Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

それでも私は聴いて欲しい

 こんにちは。土曜日の仕事が早く終わったんで暇を持て余している(本来は勉強とかすべきなのに!)救急医のカ医ロ・レンです。

 実は数日前からずっと気になっていたことがありました。ご存知の方もいると思いますが、私はこれまで何度か、中止・延期も一切ないまま, ほぼ予定通り開催される東京五輪批判する動画YouTubeに上げてきました。ところが、そういった話題の動画を上げるたびに、私のチャンネル登録者数が減ったのです。

 別に私は注目を浴びたいからそのような動画を上げた訳ではありません。これまでCOVID-19を含む重症患者を何度も診療した経験があり, 患者さんへの診療内容を少しでもupdateさせる為に適宜知識等を蓄積しているプロフェッショナルとして、意見を表明し抗議するのも一種の責務だと感じたからです。

 まあ人により好みはそれぞれですし、よっぽど逸脱している思考や信条(e.g. 小児性愛, 人種差別, あからさまな性差別, 標準医療を否定する陰謀論とか)でもない限り私は強い反感を覚えたりはせずに「ふ〜ん」と流します。でも「世の中には、自分の信ずる『正論』に嫌悪感を覚えて去っていく人間が居るんだな〜」っていうことを改めて認識しました。

 

 そうゆうことがあった訳ですが、私は自重なんかしません!今日も東京五輪開催に異議を唱え、オリンピックのあり方を見直すよう求める趣旨の動画をYouTubeに上げてみました!高評価やシェアを是非宜しくお願いします♪

youtu.be

NOVAVAX製ワクチンの第三相臨床試験結果が出たようです。

 こんばんは。最近はコロナワクチンに関する論文を紹介しており、その多くがファイザー・ビオンテックやモデルナが製造するmRNAワクチン, そしてアストラゼネカやジョンソンアンドジョンソン・ヤンセンが製造するベクターワクチンでした。

 海外では他にも治験を経て運用が開始されたワクチンがあり、その一つが、NOVAVAXが製造した組み替えタンパク質ワクチンです。最近も本ブログでこのワクチンを紹介していましたが、英国で行われた第三相臨床試験の結果が最近論文として発表されました。そこで今回は、YouTube動画にまとめてみました。

youtu.be

是非ご視聴・高評価をお願いします。あと他にも色々なテーマの動画を投稿していますので、チャンネル登録の上ご確認をお願いします。

COVID-19アデノウイルスベクターワクチンによる血栓症の話題

 こんばんは。毎回御閲読頂きありがとうございます。最近、アストラゼネカ製COVID-19ワクチン(複製不能アデノウイルスベクターSARS-CoV-2抗原を発現させたもの。"ChAdOx1 nCoV-19 vaccine"と呼ばれる)による血栓症が話題となっていますが、その治療に関する論文をたまたま見つけたので紹介します。今回参考にするのは以下の2つです。

  1. Bourguignon A, Arnold DM. et al. "Adjunct Immune Globulin for Vaccine-Induced Thrombotic Thrombocytopenia." N Engl J Med. DOI: 10.1056/NEJMoa2107051(2021/6/21に最終アップデート)
  2. Selby R, Rendrgrant J. et al. "Therapeutic Plasma Exchange in Vaccine-Induced Immune Thrombotic Thrombocytopenia." N Engl J Med. DOI: 10.1056/NEJMc2109465(2021/7/6発表)

(1) ベクターワクチン血栓症について

 アデノウイルスベクターワクチンによる血栓症の正式名称は'Vaccine-induced Immune Thrombotic Thrombocytopenia(VITT)'ChAdox1 nCoV-19ワクチン(以下、アストラゼネカワクチンと呼ぶ)接種後5~30日後に, 脳静脈洞血栓症・脾静脈血栓症等の非典型的な血栓症で発症する。患者の多くは20~55歳であった。死亡率は30~60%である。血小板第4因子(platelet factor4; PF4)に対するIgG抗体が産生され、FcγIIa受容体により血小板を強く刺激することで血小板減少と凝固系の活性化が起こる。現在、ヘパリン以外の抗凝固薬高用量免疫グロブリン静注(intravenous immune globulin; IVIG)による初期治療が推奨されている。

 

