Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

COVID-19に対するレムデシビル投与臨床試験の事後解析

 こんにちは。現役救急医です。最近は臨床の仕事の忙しさも半端じゃないですが, 救急専門医試験が遂に来月になってしまいました。そんな中で悠長にブログとかYouTube更新をしている余裕なんて無いのですが、ちょっと気になった論文を見つけたので紹介します。今回紹介する論文は今年8/19に発表された"Deconstructing the Treatment Effect of Remdesivir in the Adaptive COVID-19 Treatment Trial-1: Implications for Critical Care Resourse Utilization."(Fintzi J, Bonnet T. et al. Clin Infec Dis. ciab712)です。

 

(1) Introduction

 Adaptive COVID-19 Treatment Trial(ACTT-1)ではレムデシビルによる治療が回復を早め, 呼吸補助治療の新規開始が少なかったことが示された。

 今回の論文では、ACTT-1のデータを更に解析し, COVID-19入院患者に対するレムデシビルの効果を評価する。Baselineから改善もしくは悪化した患者の累積発生数に対する治療効果を推計する為にcompeting risk modelを作成し, また、各患者の臨床経過を反映する記述的解析とmultistate models(MSMs)をここに示す。

 

(2) Method

 ①用語の定義

 患者の状態は8-category ordinal score(OS)で評価した。

  • 1点=入院しておらず、活動の制限がない
  • 2点=入院していないが、活動制限なし and/or 在宅酸素療法使用中
  • 3点=入院しており、酸素投与は必要なく, もう治療は必要なし
  • 4点=入院しており、酸素は必要ないが治療が必要
  • 5点=入院しており、何らかの形式の酸素投与が必要
  • 6点=入院しており、NPPV or 高流量酸素機器が必要
  • 7点=入院しており、人工呼吸器 or ECMOを使用中
  • 8点=死亡

OS1~3点の患者は回復, 4~5点の患者は多くの場合ICU外で治療されており, 6~7点の患者は多くの場合ICUで治療されていた。

 ② Study Design

 ACTT-1に参加した患者のうち1,051名のデータを解析した。なおデータは各患者の入院当初の経過に限定した退院後の経過, もしくは 再入院のデータは除外)。

 回復・baselineからの臨床的改善・baselineからの臨床的悪化・死亡の累積発生率に対するレムデシビルの効果を評価した。

 また、時間的に非均質なMSMを用いて各患者の臨床経過を解析した。MSMは患者が直接移行する可能性がある状態を決定し, ACTT-1期間中の病勢と治療の影響を反映する。

 またレムデシビルの治療効果を、OSの変動に関連したグループ分けにより定義した4つのclinical pathway(1. 回復 or 入院治療終了, 2. 呼吸器治療の必要性を低減させるような改善, 3. 呼吸器治療の必要性を上昇させるような悪化, 4. 死亡, の4つ)に従って推計した。

 

(3) Results

 回復と死亡の再解析により、ACTT-1で当初報告された回復に対する利益と, 死亡率に対する不確定的な結果を確認することになった。加えて、プラセボ患者群と比べると、レムデジビル治療を受けた患者群ではbaselineよりも重症度が低いOSへ達した患者が多かった(レムデジビル群 83.3% vs プラセボ群 78.0%; 95%CI 1.08~1.39)が、レムデジビル群ではbaselineよりも重症なOSに達した患者は少なかった(レムデシビル群 36.8% vs プラセボ群 49.9%; Hazard Ration[HR] 0.73; 95%CI 0.59~0.91)。

 レムデシビル治療を受けた患者は、プラセボ投与を受けた患者と比べるとより直接的に改善に向かった。レムデシビル群における初期の状態変化は臨床的改善に繋がることが多く(レムデシビル群 70% vs プラセボ群 62%), 悪化することは少なかった(レムデシビル群 25% vs プラセボ群 32%)。レムデシビル群における初期の悪化の減少は特に、baselineで人工呼吸器を使用していない患者において明らかだった。

レムデシビル群における初期の状態変化2回は

  • 改善の持続 or 回復とより多く一致し(レムデジビル群 61% vs プラセボ群 51%),
  • 悪化の持続 or 死亡との一致は少なかった(レムデシビル群 10% vs プラセボ群 16%)

