Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

現役救急医が激おこな理由

 皆様こんにちは。(最近ブログ訪問者が悲しい程に少ないですが)いつもご購読ありがとうございます。私はそんな暇な訳じゃないですが、自分の勉強目的や救急医療等の現実を皆様に理解頂く為, そして、その他どうしても暴露しないと気が済まないことがあればブログとかYouTubeに綴っております。

 そんな私にとって、非常に激おこなニュースが最近、連日にわたり報道されています。もう既にお察しの皆様も居るかと思われますが、東京五輪が予定通り開催されることです。「首都圏と北海道は無観客」だそうですが、そんなの雀の涙未満の助けにしかなりません。そして東京で緊急事態宣言, その他地域でも重点措置なんたらをしつつ五輪は派手に開催とか、納得する国民はいかほどでしょうか?そんな訳で、私の激おこぶりを収録した動画を公開致します!

youtu.be

 動画内でも述べていますが、開催後にまた感染拡大し, 変異型ウイルスのせいで重症化症例が増えて, 地方などで医療体制が崩壊したら、現政権や国際オリンピック委員会, 同パラリンピック委員会, そしてスポンサー企業等の連中は最低の上級国民として人類史へ永遠に名を刻むこととなるでしょう。

 医療現場最前線にいる一員として、今こそ声を挙げたいと考えて, 渾身の怒りを込めて作った動画です。皆様、何卒この動画のご視聴や高評価, シェアを宜しくお願い申し上げます。

ChAdOx1 nCoV-19ワクチン vs B.1.351変異型

 今日もまた、英語論文の和訳(とその内容のまとめ)をやります。今回紹介する論文は、今年(2021年)3/16発表・4/5にアップデートされた"Efficacy of the ChAdOx1 nCoV-19 Covid-19 Vaccine against the B.1.351 Variant."(Madhi S.A., Baillie V. et al., N Engl J Med;384:1885-98)です。

(1) Introduction

 ChAdOx1 nCoV-19SARS-CoC-2の構造表面糖タンパク抗原の配列を持つ複製不能チンパンジーアデノウイルスベクターである。

 一方、SARS-CoV-2のスパイク遺伝子では受容体結合ドメイン(receptor binding protein; RBD)とN-terminalドメイン(NTD)の配列に変異が蓄積している。こうしたドメインは、ワクチンにより誘引される抗体反応の主な標的である。RBDの変異には次のようなものが含まれる。

  • N501Y変異SARS-CoV-2のアンギオテンシン変換酵素受容体への親和性増加と関連
  • E484K変異, K417N変異:  中和抗体回避と関連

またNTDの変異も中和抗体回避と関連している。英国で最初に確認されたB.1.1.7系統は53%の感染性増加と関連したN501Y変異を持つ。B.1.1.7変異型に対する中和抗体活性(感染 or mRNAワクチンにより誘引されたもの)は影響を受けなかった。しかし最近の英国で、B.11.7変異型はE484K変異を持つようになった。

 南アフリカで最初に確認されたB.1.351系統は3つのRBD変異, 及び 更に5つのNTD変異を持つ。従来型ウイルスに感染した回復期のドナー由来の中和抗体に対するB.1.351の感度をspike-pseudovirus neutralization assayで評価した結果、血清サンプルの48%がB.1.351を中和できなかった。他にもE484K変異, K417N変異, 及び B.1.351が持つNTD変異の一部を持つP.1系統がブラジルで確認されている

 B.1.351とP.1出現前に行われた英国, ブラジル, 南アフリカにおけるChAdOx1 nCoV-19ワクチン効果の分析で、全体的なワクチンの有効性は66.7%(95%CI 57.4~74.0)であった。英国におけるB.1.1.7に対するChAdOx1 nCoV-19ワクチンの有効性に関する最近の分析結果は74.6%(95%CI 41.6~88.9)であった。

 ここでは南アフリカにおいて行われた、ChAdOx1 nCoV-19ワクチンの安全性, 免疫原性, 有効性を評価した複数施設第1b-2相試験由来の知見を報告する。この中間解析は、安全性を評価するprimary objective, 及び ワクチン有効性評価の為のprimary・key secondary objectiveの処理のみに限定されている。加えて、ChaAdOx1 nCoV-10の免疫原性, 並びに 疑似ウイルス・生ウイルス中和アッセイによるpost hoc解析について報告する。

 

(2) Method

①Trial Design

 これは南アフリカで実施された他施設・二重盲検化・ランダム化プラセボコントロール研究である。参加者はChAdOx nCoV-19ワクチン接種群(以下ワクチン群0.9%生食群(以下プラセボへ1:1にランダムで割り振られた。ワクチン or プラセボの接種は1回目と2回目の間隔を21~35日開けて行われた。

②PICO

 1. Patient selection:  18歳〜65歳未満で, 慢性疾患が無いorあってもコントロール良好な人が参加可能であった。またこうした参加者には、70名のHIV陰性参加者がおり, この参加者らはgroup 1(安全性・免疫原性の集中的な研究が計画された)として登録された。

 他方、主要なexclusion criteriaは以下の通りである。

 2. Intervention:  1回目のワクチン接種から21~35日後に2回目を接種された群(ワクチン群)。

 3. Comparison:  1回目の生食接種から21~35日後に2回目を接種された群(プラセボ

 4. Outcome

1) 安全性; この論文では2021/1/15までに発生した有害事象が含まれている。以下のような有害事象が評価された。

  • 接種後7日以内に起きた局所性・全身性過敏症
  • 接種後28日以内に発生した有害事象
  • 検査データのbaselineからの変化
  • 重篤な有害事象

