによりSARS-CoV-2陽性と診断された後の3日以内に軽症・中等症COVID-19で受診した。

 BLAZE-1は複数に分かれており、多くのコホート, 及び 治療群への研究を行なっている; しかし、ここではCOVID-19重症化risk factor1個以上のある思春期・成人患者からなるコホートを対象としている第3相試験の本来の部分の結果に注目する。

 BLAZE-1のこの部分では、最初の患者が2020年9/4に登録され, 最後の患者は2020年12/8に登録された。患者はbamlanivimab 2,800mgとetesevimab 2,800mgの併用, もしくは プラセボのいずれかを1時間かけて投与された。

② PICO

 1. Patient selection:  参加登録可能であった患者は、年齢層により以下のような違いがあった。

I. 12~17歳の歩行可能な患者のうち、screening時に以下のrisk factorのうち1個以上がある

  • 年齢・性別に対応したBMIで85 percentile以上
  • 鎌状赤血球症
  • 先天性 or 後天性心疾患
  • 脳性麻痺等の神経成長障害
  • 気管切開等の医療機器・処置に依存している(但し、COVID-19と関係ないもの)
  • 喘息やその他慢性呼吸器疾患
  • 1型・2型糖尿病
  • 免疫抑制状態 or 免疫抑制薬投与中

II. 18歳以上の歩行可能な患者のうち、以下のようなrisk factorが1個以上ある

  • 65歳以上
  • BMI 35以上
  • 慢性腎臓病
  • 1型・2型糖尿病
  • 免疫不全疾患 or 免疫抑制薬投与中
  • 55歳以上で心疾患, 高血圧 又は 慢性呼吸器疾患がある

 なおここでの軽症・中等症COVID-19の定義はFDAガイドラインに則って、発熱, 咳嗽, 咽頭痛, 倦怠感, 頭痛, 筋肉痛, 消化器症状, 運動時の息切れとした。また、室内気でSpO2≦93%, PaO2/FiO2比<300, 呼吸数≧30回, 心拍数≧125に該当する患者は除外された。

 2. Intervention:  上記2剤の併用療法

 3. Comarison:  プラセボ投与

 4. Outcome:  primary outcomeとsecondary outcomeはそれぞれ以下の通り。

I. Primary Outcome; 29日後までのCOVID-19に関連した入院, もしくは 死亡(死因は問わない)

II. Secondary Outcome; key secondary outcomeとadditional secondary outcomeに別れている。

 1)Key secondary outcome

  • Baselineから7日目の間のSARS-CoV-2ウイルス量変化
  • 7日目でも高値(logウイルス量>5.27)を維持しているSARS-CoV-2ウイルス量
  • 29日後までのCOVID-19関連入院・救急外来受診・死亡の複合
  • 症状寛解までの期間(患者の自己申告)

 2)Additional secondary outcome

  • Baselineから3・5日目の間のSARS-CoV-2ウイルス量減少
  • ウイルスがいなくなるまでの期間
  • 7日目までのウイルス量の反応-時間曲線の下の面積
  • 症状が減少・寛解するまでの期間
  • 安全性

(3) Result

① Patients

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Fig. 1

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Table 1

 2021年1/20のデータベースロックまで、1,035名がランダムに併用療法もしくはプラセボへ割り振られた(Fig. 1)。患者(参加者)の特徴は以下のようなものだった(Table 1)

  • 平均年齢(±SD):  53.8±16.8歳, 65歳以上の患者:  31.2%
  • BMI中央値:  34.09
  • 思春期女性:  全体の約52.0%
  • 人種:  ヒスパニック・ラテン系; 29.4%, 黒人; 8.1%

ランダム化時には、77.3%の患者に中等症COVID-19症状があった。患者は、中央値で発症後4日以内に薬剤投与を受けていた。

② Primary Outcome

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Fig. 2

 併用療法群の518名中11名で29日目までにCOVID-19関連入院ないし死亡が起こり, それに対しプラセボ群の517名中36名でそれが起きた絶対リスク差 -4.8 percemtage point; 95%CI -7.4~-2.3; 相対リスク差 70%; P<0.001) (Fig. 2)。29日目までに、併用療法を受けた患者で死者は0, プラセボを受けた患者517名中10名が死亡した。

③ Key Seconday Outcome

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Fig. 3

 Baselineから7日目までのウイルス量減少平均値は、併用療法群がプラセボ群の約16倍であった(baselineからの減少のプラセボ群との差 -1.20; 95%CI -1.46~-0.94; P<0.001) (Fig. 3)7日目にウイルス量が持続していた患者の割合は、併用療法群で9.8%(50名/508名), それに対しプラセボ群で29.5%(147名/499名)だった(差 -19.5 percentage points; 95%CI -24.4~-14.9; P<0.001)。併用療法群518名中12名(2.3%)で29日目までにCOVID-19関連入院・救急外来受診ないし死亡が見られ、一方プラセボ群は517名中37名(7.2%)でそのような転帰が見られた(baselinからの減少のプラセボ群との差 -4.8 percentage points; 95%CI -7.4~-2.3; P<0.001)。2回連続した評価を経た持続的な症状寛解までの期間の中央値は、併用群でプラセボ群よりも1日短かった(併用群 8日[95%CI 7~8] vs プラセボ群 9日[95%CI 8~10]; P=0.007)。