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Figure 2

 MSMを用いて状態の変化を検証した結果、プラセボを投与された患者と比べて、レムデシビルで治療された患者においては入院中の臨床的悪化発生率が低いことが判明した(Figure 2)。入院中の臨床的悪化率の似たような減少は、

  • Baselineで非ICU呼吸療法を受けている患者:  HR 0.74; 95%CI 0.57~0.94; p=0.016
  • BaselineでICU呼吸療法を受けている患者:  HR 0.73; 95%CI 0.53~1.00; p=0,05

においても推計された。入院中の臨床的改善に対する治療効果のevidenceは認められなかった。統計学的に有意でないものの、baselineでICU呼吸療法を受けている患者については、

  • 直接回復に向かう力はプラセボ群よりレムデシビル群で強かった(HR 1.19; 95%CI 0.99~1.42; p=0.064)
  • 直接死亡に向かう力はプラセボ群よりレムデシビル群で弱かった(HR 0.56; 95%CI 0.23~1.15; p=0.099)

 BaselineでICU呼吸療法を受けている患者において、多面的な利益を示唆するような類似パターンは認めなかった。

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Figure 3

 入院中の臨床的悪化発生率の結果は、入院期間短縮と, ICU呼吸療法を必要とする確率の低下である(Figure 3A)OSが6~8点(ICU。オレンジ・赤の部分)の患者の推定割合は研究期間中プラセボ群で高かったもののレムデシビルで治療された患者では回復(濃い青の部分)が早かったランダム化1週間の時点で、レムデシビル群のOS=4~5点の患者は改善するoddsが高かった(Figure 3B)この合計した回復・死亡oddsの改善は研究期間中持続していた。

 このモデルによると、レムデシビル治療は、ICUレベルの治療へと増悪する患者を減少させることでICU資源の使用も減少させるとも予想された(Figure 3C)。このモデルによると、

  • レムデシビルによる治療は、baselineがOS=4点で入院した患者100人ごとにICU治療を21日短縮(95%CI 5~38日)させる
  • レムデシビルによる治療は、baselineがOS=5点の患者100人ごとにICU治療を49日短縮(95%CI 6~95日)させる

と推定された。

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Figure 4

 Figure 4Aは、baselineでICU呼吸療法を受けている患者における, 治療群別の予測OSS分布の点推計を示している。人工呼吸器状態の面積(暗いオレンジ)プラセボ群よりもレムデシビル群で小さいBaselineのOS=6点の患者が第7, 14, 28日目に人工呼吸器を使用するoddsはレムデシビル群で少なかった(Figure 4B)。BaselineのOS=6点で入院し, レムデシビルで治療を受けた患者100人ごとに、人工呼吸器使用期間は108日(95%CI 12~202日)短縮させると推計された(Figure 4C)。しかしながら、BaselineのOS=6点の患者における、NPPVないし高流量酸素の使用, もしくは baselineで人工呼吸器を使用していた患者におけるICU資源使用への統計学上有意な影響はレムデシビル治療になかった。

 

(4) Discussion

 ランダム化臨床試験由来のデータを使うことで、レムデシビルが速い回復に繋がる明らかな道を検出することができた: 主に入院中に悪化しなかったことにより、レムデシビルで治療された患者は早期に退院した。

 この解析によって、レムデシビルが臨床的な悪化の力を変える主な方法は、呼吸状態悪化を防ぐことであることが示唆された。これによって、病期が進んだ患者でレムデシビル治療の利益が少ない理由を説明可能と思われる。すなわち、有効な治療モデルとは臨床的悪化を防ぐ治療と, 他の回復を助ける治療を組み合わせることかもしれない。

 COVID-19入院治療は現代の医療態勢に未曾有の課題を突き付け、多くの医療施設がcapacityを超えて活動することになった。パンデミック中にICU病床を拡大ないし維持する多くの試みはあまり成功しなかった。この論文のモデルは、レムデシビルの治療がただでさえ乏しいICU資源の需要を減らすことで、人口レベルで追加の利益をもたらすことを示唆する。

ブラジルの高齢者における不活化コロナワクチンの有効性

 こんにちは。今日は興味深い論文を見つけたので紹介します。今年8/12に受理された論文"Effectiveness of the CoronaVac vaccine in older adults during a gamma variant associated epidemic of covid-19 in Brazil: test negative case-control study."(Ranzani O, Hitchings MD. et al., BMJ 2021;374:n2015)を私なりに要約してみます。