2) 中和アッセイ; ランダム化時にnucleoprotein(N) IgG アッセイを用いてSARS-CoV-2 serostatusを評価した。N protein IgG(=SARS-CoV-2)が血清中で陰性であったワクチン被接種者107名をランダムに選出し, 2回目接種2週間後に採取した血清サンプルへ従来型ウイルスに対する疑似ウイルス中和アッセイ(=中和抗体の分析)を行った。

 ワクチンにより誘引された抗B.1.351抗体の中和活性を評価する為に、登録時のSARS-CoV-2 serostatusが陰性で, 2回目接種14日後に従来型のD614Gスパイクウイルスに対する疑似ウイルス中和アッセイの力価が変化していたgroup 1参加者から採取した血清サンプルを疑似ウイルス・生ウイルスアッセイにて検査し、B.1.351変異型に対する活性を調べた。

3) 有効性; 以下の2項目で評価した。

 I. Primary end point: ランダム化時にN protein IgGが陰性だった参加者で、2回目接種から14日以上経過後に核酸増幅検査で診断された症候性COVID-19に対する有効性

 II. Secondary efficacy objectives:

  • B.1.351変異型に対するワクチン有効性
  • 全populationにおけるCOVID-19に対する有効性
  • BaselineでN pritein IgG陽性だった集団に特異的な有効性
  • 1回目接種14日 or 21日以上経過後に発症したCOVID-19に対する有効性

加えて、B.1.351変異型ではない(=従来型の)SARS-CoV-2感染の代用として、end-point症例は2020年10/31までに制限し, 1回目接種から14日以上経過後に発症したCOVID-19に対するワクチンの有効性を評価する為に、全population, 及び N protein IgG陰性populationに対してpost hoc analysisを行った。

 

(3) Result

①Participants

f:id:VoiceofER:20210707163649p:plain

Fig. 1

f:id:VoiceofER:20210707163742p:plain

Table 1

 2020年6/24~11/9の間に7ヶ所で3,022名にscreeningを行い, 2,026名のHIV陰性参加者を参加登録した。接種を受けなかった5名を除く全員がsafety analysisに含まれた。合計で1,011名がワクチン接種を受け, 1,010名がプラセボ接種を受けた(Fig. 1)合計1,467名の血清陰性参加者(750名がワクチン群, 717名がプラセボ)がprimary efficacy analysisに参加可能であった。

 参加者のcharacteristicsは以下の通り

  • 年齢中央値:  30歳
  • 性別:  男性は56.5%
  • 人種:  黒人; 70.5%, 白人; 12.8%, 混血; 14.9%
  • 基礎疾患:  BMI 30~39.9; 19%, 喫煙者; 42.0%, 高血圧; 2.8%, 慢性呼吸器疾患; 3.1%
  • 1回目〜2回目接種間の期間の中央値:  28日
  • 参加登録〜フォローアップまでの期間の中央値:  156日
  • 参加登録〜2回目接種14日後までの期間の中央値:  121日

なお血清陰性参加者のbaselineにおける人口統計学的characterisitcsは、参加者全体のそれと類似していた(Table 1)

②安全性

 ワクチン群とプラセボ群の間で有害事象, 重症有害事象の発生率は類似していた。ワクチンと関連した唯一の有害事象は、1回目接種後の40℃を超す発熱であった; 発熱は24時間以内で消退し、2回目接種後に過敏症は見られなかった。

③免疫原性

f:id:VoiceofER:20210707163815p:plain

Fig. 2

 ワクチンに対する液性免疫は、1回目接種28日後に強い中和抗体を誘導し, 2回目接種後に更に上昇した(Fig. 2A)

 Group 1のうち、25名にて参加登録時SARS-CoV-2 seronegative(=血清学的に陰性), 及び 2回目接種14日後の疑似ウイルス中和アッセイにて従来型D614ウイルスに対する中和抗体活性を認めた。2回目接種14日後にこれらの参加者から得た血清サンプルへ、B.1.351変異型に対する中和活性を測定する為に追加の疑似ウイルス・生ウイルスアッセイを行った。データの非盲検化後、この25検体中6個の血清サンプルはフォローアップ期間中に従来型SARS-CoV-2へ感染したプラセボ被接種者から採取した可能性があると判明した。更に、ワクチン被接種者について以下のような結果が判明した。

  • 6名が、2回目接種14日後までにSARS-CoV-2へ感染したことが核酸増幅検査で判明。
  • SARS-CoV-2既感染の証拠が無いワクチン被接種者13名のうち6名(46%)でRBD3重変異(K417N, E484K, N501Y変異の3つ)擬似ウイルスに対する活性が無く, 11名(85%)B.1.351疑似ウイルスに対する活性が無かった

 全体として、ウイルスアッセイは疑似ウイルスアッセイと比べて低い中和活性を示した(Fig. 2C)SARS-CoV-2既感染の証拠が無いワクチン被接種者13名の結果は以下の通りであった(Fig. 2C)

  • 1名はB.1.1及びB.1.351に対する中和活性が探知できなかった。
  • B.1.1に対する中和活性を有したワクチン被接種者12名中、7名B.1.351変異型への中和活性が探知されず, 残り5名では4.1~31.5倍低い中和活性を示した

