Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

せっかくなんで新型コロナウイルスに関する論文を読んでみた。 Part 5

 今回は、NEJMへ今年2月28日に発表された論文"Clinical Characteristics of Coronavirus Disease 2019 in China"(Guan W, No Z. eat al.)の和訳を載せて行きます。なお、これまで新型コロナウイルスを"2019-nCoV"と呼んでいましたが、最近"severe acute respiratory syndrome coronavirus 2(SARS-CoV-2)"と呼称が変更になったようです。

 

(1) Introduction

 2020年2月25日までに、検査で確定したCOVID-19は世界中で81,109名である。この急速な拡大を受け、中国全土の症例を改めて分析して臨床像や重症度を理解する必要がある。

 

(2) Method

 この研究はNational Health Commisionが支援した。

① Patients

 2019年12月11日から2020年1月29日の間にNational Health Commisionへ報告されたCOVID-19確定患者(外来と入院患者両方, 中国全土)の医療記録や検査データを取得。患者データから、直近の曝露歴, 臨床症状, 入院時検査所見, 画像 を抽出し、データのコピーをGuanzhouのデータ処理センターへ送信した。

 なお患者の重症度はAmerican Thoracic Society guideline for community-acquired pneumoniaに基づいて"severe disease""nonsevere disease"へ分類。COVID-19の診断はWHO interim guidanceに従って診断(確定診断=high-throughput sequencing or real-time RT-PCRで陽性)した。そしてこの検査で確定診断された患者のみが本研究の分析対象となっている。

② Outcome

Primary composite end point:  ICUへ入った, 機械的換気, 死亡

Secondary end point:  死亡率, 発症からcomposite end pointまでの時間, 発症からcomposite end pointの各構成要素までの時間

※ 用語の定義

 潜伏期間:  感染源に接触した最も早い時期から、発症した可能性のある時期のうち最も早いものまでの間。1日未満の場合は除外し、最新の暴露日を記録した。本研究では、明確な時期の記録がある291名のデータを基に潜伏期間を計算した。

 

(3)Result

 2020年1月29日までに552ヶ所へ入院した7,736名のうち、臨床症状と転機に基づいて1,099名(全体の14.2 %)のデータを取得した。

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うち武漢のJinyintan Hpspitalの入院患者が132名と最大であった(Fig. 1)。また全体の3.5%が医療関係者, 「野生生物と接触あり」が全体の1.9 %だった。483名(43.9 %)が武漢の住民であり、武漢以外の患者の72.3 %に武漢の住民と接触歴があった(Table 1)。

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 潜伏期間の中央値は4日(四分位範囲 35~58)で患者の0.9 %が15歳未満, 41.9 %が女性であった。発熱は入院時43.8 %の患者に見られたが、入院中に88.7 %へ増加。その次に多い症状は咳(67.3 %)であった。嘔吐や吐き気は5.0 %, 下痢は3.8 %と少数だった。また23.7 %は少なくとも1つの併存疾患があった。

 "Severe disease"は926名, "nonsevere disease"は173名であった。"nonsevere"と比較して"severe"は7歳高齢(中央値), 「併存疾患あり」はnonsevere disease(21.0 %)と比較してsevere disease(38.7 %)に多かった。

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 入院時に975件のCTが撮影されており、86.2%に異常を認めた(Table 2)。最も多く見られた所見はすりガラス状陰影(56.4 %), 両側性斑状陰影(51.8 %)だった一方、nonsevere disease 877名中157名(17.9 %)・severe disease 173名中5名(2.9 %)に異常所見を認めなかった

 入院時血液検査では83.2 %でリンパ球減少を、36.2 %で血小板減少を認めた他、33.7 %で白血球減少を認めた。またデータ異常はnonsevere diseaseよりもsevere diseaseで多く見られた。

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 Primary composite end pointは67名だった(6.1 %)(Table 3)。その内訳は、5%がICU, 2.3 %が機械的換気, 1.4 %が死亡であった。なおsevere disease 173名中、43名がprimary composite end point(24.9 %)となった。また同end pointとなる累積危険度は、全患者において3.6 %, severe diseaseでは20.6 %となった。