 

(1) Introduction

 CoronaVacSinovac Biotech製の不活化ウイルスワクチンであり、32ヵ国で承認されている。CoronaVac2回接種の医療スタッフ及び一般集団を対象としたランダム化コントロール臨床試験における症候性COVID-19に対する有効性は、51~84%とバラバラである。WHOの緊急使用リスト(Emergeny Use Listing; EUL)へCoronaVacが承認されたのは2021年6月初旬だったが、60歳以上の成人における有効性のevidence gapが認められた。WHOのEULはチリの観察研究(60歳以上の成人において、2回目接種後14日以降の有効性が66.6%の結果を引用している。

 ブラジルではこのパンデミックで、世界有数のCOVID-19による負荷を経験した。2021年初頭に発生した変異型のガンマ(γ)株は最近のブラジルでの感染拡大で重要な役割を担った。γ株には感染力の増加があることが示されており, 試験管内での中和活性低下や, 重症化と関連している可能性も示されている。現在、γ株は2021年1/1以来ブラジルで最も多く分離されるSARS-CoV-2である。今回、サンパウロで70歳以上の成人におけるCorovaVac有効性を評価する為にmatched test negative case-control studyを行った。

 

(2) Method

① 研究時の状況

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Figure 1

 サンパウロ州には4,600万人が居住しており、そのうち70歳以上は323万人である。同州では2021年5/9までに、2,997,282名のCOVID-19症例(累積発症率: 6475/100,000名)と, 100,649名の死亡例(累積死亡率: 217/100,000名)が報告されている(Figure 1)2021年1/17にサンパウロ州は一般人口へのコロナワクチン接種キャンペーンを開始し, 1. CoronaVacを2~4週間間隔で2回接種と, 2. ChAdOx1 nCoV-10ワクチン(アストラゼネカ製)を12週間間隔で2回接種 を行っている。2021年4/29時点で、CoronaVacは863万回, ChAdOx1は206万回接種されていた。

② Study Design

 2021年1/17〜4/29の間に、70歳以上のサンパウロ州住民において、症候性COVID-19のodds低減に対するCoronaVacの有効性を推計する為にmatched test negative case-control studyを行った。この臨床研究の対象となった集団は、

  • サンパウロ州に居住している70歳以上
  • 研究対象期間中にSARS-CoV-2 RT-PCR検査を行われた
  • 年齢, 性別, 住所, ワクチン接種・検査の状況と期日に関する情報が揃っている

人であった。各COVID-19症例に対し、検査期日と参加者の特徴(性別, 年齢, 人種, 居住している自治体, COVID-19既往の有無)が同じtest negative controlをmatchさせた

 この研究protcolでは、Coronavac及びChAdOx1の有効性解析を行う為のpower thresholdを設定していた。これらのthresholdはCoronaVacで達成されたものの、研究期間中の接種率が低かったためChAdOx1はthresholdを達成できなかった。そのため、CoronaVacの有効性の評価のみ行った。

 個人レベルの情報は、2021年5/6に州の保健当局や全国規模のデータベースから抽出した。サンパウロ州で分離されたSARS-CoV-2の全遺伝子配列を解析することは不可能であり, この臨床研究で入手可能だった監視システムでこうしたデータは入手不能だった。サンパウロ州で分離されたSARS-CoV-2変異型に関する情報は、鳥インフルエンザに関するデータを共有する国際的なデータベース(GISAID)から取得した。

③ 症例とcontrolの選択について

 研究対象となった集団から選択されたCOVID-19症例は、

  • COVID-19の症状があり,
  • 呼吸器検体へのRT-PCR検査で陽性
  • その前の90日間にRT-PCR陽性ではない

人であった。他方、controlは

  • COVID-19の症状があり,
  • 呼吸器検体へのRT-PCR検査で陰性
  • その前の90日間, もしくは その後14日間にRT-PCR陽性ではない

人を集団内から選抜した。ChAdOx1を接種された症例とcontrolは除外された。

 1人のCOVID-19症例に対し、5人までのtest negative controlをmatchさせた。3回のsensitivity analysisが行われ、1回目は1症例に1人のランダムなcontrolをmatchさせ, controlの交換は無かった。2回目はcontrolの交換を容認する形で1症例と1人のランダムなcontrolをmatchさせ, 3回目は1症例へ2人のランダムなcontrolをmatchさせた(control の交換は容認)。