疑似ウイルス中和アッセイと同様に、核酸増幅検査でSARS-CoV-2感染を診断したワクチン被接種者6名の結果は、診断されていない参加者と類似した結果であった。なおSARS-CoV-2へ感染したプラセボ被接種者6名は以下のような結果であった(Fig. 2C)

  • 全員でB.1.1変異型への中和活性が探知された
  • 2名ではB.1.351変異型への中和活性が探知されなかった
  • 3名では低い(6.0~9.5倍)活性であった
  • 1名では変化なし

 重症化防止にはT細胞が重要な役割を果たす可能性があることから、スパイク特異的T細胞の増加を調べる為に、T細胞受容体可変型β鎖の配列解析が行なわれた英国のChAdOx1 nCoV-19ワクチン被接種者17名のデータも含めた。ChAdOx nCoV-19ワクチンは、スパイクタンパク質の特定のepitopeに対するCD4+Tリンパ球, CD4+Tリンパ球の増加を惹起した。配列解析で検出された87のスパイク特的抗原の中で、75個はB.1.351変異の影響を受けていなかった重要なことに、B.1.351変異型で見つかったD215G変異はT細胞抗原反応の多くが起こる領域内にある。

④ワクチンの有効性

f:id:VoiceofER:20210707163851p:plain

Table 2

f:id:VoiceofER:20210707163927p:plain

Fig. 3

 COVID-19の軽症・中等症例は42名(軽症; 15名はワクチン被接種者, 17名がプラセボ被接種者。中等症; 4名がワクチン被接種者, 6名がプラセボ被接種者だった; 両群で重症, もしくは 入院例は居なかった。血清学的にSARS-CoV-2陰性だった参加者における、2回目接種14日以後の軽症〜中等症COVID-19診断症例発生率は以下の通り(Table 2 and Fig. 3)

  • プラセボ群:  93.6/1,000人年
  • ワクチン群:  73.1/1,000人年
  • ワクチンの有効性:  21.9%(95%CI -49.9~59.8)

同様にして、血清学的にSARS-CoV-2陽性・ランダム化以前の核酸増幅検査では陰性であった参加者における2回目接種14日以後の軽症〜中等症COVID-19診断症例発生率は以下の通りであった。

  • プラセボ群:  81.9/1,000人年
  • ワクチン群:  73.2/1,000人年
  • ワクチンの有効性:  10.6%(95%CI -66.4~52.2)

 42の鼻腔拭い液のうち41個(97.6%)で配列検査と分類が可能だった; 39個(95.1%)B.1.351変異型であり, 2個(4.9%; いずれもプラセボ群由来)はB.1.1.1及びB.1.144系統であった。Secondary outcomeの解析では、B.1.351に対する有効性は明らかでなかった(有効性 10.4%; 95%CI -76.8~54.8) (Table 2)

 従来型SARS-CoV-2感染の代用である、2020年10/31までの1回目接種後14日以降のワクチン有効性のpost hoc解析では、軽症〜中等症COVID-19の合計attack rateはプラセボ群で1.3%, ワクチン群で0.3%であった; ワクチン有効性は75.4%(95%CI 8.7~95.5)であった。

 

(4) Disucussion

 この研究で、ChAdOx1 nCoV-19ワクチン2回接種は、B.1.351変異型による軽症〜中等症COVID-19発症の予防に無効と判明した。B.1.351変異型に対する有効性欠如は、南アフリカB.1.351変異型が出現する前はChAdOx1 nCoV-19ワクチンの1回接種でさえ軽症〜中等症COVID-19予防の有効性が75%(95%CI 8.7~95.5)であったという文脈内で考慮すべきである。特記すべきことは、B.1.351変異型によるCOVID-19の予防に対するワクチン有効性をsecondary analysisで推計したことである; この研究は、変異型に関係なく, あらゆる重症度のCOVID-19予防に対して最低60%のワクチン有効性というprimary objectiveのために重み付けられていた。加えて、参加登録者の人口統計・臨床的profileが重症COVID-19症例の不存在に寄与した; そのため、ChAdOx1 nCoV-19ワクチンがB.1.351変異型感染による重症COVID-19を予防する可能性があるかどうかに関して、この研究の知見は不確定的である。

 しかしながら、疑似ウイルス, 及び 生ウイルス中和アッセイ実験は、B.1.351変異型に対する、ワクチンにより誘導された抗体による中和の減少, ないし 消失の証拠を示すものである。In vivoで中和抗体反応の効果が阻害される程度は不明であるものの、ワクチン被接種者において生ウイルス中和アッセイで測定したB.1.351に対する中和の程度は最高で1:20の希釈であり, 他のB.1.351に対する中和の力価は疑似ウイルス中和アッセイで測定して1:200未満であった。疑似ウイルス中和アッセイによるRBD三重変異とB.1.351変異型の比較は、全てでないにせよ, ワクチンで誘導された中和の多くがRBDに向けられていることを示唆している。