 患者の大半は抗菌薬による治療を受け(58 %)、35.8 %はオセルタミビルによる治療を受けた。また41.3 %が酸素療法を、6.1 %が機械的換気を受けたが、severe diseaseの患者ではこの2療法を受ける割合が増えた。例えば、NPPVはsevere disease 32.4 % vs nonsevere disease 0 %, 侵襲的換気はsevere disease 14.5 % vs  nonsevere disease 0 %というふうに、severe diseaseでは機械的換気を受ける患者がnonsevere diseaseよりも多かった。またグルココルチコイド療法が204名(18.6 %)で行われ、これはsevere disease 44.5 % vs nonsevere disease 13.7 %とsevere disease患者の方が多かった。この204名中、33名(16.2 %)はICU, 17名(8.3 %)は侵襲的換気, 5名(2.5 %)は死亡した。Severe diseaseの患者5名(0.5 %)にECMOが行われた。

 入院期間の中央値は12.0日(平均12.8)だった。またsevere diseaseはnonsevere diseaseと比較して肺炎と診断される割合が多かった(99.4 % vs 89.5 %)。

 

(4) Disucussion

 COVID-19アウトブレイクの初期において、症状・画像所見・発症時の重症度が多様であったため、この疾患の診断は難渋した。上記のように入院時の発熱は全体の43.8 %のみ, severe diseaseのうち2.9 %・nonsevere diseaseのうち17.9 %で画像上異常所見なしであり、入院後にsevere diseaseとなったのは15.7 %であった。COVID-19と関連した死者数は多いものの、SARS-CoV-2は、SARS-CoV, MERS-CoVと比較しても死亡率は低いように見える。入院時の呼吸器の易感染性が、予後悪化に関連していた。

 野生動物と接触歴がある患者は約2 %であった一方、3/4以上は武漢の住民, 武漢を訪問, 武漢の住民と接触歴があった。これらの知見は、家族集団でのアウトブレイク, 無症状患者からの感染, 3段階アウトブレイクのパターンといった最近の報告を反映(echo)する。

 SARS-CoV, MERS-CoV, 高病原性インフルエンザの感染ルートは、呼吸器飛沫と直接接触である。SARS-CoV-2も同様の感染ルートであると思われるなおSARS-CoV-2は消化管, 唾液, 尿からの検出されたため、これらも感染の原因と思われ研究が必要である。

 患者のうち8.9 %は肺炎発症前, もしくは肺炎を発症しなかったのにSARS-CoV-2の感染が確認されており、COVID-19という疾患へのspectrumに対する更なる理解が必要である。

 最近の研究と同じく、COVID-19の臨床像はSARSに似ていることを本研究は示した。発熱と咳が主な症状で消化器症状が稀であるという臨床像は、SARS-CoV, MERS-CoV, 季節性インフルエンザと比べて異なるSARS-CoV-2の向性が示唆される。発熱がないのはMERS(2 %)やSARS(1 %)よりもCOVID-19で多く、症例定義が発熱に注目していると発熱していない患者は見逃される可能性がある。リンパ球減少が多く、一部の症例では重症であるという報告も最近の報告と矛盾しない。本研究の死亡率は1.4 %と最近の報告より低く、サンプルサイズや症例登録基準の違いによるものと考えられる。本研究の知見は、2020年2月16日までの51,857例のCOVID-19患者の死亡率が3.2 %と報告した公式報告に類似している。本研究では軽症患者・医療機関を受診しなかった患者を含んでいないため、現実の死亡率はより低い可能性がある。早期の隔離, 早期の診断, 早期のmanagementがまとめて、Guangdongの死亡率低減に寄与したかもしれない。

 SARS-CoV-2とSARS-CoVには系統発生的な同質性があるにも関わらず、COVID-19とSARS-CoV, MERS-CoV, 季節性インフルエンザの臨床像は異なる。

 なお本研究には幾つかlimitationがある。

  • 曝露歴や検査結果が不十分な症例があった。
  • 291名の患者のみで潜伏期間を推定した。日付の不正確性(思い出しバイアス)が本研究のアセスメントに不可避的に影響したと思われる。
  • 2020年1月31日の時点で多くの患者が入院中で転機が不明であったことから、分析の段階で削除している。
  • 無症状ないし軽症のため自宅で治療した患者は入っていないので、本研究ではより重症なCOVID-19を代表している可能性がある。
  • 多くの患者は、入院時に喀痰の細菌ないし真菌検査を受けていない(医療資源が限界に達していた病院もあったので)。
  • データ生成はsystematicでなくclinically drivenである。

