Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

Covid-19患者におけるレムデジビルvsプラセボのランダム化二重盲検コントロール研究

 今日は2020年10/9にアップデートされた論文(preliminary versionは5/22に発表)"Remidesivir for the treatment of Covid-19 - Final Report"(Biegel JH, Tomashek KM. el al, N Engl J Med)を紹介します。

 

(1) Introduction

 "First Stage of the Adaptive Covid-19 Treatment Trial (ACTT-1)"は第3相のランダム化二重盲検化プラセボコントロール研究である。この論文は完全なfollow-upが完了したことによる、予備報告(preliminary report)に対するアップデートである。

(2) Method

① Patients

 ACTT-1は2020年2/21~4/19の間実施され、60箇所の研究施設(trial site)及び13箇所のsubstite(内訳: 米国 45, デンマーク 8, 英国 5, ギリシャ 4, 独 3, 韓国 2, メキシコ 2, 西 2, 日本1, シンガポール 1)が参加した。ACTT-1に登録可能な患者はレムデジビル群:プラセボ群=1:1の比でランダムに割り振られ、施設・登録時の重症度によって階層化された。

② Intervention & comparison

 レムデジビルは1日目に200mgをIV, 2日目から10日目or退院・死亡までの間は100mgという形で投与された(プラセボも同様にして投与)。患者には、研究に参加している病院の標準的治療に則った補助的治療も受けていた。ガイドライン等が存在しない場合、Covid-19治療専用の他の試験的な治療法, または 市販薬のoff-labelな投与は1~29日の間禁止された。

③ Outcome

 1~29日の間、入院患者の状態は以下の項目を毎日評価された。

  • Eight-category ordinal scale

1=入院していない, 活動制限なし

2=入院しておらず活動制限あり・自宅で酸素療法, もしくはその両方

3=入院中・酸素は不要・進行中の治療はもう不要

4=入院中・酸素不要・進行中の治療は必要

5=入院中・酸素が必要

6=入院中・NPPV or 高流量酸素が必要

7=入院中・人工呼吸器 or ECMOを装着

8=死亡

  • National Early Wrning Score:  6項目あり、高いほど臨床的なriskが大きい(0~20点)
  • あらゆるserious adverse event, 及び Grade3 or 4のadverse event 

 評価されたoutcomeは以下の通り。

1) Primary outcome:  eight-category ordinal scaleのcategory 1, 2, 3いずれかに合う人の、登録1~28日目における改善までの期間

2) Key secondary outcome:  15日目のordinal scale

3) 他のsecondary outcome:

  • Baselineのordinal scaleから1~2 categoryに改善するまでの期間
  • 3, 5, 8, 11, 15, 22, 29日目のordinal scale
  • 退院 もしくは National Early Warning Scoreが2以下になるまでの期間
  • 1日目〜3, 5, 8, 11, 15, 22, 29日目の間のNational Early Warning Scoreの変化
  • 酸素投与, NPPV or 高流量酸素, 人工呼吸器 or ECMO 装着の期間(29日目まで)
  • 同上の開始, 及び装着していた期間
  • 29日目までの入院期間
  • 登録後14, 18日目の死亡率

4) Secondary safety outcome:

  • Grade 3及び4のadverse event
  • 研究期間中に発生したserious adverse event or 一時的な投与中止, 経過中の検査データの変化

(3) Result

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 1,062人がランダム化され、541人がレムデジビル群, 521人がプラセボ群へ割り振られた(Fig. 1)。ランダム化時には159人(15.0%)が軽症〜中等症, 903人(85.0%)が重症だった。

 レムデジビル群では517人, プラセボ群では508人が29日目までに研究をcomplete, 改善, もしくは死亡した。またランダム化時に軽症〜中等症だった患者のうち54人が重症化したことで軽症〜中等症が105人, 重症が957人になっていた。またas-treated patientには、割り当てられた治療を受けた患者1,048人が含まれている。

 この研究に参加した患者の平均年齢は58.9歳で、64.4%が男性であった(Table 1)。また登録時に並存疾患が1つあった患者は25.9%, 2つ以上あった患者は54.5%だった(並存疾患内訳: 高血圧 50.2%, 肥満 44.8%, 2型糖尿病 30.3%)。

 発症からランダム化までの期間の中央値は9日間(interquartile range 6~12)。373人(as-treated population 1,048人の35.6%)がヒドロキシクロロキン, 243人(同23.0%)がグルココルチコイドによる治療を受けていた。