 この研究のChAdOx1 nCoV-19ワクチン被接種者において疑似ウイルス中和アッセイで調べた従来型SARS-CoV-2への反応は、英国とブラジルで行なわれた研究のワクチン被接種者において見られた反応と類似していた(Fig. 2A)。他のCOVID-19ワクチンの効果がB.1.351(及びP.1)と同様の変異を持つ変異型によってどれほど影響を受けるかは、ワクチンで誘導された中和抗体の強さに依存する可能性がある。ChAdOx1 nCoV-19ワクチンの1回目接種と2回目接種の間の期間の延長による抗体反応の強化が、残存しているB.1.351変異型に対する中和活性の改善に寄与するか否かは不明である。

 mRNAワクチンは1回目接種後にはわずかな中和抗体活性を持つが、2回目接種後はChAdOx1 nCoV-19及びSputnik Vワクチン(これもアデノウイルスベクターを用いたワクチン)よりも高い中和活性を生じる2種のmRNAワクチンのB.1.351変異型に対する中和活性(疑似ウイルス中和アッセイで検査したもの)も、D614Gウイルスと比べるとmRNA-1273ワクチン(モデルナ製)で8.6倍, BNT-162b2ワクチン(ファイザー製)で6.5倍低いという結果が観察されているものの、B.1.1.7様変異型に対する疑似ウイルス中和アッセイでは差が見られなかった

 直近のNVX-CoV2373微粒子スパイクタンパク質COVID-19ワクチン(Novavax製)の中間解析結果はまだ公開されていない(注: この論文が書かれた時点の話。しかしながら、NVX-CoV2373は従来型またはB.1.1.7変異型に対するものと比べ, B.1.351変異型に対する効果が低い可能性を示唆する報告がある。従来型ウイルスにより発生したCOVID-19に対する免疫, または B.1.351ないしその他変異型により発生したそれの関連性が証明されていない状況では、その他のCOVID-19ワクチンの軽症〜中等症COVID-19に対する有効性の臨床的なevidenceが必要となる。

 南アフリカを含んだ他の多国籍研究では、Ad26.COV2.S 複製不能アデノウイルス type 26ワクチンヤンセン製)の一回接種の有効性が評価されている。南アフリカより出た中間報告では、主にB.1.351変異型による重症COVID-19への有効性は89%, 軽症〜中等症への効果は57%と報告された。しかしながら、Ad26.COV2.Sワクチンの研究では、3つ以上の症状を呈した患者に核酸増幅検査を行なって診断した症例のみがend-point調整へ提出された; その結果、ワクチン有効性解析では軽症COVID-19症例の大半が除外された可能性が高い。Ad26.COV2.Sワクチンにより誘導されたB.1.351変異型に対する中和抗体反応は、まだ報告されていない

 抗体反応とワクチン有効性の関連性は高いものの、中和抗体の力価が低くてもT細胞性反応はCOVID-19への免疫に寄与している可能性がある。今回報告されたpost hoc解析では、ChAdOx1 nCoV-19接種後に増加したスパイク特異的T細胞において、B.1.351変異型を認識する抗原とepitopeの大半が維持されていることが判明している。

妊婦におけるmRNAワクチンの安全性に関する予備的な知見

 今日は今年4/21に発表された論文"Preliminary Finding of mRNA Covid-19 Vaccine Safety in Pregnant Persons."(Shimabukuro T.T., Kim S.Y. et al. N Engl J Med;384:2273-82)を紹介します。

(1) Introduction

 この研究は、米国のワクチン安全性監視システムである "v-safe after vacctination health cheker", "the v-safe pregnancy registry", "Vaccine Adverse Event Reporting System(VAERS)"の3つを基に、妊婦におけるCOVID-19 mRNAワクチンの安全性に関する知見を報告するものである。

 

(2) Method

①"V-safe"と"VAERS"とは

 V-safeとは、米国CDCがCOVID-19ワクチンプログラムの為に開発したスマートフォンを利用した監視システムであり, 参加は任意である。このシステムでは参加者に、調査用フォームへアクセスするウェブリンクが書かれたテキストメッセージが送信され, 最後の接種(=2回目の接種)から12ヶ月間フォローアップが継続される。参加者がいずれかの時点で医学的治療が必要と示した場合には、VAERSへの報告を記入するよう依頼された。

 妊娠中に1~2回のワクチン接種を受けた人や接種後に妊娠した人を特定する為に、v-safeには性別を男性と回答しなかった参加者に対して妊娠に関する質問がある。妊娠が判明した人は電話での連絡を受け、基準を満たす妊婦はv-safe pregnancy registryへ参加するよう求められた。V-safe pregnancy registry参加基準は以下の2つである:

  • 妊娠中にワクチンを接種した or 最終生理30日前〜14日後の間(=periconception period)にワクチンを接種した人

並びに

  • 18歳以上

参加者に対しては、電話を通じて既往歴(産科的なもの含め), 妊娠合併症, 出生/出産転帰, 産科・小児科医療従事者の連絡先(医療記録を入手する為)等に関する情報収集が行われた。また生まれた子供は生後3ヶ月後までフォローアップを受けた。

 VAERSはCDCとFDAが設立した、全国規模の自動報告システムである。VAERSには誰でも報告を提出できる。医療従事者は、入院・先天性異常に繋がった妊娠関連合併症を含めたCOVID-19ワクチン接種後の有害事象を報告するよう求められた; CDCはあらゆる臨床的に有意な母体・児有害事象を報告するよう奨励した。