(2) 免疫グロブリン静注療法と, 検査所見・診断に関する報告

 Bourguignonらは2021年3/31〜4/13の間にVITTと診断された患者3名について報告した。Figure 1はそれぞれの患者の治療経過及び血小板数の推移を示したものである。

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Fig. 1

① Patient 1:  72歳女性 

 既往歴; 特になし

 アストラゼネカワクチン接種後7日目に左下肢痛と跛行を発症。症状が悪化し、発症8日後に入院した。画像検査にて腎上の大動脈血栓, 左浅・深大腿動脈閉塞, 腹腔動脈・右腓骨動脈の部分的血栓形成を認めた。

 未分画ヘパリン静注を開始され、投与期間中に血小板数は39,000から77,000まで増加した。入院3日後に外科的血栓除去術を施行され, その前にヘパリンを中止された。その時にVITTを疑われアルガトロバンが開始された。その後5日間に血小板数の改善を認めなかったため、高用量IVIGが投与された。その後2日間で血小板数は74,000から114,000まで増加し, アピキサバン内服を処方され退院となった。退院9日後のフォローアップで血小板数は166,000と正常化していた。

② Patient 2:  63歳男性 

 既往歴; 心血管系risk factorなし, 血栓症の既往なし

 アストラゼネカワクチン接種後18日後に左下肢痙攣を自覚した。4日後に呼吸困難を急激に発症。翌日には左下肢の疼痛・冷感が出現した。ワクチン接種24日後に救急外来を受診し、CT angiographyにて左下肢急性動脈血栓症と広範囲の肺塞栓を認めた。低分子量ヘパリンを投与され、血小板数は36,000から77,000まで増加した(しかしその後、血小板数は低下した)。その後外科的血栓除去術を施行された。下肢超音波検査では非閉塞性の膝窩深部静脈血栓症を認めた。VITTを疑われ、ヘパリンをフォンダパリヌクスへ変更され, IVIGを投与された。IVIG投与後に血小板は3日間で27,000から124,000まで増加した; IVIG開始7日後に血小板は640,000であった。IVIG後に新規血栓の発生は無いものの、残存左下肢遠位血栓により下肢遠位に虚血性壊死を来し切断術を予定された。

③ Patient 3:  69歳男性 

 既往歴; インスリン非依存性糖尿病, 高血圧, 睡眠時無呼吸, 前立腺癌(直近で診断された。まだステージ分類されていない), 血栓症の既往なし, 接種の9ヶ月前に経カテーテル的大動脈弁置換術を受けヘパリンを使用された。その後アスピリン81mg/dayを内服していた。

 ワクチン接種12日後に頭痛と混迷を訴え、進行性の左片麻痺のため入院した。入院3日目に左片麻痺増悪を来たし, 右中大脳動脈領域の出血性脳梗塞を認めたことからVITTと診断された。他に右内頸動脈, 右横静脈洞・S状静脈洞, 右内頸静脈, 肝静脈, 下肢静脈遠位の血栓肺塞栓症を認めた。フォンダパリヌクスとIVIG(2回)による治療が行われ、血小板は3日間で35,000から125,000まで増加した。左片麻痺は残存したものの、新たな血栓症イベントは臨床所見上認められなかった。

 その後血小板数が106,000へ減少し, D-dimerが増加した; 3度目のIVIGが投与され、その後血小板数は165,000まで増加し, D-dimerは再び低下した。それと並行して、VITT抗体がフォンダパリヌクスと交差反応することを懸念したためリバロキサバンへ変更された; なおこの交差反応は検査にて除外された。その後、患者には血漿交換がワクチン接種後47~62日の間に13回行われた。その結果血小板は徐々に改善し、第62病日には158,000になった。

 

 上記3患者のうちPatient 2と3では、D-dimerがそれぞれ>10mg/L, >20mg/Lと高値, フィブリノゲンがそれぞれ140mg/dL, 200mg/dLと低値, INRがそれぞれ1.3, 1.4と軽度増加を含むDICの所見を認めた。IVIGによる治療後、2名の患者ではD-dimer値減少とフィブリノゲン値上昇を認め、過凝固状態改善と矛盾しなかった。

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Table 1

 また3名全員で、ELISA法によってPF-4polyanion complexに対する抗体の強陽性を認めた(Table 1)IVIG療法後のELISA反応性低下は認められず、IVIGがVITT抗体のPF4への結合を抑制しないことが示唆された。

