Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

「ヒドロキシクロロキンに関する論文を撤回」と言うので原文を当たってみる。

 去る6/5、「COVID-19の治療薬として期待されていた薬剤の一つ、ヒドロキシクロロキン に関して『死亡リスクが上がる』と報告していた論文が撤回された」とするニュースが出回り衝撃が走りました。下記のニュースリンクにもあるように、既に識者(忽那賢志先生)による一般向けの解説があり、そちらの方が分かりやすいとは思います。

 ですが今回は敢えて、英国時間で6/3(水曜日)の午後に公表された現地紙"Guardian"による、今回の『疑惑』に関する記事を紹介してみようと思います。

 

(1) はじめに

 まず、今回撤回に至った論文はヒドロキシクロロキンに関するものだけではありません。正確に言うと、

  1. NEJMに掲載された「ACE阻害薬・ARBはCOVID-19患者の重症リスクとならない(それに加えて、男性, 心血管疾患, 慢性呼吸器疾患等は重症化のリスクである)」とする論文
  2. Lancetに掲載された「COVID-19患者へのクロロキン・ヒドロキシクロロキン投与は死亡リスクと心臓合併症を増やす」とする論文
  3. Social Science Research Networkに掲載された「重症COVID-19患者への抗寄生虫薬イベルメクチンの投与は死亡率を低下させた」とする論文

の合計3つです。なおこれら全てに「世界中の1,200ヵ所の病院が登録しているデータベース」を運営する企業、"Surgisphere"の最高責任者Sapan Desai氏が共著者として名を連ねています。

 

(2) 論文のどこが不味かったのか

 上記1.の論文は今年の5/22に発表されました。この研究はSurgisphereのデータベース由来の「671ヵ所の病院に入院したCOVID-19患者96,000名の情報」を元にしたとされていました。しかし、後日Guardian Australiaにより以下のような矛盾点が見出されました。

  • Desai氏は、オーストラリアから収集したデータについて「5病院がデータベースに参加し、4/21までに600名のCOVID-19患者・73名の死者を記録した」としている。
  • しかしJohns Hopkins大学のデータは4/21の時点で、オーストラリアの死者数は67名だと示している。(これについてDesai氏は「誤ってアジアの病院のデータを入れてしまった」と説明した)
  • Guardianメルボルンの5病院とシドニーの2病院に連絡してみたが、いずれも上記のようなデータベースに参加していないSurgisphereという会社も知らないと回答した。(これに関する問い合わせへDesai氏は返答せず)

 これを受けて、NEJMとLancetは水曜日(6/3)付けで1.の論文に関して懸念を表明し、調査を開始していたのです。

 

(3) Surgisphereへの疑惑

 さて(1), (2)で問題になったSurgisphereは2008年、Desai氏により教科書を出版する医学教育関連会社として設立したそうです。しかしその会社の内容というのも胡散臭いものだそうで、

  • Desai氏はSurgisphereについて11名の従業員が居ると説明したが、"LinkdIn"に載っているデータによると、この11名はたった2ヶ月前(4月頃)に雇われたばかりであり、うち数名は科学的or統計学的な背景すら無く、中にはSF作家や成人向けモデル(AV女優みたいな職業のこと?)すら居た。
  • 問題の論文の記述やSurgisphereのウェブサイトを見ても、世界中の異なる国・地域にある病院からどのようにしてデータを収集したのか不明である。
  • 同社の"QuartzClinical"というサービスは各病院の電子カルテからのデータ取り出し等の手間の掛かる作業を代行し, 「電子カルテシステム・財務システム・物品供給・品質管理プログラムといったものを1つのプラットフォームに統合する」ことを売りにしている。
  • しかし、Desai氏は問題の論文に使用したデータについて電子カルテからのデータの取り出し, データ辞書の要求するフォーマットへの変換, データの十分な同一化(fully deidentifying the data)は医療機関のパートナーに行ってもらっている」Guardianへ回答しており、上記のQuartzClinicalが提供するサービス内容と矛盾している。(この矛盾を指摘されてもDesai氏は説明していない)
  • 月曜日(6/1)まで、Surgisphereのホームページにある"get in touch"(連絡する or お問い合わせ?)のリンクをクリックしても暗号通貨のウェブサイトへ飛ばされた。

といった実態が判明したそうです。記事に登場する識者の一人は同社を詐欺と表現しています。

 