② Outcome

 1. V-safe outcome:  16~54歳の妊婦, 及び 対照群である同年齢の非妊娠女性におけるワクチン接種後の、自己申告された局所性・全身性過敏症?(reactogenicity)

 2. V-safe pregnancy registryにおけるpregnancy outcome:  データは生存児出産, 自然流産, 人工妊娠中絶, 死産といったcompeted birthに限定した。参加者が自己申告するpregnacy outcomeには、

  • Pregnancy loss; 自然流産, 死産

及び

  • Neonatal outcome; 早産, 先天性異常, 発育遅延?(small size for gestational age), 新生児の死亡

が含まれる。

 3. VAERS:  妊娠特異的有害事象, 及び 妊娠・新生児特異的有害事象

 

(3) Results

V-safeで認めた妊婦の局所性・全身性過敏症

f:id:VoiceofER:20210630175611p:plain

Table 1

 2020年12/14~翌年2/28の間に、合計35,691名のv-safe参加者が妊娠していると判明した。参加者のcharacteristics(Table 1)は次の通りである。

  • 年齢分布:  Pfizer-BioNTech製を接種された参加者(61.9%)と, Moderna製を接種された参加者(60.6%)の年齢分布は25~34歳と類似していた。
  • 人種:  Pfizer製を接種された非ヒスパニック白人は76.2%, Moderna製を接種された非ヒスパニック白人は75.4%。
  • 1回目接種時に妊娠を報告した参加者:  Pfizer製で85.8%, Moderna製で87.4%

f:id:VoiceofER:20210630175645p:plain

Table 2

Moderna・Pfizer双方において、1回目, 及び2回目接種後いずれにおいて最も多く報告された局所性・全身性の反応は注射部位の疼痛, 疲労感, 頭痛, 筋肉痛であり(Table 2), 2回目接種後の方が発生頻度が多かった。

f:id:VoiceofER:20210630175707p:plain

Fig. 1

 こうしたパターンは非妊娠女性にて観察されたものと類似していた(Fig. 1)

V-safe pregnancy registrypregnancy outcome

f:id:VoiceofER:20210630175730p:plain

Table 3

 2021年3/30までに、v-safe pregnancy outcomeは5,230名の妊婦(2021年2/28までにワクチンを接種された)への連絡を試みた。そのうち912名は連絡が付かず, 86名が参加を拒否し, 274名が参加基準(e.g. 妊娠していない, 最終生理からワクチン接種の間隔>30日など)を満たさなかった。2020年12/14〜2021年2/28の間にワクチンを接種された3,958名がregistryへ登録され、そのうち3,719名(94.0%)が医療従事者であった。V-safe pregnancy registry参加者のcharacterisitics(Table 3)は次の通り。

  • 年齢:  98.%が25~44歳
  • 人種:  79.0%が非ヒスパニック白人
  • COVID-19の診断:  97.6%は妊娠中にCOVID-19の診断をされていない
  • ワクチン接種1回目を受けた時期:  Periconception period; 92名(2.3%), 妊娠初期; 1,132名(28.6%), 妊娠中期; 11,714名(43.3%), 妊娠後期; 1,019名(25.7%)

妊娠初期にワクチン接種を受けた参加者1,040名(91.9%), 及び 中期に接種を受けた参加者1,700名(99.2%)においてデータが収集され, 約10~12週間隔でのフォローアップが計画された。

 妊娠を終えた参加者827名の転帰は以下の通り。

  • 生存児分娩:  712名(86.1%)
  • 自然流産:  104名(12.6%)
  • 死産:  1名(0.1%)
  • その他(人工流産と異所性妊娠):  10名(1.2%)

f:id:VoiceofER:20210630175759p:plain

Table 4

104名の自然流産のうち96名で流産が妊娠13週より前に生じており(Table 4), 生存児分娩の712名中700名は妊娠後期に1回目接種を受けていた。生存出生724名における有害事象は以下の通りであった。

  • 早産:  妊娠37週より前に接種された636名中60名(9.4%)
  • 発育遅延:  724名中23名(3.2%)
  • 大きな先天性異常:  724名中16名(2.2%)

インタビューの時点で新生児死亡の報告はなかった先天性異常を報告した参加者で、妊娠初期とpericonception periodに接種された人はおらず, 先天性異常に特定のパターンは認められなかった妊娠・新生児転帰を計算した割合は、これまでの査読付き文献における発生率と類似していた(Table 4)

VAERSにおける有害事象の知見

 VAERSが受け取り処理した、妊婦におけるCOVID-19ワクチンが関係した報告は221件であった; 155件(70.1%)は妊娠特異的有害事象であり, 66件(29.9%)は妊娠・新生児特異的な有害事象であった。最も多く報告された妊娠関連有害事象は自然流産であり(46件; うち37件は妊娠初期, 2件は中期, 7件は時期が不明or報告なし), 続いて死産(3件), 早期破水(premature rupture of membranes: 3件), 性器出血(3件)の順に多かった。VAERSに先天的異常の報告はなかった

 