【医療関係者向け】低カリウム血症の評価について

 今回は医学生や研修医向けに、低カリウム血症の原因評価についてUpToDateを参考にしてまとめてみようと思います。

 

(1) 原因について

 成書にも色々記載があるので、ここではさらっと触れる程度にします。

カリウム摂取不足: 摂取量は40〜12 mEq/dayが目安

② 細胞内へのカリウム取り込み増加:  インスリン分泌増加or投与, βアドレナリン作用亢進, 細胞外pH上昇(アルカローシス), 周期性四肢麻痺 etc.

③ 消化管から喪失:  下痢, 嘔吐

④ 尿から喪失:  ミネラルコルチコイド作用亢進, 利尿薬, 尿細管障害(末梢側ネフロンで重炭酸塩等の再吸収できないカチオンが管腔へ蓄積→細胞膜電位を保つため、ナトリウム再吸収が亢進→それと交換でカリウム排泄が亢進)etc.

 

(2) 検査による鑑別診断

 有用性・信用性の順で言うと、24時間尿中カリウム > 尿中K/Creatinine ratio > Spot尿中カリウム濃度 なのだそうです。

① 24時間尿中カリウム

 健康で尿からのカリウム喪失がない人は、例え低カリウム血症が存在しても24時間尿中カリウム<25〜30 mEq/dayとなる。これを上回ると、腎臓からのカリウム喪失と判断。但し、低カリウム血症が重症である場合(ex. 不整脈等の心電図変化あり)は補充開始を急ぐので、この検査は使えません(K補充開始によって検査値が修飾されるから)。

② Spot尿中カリウム濃度

 上記のように24時間尿中カリウムが計測できない場合、Spot尿中カリウム濃度を計測します。

尿中ナトリウム濃度>30〜40 mEq/L

尿浸透圧>血漿浸透圧

の2条件を満たす場合は有用です。低カリウム血症であっても5〜15 mEq/Lあれば良い(=これを超えれば、腎臓からのカリウム喪失を示唆する)とされています。

 但し、上記尿中ナトリウム濃度及び浸透圧に関する条件を満たさない場合、値の解釈に注意が必要です。例えば尿中カリウム濃度<15 mEq/Lという値は、腎臓からのカリウム喪失が改善した後や、尿濃縮能が低下した状態での多尿症でもあり得る値です。また体液量が減少していた場合、腎尿細管においてナトリウム, 水の分泌が低下して(=尿中ナトリウム濃度<30 mEq/Lとなる)二次性のアルドステロン症になり、尿中カリウム濃度が比較的高値となります(尿量と絶対的なカリウム排泄量は低下する)。

③ 尿中K/Creatinine ratio

 細胞間でのカリウム移動, 消化管からのカリウム喪失, 利尿薬使用, 摂取不足といったものが無い場合、この値は<13 mEq/g Cre(1.5 mEq/mole Cre)が基準値とされています。この値を超えれば、腎臓からのカリウム喪失を示唆します。

 なお、消化管からのカリウム喪失や代謝性アルカローシスの場合でも、この尿中K/Cre ratioが13以上となる場合があります。そこで、尿中ナトリウム濃度と尿中塩素イオン濃度も併せて計測して判断する必要があります。

尿中ナトリウム濃度と尿中塩素イオン濃度が同等の場合:  腎臓からカリウム喪失

尿中ナトリウム濃度>尿中塩素イオン濃度(i.e. 5倍)の場合:  消化管からカリウム喪失

と判断します。

 これら尿検査所見に加え、血液ガスも重要です。

代謝アシドーシス+尿中カリウム排泄低下:  消化管からの喪失(下剤や浣腸)

代謝アシドーシス+尿中カリウム排泄亢進:  糖尿病性ケトアシドーシス, 1型&2型尿細管性アシドーシス

代謝アルカローシス+尿中カリウム排泄低下:  嘔吐(i.e. 摂食障害で見られる嘔吐), 利尿薬(中止した後で効果が切れている段階), 下剤

代謝アルカローシス+尿中カリウム排泄亢進:

    高血圧がない場合; 利尿薬, Gitelmann症候群, Bartter症候群, 嘔吐

 高血圧を合併していた場合; 腎血管性高血圧, 降圧薬として利尿薬を使用, 原発性のミネラルコルチコイド作用亢進

といった形で、症状や既往歴, 身体所見等の他の要素も含めて判断し、診断に繋げます。

せっかくなんで新型コロナウイルスに関する論文を読んでみた。Part 4

 今回は、今年の2月24日にJAMAへ掲載された論文"Characteristics of and Important Lessons From the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Outbreak in China" (Wu Z, McGorgan JM et al.)を和訳して紹介します。

 

(1) Introduction

 Chinese Center for Disease Control and Preventionは最近、中国本土におけるCOVID-19の最大規模のcase series(2020年2月11日の時点72,314例)を発表した。この論文は、その報告の重要な知見を総括し、COVID-19流行の喫緊の理解と教訓を考察するものである。

 

(2) COVID-19アウトブレイクの疫学的特徴

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計72,314例の内訳は

  • 確定診断(咽頭ぬぐい液からウイルスの核酸が陽性)は44,672名(62 %)
  • 疑い症例(需要が間に合わないので検査はやらず、症状及び曝露歴で診断)は16,186名(22 %)
  • 臨床診断(Hubei省のみで使用した基準。検査はやらず、症状, 曝露歴, コロナウイルス肺炎の特徴がある肺画像所見で診断)は10,567名(15 %)
  • 無症状(典型的な症状がなく、ウイルス核酸が陽性)は889名(1 %)

であった。また年齢に関しては、

  • 30~79歳; 87 %
  • 9歳以上; 1 %
  • 10~19歳; 1 %
  • 80歳以上; 3 %

であり、地域については75 % の症例がHubei省・大半が武漢と関係のある曝露を報告(86 %; i.e. 武漢の住民, 武漢を訪問した, 武漢の住民or訪問者と濃厚接触あり)した。また、重症度に関しては"mild"(肺炎でない, 軽症の肺炎)が81 %, "severe"(呼吸困難, 呼吸数≧30/min, 血液酸素飽和度≦93 %, P/F ratio<300, and/or 24~48時間以内に肺野浸潤影50 %超)が14 %, "critical"(呼吸不全, 敗血症性ショック, and/or 多臓器不全)が5 %を占めた。

 全体の"case-fatality rate(CFR; 死亡率?)"は2.3 %(44,672名の確定診断症例中、1,023名が死亡)であった。なおこの死亡率(CFR)を年齢別に見てみると、

  • 9歳以下; 死亡例なし
  • 70~79歳; 8.0 %
  • 80歳以上; 14.8 %

であり、重症度別に死亡率を見ると、"mild", "severe"症例で死亡例はなく、"critical"症例のCFRは49.0 %であった。また、並存疾患があるとCFRは上昇した(心血管系疾患 10.5 %, 糖尿病 7.3 %, 慢性呼吸器疾患 6.3 %, 高血圧 6.0 %, 癌 5.6 %)。更に、44,672症例のうち1,716症例が医療従事者であった(3.8 %)。その医療従事者のうち、

  • 1,080名(63 %)が武漢
  • 医療従事者内の確定診断例のうち、14.8 %が"severe"もしくは"critical"
  • 5名が死亡

という結果であった。

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 COVID-19は、たった30日で1都市から国全体へ拡散した。"Epidemic curve"では、早期の症例では持続的かつ共通する原因 ー Huanan Seafood Wholesale Marketにおける人畜共通のspilloverである可能性 ー の存在が示唆されるものの、後期の症例では、ヒト・ヒト感染が始まるにつれて、ウイルスを伝播させる原因の存在が示唆されるようになった(Figure 1)。

 

(3) COVID-19とSARS, MERSの比較

 SARSは、Guangdong省の市場においてコウモリ→"palm civet" (『樹上性のジャコウネコ』)の経路でヒトへ新種のコロナウイルスが感染したのが始まりであり、29カ国で8,096名が感染・774名が死亡(CFR 9.6 %)し、2003年7月5日にWHOが終息を宣言した。

 他方、MERSサウジアラビアにおいてコウモリ→ヒトコブラクダの経路でヒトへ新種のコロナウイルスが感染したのが始まりであったものの、未だ終息しておらず、27カ国で2,494名が感染・858名が死亡(CFR 34.4 %)した。