(4) Desai氏について

 Surgisphereの責任者で問題の論文の共著者でもあるDesai氏の経歴も、曰く付きのものだそうです。

  • 米国内で血管外科医として働いていたが、3件の医療事故で訴えられている。うち2件は2019年11月に、Desaiがイリノイ州の病院で働いていた時に訴訟が起こされている。彼は2016年6月からその病院に勤務していたが、2020年2月に「個人的な理由」で自己都合退職している。
  • Desai氏は2008年に、「次世代の人間強化装置(next generation augumentation device)」, 「洗練されたプログラム・最適神経誘導点・試験された本物の結果によって、あなたをヒトの進化の頂点へ上昇させる」と銘打って"Neurodynamics Flow"というプロジェクトをネット上で公表してクラウドファンディングを募り200〜300ドルの資金を獲得しているが、このプロジェクトは未だに実現していない。
  • Desai氏に関するWikipedia記事は2010年に登場し、彼が「法学の博士号と, 解剖学・細胞生物学のPhD, 医師免許を持っている」等との記述があったが、今回の『疑惑』が浮上してからは削除された。
  • ある国際医学会のパンフレットでは、Desai氏は「臨床現場で複数の医師の指導的役割を果たし、"Lean Six Sigma"なる経営手法の"Black Belt"という資格を持っている」と紹介されている。

 医療訴訟に関しては詳細が分かりかねますが、私としては、学会の自己紹介プロフィールやWikipediaに医学/医療と関連性が薄い資格ですらやたらと並べたがる時点で怪しいと感じます(以下の動画  ー 特に5分20秒から11分6秒の部分 ー をご覧頂ければ、その感覚がご理解頂けると思います)。

 上記の忽那先生による記事にもあるように、NEJM, Lancetは非常に影響力が大きいジャーナルですので、医療関係者の間では衝撃が走りました。今回のCOVID-19パンデミックは、新種のウイルスで治療法がなく, それなりの数の方が亡くなっているので、可能性のある治療法に関する知見が喫緊に求められているような状況です。従って、忽那先生も記事で指摘しているように、続々と提出される論文を前に論文に対する査読も甘くなってしまったのでしょう。

新興・再興性感染症について(3)

 前回に続き、NEJMに掲載されたSTIsに関するreview articleの和訳の続きを掲載していきます。

(4) 新興の性的感染が可能なウイルス

① ジカウイルス(Zika virus[ZIKV])

 ZIKVはヤブカが媒介し、発熱, 頭痛, 筋肉痛といった症状のほか, 妊婦に感染することで小頭症などの胎児の脳の異常を来すことが知られている。ZIKVの性的感染が疑われる初の症例は2008年に発生しており、セネガルから米国へ帰国した男性と, 海外渡航歴の無い妻が共に急性ZIKV感染症に罹患したものである。2013年には、尿と精液中からZIKVが検出された症例がタヒチで報告されている。また女性の唾液と男性パートナーの精液からZIKVが検出されたことで、感染が関連性があることが示された事例もある。性的感染症例の報告は他にもなされており、大半は急性ZIKV感染症の男性(尿or精液からウイルスが検出された)から女性へ、膣を介した性行為で感染した症例であった。ZIKV急性感染症患者を対象した前向き研究では、精液からウイルスRNAが排除される期間の中央値は42日で, 95 %が排除されるまで4ヶ月であった。但し、ZIKVのRNAがあることは必ずしもウイルスに生存能力がある, もしくは 感染性があることを示している訳ではない。またZIKVは稀に唾液 もしくは 膣分泌液 から検出されることがある。

 蚊を媒介した感染が生じている地域において、ZIKVの性的感染の数を推計するのは難しいが、今日までに確定診断された性的感染症例の合計は世界中のZIKV感染症例数の合計と比較してかなり少数であり, 性的感染によるZIKV感染の集団帰属率は低いと考えられる。WHOのガイドラインは、ZIKVへ曝露した可能性がある or ZIKV既感染もしくは感染疑いの場合、最低2ヶ月間コンドームを使用, もしくは 最低3ヶ月間は性行為を控えるように推奨している。また、女性がZIKV曝露or感染の可能性がある場合、妊娠へ繋がりうる性行為を2ヶ月間避けることで妊娠前にウイルスが排除される。加えて、女性が妊娠中で, 尚且つ 女性とそのパートナーがZIKV感染症が発生中の地域に居住 or パートナーがそのような地域から帰国した場合、性行為にてコンドームを使用するか, 全妊娠期間中において性行為を控えるべきである。

