Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

Covid-19入院患者におけるdexamethasoneの効果

 今日は久々に論文紹介をします。今年の7/17にオンライン発表された論文"Dexamethasone in Hospitalized Patients with Covid-19 - Preliminary Report"(The RECOVERY Collaborative Group, N Engl J Med)を自分なりに和訳したものを紹介します。

 

(1) Introduction

 高病原性トリインフルエンザ, SARS等の重症ウイルス性肺炎では、宿主の免疫応答が臓器不全での病態整理的な変化において重要な役割を担っていると考えられる。重症Covid-19ではCRP, フェリチン, IL-2, IL-6といった炎症マーカーが著明に上昇した一部の患者において、炎症性の臓器障害が起きている可能性がある。

 1件の小規模臨床研究ではメチルプレドニゾロンを投与されたCovid-19患者において臨床的outcomeの改善が報告されているが、大規模なランダム化コントロール試験由来のevidenceの欠如は、Covid-19患者に対するグルココルチコイドの効果に不確定性があることを示している。

 ここでは、controlled, open-label Randomized Evaluation of Covid-19 Therapy(RECOVERY trial)における、入院中のCovid-19患者でのdexamethasone治療のpreliminary resultを報告する。

 

(2) Method

 RECOVERY trialは、英国内のNational Health Serviceの施設176箇所へCovid-19のため入院した患者において、可能性がある治療法の効果を評価する為に設計された。Dexamethasone, ヒドロキシクロロキン or ロピナビル-リトナビル投与のためのランダム化は現在止められているが、アジスロマイシン, tocilizumab or 回復者血清を投与するgroupのランダム化は継続している。

 SARS-CoV-2感染が検査にて確定or臨床上疑いで, 尚且つ 試験参加によって相当なriskに曝露される可能性がある既往症が無い入院患者が登録可能であった。

 人口動態的データ, 呼吸補助の程度, 主要な並存疾患等を含むbaseline dateはウェブベースの症例報告フォームで収集した。登録可能で同意が得られた患者は、1. 通常の標準的治療のみor通常の標準的治療へdexamethasone(経口or IV)10日間を併用のいずれかを受ける群, もしくは 2. 試験で評価中の他の治療のうち1つを受ける群へ、2:1の比率で分割された。

Primary outcome:  ランダム化後28日以内のall-cause mortality

Secondary outcome

1. 入院後〜退院までの時間

2. ランダム化時に人工呼吸器を装着していなかった患者における、その後の人工呼吸器装着or死亡

他のprespecified clinical outcome

  • 原因別の死亡
  • 腎透析or血液濾過
  • 大きな心原性頻脈
  • 人工呼吸器装着とその期間

 

(3) Result

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 2020/3/19〜6/8の間にランダム化した11,303人のうち、9,355人がdexamethasone治療可能であった。このうち、6,425人がdexamethasone(2,104人)もしくは通常治療のみ(4,321人)のいずれかを受けることになった(Fig. 1)。

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 平均(±SD)年齢は66.1±15.7歳で、36%が女性だった(Table 1)。また分析にて、89%患者においてSARS-CoV-2感染が検査にて確定し, 0.4%が結果待ちだった。ランダム化時には16%の患者が人工呼吸器 or ECMOを装着していた。また60%は酸素投与(NPPVあり・なしいずれも)のみであり, 24%はどれも受けていなかった。

 Primary outcomeのfollow-up情報はランダム化した6,418人(99.9%)で完了していた。Dexamethasone群では最低1回薬剤投与を受けていた。治療期間の中央値は7日(interquartile range 3~10)であった。通常治療群では、8%の患者が治療の一部としてdexamethasoneを投与されていた。Dexamethasone群と通常治療群においてfollow-up期間中のアジスロマイシン投与の割合は類似していた(24% vs 25%)。また、follow-up期間中にヒドロキシクロロキン, ロピナビル-リトナビル, IL-6 antagonist投与を受けた患者は0~3%だった。2020年5/6に英国でレムデシビルが入手できるようになってから、dexamethasone群で3人, 通常治療群で2人に投与された。