 COVID-19, SARS, MERSはいずれも発熱, 咳嗽の症状を呈し、高齢者, 並存疾患が予後不良と関連する下気道疾患に罹患する, という共通点がある。また、気道サンプルに対する核酸検査が確定診断に必要だが症状・曝露歴・胸部画像でも診断可能であること, 特異的かつ有効な抗ウイルス治療がないので、支持的療法が標準であること, も共通している。MERS, SARSの方がCFRが高いものの、症例数が多いため総死亡数ではCOVID-19がまさっている。2020年2月18日までに、中国では72,528名の確定診断(全世界の98.9 %), 1,870名の死亡(全世界の99.8 %)が確認されている。つまり、粗CFRは 2.6 %である。しかしながら、軽症例・無症状例の特定は難しいので、COVID-19の総数はもっと多い可能性がある。更に、中国における検査の能力(testing capacity)は未だに不十分なので、多くの疑い症例と臨床診断症例がカウントされていない。Hubei内のCFRが2.9 %に対し、Hubei外のCFRが0.4 %なのは、このCFRの不確定性を反映しているのかもしれない。いずれにせよ、全てのCFRについて慎重な解釈が必要であり、更なる研究が必要である。

 SARS, MERSの二次感染の大半は病院内で起きた。COVID-19でも、2020年2月11日までに3,019名の医療関係者が感染(1,716例の確定診断, 5名の死亡)した。しかし、これはCOVID-19の主な拡散経路ではない。むしろ、多くの感染は濃厚接触を介している。現在に至るまで、Hubei外の20省で1,183の集団症例が報告され、このうち88 %が2~4名の確定診断例を含んでいた。また、今までのところ64 %の集団が家族内感染であったことは記憶に値する(Of note, 64% of cluster documented thus far have been within familial households)。つまり、COVID-19はSARS, MERSよりも感染性が強いように見え, またCOVID-19の"reproductive number"(R0)は既に判明したと予想する人は多いものの、正確なR0予想を出す, もしくは感染力学を評価するのは時期尚早だ。追加の研究が必要である。

 

(4) COVID-19エピデミックへの反応

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 2003年以来、中国政府はエピデミックへの対応能力を改善させており、COVID-19への対応でその努力の一部を垣間見ることができる(Figure 2)。2002~2003年のSARSアウトブレイクの時、中国がWHOへアウトブレイクを報告した時点で300例の感染・5例の死亡が生じていた。しかしCOVID-19の場合、WHOへ報告した時点(2020年1月3日)で27例の感染・死亡0例であった。WHOへの通知からSARSコロナウイルスを特定するまで2ヶ月かかったが、2019-nCoVの場合はそれが1週間だった。

 COVID-19アウトブレイクの時期は、旧正月の前の時期だった。多くの人が航空機, 列車, バスで長時間・長距離を移動し、その間に多くの濃厚接触が生じてしまう。中国は、分離(isolation), 隔離(quarantine), 社会的な引き離し(social distancing), 共同体の封じ込め(community containment)という、伝統的な公衆衛生学上のアウトブレイクへの対応戦術に焦点を合わせた。

 COVID-19と診断された患者は直ちに既存の指定病院に隔離され、武漢とHubeiで増加する患者に対応するために2つの病院が急ぎ建設された。COVID-19患者と接触した人は、自宅に籠るよう要請されるか, 特別隔離施設に移送されて症状発症がないか監視を受けた、多人数が集まるイベントは中止となり、武漢及びHubei省内の都市の交通は制限され、厳重に監視された。その後、事実上全ての交通が全国レベルで制限された。推定で、4千万〜6千万人の、武漢 及び Hubei省内の15の周辺都市の住民が社会的な引き離しに属した。過去にこのような形の伝統的なアウトブレイクに対する対応は成功裏に行われていたが、これほど大規模な前例はなかった。

 

(5) 次のステップ

 現在中国が行っているアウトブレイクへの対応のもう一つの大きな目標は、COVID-19が拡散しすぎる前に科学が間に合うまでの時間を稼ぐことだ。中国は、新しいevidenceが手に入り次第、戦術と戦略を調整することに焦点を合わせなければならない。中国は国際社会からの支援に感謝している。国際社会はこれまで以上に密接になっており、新興病原体は地政学的境界に囚われない。公衆衛生インフラへの積極的な投資がCOVID-19のようなエピデミックへ効果的に対応するために欠かせない。国際的な監視・協力・協調・連絡態勢を改善させ続けることが重要である。