エボラウイルス

 2014年から2016年の間に西アフリカで発生したエボラウイルス大規模アウトブレイク以来、性感染によるエボラウイルスの症例が報告されている。エボラウイルス病の男性生存者の精液からはエボラウイルスが検出される可能性がある。エボラウイルス病の男性生存者の精液へRT-PCRを繰り返した前向き研究において、発症以来ウイルスRNAが検出され続けた期間の中央値は158日間であった但し、RT-PCRにおける陽性は必ずしも感染性のあるウイルスが存在することを示している訳ではない。またエボラウイルス病から生存した男性患者の精液と, 同疾患で死亡したセックスパートナーの血液に対して行ったエボラウイルス配列決定は男性が同疾患を発症して179日後であってもエボラウイルスが性感染した証拠を提示した。

 

(5) 既存STIsに関する新たな問題

① 梅毒

 WHOは2016年時に世界中で6百万人の梅毒の新規感染者が居ると推計しており、本疾患は世界的に主要な公衆衛生の問題であり続けている。眼球梅毒, 神経梅毒, 先天性感染のように、梅毒は重症化する場合がある。ここ10年間、MSMにおける梅毒の発症率は多くの国で顕著に増加している。梅毒の発症率は特に、HIV感染の曝露前予防策を講じているMSM間で高く、HIV感染の曝露前予防策を用いているMSMに対して、HIV検査と併用して定期的な梅毒screeningを行う重要性を強調している。より近年では、米国, 日本, オーストラリアにおいて異性愛間での梅毒が再興しており先天性感染の報告も増加している。

 原発性梅毒は肛門・性器に潰瘍を生じる他のSTIsに類似しており、Treponema pallidumやherpes simplex virusなどの病原体を同時に検出するためのmultiplex PCR検査を用いることで、診断の正確性は改善されてきている。MSMにおける肛門の原発性梅毒は覚知されずに放置される可能性があり、病変が見られない場合は拡散増幅検査によってT. pallidumは検出されうる。似たように、MSMにおける口腔潰瘍を伴わない二次性梅毒の場合、口腔に対するPCRによりT. pallidumが検出されている。まとめると、こうした研究は症状が無い部位からT. pallidumが感染する可能性を示している。また先天性梅毒は、妊娠早期に母体感染が探知・治療されれば予防可能である。

② 淋菌

 N. gonorrhoeaにおける抗菌薬耐性の増加は、もう一つの重要な課題である。米国では、毎年約550,000例の薬剤耐性N. gonorrhoeae感染症が発生していると推定されている。セフトリアキソン, アジスロマイシン, もしくは 両者(大半の高所得国において、淋菌に対する第一選択として推奨されている)への感受性の低下が特に懸念されている。

 2017年以来、セフトリアキソン耐性N. gonorrhoeaeのクローンは世界中に撒布され、最初は日本において, その後はヨーロッパ・東南アジア・オーストラリアにおいて散発例が報告されている。2018年には英国とオーストラリアにおいて、セフトリアキソンと高濃度のアジスロマイシンの両者へ耐性を持つN. gonorrhoeae感染症の初の症例3例が報告され、高域薬剤耐性N. gonorrhoeae命名された。遺伝子解析は、この系統が東南アジアにreservoir(起源?感染源?)を有する可能性があり, この系統が大陸内拡散したことを示した。

 咽頭と直腸はN. gonorrhoeaeの感染源になっている; 咽頭・直腸感染は大抵無症状であるが、核酸増幅検査によって検出可能である。咽頭N. gonorrhoeaeが抗菌薬耐性を獲得するのに重要な場所であり、抗菌薬の浸透が不十分なため治療が失敗する場所であるかもしれない。今日に至るまで、セフトリアキソンによる治療失敗が確認された症例数は限られているものの、N. gonorrhoeaeは時間経過とともに薬剤耐性を示す傾向が顕著であり, 新規の有効な抗菌薬が喫緊に求められている。近年の臨床試験では、solithromycin, zoliflodacin, gepotidacinなどの新規の抗菌薬の効果が検証されている。

進行・再興性感染症について(2)

