Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

ファイザー製&モデルナ製ワクチンの効果について

 こんにちは。昨日はブチギレまくりでしたが、今日は論文紹介です。今年(2021年)6/30に公開された"Prevention and Attenuation of Covid-19 with the BNT162b2 and mRNA-1273 Vaccine."(Thompson M.G., Burgess J.L. et al. N. Engl J Med. DOI: 10.1056/NEJMoa2107058)を参照しました。

(1) Introduction

 BNT162b2(Pfizer-BioNTech製)とmRNA-1273(Moderna)ワクチンは、ランダム化・プラセボコントロール第3相臨床試験にて症候性のSARS-CoV-2感染予防に高い効果があることが示されている。最近でも、実態に即した接種した場合、こうしたmRNAワクチンが症候性・無症候性SARS-CoV-2感染予防に有効だったという中間推計が報告されている。COVID-19重症度・ウイルスRNA量・ウイルスRNAが検出される期間が低減される可能性を含めたmRNAの潜在的に重要なsecondary benefitについてよく知られていない。

 米国の6州で実施され、医療従事者, first responder(救急・消防隊員?), その他essential and frontline workerが参加する前向き型コホート研究では3つの目標が設定された。

  1. 不完全, 及び 完全接種後において、SARS-CoV-2感染予防に対するmRNAワクチンの効果の推計
  2. SARS-CoV-2感染と診断された参加者において、不完全・完全接種後の参加者と未接種の参加者の間で平均ウイルスRNA量を比較
  3. SARS-CoV-2感染と診断された参加者において、不完全・完全接種後の参加者と未接種の参加者の間で発熱症状の頻度と有病期間を比較

(2) Method

①Trial Design

 HEROES-RECOVER networkとは、1)HEROES(the Arizona Healthcare, Emergency Resoponse, and Other Essential Workers Surveillance Study), 及び 2)RECOVER(Research on the Epidemiology of SARS-CoV-2 in Essential Response Personal)の2研究由来の前向きコホートを含んでいる。このnetworkは2020年7月に開始され、同じprotcolを使用していた。アリゾナ(Phoenix, Tucsonほか), フロリダ(マイアミ), ミネソタ(ダラス), オレゴン(ポートランド), テキサス(テンプル), ユタ(ソルトレークシティ)の6州で参加者を募った。参加者は場所・性別・年齢グループ・職業別に階層化された。今回の解析に使用したデータは2020/12/14~2021/4/10の間に収集した。

 社会人口統計学的・健康関連characteristicは参加者が参加登録時に電子機器にて回答した。参加者は毎月、SARS-CoV-2暴露の可能性とマスク・PPE使用について、次のような4基準に従って報告した。

  • その前の7日間において、他の就業中の者と濃厚接触していた(=1m以内に居た)時間
  • 就業中に濃厚接触をしていた時間のうち、PPEを使用していた割合
  • その前の7日間において、就業中・在宅中・近所(in the community)でCOVID-19疑いor確定診断された人と濃厚接触していた時間
  • ウイルスと濃厚接触していた時間のうち、PPEを使用していた割合

 COVID-19と関連する症状に対する積極的な監視は毎週、テキストメッセージ, email, 参加者ないしカルテから直接得た報告により行った。COVID-19様症状が検知された場合、参加者は発症時, 及び 寛解時に電子機器で回答した。

 また参加者は症状の有無に関係なく鼻腔拭い液を毎週提出し, COVID-19様症状発症時は追加で鼻腔・唾液検体も提出した。検体は週末に冷凍で配送され, Marshfield Clinic研究所で定性RT-PCRアッセイにかけられた。定量RT-PCRウィスコンシン州衛生研究所で行われた。1回目のワクチン接種後7日目以降に感染した22名と, この22名と場所・検査日が同じであるワクチン未接種者3 or 4名から検出されたウイルスに対しては、CDCでSARS-CoV-2全ゲノム配列解析を行なった。ウイルスの系統はvariants of concern, variants of interest, その他へと分類された。ワクチン1回目接種後14日以上経過した参加者と, ワクチン未接種の参加者におけるvariants of concernの割合を比較した。

 検体収集時、参加者は以下のように分類された。

  • 完全接種済: 2回目接種後14日以上経過
  • 完全接種: 1回目接種後14日以上経過し, 2回目接種から14日未満
  • 接種 or 接種状況未確定: 1回目接種から14日未満

②Outcome

 1. Primary Outcome:  ワクチン接種済参加者と未接種参加者でのCOVID-19感染までの時間の比較

 2. Secondary Outcome:  SARS-CoV-2に感染した参加者におけるウイルスRNA量, 発熱症状の頻度, 有病期間

(3) Results

①Participant Characteristics

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Table 1

 研究期間開始前にSARS-CoV-2と確定診断された参加者1,147名を除外した後、研究には3,975名が参加した。参加者の約半分(51%)がアリゾナ州の3箇所由来であった(Table 1)