 IVIG投与前に採取した血清(baseline)は、3名の患者においてセロトニン放出アッセイにてそれぞれ異なる反応パターンを示した。

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Fig. 2 AとB

1. Patient 1の血清(Fig. 2A)

 ヘパリン濃度 セロトニン放出

 0U/mL     19%

 0.1U/mL     41%

 0.3U/mL    23%

 100U/mL    0%

2. Patient 2の血清

 ヘパリン濃度 セロトニン放出

 0       35%

 0.1, 0.3U/mL   5%

3. Patient 3の血清

 ヘパリン濃度 セロトニン放出

 0U/mL     78%

 0.1U/mL     72%

なおこの3患者において、IVIG 1~2回目投与後に血清によるセロトニン放出は見られなかった。

 Patient 1, 2では、baselineの血清にPF4を追加したところ、強力な(>80%)セロトニン放出が見られた(Fig. 2B)。Patient 3のbaselineの血清では、PF4の効果は見られなかった(PF4のない状態で78%のセロトニン放出)。この患者3名全員でIVIG療法後に採取した血清では、PF4存在下での反応性低下が認められた。

セロトニン放出アッセイとは

 患者血清を、ドナー由来血小板(放射性同位体C14を持つセロトニンを含む)と, 様々な濃度のヘパリンと混合する。患者血清中の抗体が血小板に結合し活性化させた場合、放射性元素の付いたセロトニンが血小板から放出される。セロトニン放出が20~49.9%だと反応性が弱い80%超だと反応性が強と定義される。

 自己免疫性血小板減少性紫斑病患者へIVIG療法を施行後の血栓イベントが多数報告されていることを考えると、血栓症治療目的の高用量IVIGは例外的である。しかしながら、自己免疫性ヘパリン誘発性血小板減少症(Heparin-induced Thrombocytopenia; HIT)の患者と, 上記患者3名では、IVIGによる血清誘発性血小板活性化の抑制は血小板数増加と関連していた。

 こうした知見はおそらく、in vivoでの抗体による血小板活性化・過凝固状態の低下を反映している。血小板数を増加させることは、患者に重症の血小板減少と多発する非典型的な血栓が伴っている場合に特に重要である。VITT患者は場合により数週間は持続する重症の血小板減少を来たしうるので、早期IVIG投与はVITTのmanagementにおいて抗凝固療法への重要な補助的治療となる可能性がある。IVIGの2日間連続して体重1kgごとに1g」という推奨投与量は曖昧である可能性がある。IVIGの用量依存性の効果を考慮して、こうした計算には少なくとも投与量, できれば実測体重を使用することが提案されている。

 また、北米で使用されている血小板活性化試験(セロトニン放出アッセイ)が、PF4の反応ウェルを含めることによってVITT抗体の検出にも使用可能であることが示された。Patient 3の血清で見られた反応パターンは非典型的であったものの、従来のHIT検査で2検体が陽性となったことから、これらの患者から採取した血清の反応パターンは不均質であると判明した。Patient 1と2(従来型のヘパリン依存性抗体の検査がそれぞれ弱陽性・陰性だった)では、PF4追加が強力なセロトニン放出を起こした。従って、通常の環境で行う標準的な血小板活性化アッセイへ、ヘパリン無し・PF4追加(≧10μg/mL)を併用することが推奨される。また、ヘパリン非存在下での血清によるセロトニン放出は自己免疫性HITの特徴であることから、バッファーコントロールとしてのヘパリン0U/mLでの検査も推奨される上記知見は、セロトニン放出アッセイ結果の偽陰性を回避する為に、IVIG投与前に血清のVITT抗体検査を行うという推奨を支持するものである。対照的に、IVIG療法でELISA活性は抑制されなかった。

 

(3) 血漿交換療法に関する報告

 Figure 1に患者3名の治療経過詳細を示す。3名ともに、アストラゼネカワクチン接種後にPF4を追加したセロトニン放出アッセイ(serotonin release assay with added PF4; PF4 SRA)が陽性となったVITT患者で, 初期治療にも関わらず血小板減少の遷延と進行性の血栓症を認めた。

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Fig.1

① Patient 1:  45歳女性

 既往歴; 特になし

 ワクチン接種11日後に左腎梗塞, 両側副腎出血, 肺塞栓症, 右椎骨動脈・内頸動脈血栓症のため入院した。

L/D; 血小板数 53,000, APTT 40.1 sec., INR 1.3, フィブリノゲン 322mg/dL, D-dimer>35,200μg/L fibrinogen equivalent units(FEU), PF4 ELISA肉眼的凝集 2.38。