 今日は前節の続きです。

(3) 新興の性的感染が可能な病原体

① Neisseria meningitidis

 N. meningitidisは、健康成人約10 %の鼻咽頭に定着しており、子宮頸部, 尿道, 直腸といった他の粘膜にも稀ながら定着している。この病原体は、以下の2つの異なる臨床像が新興したことでますます認知されることとなった。

1. 尿道

 2015年以来、米国内ではN. meningitidisによる症候性尿道炎の報告が増加している。現在までに、本疾患は異性愛の男性で主に発症しており, 挿入を伴うオーラルセックス(口腔-性器感染)が最も多く報告されている。

 細菌の米国内のclusterから分離したN. meningitidisの全ゲノム配列解析・分析は、高毒性配列 type 11 clonal complex(CC11)内の別個の単系統群の存在を示した。侵襲性髄膜炎感染症と関連するN. meningitidisと違い、尿道炎を起こすものは莢膜遺伝子が欠失しているために莢膜が無く, N. gonorrhoeaeと類似した表現型を示す。

 オハイオで発生したclusterの場合、大半の症例はCDCが推奨する淋菌への治療法( 250mgのセフトリアキソン筋注 単回投与, 及び 1gのアジスロマイシン内服 単回投与)で治療に成功した。

2. 侵襲性髄膜炎感染症

 米国や欧州の都市部のMSM間でclusterが発生した。Clusterと関連した症例の多くが 1. 出会い系アプリorサイトの使用2. 匿名 もしくは 複数のセックスパートナー を自己申告しており、別個のsocial networkingにおける濃厚接触感染が示唆される。

 遺伝子解析では、MSM集団にて世界中でclusterを形成した本疾患の原因は高毒性CC11系統由来のserogroup Cであると判明した。Clusterごとに分子学的profileは異なるものの、このデータはCC11系統の国際的な拡散と, それに続く地域内での拡大を示唆している。今日に至るまで、MSM内での本疾患cluster発生に関連したrisk factorは明らかになっていないが、HIV感染は本疾患の特発症例発生と関連するrisk factorである。

 感染制御は主に、四価髄膜炎菌結合ワクチン(quadrivalent meningococcal conjugate [MenACWY] vaccine)の接種に焦点を当てている。CDCの予防接種諮問委員会(the CDC Advisary Committee on Immunization Practices)は全てのMSMヘのルーチンMenACWYワクチン接種を推奨していないが、HIV陽性で生後2ヶ月以上の人へのルーチン接種は推奨されている。

② リンパ肉芽腫 (lymphogranuloma venereum [LGV])

 LGVはChlamydia trachomatis 血清型 L1, L2, もしくは L3が原因である。一般的にLGVはリンパ系を介して局所リンパ節へ感染することで鼠径部リンパ節炎を来す。LGVの直腸感染は直腸痛, 直腸分泌液を伴う直腸炎を来すことがあり、炎症性腸疾患に似た症候を伴って重症化する場合もある。C. trachomatisのgenotyping使用の増加により、LGV直腸感染の約半数が無症状, ないし 軽症であることが分かっている(非LGVクラミジア感染症と類似)。

 2003年以来、LGVはMSM間で再興しており、主に性器よりも直腸に感染している。多くの高所得国でLGVアウトブレイクの発生が報告されている。MSMにおける直腸LGV感染は、1. コンドームを使用しない感受性の強いアナルセックス や, 2. 拳の挿入を伴うセックス, と言ったリスクが高い性行為と関連しており、HIVとの重複感染が多い。

 LGVの診断は、臨床検体より血清型に特異的なC. trachomatisの核酸を検出によることが理想である。これには次の2段階プロセスが推奨されている。

 1. 最初に、核酸増幅検査を使用してC. trachomatisを検出する。

 2. 次に、genotyping(e.g. PCR genotyping)によってLGVの血清型と非LGVの血清型を鑑別する。

しかし、2.のようなgenotypingは多くの国・地域で利用できる訳ではない。男性とのセックスを申告し, 尚且つ重症の直腸炎を呈している男性は、C. trachomatis陽性となる or genotypeの結果が判明する 前に治療が必要であり, また直腸炎を来す他の性感染症(Table 1)の検査と治療が行われるべきである。

 LVGへ推奨された治療法は21日間のドキシサイクリン投与であった。しかし近年のevidenceは、7日間のドキシサイクリンでも効果が十分である可能性を示唆している。慢性直腸結腸炎 or 横痃形成を伴うような重症例に対しては、最低21日間のドキシサイクリン治療が必要となる。LGV患者に対しては、他のSTIs ー 特にHIV感染 ー の検査も行われるべきである。