  • 性別:  女性が62%と大半
  • 年齢:  18~49歳が大半(72%)
  • 人種:  白人; 86%, 非ヒスパニック; 83%
  • 慢性疾患なし:  69%
  • 職種:  医師等の一次医療従事者; 20%, 看護師ら医療従事者; 33%, first responder; 21%, その他essential and frontline worker; 26%

17週間の期間中、毎週の回答及び検体収集へのadherenceは高かった(中央値 100%)。

②ワクチン接種状況

 2021/4/10までに合計3,179名(80%)がmRNAワクチン接種を少なくとも1回接種されており, 2,686名(84%)が推奨量のワクチン接種を受けていた(Table 1)。接種されたワクチンのうち67%がファイザー製, 33%がモデルナ製であった。なお39名のみがAd26.COV2.Sワクチン(Johnson-Jansen製)を接種されており、これら参加者の結果はmRNAワクチン被接種参加者の結果と比較できなかった; そのため、ワクチン接種時にこの39名のperson-timeは削除され, 未接種状態と関連したperson-timeのみに関与した。接種済み参加者において、COVID-19と確定診断or疑いとなった者と濃厚接触した時間の平均値は少なく, PPE使用時間の割合が高かった(Table 1)

③RT-PCRにて確定診断したSARS-CoV-2感染

 204名(5%)の参加者でRT-PCRアッセイによりSARS-CoV-2感染が診断された。そのうち5名は完全接種済, 11名は不完全接種, 156名は接種であった; ワクチン接種状況が未確定の32名が除外された。ゲノム配列解析が行われた93ウイルスのうち、12はワクチン接種状況未確定の参加者から検出されたので除外された。他のウイルスの内訳は次の通り。

  • Variants of concern:  10個(うちB.1.429は8個, B.1.427は1個, B.1.1.7は1個)
  • Variants of interest:  1個(P.2)

不完全 or 完全接種済参加者から検出されたウイルス10個が遺伝子配列解析にかけられた; そのうちvariants of concernは3個(30%; 全てB.1.429)だった。それと比較し、接種参加者で検出された70ウイルスのうち7個(10%)がvariants of concernだった

 RT-PCRで確定診断されたSARS-CoV-2感染はアリゾナ, フロリダ, or テキサスに居る参加者, もしくは 男性, ヒスパニック, or first responderで高頻度に検出された(Table 1)。しかし、ウイルス暴露の可能性がある時間 or PPE使用時間とでは、感染頻度に差が無かったRT-PCRで確定診断されたSARS-CoV-2で確定診断された参加者にて、

  • 検体採取前もしくは採取後1日以内でCOVID-19症状があった:  74%
  • 検体採取後1~14日以内でCOVID-19症状があった:  13%
  • それ以外の症状:  2%
  • 検体採取前14日以内及び検体採取後に無症状:  11%

であった。

 完全 or 完全接種済の期間に感染した人の割合はアリゾナ, ミネソタ, ユタの参加者, 及び看護師ら医療従事者で多かった; 他の人口統計学的・健康関連characterisitic, もしくは ウイルス暴露の可能性 or PPE使用による有意差は無かった。

SARS-CoV-2感染に対するmRNAワクチンの有効性

 17週間の研究期間にて、

  • 合計3,964名が、参加者ごとの接種日の中央値19へ寄与し, その間にRT-PCRで診断されたSARS-CoV-2感染は156例だった
  • 合計3,001名が、完全接種日の中央値22へ寄与し, その間にRT-PCRで診断されたSARS-CoV-2感染は11例だった
  • 合計2,510名が、完全接種日の中央値69へ寄与し, その間にRT-PCRで診断されたSARS-CoV-2感染は5名だった

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Table 2

 RT-PCRで確認されたSARS-CoV-2感染に対する調整後ワクチン有効性推計は、完全接種済にて91%(95%CI 76~97)であり, 完全接種にて81%(95%CI 64~90)だった(Table 2)。mRNAワクチン製品ごと, 年齢グループごとのワクチン有効性推計をTable 2に示す。