② Patient 2:  46歳女性

 ワクチン接種10日後に横静脈洞・S状静脈洞・上矢状静脈洞を含む脳静脈洞血栓症を来した。

L/D; 血小板数 16,000, APTT 31, INR 1.3, フィブリノゲン 120mg/dL, D-dimer>44,000μg/L FEU, PF4 ELISA肉眼的凝集 2.06

③ Patient 3:  48歳女性

 既往歴; 数年前に乳癌に罹患

 ワクチン接種16日後に左鎖骨下動脈, 胸部・腹部大動脈・右内腸骨動脈の血栓症を来した。左下肢に虚血とチアノーゼを伴う動脈血栓も認めた。ヘパリン静注を1回投与された。乳癌再発は認めなかった。

L/D; 血小板数 37,000, APTT 24.5, INR 1.2, フィブリノゲン 100mg/dL, D-dimer>9,999μg/L FEU, ELISA肉眼的凝集 2.28

 Patient 1と3には完全な血漿で, Patient 2には半分血漿・半分アルブミン血漿交換療法が開始された。血漿交換療法開始前・治療中・治療後にアルガトロバン療法への密なモニタリングが行われ、APTTの変動はほとんど見られなかった。Patient 1は5回目の血漿交換療法後にリツキシマブ投与を受けた。Patient 2ではIVIG投与まで血小板数は改善しなかった。Patient 1と2は当初重症であったにも関わらず回復した。Patient 3は膝上切断を行われたが、血小板交換療法が更なる切断を防いだ可能性が大きい。

 初期治療に反応しないVITTは緊急の追加治療が必要である。VITTはIgGを介するものであるため、更なる研究が必要ではあるが、血漿を交換体液として用いる血漿交換療法はIgGを血小板が抑制されるレベルまで上げないので、抗体除去, ないし 中和は効果的であると思われる。治療開始から5日を経過しても寛解しない血小板減少と血栓症に対しては血漿交換療法を考慮し, 血小板数が正常化するまで継続することが示唆される。早期の治療開始も考慮されうる。IVIG, グルココルチコイド, リツキシマブによる追加治療の有効性には更なる研究が必要である。

 VITT治療に用いる抗凝固薬regimenは依然定まっていない。急性期の反応物質がAPTTを短縮させた可能性はあるものの、この3患者では血漿交換療法中, 並びに 治療後のAPTT値は保たれており, 合併症は認めなかった。血小板数正常化はbiomarkerとして必ずしも信用性があるとは限らない; 血小板数増加とD-dimer低下の併用がより予測可能なoutcomeであるかもしれない。連続的なPF4 ELISAの有用性についても、評価が必要である。

 

 まだVITTへの標準的な治療は確立されたとは言えず、薬剤はヘパリン以外の抗凝固薬に加えてIVIGが有効である可能性や, こうした薬物療法に抵抗性のものへ血漿交換療法も検討しようかな、というレベルの話なのでしょう(加えて、必要に応じて血栓症に伴う臓器・四肢虚血への血流再建や, 虚血による壊死に対する切断術も行うという形になるのでしょう)。

ファイザー製&モデルナ製ワクチンの効果について

 こんにちは。昨日はブチギレまくりでしたが、今日は論文紹介です。今年(2021年)6/30に公開された"Prevention and Attenuation of Covid-19 with the BNT162b2 and mRNA-1273 Vaccine."(Thompson M.G., Burgess J.L. et al. N. Engl J Med. DOI: 10.1056/NEJMoa2107058)を参照しました。

(1) Introduction

 BNT162b2(Pfizer-BioNTech製)とmRNA-1273(Moderna)ワクチンは、ランダム化・プラセボコントロール第3相臨床試験にて症候性のSARS-CoV-2感染予防に高い効果があることが示されている。最近でも、実態に即した接種した場合、こうしたmRNAワクチンが症候性・無症候性SARS-CoV-2感染予防に有効だったという中間推計が報告されている。COVID-19重症度・ウイルスRNA量・ウイルスRNAが検出される期間が低減される可能性を含めたmRNAの潜在的に重要なsecondary benefitについてよく知られていない。