③ Mycoplasma genitalium

 M. genitaliumは1981年に初めてSTIsとして記述された(2人の男性から分離された非淋菌性尿道炎の原因菌)。M. genitaliumは通常の培養では成長しないので、診断には分子学的検査を用いる。核酸増幅検査利用の増加によってM. genitalium感染症の診断が増加し、同菌が 1. 男性における非淋菌性尿道と, 2. 女性における骨盤内炎症疾患 の原因だと証明している。また欧州のガイドラインでは、1. 症状がある患者への検査 と, 2. M. genitalium感染症の確定診断がなされた患者のパートナーへの検査(再感染を防ぐため) のみを推奨しており、無症候性の人への検査は推奨されていない。

 M. genitaliumにおいては、アジスロマイシンやモキシフロキサシンを含む抗菌薬に対する耐性が増加している。伝えられるところによると、マクロライド耐性は地域によって30~100 %にわたっており、MSMから採取した検体では最も耐性化率が高かった。非淋菌性尿道炎の治療ガイドラインにて、アジスロマイシン単回投与を第一選択とする方針を撤回した。マクロライド・フルオロキノロン双方への耐性の報告が出現するに連れて、M. genitaliumの治療regimenは変化している。

新興・再興性感染症について(1)

 今回は、今年5月21日に発表されたreview article "Emerging and Reemerging Sexually Transmitted Infections"(Williamson DA., Chen MY. N Engl J Med. 382;21:2023-2032)を紹介してみようと思います。意外と長編だったので、何回かに分けて(雑な)翻訳を掲載しようと思います。

 

(1) Introduction

 21世紀に入り、世界的な性感染症(Sexually Transmitted Infections[STIs])の再興が見られている。1990年代のnadir(どん底, 最下点)以来、淋菌, 梅毒, クラミジア感染症が高所得国において顕著に増加している。特に、男性とセックスする男性(men who have sec with men[MSM])の間で増加している。こういった既存のSTIsに並行して『古典的でない』性感染が可能な病原体の新たな流行やアウトブレイクも増加している。これらの内には、腸内病原体(e.g. shigella, A型肝炎ウイルス), 濃厚接触で拡散するもの(e.g. Neisseria meningitidis), 最近になり性的接触を通して拡散可能なもの(e.g. ジカウイルス)が含まれている(Table 1)。更に、特に淋菌とMycoplasma genitalium感染においては、抗菌薬への耐性の増加が治療選択肢を尚更狭めるのではないかという懸念を高めている。

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 人口におけるSTIsの感染の持続に寄与する因子は複数あり、複雑であり, 尚且つ環境に依存する。原則としてこれらの因子には、感染の可能性, セックスパートナーを変更する頻度, 感染性の持続期間 が含まれている。STIs感染を増幅させる因子には例えば、海外旅行, 及び social networking(出会い系サイト・アプリのこと?) により容易となったかつて無いほどの人と人の繋がりと, HIV感染の曝露前予防手段の使用の増加が含まれる。検査と治療へのアクセスを阻む社会経済学的な大勢と構造的な変数は、治療可能なSTIsの感染持続において重要である。

 

(2) 性的感染が可能な腸内病原体

① Shigella

 Shigellaの性的感染は1970年代、MSM間の都市部(urban centers)におけるShigella sonneiS. flexneriの定期的なアウトブレイクとして報告されている。Shigella感染症(Shigellosis)の症状は自己に限局する(self-limiting)胃腸炎から、重症の血性赤痢と多岐にわたる。性的感染が可能なshigellosisと関連する行動因子は、

 1. 口腔-肛門間の直接的な接触

 2. "chemsex"(性的経験を増幅させるためにドラッグを使用すること)

 3. コンドームを使わないセックス

 4. 複数のセックスパートナー

 5. セックスパートナーと出会いにsocial networking(apps)を使う

 6. セックスパーティに出席

といったものが含まれる。また性的感染するshigellosisはHIV感染とも関連している。これは生物学的因子(shigella感染への感受性 or 感染期間の増加), 行動因子(HIV statusに沿って選択的にMSMを混ぜる[assortative mixing of MSM according to HIV status]), もしくは 生物学的因子と行動因子の両方を反映しているのかもしれない。