④ 安全性

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Table 2

 重篤有害事象併用療法群518名中7名(1.4%), プラセボ群517名中5名(1.0%)で発生した。点滴投与開始後に発症した有害事象併用療法群518名中69名(13.3%), プラセボ群517名中60名(11.6%)で発生した。両群で最も多かった有害事象は吐き気, 皮疹, めまい, 下痢, 高血圧だった(Table 2)

⑤ Exploratory Outcome

 併用療法群の518名中、合計11名(2.1%)がCOVID-19で入院した。この患者群における入院期間平均値(±SD)は7.3±6.4日であった。プラセボ群ではより多くの人間がCOVID-19で入院し(33名/517名, 6.4%)、この患者群の入院期間平均値は11.2±10.1日であった。

 

(4) Discussion

 この研究では、primary outcome及びsecondary outcomeにおいて、bamlanivimab・etesevimab併用療法はプラセボよりも臨床上・ウイルス学上のbenefitが上回っていることが見出された。

 Primary outcomeを考慮すると、結果は併用療法による早期介入が入院発生に対し有効性があることを示した。29日目までのCOVID-19関連入院ないし死亡は併用療法群でプラセボ群よりも4.8 percentage poit低かった。この知見は、過去に報告されたbamlanivimab単剤療法の臨床試験結果と, 併用療法の効果を評価したBLAZE-1の第2相部分と一致する。併用療法群の患者に死者はいなかった反面、プラセボ群では10名が死亡した。死亡例の大半は男性患者で59歳以上であり, プラセボ群では高血圧が最も多い併存疾患であった。併用療法は、治療開始後4日以内でのより早期の症状寛解に繋がった。これらの知見は、中和モノクローナル抗体療法が重症化するrisk, 並びに COVID-19に罹患したhigh-risk患者における重症度の双方を減少させる可能性を支持するものである。

 Bamlanivimabとetesevimab併用療法によって7日目までにSARS-CoV-2ウイルス量は減少し、これは臨床上のbenefitと一致する。ウイルス量が5.27を上回る患者の割合は、プラセボ群より併用群で低かった。7日目において、併用療法群のウイルス量減少の程度はプラセボ群の約16倍高かった。この研究でウイルス量は、臨床的outcomeと相関する可能性のあるCOVID-19のbiomarkerとなる可能性が示された。

 重篤な有害事象の発生率は低く, 併用療法群(1.4%)及びプラセボ群(11.0%)で類似していた; これらの知見は、bamlanivimabとetesevimab併用療法がhigh-risk患者に使用するに当たって、容認できる安全性profileを持っていることを示している。

 この臨床試験の患者から得た鼻咽頭検体へのウイルス配列解析は現在進行中である。入手可能な配列結果のうち、baselineもしくは治療後の検体中で、スパイクタンパク質中のbamlanivimabとstesevimabによる試験管中の中和能に影響することが判明している箇所に変異があったのは5%未満であった。B.1.351(ベータ)変異型やP.1(ガンマ)変異型といったウイルス変異型は、開発中の数種類のモノクローナル抗体へ試験管中で耐性を示した。報告した時点では、これら変異型はこの臨床試験において見られなかったものの、これら変異型の出現は、より広範な全世界的ウイルス監視プログラムの必要性に焦点を当てるものである。

 モノクローナル抗体の投与に当たっては、物流面での課題が残っている。Bamlanivimab単剤療法の調達は、既に疲弊した医療機関が直面している課題を露呈させた。

 この臨床試験には複数のlimitationがある。

  • 非白人はたった12.6%で, 12~17歳の患者はたったの1.1%だった。
  • 併存疾患のある患者の割合は、慢性腎臓病; 3.5%, 心血管系疾患; 7.4%, 慢性閉塞性肺疾患; 8.2%と少なかった。
  • 背景に免疫不全がある患者の割合; 1.5%, 免疫抑制薬投与中; 4.9% と少なかった。
  • 現行のbamlanivimab・etesevimab併用療法緊急使用承認は発症後10日以内の使用を指示しているが、この臨床研究では治療開始8日よりも前から症状があった患者はたった5%だった。
  • この臨床試験は米国のみで実施され、今回の限定的なdata setでは判断できない、有効性に関する国ごとの違いが存在する可能性がある。

追記:  依然、一部医学生や医療関係者で沸騰中の順天堂大学医学部への某有名アスリートの裏口入学疑惑ですが、久々に私の意見をYouTube上で公開しております。私の立場は割とマイルドと思っていますが、是非ご視聴下さい。

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