 米国の6州で実施され、医療従事者, first responder(救急・消防隊員?), その他essential and frontline workerが参加する前向き型コホート研究では3つの目標が設定された。

  1. 不完全, 及び 完全接種後において、SARS-CoV-2感染予防に対するmRNAワクチンの効果の推計
  2. SARS-CoV-2感染と診断された参加者において、不完全・完全接種後の参加者と未接種の参加者の間で平均ウイルスRNA量を比較
  3. SARS-CoV-2感染と診断された参加者において、不完全・完全接種後の参加者と未接種の参加者の間で発熱症状の頻度と有病期間を比較

(2) Method

①Trial Design

 HEROES-RECOVER networkとは、1)HEROES(the Arizona Healthcare, Emergency Resoponse, and Other Essential Workers Surveillance Study), 及び 2)RECOVER(Research on the Epidemiology of SARS-CoV-2 in Essential Response Personal)の2研究由来の前向きコホートを含んでいる。このnetworkは2020年7月に開始され、同じprotcolを使用していた。アリゾナ(Phoenix, Tucsonほか), フロリダ(マイアミ), ミネソタ(ダラス), オレゴン(ポートランド), テキサス(テンプル), ユタ(ソルトレークシティ)の6州で参加者を募った。参加者は場所・性別・年齢グループ・職業別に階層化された。今回の解析に使用したデータは2020/12/14~2021/4/10の間に収集した。

 社会人口統計学的・健康関連characteristicは参加者が参加登録時に電子機器にて回答した。参加者は毎月、SARS-CoV-2暴露の可能性とマスク・PPE使用について、次のような4基準に従って報告した。

  • その前の7日間において、他の就業中の者と濃厚接触していた(=1m以内に居た)時間
  • 就業中に濃厚接触をしていた時間のうち、PPEを使用していた割合
  • その前の7日間において、就業中・在宅中・近所(in the community)でCOVID-19疑いor確定診断された人と濃厚接触していた時間
  • ウイルスと濃厚接触していた時間のうち、PPEを使用していた割合

 COVID-19と関連する症状に対する積極的な監視は毎週、テキストメッセージ, email, 参加者ないしカルテから直接得た報告により行った。COVID-19様症状が検知された場合、参加者は発症時, 及び 寛解時に電子機器で回答した。

 また参加者は症状の有無に関係なく鼻腔拭い液を毎週提出し, COVID-19様症状発症時は追加で鼻腔・唾液検体も提出した。検体は週末に冷凍で配送され, Marshfield Clinic研究所で定性RT-PCRアッセイにかけられた。定量RT-PCRウィスコンシン州衛生研究所で行われた。1回目のワクチン接種後7日目以降に感染した22名と, この22名と場所・検査日が同じであるワクチン未接種者3 or 4名から検出されたウイルスに対しては、CDCでSARS-CoV-2全ゲノム配列解析を行なった。ウイルスの系統はvariants of concern, variants of interest, その他へと分類された。ワクチン1回目接種後14日以上経過した参加者と, ワクチン未接種の参加者におけるvariants of concernの割合を比較した。

 検体収集時、参加者は以下のように分類された。

  • 完全接種済: 2回目接種後14日以上経過
  • 完全接種: 1回目接種後14日以上経過し, 2回目接種から14日未満
  • 接種 or 接種状況未確定: 1回目接種から14日未満

②Outcome

 1. Primary Outcome:  ワクチン接種済参加者と未接種参加者でのCOVID-19感染までの時間の比較

 2. Secondary Outcome:  SARS-CoV-2に感染した参加者におけるウイルスRNA量, 発熱症状の頻度, 有病期間

(3) Results

①Participant Characteristics

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Table 1

 研究期間開始前にSARS-CoV-2と確定診断された参加者1,147名を除外した後、研究には3,975名が参加した。参加者の約半分(51%)がアリゾナ州の3箇所由来であった(Table 1)

  • 性別:  女性が62%と大半
  • 年齢:  18~49歳が大半(72%)
  • 人種:  白人; 86%, 非ヒスパニック; 83%
  • 慢性疾患なし:  69%
  • 職種:  医師等の一次医療従事者; 20%, 看護師ら医療従事者; 33%, first responder; 21%, その他essential and frontline worker; 26%