① Primary outcome

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 レムデジビル群は、プラセボ群よりも改善までの期間が短かった(中央値 10日 vs 15日; rate ratio for recovery 1.29; 95%CI 1.12~1.49; P<0.001) (Fig. 2, Table 2)。重症患者に関しては改善までの期間の中央値が11日 vs 18日(rate ratio for recovery 1.31; 95%CI 1.18~1.79)であった。Baselineのordinal scoreが5だった患者はrate ratio for recoveryが最大であり(1.45; 95%CI 1.18~1.79), 同score 4及び6だった患者ではそれぞれ1.29(95%CI 0.91~1.83), 1.09(95%CI 0.76~1.57)であった。全体への効果を評価する為にbaselineのordinal scoreを共変量にして調整した分析を行ったところ、これも似たような治療効果推計を出した(rate ratio for recovery 1.26; 95%CI 1.09~1.46)。発症後最初の10日間にランダム化した患者のrate ratio for recoveryは1.37(95%CI 1.14~1.64)である一方、発症後10日を超えてからランダム化した患者のrate ratio for recoveryは1.20(95%CI 0.94~1.52)だった(Fig. 3)。

② Key secondary outcome

 Ordinal scale scor改善のoddsプラセボ群よりも、レムデジビル群で高かった(odds ratio for improvement 1.5; 95%CI 1.2~1.9) (Table 2)。

③ Mortality

 15日目までのKaplan-Meier推定による死亡率は、レムデジビル群 6.7%, プラセボ群 11.9%であった(hazard ratio 0.55; 95% CI 0.36~0.83)。29日目にもなると、レムデジビル群で11.4%, プラセボ群で15.2%となった(hazaer ratio 0.73; 95%CI 0.52~1.03)。グループ間の死亡率はbaselineの重症度によって変動が見られ(Table 2)、baselineのordinal scaleが5の患者グループで最も大きい違いが見られた(hazard ratio 0.30; 95%CI 0.14~0.64)。

④ 他のsecondary outcome

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 Ordinal scaleがbaselineよりも1~2category改善した期間は、プラセボ群よりもレムデジビル群で短かった(1 categoryの改善: 中央値 7日 vs 9日; rate ratio 1.23; 95%CI 1.08~1.41, 2 categoryの改善: 中央値 11日 vs 14日; rate ratio 1.29; 95%CI 1.12~1.48) (Table 3)。また、退院 or National Eary Warning Scoreが2点以下へ改善するまでの期間は、プラセボ群よりレムデジビル群で短かった(中央値 8日 vs 12日; hazard ratio 1.27; 95%CI 1.10~1.46)。加えて、最初の入院期間はレムデジビル群の中央値12日に対しプラセボ群の中央値17日でありプラセボが長かった。

 登録時に酸素投与を受けていた913人中では、プラセボ群に比べてレムデジビル群で酸素投与期間が短かった(中央値 13日 vs 21日)登録時に酸素投与を受けていなかった患者における酸素投与に関しては、プラセボ群(44%; 95%CI 33~57)と比較してレムデジビル群(36%; 95%CI 26~47)で低かった。登録時にNPPV or 高流量酸素を着けていた193人においては、これらの装置を使用していた期間の中央値はレムデジビル群・プラセボ群の双方で6日だった。BaselineでNPPV, 高流量酸素, 人工呼吸器 or ECMOを装着していなかった573人において、NPPV, 高流量酸素装着の新規発生は、レムデジビル群よりもプラセボ群で多かった(17%[95%CI 13~22] vs 24%[955CI 19~30])登録時に人工呼吸器 or ECMOを着けていた285人においては、プラセボ群よりもレムデジビル群において、これらの治療を受ける日数が少なかった(中央値 17日 vs 20日。また登録時に人工呼吸器 or ECMOを着けていなかった766人における新たな人工呼吸器 or ECMOの使用は、プラセボ群に比べてレムデジビル群で低かった(13%[95%CI 10~17] vs 23%[95%CI 19~27])Table 3)。

⑤ Safety outcome

 As-treated populationにおいて、レムデジビル群532人中131人(24.6 %), プラセボ群516人中163人(31.6%)でserious adverse eventが発生した。呼吸不全のadverse eventレムデジビル群で47件(患者の8.8%), プラセボ群で80件(患者の15.5%)発生した。

 29日以前に発生したGrade 3 or 4のadverse eventは、レムデジビル群273人(51.3%), プラセボ群295人(57.2%)で発生した。全患者の少なくとも5%において生じたnonserious adverse eventのうち最も多く見られたのは糸球体濾過率低下, ヘモグロビン低下, リンパ球数減少, 呼吸不全, 貧血, 発熱, 高血糖, 血中クレアチニン濃度増加, 血糖上昇であった。