 

(3) Results

 サンパウロ州は、2020年7月にピークへ達した第1波, 2021年1月にピークへ達した第2波, 2021年3月にピークへ達した第3波を経験している(Fig 1)第2波の前には、2020年11月にゼータ株の増加が発生しており, 第3波の前にはγ株の増加が生じているこの臨床研究期間中、γ株は他の変異型に取って代わり, GISAIDに報告されたものの78.4%を占めるに至った。2021年4/29の時点で、70歳以上成人において、

  • CoronaVac1回目接種の接種率推計: 約85%(282万人)
  • CoronaVac2回目接種の接種率推計: 約65%(210万人)

であった。第3波の期間中、COVID-19発症率は増加し, 3月下旬には90歳以上を除く全年齢層でピークとなっていた。

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Figure 2

 研究に参加登録可能だった43,744名のうち、22,177名(50.7%)がCOVID-19症例及びcontrolのセットに含まれた。症例とcontrolのmatchingは、

  • 3,881組が1:1で
  • 1,963組が1:2で
  • 1,044組が1:3で
  • 678組が1:4で
  • 5,717組が1:5で

行われた(Figure 2)。全体で6,223名が1回以上controlとなり, 18名がcontrol・症例の両方になった。Matchingの過程が複雑であったため、matching後の両群の特徴は不均衡であり, 併存疾患を有する割合はcontrol群より症例群で多かった

 症候性COVID-19に対する調整後のワクチン有効性は、

  • 2回目接種後0~13日で24.7%(95%CI 14.7~33.4%)
  •   〃   14日以降で46.8%(95%CI 38.7~53.8%)

であり、1回目接種後0~13日目におけるoddsと統計学的な有意差は認めなかった。検査期日の共変量を含めたsensitivitiy analysisでは、

  • 2回目接種後0~13日目の有効性: 25.1%(95%CI 15.2~33.8%)
  •    〃  14日以降の有効性: 47.1%(95%CI 39.1~54.1%)

であった。

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Figure 3

 症候性COVID-19へのワクチン有効性(2回目接種14日以降)は、年齢上昇とともに減少しており(Figure 3)

  • 70~74歳: 59%(95%CI 43.7~70.2%)
  • 75~79歳: 56.2%(95%CI 43.0~66.3%)
  • 80歳以上: 32.7%(95%CI 17.0~45.5%)
  • p=0.007 

であった。

 入院に対する調整後のワクチン有効性は、

  • 2回目接種後0~13日: 39.1%(95%CI 28.0~48.5%)
  •   〃   14日以降: 55.5%(95%CI 46.5~62.9%)

だった。1回目接種後の期間におけるoddsからの統計学的有意な減少は見られなかった。入院に対する有効性も年齢上昇に伴って減少していた(Figure 3)

 死亡に対する調整後のワクチン有効性は、

  • 1回目接種後14日以降: 31.2%(95%CI 17.6~42.5%)
  • 2回目接種後0~13日: 48.9%(95%CI 34.4~60.1%)
  • 2回目接種14日以降: 61.2%(95%CI 48.9~70.5%)

だった。死亡に対する有効性も、年齢上昇に伴い減少していた(Fig 3)

 全体で13,150名(49.7%)のCOVID-19症例がcontrolとmatchできなかった。

  • 1回目のsensitivity analysisでは30.1%のCOVID-19症例(7,950のペア)がmatchされ、症候性COVID-19に対する有効性は41.6%(95%CI 26.9~53.3%)だった。
  • 2回目のsensitivity analysisでは50.3%のCOVID-19症例(13,283のペア)がmatchされ、症候性COVID-19に対する有効性は48.6%(95%CI 38.2~56.0%)だった。
  • 3回目のsensitivity analysisでは35.6%のCOVID-19症例(9,402のペア)がmatchされ、症候性COVID-19に対する有効性は47.8%(95%CI 38.2~56.0%)だった。

(4) Discussion

 この研究で、γ株が流行しているブラジルの70歳以上の成人における実際のCoronaVac2回接種の有効性は症候性COVID-19に対して47%, 入院に対して56%, 死亡に対して61%であることが判明した。加えて、CoronaVac使用に当たって以下のevidence gapも判明した。