17週間の期間中、毎週の回答及び検体収集へのadherenceは高かった(中央値 100%)。

②ワクチン接種状況

 2021/4/10までに合計3,179名(80%)がmRNAワクチン接種を少なくとも1回接種されており, 2,686名(84%)が推奨量のワクチン接種を受けていた(Table 1)。接種されたワクチンのうち67%がファイザー製, 33%がモデルナ製であった。なお39名のみがAd26.COV2.Sワクチン(Johnson-Jansen製)を接種されており、これら参加者の結果はmRNAワクチン被接種参加者の結果と比較できなかった; そのため、ワクチン接種時にこの39名のperson-timeは削除され, 未接種状態と関連したperson-timeのみに関与した。接種済み参加者において、COVID-19と確定診断or疑いとなった者と濃厚接触した時間の平均値は少なく, PPE使用時間の割合が高かった(Table 1)

③RT-PCRにて確定診断したSARS-CoV-2感染

 204名(5%)の参加者でRT-PCRアッセイによりSARS-CoV-2感染が診断された。そのうち5名は完全接種済, 11名は不完全接種, 156名は接種であった; ワクチン接種状況が未確定の32名が除外された。ゲノム配列解析が行われた93ウイルスのうち、12はワクチン接種状況未確定の参加者から検出されたので除外された。他のウイルスの内訳は次の通り。

  • Variants of concern:  10個(うちB.1.429は8個, B.1.427は1個, B.1.1.7は1個)
  • Variants of interest:  1個(P.2)

不完全 or 完全接種済参加者から検出されたウイルス10個が遺伝子配列解析にかけられた; そのうちvariants of concernは3個(30%; 全てB.1.429)だった。それと比較し、接種参加者で検出された70ウイルスのうち7個(10%)がvariants of concernだった

 RT-PCRで確定診断されたSARS-CoV-2感染はアリゾナ, フロリダ, or テキサスに居る参加者, もしくは 男性, ヒスパニック, or first responderで高頻度に検出された(Table 1)。しかし、ウイルス暴露の可能性がある時間 or PPE使用時間とでは、感染頻度に差が無かったRT-PCRで確定診断されたSARS-CoV-2で確定診断された参加者にて、

  • 検体採取前もしくは採取後1日以内でCOVID-19症状があった:  74%
  • 検体採取後1~14日以内でCOVID-19症状があった:  13%
  • それ以外の症状:  2%
  • 検体採取前14日以内及び検体採取後に無症状:  11%

であった。

 完全 or 完全接種済の期間に感染した人の割合はアリゾナ, ミネソタ, ユタの参加者, 及び看護師ら医療従事者で多かった; 他の人口統計学的・健康関連characterisitic, もしくは ウイルス暴露の可能性 or PPE使用による有意差は無かった。

SARS-CoV-2感染に対するmRNAワクチンの有効性

 17週間の研究期間にて、

  • 合計3,964名が、参加者ごとの接種日の中央値19へ寄与し, その間にRT-PCRで診断されたSARS-CoV-2感染は156例だった
  • 合計3,001名が、完全接種日の中央値22へ寄与し, その間にRT-PCRで診断されたSARS-CoV-2感染は11例だった
  • 合計2,510名が、完全接種日の中央値69へ寄与し, その間にRT-PCRで診断されたSARS-CoV-2感染は5名だった

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Table 2

 RT-PCRで確認されたSARS-CoV-2感染に対する調整後ワクチン有効性推計は、完全接種済にて91%(95%CI 76~97)であり, 完全接種にて81%(95%CI 64~90)だった(Table 2)。mRNAワクチン製品ごと, 年齢グループごとのワクチン有効性推計をTable 2に示す。

⑤ワクチンによるウイルスRNA量の中和

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Table 3

 First responderでのやや低いウイルスRNA量を除けば、参加者のcharacteristicsと平均ウイルスRNA量の間の有意な関連性は無かった。接種参加者における平均ウイルスRNA量は3.8 log10 コピー/mL, 完全・完全接種済参加者のおける平均ウイルスRNA量は2.3 log10 コピー/mLだった; 調整済みモデルでは、ワクチン接種なしと比べて不完全接種以上にてウイルスRNAが40%(95%CI 16.3~57.3)低かった(Table 3)。大半の完全・完全接種済参加者(75%)でウイルスRNA検出期間が1週間のみであり, 大半の接種参加者(72%)でウイルスRNA検出期間は1週間を超えた; 1週間を超えてウイルスRNAが検出されるriskは、不完全接種以上で66%低かった(Table 3)