医学部入学の際のDo & Don't

 とうとう3月に入りましたね。大学入試2次試験の前期日程も終わり、そろそろ後期日程が始まる時期でしょうか(COVID-19の影響がどこまで及ぶか、イマイチ不透明なところですが)。

 そこで、今回は昨年同様、これから医学生になる高校生に向けた助言を自分なりにまとめてみたいと思います。なお、昨年3月13日に書いた下記記事へ半ば補足するような形になるので、ご了承ください。

(1) 勉強について

 とりあえずここでは、1, 2年で履修する基礎教養科目について述べます。まず授業への出席数はちゃんと稼いでおきましょう。加えて、1年次に履修する(場合により2年次もやる)理科 ー 物理, 化学, 生物 ーと数学は高校時代のそれとレベルが格段に違います。特に数学・物理に関しては、中学・高校でやっていた正攻法 ー すなわち、地道に問題数をこなして解法のパターンを身に着ける ー では勝てません。試験の際には、過去問やヤマ集を暗記してマスターするしか無いでしょう。化学については、生物学のように暗記するしか無いとは思いますが、それでも高校化学と比べてレベルが違いすぎるので、最終的には過去問・ヤマ集に頼るしか無いでしょう。

(2) 部活(特に体育会系)について

 上記の過去記事でも指摘していますが、部活・サークル, 特に体育会系の部活に入るのはメリットばかりではないのです。

利点: 体育会系なら運動する機会が得られる。先輩・後輩ネットワークを築けて孤立しない。

欠点: 上下関係・同調圧力が半端ない。飲酒に関連して、下手すれば犯罪まがいのトラブルが生じる。プライベートの時間や学業にかける時間を削られる。金がかかる。

 マイペースな人, 自分の時間を沢山持ちたい人, 真面目に勉強したい人は入らない方がいいでしょう。

(3) 奨学金, 特に医師確保修学資金について

 特に低所得〜中所得世帯にとって、奨学金は喉から手が出るほど羨ましい話でしょう。しかし、タダで金を貸与してくれる訳ではないのです。特に地方自治体が創設した『医師確保修学資金』は(そして地域枠も)、「X年この地域で働いたら、貸与した金はチャラにしてあげるよ」という一種の契約なのです。

 但し、過去の上記記事でも指摘したように、あなたがこの奨学金の規定通りにその地域に勤務したとしても、上級医から適切なフィードバックを得られる保証はありません。ましてや好待遇なんて期待すべきではありません。酷な例えですが、『医師修学資金』や『地域枠』に加入したあなたと地方自治体・医学部/大学病院の首脳部の関係性は、アジア太平洋戦争時の特別攻撃隊と陸海軍首脳部のようなものです(詳細は下記を参照)。尽忠報国』や『七生報国』の精神を(たとえ極限状態においても)維持できる自信がないのであれば、『医師修学資金』を利用するのはやめておきましょう。

(4) 番外編 ー 臨床医学の勉強について

 過去の記事でも指摘したように(下記)、臨床医学の講義・実習の質もイマイチです。ちゃんと出席数を確保し、定期試験と国家試験で合格することは必須ですが、ちゃんと講義や実習に出て、試験に受かっても獲得できない知識があります。

 また、これは私の経験談になりますが、今の医学部カリキュラムでは① 患者の主訴・症候から鑑別診断を絞り込む, ② 患者が急変したときの蘇生処置(ACLS, JATECとか), ③ 抗菌薬の適切な使い方, ④ 人工呼吸器の設定方法・考え方, を学ぶことができません。初期研修医になって自力で学ぶしかないのです。

 卒後に臨床で使える知識を全て得られる訳ではない, 講義・実習内容もつまらなくてモチベーションが保てない…それでは困りますよね?そんな時は、初期研修医・医学生向けのセミナーに思い切って参加してみてはどうでしょうか下記の記事で紹介した『日本感染症教育研究会(IDATEN)』に登録したら、そのようなセミナー情報を手に入れることができます。