  • CoronaVacがCOVID-19に対して有効であることが示された。
  • CoronaVac1回目接種のみは症候性COVID-19ないし入院に対する予防効果低下と関連していた。
  • 70歳以上の成人では年齢上昇に伴って有効性低下が認められた。

  トルコにおけるCoronaVacのランダム化コントロール臨床試験(参加者年齢中央値は45歳で、接種間隔は2週間)は有効性84%, ブラジルの医療関係者を対象とするランダム化コントロール臨床試験(参加者平均年齢は39歳で、接種間隔は2週間)では有効性51%だった。今回の研究で判明した有効性は後者と同じくらいで, 前者より低値だった。こうした有効性の差異が年齢分布, 接種間隔, 共同体における感染リスク, もしくは γ株の存在によるものなのかは不明である。

 加齢に伴う有効性低下はBNT162b2 mRNAワクチン(デンマークの長期滞在型介護施設や, 米国の介護施設, フィンランドの70歳以上及びイスラエルの80歳以上の一般人口における研究)でも報告されている。

 高齢者の全subgroupにおいて、ワクチンの有効性は症候性COVID-19よりは重症なoutcomeで高かった。この知見は、たとえ感染予防の効果が減少したとしても、高齢者にて罹患率・死亡率を減少させるであろうことを示唆している。入院の基準が異なるので、他国及び他種のワクチンとCoronaVacの入院に対する有効性との直接比較は簡単ではない。若年者と比較して80歳超の人は入院する確率が高く, またこの確率は施設や医療の逼迫程度で変動する。よって、この文脈を考慮することなく今回の知見を一般化することはできない。CoronaVacの予防効果持続期間の特定には、追加の研究が必要である。

 2回接種が完了するまではCoronaVacの有効性が証明されないという事実は、このワクチンの使用に関して深い意味を持つ。今回の研究の知見は、1. SARS-CoV-2感染が拡大し, CoronaVac供給が制限を受けている国では最も高いriskのある集団への2回接種を優先すべきであること, そして 2. 2回接種が確保されていない集団への接種拡大は回避すべきこと, を示唆している。

 

 これまでこのブログで紹介してきたmRNAワクチンの有効性に関する報告は大抵70数〜90%台くらいだったので、CoronaVacの有効性は見劣りするように感じます。

 ちなみに不活化ワクチンとは、薬品で失活させたSARS-CoV02そのものです。日本で導入されているmRNAワクチン(モデルナとファイザー製)はSARS-CoV-2の一部(=スパイクタンパク質)の情報を持つmRNAを含むものであり, 最近40歳以上へ接種を開始することが決まったベクターワクチン(アストラゼネカ製)はチンパンジーアデノウイルスに遺伝子操作を行い、自己複製能力を失わせると共にSARS-CoV-2スパイクタンパク質を発現させたものです。

 同じ免疫系へ作用してSARS-CoV-2に対する免疫を獲得させるのに、製造方法でここまで有効性が違うのは何故なのでしょうか?いずれにせよ、新技術で製造されたワクチンが従来の方法で作られたものに対して効果で勝る様を見ていると、我々が時代の転換点にいるのではないかと思わずにいられません。

レムデシビル投与時期についての観察研究

 みなさんこんばんは。現役救急医です。今日はoffにも関わらず、専門医試験対策の勉強をする気力が湧かず、最近見つけた論文を読んでいるうちに突然、「よし!こいつを動画にしちゃえ!」とか思いついちゃいました。

 国立感染症研究所のHPで紹介されていた論文の中に、デキサメタゾン投与中のCOVID-19入院患者へのレムデシビル投与時期を検討したものがあったので、それをネタにしてしまいました。"Clinical Infectious Disease"というジャーナルに今年8/22に掲載された論文です。滑舌が悪く聞き取りにくいかもしれませんが、是非ご視聴の上高評価もお願いします。

youtu.be

 結論から言うと、「デキサメタゾン投与開始前か同時にレムデシビルを投与したら、入院期間とか死亡リスク等が改善するかもよ」という報告ですが、研究のデザインに欠点があるので解釈には注意が必要そうです。

米国での2021年3月〜7月におけるmRNAワクチン有効性評価

 みなさんこんにちは。今日はネットサーフィン中に、米国CDCが公表している論文を見つけたのでそれを紹介してみます。この論文は今年8/18に、'Morbidity amd Mortality Weekly Report' (MMWR; 罹患率・死亡率週報)のウェブサイトへ、'MMWR Early Release'として掲載されたモノです。