⑥ワクチンによる発熱症状・有症状期間の緩和

 テキサスとユタの参加者で有症状期間平均値が低かったこと, フロリダとユタの参加者で発熱症状の頻度が低かったことを除けば、重症度尺度とCOVID-19有症状期間・参加者characteristicsの間に有意な関連性は無かった。RT-PCRSARS-CoV-2感染を診断された参加者の中で、完全・完全接種済参加者でたった25%が発熱症状を訴えたのに対し、接種参加者では63%だった; 不完全接種以上により、発熱症状riskは58%低下した。またワクチン接種済参加者は接種参加者よりも有症状期間の合計は6.4日短く(95%CI 0.4~12.3), COVID-19により臥床していた期間は2.3日短かった(95%CI 0.8~3.7)

(4) Disucussion

 米国の6州で3,975名の医療従事者, first responder, その他essential and frontline workerを17週間にわたってフォローした前向きコホート研究にて、RT-PCRにより診断されたSARS-CoV-2症候性・無症候性感染の予防に対するファイザー製・モデルナ製mRNAワクチンの有効性は、完全接種済において91%(95%CI 76~97)だった; 不完全接種済における有効性は81%だった。実態に即した状況下でのこうしたワクチン有効性の推計は、efficacy trialの知見や医療従事者が参加する類似した前向き研究と一致する。

 ワクチンを接種したにも関わらずSARS-CoV-2へ感染した少数の参加者において、mRNAは複数の方法で感染と病勢を緩和しているように見える。感染時に未接種だった参加者と比べて、感染時に不完全・完全接種済だった参加者ではウイルスRNA量が40%低く, 1週間を超えてウイルスRNAが探知されるriskは66%低かった。未接種参加者と比べて、不完全・完全接種済参加者では発熱症状riskが58%低く, 有症状期間が約6日間短く, 臥床期間が2日間短かった。この研究で見られたmRNAワクチン接種後のウイルスRNA量低下の存在は最近の報告と一致し, この研究で見られたウイルス学的・臨床上の効果は、COVID-19が軽症なほどウイルスRNA量が減少・検出期間が短縮するという既知の知見と一致する。

 ワクチン接種がCOVID-19を緩和するmechanismはほとんど不明であるが、この効果はおそらく免疫記憶反応のrecallによるものであろう。この研究の知見は、Ad26.COV2.Sワクチン接種済の中等症COVID-19患者がプラセボ接種群の中等症COVID-19患者よりも軽症だったというランダム化コントロール研究の報告と一致する。

 この研究のstrengthは、

  • 検査で確定診断したSARS-CoV-2感染の既往が無い, 現役世代の成人に焦点を当てた。
  • 監視へのadherenceが高い中、毎週検査等を実施した。
  • ワクチン接種状況を記録手段が多様。
  • Vaccination-propensity weighting, 地域のウイルス流行状態を考慮した持続的なupdate, ウイルス暴露可能性・PPE使用によるワクチン有効性の推計

他方、limitationは、

  • ワクチン有効性の推計が比較的短いフォローアップ期間をもとにしたものである。
  • 仮にワクチン接種済参加者における感染を不均衡に探知できなかったとすれば、ワクチン有効性を過剰評価した可能性がある。
  • 全てのウイルスに対するゲノム配列解析が済んでいない。
  • ワクチン接種後の感染症例数が比較的少なかったので、不完全接種と関連した中和効果と完全接種と関連した効果の区別が出来ていない可能性がある。
  • データ不足と参加者内で人種的多様性が限られていたため、ワクチンによる緩和効果の交絡因子の検証と調整が出来なかった。
  • 発熱症状と有症状期間は参加者の自己申告であり、思い出し・確証バイアスの影響を受ける。
  • ウイルスDNA検出は、感染性を有するウイルス分離と同等ではない。

 mRNAワクチン接種が、ウイルスRNA粒子数, ウイルスRNA検出期間を減少させることでSARS-CoV-2感染性を鈍化させることが追加データにより確認できれば、全体的な結果がmRNAワクチンがSARS-CoV-2感染予防に極めて効果的であることのみならず, ワクチン接種後の感染の影響を弱める可能性があることを支持することになる。