Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

ファイザー製ワクチンのα・β株への有効性に関するデータ

 先日、私はSARS-CoV-2のデルタ株に対するワクチンの有効性の最新データを紹介しましたが、今日はα株(B.1.1.7), β株(B.1.351)に対するワクチンの有効性を示したデータを紹介してみます。参考文献は5/5にNEJM.orgへ発表された"Effectiveness of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine against B.1.1.7 and B.1.351 Variants"(Abu-Raddad LJ, Chemaitelly H. et al., N Engl J Med 2021;385;2:187-189)です。

 

 カタールでは2020年12/21から、BNT162b2ワクチンファイザー製, mRNAワクチン)の大規模接種キャンペーンが開始された。2021年3/31までに385,853名が少なくとも1回の接種を受け, 265,410名が2回接種を終えていた。その間、カタールでは2021年1月中旬からα株の拡大により起きた第2波, 同年2月中旬からβ株の拡大により起きた第3波が起きていた。α株3月の第1週にはピークに達しβ株の急速な拡大は3月中旬に始まり、現在まで継続している。2/23〜3/18の間に行われた配列解析は、カタールのCOVID-19症例の50.0%がα株, 44.5%がβ株によるものであることを示した。3/7以降にウイルス配列解析を行われたほとんどの症例が、α, ないし β株によるものだった。

 ワクチン接種期日・PCR検査・臨床上経過に関わるcharacteristicsは、流行開始時から始まったSARS-CoV-2関連データを全て収集している全国規模のCOVID-19データベースから抽出した。ワクチン有効性は、検査陰性症例対照研究デザインで推計した。

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Table 1

 2回目接種後14日以降に感染したα株に対する有効性の推定値は89.5%(95%CI 85.9~92.3)だった(Table 1)β株に対する有効性の推定値は75.0%(95%CI 70.5~78.9)だった。あらゆる変異型のSARS-CoV-2感染による重症・致死的COVID-19に対するワクチンの有効性は97.4%(95%CI 92.2~99.5)だった。

 ワクチン有効性は、ワクチン接種済の人における感染症の発症と, SARS-CoV-2抗体陰性者の全国規模コホートにおける感染症の発症を比較するコホート研究デザインも使用して評価した。α株に対する有効性推定値は87.0%(95%CI 81.8~90.7)で, β株に対する有効性推定値は72.1%(95%CI 66.4~76.8)であった。

 α株・β株が国内で優勢となっているにも関わらず、カタールにおいてBNT162b2ワクチンはSARS-CoV-2感染・COVID-19発症に対して有効であった; しかしβ株に対する有効性は、臨床試験や, イスラエル・米国における実際のデータから報告された有効性(>90%)より約20%低かった3/31までにカタールでは、ワクチン接種後の感染が1回目接種を受けた人の中で6,689名, 2回目接種を受けた人の中で1,616名で記録されている。ワクチン接種後のCOVID-19による死亡は7名であった:  1回目接種後は5名, 2回目接種後は2名だった。それでも、β株による感染に対する予防効果の減弱は、COVID-19の最重症型に対する予防効果低下に繋がるようには見えない。