⑥ Crossover

 Data and safety monitoring boardがスポンサーへ予備の一次分析報告を提出するよう勧告した後、合計51人の患者(研究への全登録者の4.8%) - レムデジビル群16人(3.0%), プラセボ群35人(6.7%) - は盲検化されていなかった; プラセボ群で盲検化されていない人のうち26人(74.5%)がレムデジビルを投与されていた。盲検化及びcrossoverを評価したsensitivity analysesも、一時分析と類似した結果を示した。

 

(4) Discussion

 この二重盲検化プラセボコントロール研究は、Covid-19治療において抗ウイルス療法に効果があることを示した。これらを合計した知見は予備報告とも一致する:  入院中のCovid-19患者の治療において、10日間のレムデジビル投与はプラセボに優っている。レムデジビル投与を受けていた患者は、プラセボ群と比べて1. 改善までの時間が短く, 2. 15日目のordinal scale scoreが改善する可能性が高かった。またレムデジビルの治療は1. ordinal scale categoryが1~2点改善する期間の短縮, 2. 退院 or National Early Warning Score2点以下の持続となる期間の短縮, 3. 最初の入院期間の短縮, に繋がった。

 本研究のデータにおいて、1. レムデジビル群において呼吸不全によるserious adverse eventの割合が低いこと, 2. 登録時に酸素投与を受けていなかった患者において新たな酸素投与の発生が少なかったこと, 等が示すように、レムデジビルによる治療がより重症な呼吸器病への進行を止めたことも示唆している。またレムデジビルは、1. 登録時に酸素を投与されていた患者における酸素使用期間の短縮, 2. 登録時に人工呼吸器 or ECMOを装着していた患者におけるこれらの機器の装着期間の短縮, と関連していた。これらの知見をまとめると、レムデジビルは病勢を軽くするだけでなく、このパンデミック下では乏しい医療資源の使用を減らせる可能性がある。グルココルチコイド使用で調整した時、改善のbenefitは持続しており、RECOVERY trialで示されたdexamethasoneの効果がレムデジビルのそれに相乗効果を付加していることを示唆する。

 レムデジビルの効果はbaseline ordinal baselineが5の患者で最も顕著であった。Baseline ordinal scaleが4, 6, 7の患者では信頼区間が広いため、こうした差異はこのcategoryにおけるsample sizeが大きいことによるのかもしれない。しかしinteraction testは、治療効果がより低いordinal score categoryで大きいことを示唆している。なお、これは高いordinal score categoryの患者にレムデジビルが効果が無いことを断言するものではない。Category 7の患者の改善期間中央値は推計できず、これはこうしたsubgroupへのfollow-up期間が短すぎたことによる可能性がある。

 パンデミック早期に、中国で237人が参加した研究では、レムデジビル治療により改善までの期間が短くなることが分かった。但し、その研究では地域内でのアウトブレイク封じ込め措置の性で十分な参加人数を確保できず, sample sizeが小さく, 2:1のランダム化だったためACTT-1よりもpowerが弱く、レムデジビルの臨床的な効果を統計学的有意に示すことが全くできなかった。最近発表された中等症〜重症Covid-19入院患者へのレムデジビルのopen-labelランダム化研究では、5日間レムデジビルを投与された患者は標準治療群に比べて臨床的改善のoddsが高かったものの、10日間レムデジビル投与群ではこの効果が見られなかった。これらの研究は、レムデジビルの効果についてACTT-1の知見を支持するものだと考えられる。しかし、ACTT-1は大規模, 盲検化, 患者登録数が十分である。

 研究期間中、ACTT-1のprimary outcomeは「15日目のeight-category ordinal scale」の比較から「29日目のeight-category ordinal scale」の比較へ変更された。2020年2月にACTT-1が設計された時、Covid-19の自然経過はほとんど知られていなかった。新たに出されたデータは、Covid-19が既知よりも長い経過を辿ることを示唆している。2020年3/22に患者群の振り分けやoutcomeデータを知らない統計学者が修正を提案したが、この時には72人の患者が参加していた。ACTT-1の元のprimary outcomeはkey secondary end pointへ変更となった。

 レムデジビルの予備結果を受けて、米国食品医薬品局は2020年5/1に、Covid-19で入院中の成人・小児患者への同薬剤の緊急使用許可を出した。しかし、レムデジビル投与にも関わらず死亡率が高いため、抗ウイルス薬投与だけでは全ての患者に対して不十分であることは明白だ。現在の戦略は、レムデジビルと免疫調節薬の併用を評価することである。Covid-19患者のoutcome改善の為には、新規の抗ウイルス薬, 免疫調節薬, 或いは他の内因性経路を調整する薬剤を含む多様なアプローチと, これらの薬剤を併用するアプローチが必要である。