 性的感染するshigellosisの主な特徴の1つは、複数の抗菌薬への耐性 ー 特にアジスロマイシンとシプロフロキサシン ー が欧州, 北米, オーストラリア, アジアのMSM間で報告されていることである。2013年以来、MSMと関連する主な流行性の3系統はS. sonnei biotype g, S. flexneri 2a, S. flexneri 3aに特徴付けられ、全ゲノム配列解析ではこれらの系統がMSMの間で世界的に拡散していることを示した。

A型肝炎ウイルス

 A型肝炎ウイルス(hepatitis A virus[HAV])急性で自己限局性の肝炎を起こし、感染者の0.5 %未満で劇症化する。HAVは糞口感染し、HAV感染が少ない国においては小児期の感染が少ないため成人に免疫がなく、大規模アウトブレイクの可能性が増加している。2018年には、欧州で不釣り合いにMSMへ影響を及ぼすHAV感染の増加が報告された。これらの症例由来のHAVの分子学的genotypingは3系統のHAVの存在を示し、これら全てはgenotype 1Aに所属している。系統発生学的な分析により、MSM間に大陸内で拡散した全3系統が明らかとなり、うち1系統は東南アジア, もう1系統はラテンアメリカ, 全3系統は米国内で検出された。これらの系統の急速な世界的拡散は、海外旅行がSTIsの拡散を促進する役割を担っていること顕著に示している。HIVとの重複感染はHAVに感染したMSMに多く, またアウトブレイク症例における他の特徴として、

 1. 出会い系アプリの使用

 2. 複数パートナーとのセックス

 3. 他のSTIs感染

 4. セックス会場(sex venues; 売春宿のこと?)への参加

が含まれる。

 MSM間での最近のHAVアウトブレイクを制御する努力は多様式であり、communityや医療従事者間での意識向上, MSMへのワクチン接種, 性的接触をした全ての人へのhealth serviceを強化することに焦点を合わせている。最近のデータは、HIV感染のある人にHAVワクチン歴があっても、HAV感染・発症の予防にならない可能性を示唆している(Recent date suggest that previous HAV vaccintion in persons with HIV infection may not reliably provide protection against the developement of HAV infection.)。これを受けて、HIVに感染しており、直近でHAVへの高リスク曝露があった人に対してはHAVワクチン接種歴の有無に関係なく曝露後予防策(免疫グロブリンHAV一価ワクチン)の提供が考慮されうる。

③ 他の腸内病原体

 CampylobacterはMSMにおける胃腸炎アウトブレイクに関連しており、それにはカナダのケベックにおいて約10年間持続するエリスロマイシン, シプロフロキサシン耐性Campylobacter jejuniアウトブレイクも含まれている。加えて、英国では9名のMSMにてShiga toxin産生Escherichia coliアウトブレイクが発生した。原虫のEntamoeba histolyticaのMSM間 ー 特にHIV感染例や, オーストラリア・台湾・韓国・日本・スペインと言ったアメーバ症が流行していない国において ー での性的感染の報告も増加している。

④ 性的感染が可能な腸内病原体に感染した患者について

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  腸内病原体の性的感染はよく認識されており、直接的(e.g. 口腔-肛門接触), もしくは間接的(e.g. 糞で汚染された指or物体と接触)な感染いずれも来しうる。MSM間での性的感染が可能な腸内病原体感染のアウトブレイクは、病原体, 宿主, 環境因子の複合に左右され得る(Table 2)。MSMにおける腸内病原体感染の調査, 診断, 管理(management)の大まかなapproachをTable 3に示す。こうした感染症の診断における大きな障壁は、培養に依存しない診断的検査である ー 分離された細菌に、抗菌薬感受性検査を含む追加の特性解析ができない可能性があるからだ(since bacterial isolates may not be available for additional charaxterization, including antimicrobial susceptibility testing.)。臨床医は、性的感染が可能な腸内病原体感染を疑った場合、患者の便培養を確実に行うために、地域の微生物研究所や公衆衛生機関に連絡すべきである。

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 また患者は、感染の拡散を防ぐ方法について助言を受けるべきである(Table 4)。パートナーのmanagementの果たす役割は不明であり、無症状接触者への検査は一般的に推奨されていないHIVのような性感染症との重複感染は多いことから、非腸内・性感染病原体のscreeningを追加の検査に含めるべきである。関連するワクチン接種がup to dateに確実に行われ, 尚且つ 性的なリスクを申告した or STIの診断を受けた MSMとHIV感染に対する曝露前予防策を確実に検討する機会としてもconsultationを利用すべきである。