⑤ワクチンによるウイルスRNA量の中和

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Table 3

 First responderでのやや低いウイルスRNA量を除けば、参加者のcharacteristicsと平均ウイルスRNA量の間の有意な関連性は無かった。接種参加者における平均ウイルスRNA量は3.8 log10 コピー/mL, 完全・完全接種済参加者のおける平均ウイルスRNA量は2.3 log10 コピー/mLだった; 調整済みモデルでは、ワクチン接種なしと比べて不完全接種以上にてウイルスRNAが40%(95%CI 16.3~57.3)低かった(Table 3)。大半の完全・完全接種済参加者(75%)でウイルスRNA検出期間が1週間のみであり, 大半の接種参加者(72%)でウイルスRNA検出期間は1週間を超えた; 1週間を超えてウイルスRNAが検出されるriskは、不完全接種以上で66%低かった(Table 3)

⑥ワクチンによる発熱症状・有症状期間の緩和

 テキサスとユタの参加者で有症状期間平均値が低かったこと, フロリダとユタの参加者で発熱症状の頻度が低かったことを除けば、重症度尺度とCOVID-19有症状期間・参加者characteristicsの間に有意な関連性は無かった。RT-PCRSARS-CoV-2感染を診断された参加者の中で、完全・完全接種済参加者でたった25%が発熱症状を訴えたのに対し、接種参加者では63%だった; 不完全接種以上により、発熱症状riskは58%低下した。またワクチン接種済参加者は接種参加者よりも有症状期間の合計は6.4日短く(95%CI 0.4~12.3), COVID-19により臥床していた期間は2.3日短かった(95%CI 0.8~3.7)

(4) Disucussion

 米国の6州で3,975名の医療従事者, first responder, その他essential and frontline workerを17週間にわたってフォローした前向きコホート研究にて、RT-PCRにより診断されたSARS-CoV-2症候性・無症候性感染の予防に対するファイザー製・モデルナ製mRNAワクチンの有効性は、完全接種済において91%(95%CI 76~97)だった; 不完全接種済における有効性は81%だった。実態に即した状況下でのこうしたワクチン有効性の推計は、efficacy trialの知見や医療従事者が参加する類似した前向き研究と一致する。

 ワクチンを接種したにも関わらずSARS-CoV-2へ感染した少数の参加者において、mRNAは複数の方法で感染と病勢を緩和しているように見える。感染時に未接種だった参加者と比べて、感染時に不完全・完全接種済だった参加者ではウイルスRNA量が40%低く, 1週間を超えてウイルスRNAが探知されるriskは66%低かった。未接種参加者と比べて、不完全・完全接種済参加者では発熱症状riskが58%低く, 有症状期間が約6日間短く, 臥床期間が2日間短かった。この研究で見られたmRNAワクチン接種後のウイルスRNA量低下の存在は最近の報告と一致し, この研究で見られたウイルス学的・臨床上の効果は、COVID-19が軽症なほどウイルスRNA量が減少・検出期間が短縮するという既知の知見と一致する。

 ワクチン接種がCOVID-19を緩和するmechanismはほとんど不明であるが、この効果はおそらく免疫記憶反応のrecallによるものであろう。この研究の知見は、Ad26.COV2.Sワクチン接種済の中等症COVID-19患者がプラセボ接種群の中等症COVID-19患者よりも軽症だったというランダム化コントロール研究の報告と一致する。

 この研究のstrengthは、

  • 検査で確定診断したSARS-CoV-2感染の既往が無い, 現役世代の成人に焦点を当てた。
  • 監視へのadherenceが高い中、毎週検査等を実施した。
  • ワクチン接種状況を記録手段が多様。
  • Vaccination-propensity weighting, 地域のウイルス流行状態を考慮した持続的なupdate, ウイルス暴露可能性・PPE使用によるワクチン有効性の推計

他方、limitationは、

  • ワクチン有効性の推計が比較的短いフォローアップ期間をもとにしたものである。
  • 仮にワクチン接種済参加者における感染を不均衡に探知できなかったとすれば、ワクチン有効性を過剰評価した可能性がある。
  • 全てのウイルスに対するゲノム配列解析が済んでいない。
  • ワクチン接種後の感染症例数が比較的少なかったので、不完全接種と関連した中和効果と完全接種と関連した効果の区別が出来ていない可能性がある。
  • データ不足と参加者内で人種的多様性が限られていたため、ワクチンによる緩和効果の交絡因子の検証と調整が出来なかった。
  • 発熱症状と有症状期間は参加者の自己申告であり、思い出し・確証バイアスの影響を受ける。
  • ウイルスDNA検出は、感染性を有するウイルス分離と同等ではない。

 mRNAワクチン接種が、ウイルスRNA粒子数, ウイルスRNA検出期間を減少させることでSARS-CoV-2感染性を鈍化させることが追加データにより確認できれば、全体的な結果がmRNAワクチンがSARS-CoV-2感染予防に極めて効果的であることのみならず, ワクチン接種後の感染の影響を弱める可能性があることを支持することになる。