(4) Discussion

 この研究により、妊婦の中には、あらゆる妊娠期間においてCOVID-19ワクチンを接種することを選択した人がいることが明らかになった。V-safeへ自己申告された局所性・全身性過敏症は妊婦と非妊娠女性の間で類似していた。直接比較はできないものの、v-safe pregnancy registry参加者における有害な妊娠・新生児転帰の割合は、COVID-19パンデミック以前の妊婦における既知のデータに類似している。V-safe pregnancy registryへの参加者の多くはCOVID-19ワクチン第1a相優先グループ=医療従事者であった。V-safeへの参加は任意であり, 登録情報は全ての接種会場でアクセスできるとは限らないものの、医療従事者・患者向けの緊急使用承認(Emergency Use Authorization; EUA)説明書(fact sheet)には監視システムに関する情報が記載されている。つまり、有害な妊娠・新生児転帰におけるワクチン接種済女性の割合を既知の推定値と比較すると、これらの集団の間には、年齢, 人種, その他人口統計学的・臨床的characteristicsが異なる可能性があり, それによって制約を受けるのである。しかし、こうした比較は、この研究のような初期データに予期せぬ安全性に関する警告の有無を大まかながら把握するのに有用である。

 他にもこの研究には次のようなlimitationがある。

  • V-safe への入力ミスで妊婦と誤って分類される可能性がある; その結果、過敏症のデータに非妊娠参加者の報告が一部紛れ込んでいる可能性がある。
  • 参加者は同時間・同日中に記入を終えるよう求められておらず, 有害事象の発症時期もしくは持続期間を評価することができない。
  • 今回のデータは予備的で小規模なサンプル由来であり, また大半の新生児転帰は妊娠後期に接種した人由来であった; 更なる妊娠転帰の報告とサンプルサイズの拡大があれば、知見が変わる可能性がある。
  • 今日に至るまで、v-safe pregnancy registryでは妊娠早期に接種され, 尚且つ生存児を分娩した妊婦がcaptureされていないので、妊娠早期における曝露と関連して起こる可能性がある有害な転帰の評価ができていない。
  • 参加者がリスクが最も大きい妊娠初期より後に接種されており, ごく早期の流産は認識されていない可能性があることから、自然流産を報告した妊婦の比率が本来の比率を反映していない可能性がある。

妊娠初期と妊娠中期の早い段階での接種の一部は完了しているが、大半の接種は現在進行形であり, 接種時期に基づく直接的な転帰の比較は、妊婦というコホートにおける自然流産の割合を断定する為には必要である。サンプルサイズが限られているので、妊婦・新生児転帰の双方は率でなく割合で計算された。

 この予備的な解析は参加者が自己申告したデータを利用しており, 他の潜在的なrisk factorに関する情報が限られている。EUAには強制的な報告要請があり, VAERS報告に関してはCDCの推奨があるのだが、未報告の妊娠・新生児特異的な有害事象が存在する可能性がある。またこの研究では妊婦へ接種されたワクチンの合計量が分からなかった。COVID-19ワクチン接種後にVAERSへ報告された妊娠特異的合併症のうち、流産が最多であった。これは2009年のH1N1インフルエンザパンデミックの時期に、H1N1不活化インフルエンザワクチン導入後に観察されたもの(=接種された妊婦にて報告された有害事象で最も多かったのが流産)と類似している。

 妊娠中のワクチンがCOVID-19とその合併症を予防することに加えて, 最新のevidenceは、妊娠後期に母親がCOVID-19ワクチンを接種した後にSARS-CoV-2に対する抗体が胎盤を通過することを示唆している。これは、母体のワクチン接種が新生児へ一定の予防効果を与えることを示唆する。しかし、抗体の移行や, ワクチン接種時期に関連する予防効果の程度に関するデータはこの研究では無い。

 V-safe監視システム, v-safe pregnancy registry, VAERS由来の早期のデータからは、妊娠後期におけるCOVID-19ワクチン接種と妊娠or新生児転帰の関連性に関する安全性に関する明らかな警告が示されなかった。母体へのCOVID-19ワクチン接種と関連した母体・妊娠・新生児・小児期転帰をさらに評価するには、監視の継続が必要である。その一方で、このデータは妊婦と主治医がワクチン接種を決意する際に参考となる。

 

NVX-CoV2373ワクチン vs B.1.351変異型

 今日は久々に論文を紹介してみようと思います。今回紹介するのは2021年5/20に公開された"Efficacy of NVX-CoV2327 Covid-19 Vaccine against the B.1.351 Variant"(Shinde V., Bhikha S. et al., N Engl J Med(2021);384:1899-909)です。

 

(1) Introduction

 NVX-CoV2327(Novavax)の製造法は次の通りである: ①SARS-CoV-2のスパイク糖タンパク質の全遺伝子を持つbaculovirusを合成する。②このウイルスを培養中の蛾の細胞へ感染させ、スパイクタンパク質三重体を発現させる。③この三重体を抽出・精製後、PS80と結合させる?(formulated with PS80)と、三重体はタンパク微粒子へと組み替えられる。④三重体・PS80をadjuvantであるMatrix-M1と混合させる。

 英国ではB.1.1.7, ブラジルではP1, 南アフリカではB.1.351変異型が最近発生しており、いずれも受容体結合ドメインとスパイクタンパク質のN-terminalドメインに変異があることが確認されている。こうした抗原の変異は、変異前のウイルス感染, もしくは 変異前のウイルス由来のワクチンによる免疫が、変異型ウイルス感染に対して有効でない可能性を意味している。ここでは南アフリカにおけるNVX-VoC2327の第2a-b相ランダム化・観察者盲検化・プラセボコントロール試験の早期の知見を示す。

 