 

 現実的なワクチンの予防効果持続は一般的に、検査により診断されたCOVID-19患者におけるワクチン接種のoddsと, 検査陰性であった対照患者のそれを比較することで計測する。

 2021年3/11~7/14の間米国の18州にある21箇所の病院へ入院した成人(18歳以上)がワクチン予防効果持続の解析へ含められた。発症後10日以内にSARS-CoV-2検査を受け, 発症後14日以内に入院した患者が登録可能であった。ここでのCOVID-19症例患者の定義は、①COVID-19様症状あり, 及び ②抗原検査ないしreverse transcription-polymerase chain reaction(RT-PCR)検査で陽性である。他方、対照患者①COVID-19様症状があったが検査でSARS-CoV-2陰性, 及び ②COVID-19様症状がなく検査も陰性 と定義されている。最終的な感染有無の確認は、臨床検査の結果と, 中枢のラボで行われる上気道検体へのRT-PCR検査により行われた。Cycle threshold値<32のSARS-CoV-2陽性検体は、全ゲノム配列解析と系統解析の為にミシガン大学へ送られた。

 医療記録・州のワクチン接種登録・ワクチン接種記録カード・薬局等の記録でワクチン接種期日と製品名が確認できた場合, もしくは 患者本人・代理人がワクチン接種期日と場所を明確に報告できた場合はワクチン接種済とみなされた。mRNAワクチン2回接種を受け, 2回目接種の期日が発症から14日以上前だった人を完全接種済("fully vaccinated")とみなした1回しかmRNAワクチンを接種していない人, ワクチン2回目接種期日が発症の14日未満である人, mRNAワクチンでないコロナワクチンを接種された人, ないし 異なるmRNAワクチン製品を接種された(i.e. 1回目と2回目で別製品を接種)人除外された。

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Table 1

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Figure 1

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Figure 2

 最終解析には3,089名が含まれ、その内訳はCOVID-19症例患者; 1,194名, 対照患者; 1,895名だった(Table 1)。患者年齢中央値は59歳で、女性は48.7%, 免疫不全状態にある患者は21.1%だった。COVID-19症例患者のうちワクチン完全接種済は141名(11.8%)である一方、対照患者におけるワクチン完全接種済の人は988名(52.1%)だった。

 SARS-CoV-2の系統を特定できた454検体のうち、242(53.3%)はアルファ株, 74(16.3%)はデルタ株だった(Figure 1)。6月中旬には米国でデルタ株が優勢となった。COVID-19による入院に対する合計のワクチン有効性は86%(95%CI 82~88%)であり、免疫不全状態患者を除いた有効性は90%(95%CI 87~92%), 免疫不全状態患者に限定した有効性は63%(95%CI 44~76%)だった。発症時期が3~5月の患者における有効性は87%(95%CI 83~90%), 発症時期が6~7月の患者における有効性は84%(95%CI 79~89%)だった。2回目接種後2~12週間におけるワクチンの有効性は86%(95%CI 82~90%)であり, 2回目接種後13~24週間における有効性は84%(95%CI 77~90%)だった; この2期間の間にワクチン有効性の有意差は無かった(p=0.854)Subgroup内でも、24週間にワクチン有効性に有意な変化は見られなかった(Figure 2)

 

 2021年3~7月に入院した成人を登録した複数州のネットワークにおいて、mRNワクチン2回接種のCOVID-19関連入院に対する効果は24週間にわたって維持されていた。これらの知見は、COVID-19転帰不良のriskが最も高いsubgroupにおいても有効性が維持されていた。免疫抑制状態にある患者のワクチン有効性の合計はそうでない患者と比べて低いものの、双方で時間が経っていても有効性が維持されていた。

 配列解析を行われたウイルスにおいてアルファ株は優勢だったものの, 6月中旬にはデルタ株が優勢となっており、これは全国規模の監視データと一致する。配列解析を行われたウイルスが少ない為、デルタ株に特異的なワクチン有効性は評価されなかった。アルファ株が優勢だった3~5月のワクチン有効性と, 米国でデルタ株の蔓延が増加した6~7月のワクチン有効性は類似していた。