① Primary Outcome

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 Dexamethasone群における28日目の死亡率は2,104人中482人(22.9%), 通常治療群における28日目の死亡は4,321人中1,119人(25.7%)であり、dexamethasone群で有意に低かった(rate ratio 0.38; 95%CI 0.75~0.93, P<0.001)(Fig. 2A)。ランダム化時の呼吸補助の程度に従ったprespecified analysisでは、人工呼吸器を装着している患者において最大の絶対的かつ比例した効果が見られる傾向があった(Fig. 3)。人工呼吸器を装着している患者(29.3% vs 41.4%; rate ratio 0.64; 95%CI 0.51~0.81), 及び人工呼吸器は着けていないが酸素投与を受けている患者(23.3% vs 26.2%; rate ratio 0.82; 95%CI 0.72~0.94)において、通常治療群よりもdexamethasone群で死亡発生が低かった(Fig. 2B, 2C)。しかしランダム化時に呼吸補助を受けていない患者において、dexamethasoneの効果は明らかでなかった(17.8% vs 14.0%; rate ratio 1.19; 95%CI 0.91~1.55) (Fig. 2D)。

 ランダム化時に人工呼吸器を付けていた患者は、そうでない患者と比べ平均で10歳以上若かった上, ランダム化前の症状も7日間長かった(Table 1)。人工呼吸器を着けている患者において、dexamethasoneしようと関連した28日後の死亡の年齢調整絶対的減少は12.3 percentage point(95%CI 6.3~17.6)であり、酸素投与のみの患者でのそれは4.2 percentage point(95%CI 1.4~6.7)だった。

 症状期間が長かった患者は、dexamethasone治療に反応するmortality benefitが大きかった。Dexamethasone治療は、7日を超えて症状のある患者において28日後の死亡の減少と関連があったが、より症状期間が短い人ではそうでなかった。

② Secondary Outcome

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 Dexamethasone群は通常治療群と比べて入院期間が短く(中央値12日vs 13日), 28日以内に生存退院するprobabilityが大きかった(rate ratio 1.10; 95%CI 1.03~1.17) (Table 2)。ランダム化時人工呼吸器を着けていた患者において、28日目以内の退院に関して最大の効果が見られた。

 ランダム化時に人工呼吸器を着けていない患者で、通常治療群と比較しdexamethasone群においては人工呼吸器or死亡というprespecified composite secondary outcomeへ悪化する患者は少なかった(risk ratio 0.92; 95%CI 0.84~1.01) (Table 2)。

③ 他のprespecified clinical outcomes

 通常治療群と比べて、dexamethasone群では人工呼吸器装着への悪化のriskは低かった(risk ratio 0.77; 95%CI 0.62~0.95) (Table 2)。

 

(4) Discussion

 10日間dexamethasoneをした患者は、ランダム化時に人工呼吸器を付けていた・人工呼吸器でない酸素投与を受けていた通常治療群患者よりも28日後死亡率は低かった。しかし、ランダム化時に呼吸補助を受けていない患者においてdexamethasoneが何らかの効果があったとするevidenceはなく、研究の結果はこのsubgroupに害がある可能性と矛盾しなかった。炎症性の肺傷害がより多い時期である発症後7日を超えた患者においても効果が明らかであった。

 RECOVERY trialには英国の全Covid-19患者の約15%が登録され、通常治療患者の死亡率は英国のCovid-19入院患者の合計死亡率と矛盾しなかった。このpreliminary resultはprotocolが最初に立案された約100日後の2020年6/20に発表され、同日英国のprotocolへ採用された。

 グルココルチコイドはSARS, MERS, 重症インフルエンザ, 市中肺炎に用いられてきた。しかしこうした病態へのグルココルチコイド投与に反対(discourage), ないし 支持するevidenceは、ランダム化コントロール研究が不足しているので弱かった。加えて、evidence baseはグルココルチコイド投与量, 症状(病態), 重症度の異質性に悩まされてきた。重症ウイルス性呼吸器感染におけるグルココルチコイドの治療効果は、正確な用量, 正確なタイミング, 正確な患者選択に依存している可能性がある。ウイルス複製が2週目に頂点に達するSARSと異なり、SARS-CoV-2のウイルスsheddingは早期で多く, その後下がっているように見える。呼吸補助を受けている, 発症1週間後に登録したCovid-19患者においてdexamethasoneの効果が大きかったことは、その病期においてウイルス複製が副次的な役割を担う免疫病理学的な要素に支配されている可能性を示唆している。

 RECOVERY trialは、1日6mgのdexamethasoneを10日間投与する治療法が、呼吸補助を受けているCovid-19患者において28日後死亡率を減らすというevidenceを示した。本研究では、酸素を必要としなかった患者における効果も, 害の可能性も見られなかった。