(2) Method

① Trial Design

 2020/8/17~2020/11/25の間に南アフリカの16施設で参加者を登録した。安全対策として、参加登録はstage 1(目標とする参加者数1/3を登録するまで), 及び stage 2(残りの参加者を登録するまで)に分けて行われた。なおstage 1からstage 2への移行には、前のstageからの7日間に良好な安全性に関するデータが揃うことが必要であった。

 参加者は1:1の比率でそれぞれNVX-CoV2373群(以下、ワクチン群プラセボへ割り振られた。なお両群ともに21日間隔で2回の薬剤の筋肉注射を受けた。参加者に対しては7・21・35日後, 及び 3・6ヶ月後に訪問フォローアップが予定され, 12ヶ月には電話での問診が予定された。

 また、この研究への参加時には、全参加者に対してbaselineの抗スパイクタンパク質IgG抗体測定が行われた。

② PICO

 1. Patient selection: 参加者は18〜84歳の健康な成人であり、HIV感染が無い, 或いは HIV感染があっても状態が安定していれば登録可能である。

 他方、妊娠中, 長期間免疫抑制薬投与を受けている, 自己免疫疾患 or 安定しているHIV以外の免疫不全がある, COVID-19の既往or疑い, 接種予定日5日前以内に核酸増幅検査(nucleic acid amplification test; NAAT)を受けてSARS-CoV-2感染を確認した人除外された。

 2. Intervention: NVX-CoV2373(組み替えスパイクタンパク質 5μg + Matrix-M1 adjuvant 50μg, つまりワクチンを接種された群。

 3. Comparison: 生食 0.5 mL(プラセボを接種された群。

 4. Outcome: 以下の2項目が評価された。

1) Primary safety end point; 任意の(unsolicited)有害事象

2) Primary efficacy end point; 2回目接種後7日以内に診断された症候性COVID-19。

 なお接種後8日以降から12ヶ月後にかけては、電話によるCOVID-19を疑う症状の有無の確認を行い, 感染が疑われる参加者に対しては、訪問診察と鼻腔拭い液採取が行われた。また予定されていた訪問時にCOVID-19を疑う症状を認めた場合も、診察と鼻腔拭い液採取が行われた。

 こうして採取した鼻腔検体に対して、盲検化した形でpost hoc全ゲノム配列解読が行われた。

 

(3) Results

① Randomization

f:id:VoiceofER:20210624224419p:plain

Fig. 1

 Screeningを受けた参加者6,324名のうち、4,387名が最低1回のワクチンorプラセボの接種を受けた(ワクチン群 2,199名, プラセボ群 2,188名); 4,332名が2回の接種を受けた(Fig 1)

② Patient Characteristics

f:id:VoiceofER:20210624224601p:plain

Table 1

 二群間で人口統計学的・baselineのcharacteristicsは均衡であった(Table 1)。以下に詳細を示す: 

  • 参加者全体の平均年齢:  32.0歳
  • 両群における65~84歳の参加者の割合:  4.2%
  • 男性:  全体の約57%
  • 人種:  95.3%が黒人
  • 併存疾患:  肥満; 20%, 高血圧; 5.6%, 2型糖尿病; 1.6%
  • Baselineの抗スパイクIgG抗体:  参加者全体の約30%で陽性

③ 安全性

 全stage 1参加者に関する予備段階の(preliminary)安全性データが入手可能であり、これには35日以上の安全性フォローアップを終えたHIV陰性の参加者889名, 及び HIV陽性80名が含まれている。手短に言うと、任意の局所性・全身性の有害事象はプラセボ群よりもワクチン群で多く, 大半が軽症〜中等症かつ一過性であった。1回目接種後に最も多く報告された任意の局所性の有害事象は、注射部位の痛みであった。なお、

  • ワクチン群baselineの抗スパイクIgG陰性の参加者中37%, 陽性の参加者中39%
  • プラセボ陰性の参加者中15%, 陽性の参加者16%

にて、1回目接種後に注射部位の痛みが認められた。2回目接種後の任意の局所性の有害事象発生は1回目接種後のそれと類似していたが、平均症状持続期間(<3日)は2回目接種後の方が僅かに長かった。

 ワクチン被接種者の中で、1回目接種後, 及び 2回目接種後に最も多かった任意の全身性の有害事象は頭痛(20~25%), 筋肉痛(17~20%), 倦怠感(12~16%)であった。これら有害事象の持続期間は2回目接種後の方が僅かに長かったが、3日より長く持続しなかった。

 医学的に認められた有害事象, 及び 重篤有害事象は稀であったものの、プラセボよりもワクチン群で多かった(医学的に認められた有害事象: ワクチン群 12名 vs プラセボ群 6名, 重篤な有害事象: ワクチン群 2名 vs プラセボ群 1名)。

④ 有効性

f:id:VoiceofER:20210624224722p:plain

Table 2

f:id:VoiceofER:20210624224815p:plain

Fig. 2

 Baselineにて抗スパイクIgG陰性で, 28日後のprimary efficacy end point解析にて評価可能であった参加者2,684名HIV陰性; 94%, HIV陽性; 6%)のうち、ワクチン群で15名, プラセボ群で29名の参加者が症候性COVID-19であった。この数字はワクチン有効性が49.4%(95%CI 6.1~72.8)であるという知見と符合し, 初期の第2b相評価における有効性の基準に合致する(Table 2 and Fig. 2A)。

 HIV陰性だった参加者のうち、baselineで抗スパイクIgG陰性だった人の中ではワクチン群で11名, プラセボ群で27名が症候性COVID-19であり, この数字はワクチン有効性が60.1%(95%CI 19.9~80.1)であるという知見に符合する(Table 2 and Fig. 2B); 他方、baselineで抗スパイクIgG陽性であった人におけるワクチン有効性の推計は52.2%(95%CI -24.8~81.7)であった。

 HIV陽性で, baselineの抗スパイクIgG陰性だった参加者のうち、症候性COVID-19を認めたのはワクチン群で4名/76名, プラセボ群で2名/72名であった。HIV陽性かつbaselineの抗スパイクIgG陽性の参加者(ワクチン群; 33名, プラセボ群; 30名)では、症候性COVID-19は認めなかった

 Baselineにおいて抗スパイクIgG陰性だった参加者のうち、2020年の11/23~12/30の間に両群で44名の症候性COVID-19症例が発生した。そのうち41名(93%)由来の検体が全ゲノム配列解読に適していた。41の検体中、B.1.351変異型が検出されたのは38個(93%)であり, これは同一期間における全国的な発生件数を反映していた(Fig. 2D)。Post hoc解析にて、HIV陰性参加者におけるB.1.351変異型に対するワクチンの有効性は51.0%(95%CI -9.8~70.4)であり, HIV陰性・陽性複合集団における有効性は43%(95%CI -9.8~70.4)であった(HIV陰性者; 14名, HIV陽性者; 24名)。

 注目すべきことに、プラセボにおける最初の60日間フォローアップの間に、baselineでは抗スパイクIgG陰性であった参加者における予備段階のCOVID-19発生(5.3%; 95%CI 4.3~6.6)は、抗スパイクIgG陽性であった参加者のそれ(5.2%; 95%CI 3.6~7.2)と類似していた(Fig. 2C)

 

(4) Disucussion

 NVX-CoV2373ワクチンは、HIV serostatusに関わらずbaselineのSARS-CoV-2の抗体が陰性であった参加者において49.4%という有意なワクチンの有効性を示したことで、primary objectiveを満たした。HIV陰性の参加者94%において、ワクチンの有効性は60.1%であった。なおこの研究には、HIV陽性の参加者という小規模な集団における有効性を探知する力がない。

 このプラセボコントロールワクチン研究では、B.1.351以前のウイルスによる既感染gが、最初の2ヶ月間におけるプラセボ群のB.1.351変異型への感染によるCOVID-19のriskは減らすことが出来ないことが分かった。この知見は予備的なものであり, パンデミックモデリングや制圧の戦略, ワクチンの開発・配給の試みに関する公衆衛生学上の示唆を含んでいるかもしれない。これらの知見には更なる確認が必要であるものの、この研究は、変異前のウイルスに基づくNVX-CoV2373接種が、免疫を逃れる変異型に対して一定の交差反応?(cross-protection)を与えることを示唆している。

 B.1.351変異型2020年10月に南アフリカのEastern Cape Provinceで出現し, 同年11~12月の間南アフリカ全体で第二波が発生した時期に重なる)に急速に拡大し, 主要な流行系統となった。B.1.351を特徴付けるものに、N501Y, K417N, E484Kを含めた受容体結合ドメインの主要な抗原部位の変異がある。N501Y変異はヒトのアンギオテンシン変換酵素2受容体への結合親和性を高めることが知られており, 英国で初めて確認されたB.1.1.7変異型ではこの変異が感染性を強めたと報告されている。E484K変異は、複数のモノクローナル抗体とポリクローナル回復者血清による中和を損ねる, 或いは 顕著に減じることが報告されている。加えて、2種類のmRNAワクチンいずれかを接種されたボランティアらから採取した血清は、B.1.351変異型に対する中和能力が6.5~8.6倍(by a factor of 6.5 to 8.6)減少していたが、この知見の臨床的な有効性への影響はまだ評価されていない。なお英国で実施中のNVX-CoV2373第三相試験の中間解析では、従来型系統とB.1.1.7変異型双方に対して比較的高い有効性が見られた。

 Ad26.COV2.Sワクチン(Johnson & Johnson社製)1回接種の有効性を評価する大規模複数国第三相臨床試験では、南アフリカの6,576名の参加者における中等症〜重症のCOVID-19に対する有効性は14日目で52%, 28日目で64%であったが、COVID-19症例の95%はB.1.351変異型によるものだった。ChAdOx1nCoV-19ワクチン(アストラゼネカ社製)の第二相臨床試験には南アフリカの参加者2,026名が含まれていた。ワクチン被接種者内のCOVID-19症例は軽症〜中等症が多く, ワクチンの全体的な有効性は22%(95%CI -50~60), B.1.351への有効性は10%(95%CI, -77~55)であったが、COVID-19症例の95%がB.1.351変異型であった。

 この研究には複数のlimitationがある。第1回接種後のフォローアップ期間中央値は66日・第2回接種後のフォローアップ期間中央値は45日と、有効性に関する結果は予備的であり, primary end point及びprimary end pointのsubgroupという観点では限定的である。従って、この研究に参加した集団内で比較的小さい規模であるHIV陽性コホートにおける自然免疫とワクチンの効果については、結果の解釈に注意が必要である。解析時に研究者は、概ね若く健康な集団内におけるほとんど軽症〜中等症なCOVID-19 end pointを集計した。その結果、重症COVID-19に対するワクチンの有効性はまだ報告できていない。